華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Snowblind Friend もしくは真冬の朝に (1970. Steppenwolf)


Snowblind Friend

Snowblind Friend

英語原詞はこちら


You say it was this morning when you last saw your good friend
Lyin' on the pavement with a misery on his brain
Stoned on some new potion he found upon the wall
Of some unholy bathroom in some ungodly hall
He only had a dollar to live on 'til next Monday
But he spent it on some comfort for his mind
Did you say you think he's blind?

あんたが自分の親友を最後に見たのは
今朝のことだって言うんだね。
脳みその中に悲劇を抱えて
舗道に倒れていたと。
罰当たりなコンサートホールの
罰当たりなトイレの壁越しに
手に入れた新しいクスリで
すっかりわけがわからなくなって。
あいつは1ドルしか持ってなかった。
次の月曜日まで生きのびるための。
それなのにあいつはそれを
自分の心をなぐさめるために
使ってしまった。
あいつは前が見えなくなってると
思ったとあんたは
言ったんだっけ。


Someone should call his parents, a sister or a brother
And they'll come to take him back home on a bus
But he'll always be a problem to his poor and puzzled mother
Yeah he'll always be another one of us
He said he wanted Heaven but prayin' was too slow
So he bought a one way ticket on an airline made of snow
Did you say you saw your good friend flyin' low?
Flyin' low
Dyin' slow

誰かがあいつの親きょうだいに
連絡をとってやらなくちゃ。
あいつのことをバスに乗せて
連れて帰ってくれるだろうから。
でもあいつのことは
貧乏で頭がいっぱいになった
お母さんにとっては
いつも悩みのタネでしかない。
あいつは結局
おれたちみたいな人間の一人なんだ。
天国に行きたいけど
お祈りじゃ時間がかかりすぎるって
あいつは言ってたんだよな。
だからあいつは
雪の結晶でつくられた
片道の航空券を買ってしまった。
低く低く飛んでるあいつを見たって
あんたは言ったんだっけ。
低く低く飛んで
ゆっくりとゆっくりと
死に向かって。


"Snowblind Friend" Hoyt Axton
原曲はホイト·アクストンという人が作った曲なのだとのこと。「グレムリン」という映画で主人公の父親の発明家の人を演じていた人なのだそうで、「へえ!」と思った。あの映画の何が心に焼きついて離れないといって、主人公の彼女の父親が子どもの頃に行方不明になり、何年も経ってからサンタクロースの格好をして煙突の中で死んでいたのが見つかったというエピソードほど、強烈な話はなかった。「だから私はクリスマスが嫌い」と彼女は語るのだったが、何かそれ以来、私も気安くクリスマスが好きだとは言えない人間になってしまった気がする。何しろそういう点からしても、12月向けの曲である。

=翻訳をめぐって=

タイトルに入っている「Snowblind」とは、晴天の日に雪が一面に積もった場所で一定の時間を過ごすと、紫外線の照り返しで眼球がダメージを受けてしまう「雪目/雪眼炎」と呼ばれる症状をさす言葉。辞書には「雪盲」という訳語も載っているが、「blind」も「盲」も「視覚障害者」に対する差別語であり、使われなくなるべき言葉だと思う。ここでは原題をそのまま転載している。


とまれそのことを踏まえた上でタイトルの「Snowblind friend」が意味するところを探るなら、「雪のために目が見えなくなってしまった友だち」ということになる。そしてこの「雪」という言葉が「ドラッグ」の暗喩であるらしいことを私が知ったのは、つい今しがたのことだった。

十代の頃に私が初めてこの歌を聞いた時には、「ドラッグが絡んだ歌」であることがうっすらとは理解できたものの、具体的な歌の風景は、ほとんど見えていなかった。そしてこの歌に出てくる「友だち」は、歌の中では「もう生きていない人」なのだろうと、何となく感じていた。「聖なる場所でもなく神々しい場所でもないバスルーム」で「見つかった(found)」と歌われている感じがして、彼氏は「息をしていない状態で発見された」のだろうというイメージが、いつの間に心の中に焼きついてしまっていた。

今回改めて聞き直してみると、彼は「命はとりとめた」のだということが分かった。でも「脳に悲劇的なダメージ」を受けていることが語られ、「ゆっくりと死に向かっている」という言葉が最後に語られていることで、「別の重苦しさ」をたたえた歌になっているのだということが、今になってようやく理解出来た。

かつての私がどうにもよく分からなかった「Stoned on some new potion he found upon the wall」という部分を改めて分析するなら、「he found upon the wall」というのは「彼は壁の上で(死んだ状態で)見つかった」という意味ではなく、「彼は壁の上に見つけたportion=薬物によってstoned=酩酊状態になっていた」ということだったのである。そしてその「壁」は「バスルームの壁」であると歌詞には書いてあるが、英語の「バスルーム」には「トイレ」という意味もあったのだということが分かったことから、初めてこの歌の「具体的な風景」が見えてきた気がした。

つまりどういうことかというと、この「友だち」はおそらくコンサートホールのトイレの壁の上の隙間を「受け渡し場所」にして、売人からドラッグを手に入れていたのである。禁酒法時代のアメリカでは、山の中の「秘密の場所」に生えている木のウロの中に現金を入れておくと、翌日にはそれが消えて、代わりにどこからともなく現れたウイスキーの瓶が入っている、というようなやり方で密造酒の取り引きが行われていたという話を以前に読んだことがあるのだが、20世紀後半のドラッグの取り引きも、おそらくは都会の中のそうした「秘密の空間」を利用して、同じやり方で行われていたのだと思われる。それが多分、「壁の上に見つけたポーション」という「奇妙な歌詞」として表現されているのである。

その上で、海外サイトの掲示板に書き込みをしていた人の話によるならば、「雪で作られた最短距離の片道切符(one way ticket on an airline made of snow)」という歌詞から「その道の人」がまず連想するのは、コカインなのだという。コカインの結晶というのは本当に雪みたいに、真っ白なものであるらしいからである。

しかしそう書いた上でその人は、「コカイン説」を否定していた。コカインは「high」になるためのクスリだから、もしコカインだったら「flying low」とは言わないはずだというのである。そしてその人の結論は、この歌に出てくる「雪」とはおそらく、「チャイナ·ホワイト」と呼ばれる中国系のルートを通したヘロインのことをさしているのではないかということだった。メキシコ経由のルートで合州国に出回っているヘロインは基本的に茶色っぽい色をしているのだが、中国経由で回ってくるヘロインの中には時々奇跡のように真っ白なものが混じっているのだという。

…私はもともとそういう話にちっとも興味はないし、そういうことに詳しくなっても全然うれしいとは思わない。ただ私が知りたいと思うのは、「この歌に出てくる人たちの気持ち」である。とりわけ「あいつはおれたちみたいな人間の一人なんだ」と言うほどまでにその「友だち」のことを大切に感じつつ、それなのに彼氏のために何もしてやることができずにいる、歌い手自身の気持ちである。その切なさや無力感は、歌の風景について具体的なことを知れば知るほど、いっそう生々しくなって聞き手の胸に迫ってくるような、そんな感じがする。

それでも命さえとりとめたのなら、無責任で楽観的すぎる意見であるかもしれないのだけど、どうにだってできるし何だってやれるはずじゃないかと、私なんかは思いたい気がする。最初は「友だちが死んでしまう歌」だと思っていたから、つくづく救いようのない気持ちで聞いていたのだけれど、生きてさえいれば「救いよう」はいくらでもあるではないかと思いたい。

だから、自分の手で訳すことができてよかったと改めて思う。私は少なくとも以前に比べて、落ち着いた気持ちでこの歌を聞けるようになった気が今している。そんなこんなでまたいずれ。

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