華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Born To Be Wild もしくは飛んでも8分歩いて10分 (1968. Steppenwolf)


Born To Be Wild

Born To Be Wild

英語原詞はこちら


Get your motor runnin'
Head out on the highway
Lookin' for adventure
In whatever comes our way

エンジンを回そう。
あのハイウェイの上を旅に出よう。
行く先々で出会うあらゆるものの中に
冒険を求めて。


Yeah Darlin' go make it happen
Take the world in a love embrace
Fire all of your guns at once
And explode into space

さあダーリン行くぞ。
戻り道は断ち切ろう。
愛の抱擁の中で
世界を手にするんだ。
すべての銃をぶっぱなすみたいに
さあアクセルをふかせ。
そして宇宙の彼方に向けて
爆発させてやれ。


I like smoke and lightning
Heavy metal thunder
Racin' with the wind
And the feelin' that I'm under
Yeah Darlin' go make it happen
Take the world in a love embrace
Fire all of your guns at once
And explode into space

ケムリと閃光が好きだ。
重金属の雷鳴が好きだ。
風と競争するのが好きだ。
そしておれに覆いかぶさってる
この感じが好きだ。


Yeah Darlin' go make it happen
Take the world in a love embrace
Fire all of your guns at once
And explode into space

さあダーリン行くぞ。
戻り道は断ち切ろう。
愛の抱擁の中で
世界を手にするんだ。
すべての銃をぶっぱなすみたいに
さあアクセルをふかせ。
そして宇宙の彼方に向けて
爆発させてやれ。


Like a true nature's child
We were born, born to be wild
We can climb so high
I never wanna die

大自然そのものを
親に持つ子どものように
おれたちは生まれた。
ワイルドに生きるために生まれた。
おれたちはどこまでも高く
のぼってゆけるはずだ。
おれは死にたいなんて
死んでも思わない。


Born to be wild
Born to be wild

ワイルドに生きるために
生まれてきた。
ワイルドに生きるために
生まれてきた。


Get your motor runnin'
Head out on the highway
Lookin' for adventure
And whatever comes our way
Yeah Darlin' go make it happen
Take the world in a love embrace
Fire all of your guns at once
And explode into space


Like a true nature's child
We were born, born to be wild
We can climb so high
I never wanna die


Born to be wild
Born to be wild


=翻訳をめぐって=

超がつくほどの有名曲なのだが(だいたい私は言葉に「超」をつけるのがキライなのだが、そんな私でもつけざるを得ないぐらいの有名曲、と解されたい)、タイトルの「Born to be wild」を直訳すると「ワイルドに生きるべく生まれた」ということになり、「ワイルドに生きるということ」は歌の主人公たちにとっては、言わば宿命論的な問題なのである。これに対して邦題の「ワイルドでいこう」は主人公たちの意志の領域の問題にすぎないわけであり、「ワイルドに生きること」にかけられた主人公たちの想いは、その分だけ軽く響くことになってしまう気がする。誤訳だとまでは言わないけれど、こういう恣意的な意訳の仕方に対しては私は割とうるさい。あと、「ワイルドでいこう」の後に「!」をつけることを決めた人間に対しては、直接顔を見て文句を言いたい。

ステッペンウルフというバンド名の「ステッペン」に関しては、「step」という英単語の過去分詞だと理解していたため、オオカミが不器用にステップを踏んで引っくり返っているような、そういう微笑ましいイメージを私は長年抱き続けてきた。だがしかし調べてみると、「Steppenwolf」とはドイツ語であり、「荒野のオオカミ」という意味を持つヘルマン·ヘッセの同名の小説からつけられたバンド名だったのだということが、今回わかった。ちなみにこのバンドのフロントマンのジョン·ケイという人は、ナチス·ドイツの第三帝国の崩壊の直前に東ドイツで生まれ、ソ連の占領から逃れるために故郷を抜け出した母親に連れられて大西洋を渡った、ドイツ系のカナダ人である。その上で産業革命のきっかけを作った人物として世界史の教科書に出てくるイギリス人の発明家とも同姓同名だったりするから、話はとってもややこしい。それにつけてもザ·バンドしかりニール·ヤングしかりジョニ·ミッチェルしかり、いかにも「アメリカ的」な歌を歌う人たちの出身地を聞いてみると実はカナダだったというのは、ものすごくよくある話なのだということを、このブログを始めて以来、思い知らされている。

「飛んでも8分」というサブタイトルに関しては…何だか今回の記事は前置きが異様に長いのだが、それだけ私にとってつきあいの長い曲なのだと理解されたい。小学生の頃、この歌の冒頭の部分をこの歌詞で歌うことがまるで「聖なる儀式」みたいになっていた時期が、私(たち)にはあったのだった。

飛んでも8分
歩いて10分
駅まで3分
学校まで4分

というのが最初の4行に対応し、真ん中の部分を全部すっ飛ばして、歌詞は

おーーれらーのー
ひーーみつーきーちいいいーーー!

というサビの部分に一気になだれ込むのだった。

なんというしょーもないことを、私たちは、していたのだろう。

いま考えると言葉に詰まるくらいみっとも恥ずかしいことに私たちは夢中になっていたわけだが、それでもその当時は秘密基地の秘密隊員たちが秘密の絆を深め合うために、何かにつけてこの歌を大合唱していたことを思い出す。正確には歌が始まる前の前奏まで含めて全部口で歌うのだが、正確に記しても誰の役にも立たないので「ちゃーっちゃらーっ」部分については割愛したい。何はともあれそのせいで、この歌のメロディが流れ出すのが聞こえると今でも私は「厳粛な気持ち」になってしまう感じがするのである。

つまるところ、私の「厳粛な気持ち」なんて、その程度のものでしかないということなのだろうか。

「飛んでも8分駅まで10分」という言葉に関しても一応検索をかけてみたところ、戦後の一時期に流行した「とんでもハップン(「ありえない」的な意味)」という言い回しが80年代にもうひとつヒネリを加えて再流行した言葉だったらしいということが明らかになったが、心の底からどうでもいい話だし、知って良かったという気持ちにも全然なれなかったので、「飛んでも8分」の話についてはこれで終わりにしたい。

翻訳の話に移ろう。

カナダのバンドが歌うこのアメリカ的な歌は、映画「イージー·ライダー」の主題歌になっていることからもうかがえるごとく、要は「バイクでぶっ飛ばそう」というだけの内容の歌なのだが、「アメリカ的な歌」であるゆえんとでも言おうか、難しい言葉は全然使われていないにも関わらず、英語独特の表現が隅々にまで使われているもので、なかなか「自然な日本語」に訳することが難しい。自分の試訳を読み返してみても全然「いい訳詞」には思えないのだが、一応ひと通り原詞の内容について、確認しておきたい。

Get your motor runnin'

直訳は「おまえのエンジンを走っている状態にさせろ」。「get+目的語+〜ing=目的語に〜させる」を使った英作文の見本になりそうな構文なのだが、この冒頭部分からして、なかなかしっくり来る日本語表現が見つからない。

まずアメリカでは「バイクのエンジン」のことを「モーター」と言うのだということ自体が、日本語的にはしっくり来ない。「エンジン」という言葉にはこの歌同様にドッシリした重々しい語感があるが、「モーター」と言うと何だかプラモデルの部品みたいにチャッちいイメージに変わってしまう。

さらにエンジンを「走らせる」という言い方。別に意味が分からないことはないのだけれど、日本語ではこういう言い方はしない。とはいえ「エンジンをかけろ」と訳したりすると、語感がたちまちショボくなる。「Get your motor runnin'」という原詞からは「バリバリバリ」という爆音が響いてきそうなイメージがあるけれど、「エンジンをかけろ」だと「きゅるる」みたいな感じである。大きくて派手なことに価値を置くアメリカのクルマ文化と、小さくて静かなことをウリにしてきた日本のクルマ文化との違いが、こうした「表現の違い」にまで表れているということなのだろうか。

仕方なくここでは「エンジンを回そう」という言い方を採用したのだが、もっとうまい言い方はないものなのだろうかと思う。鈴木祥子さんという人は「海辺とラジオ」という歌の中で「ガソリンを燃やして旅へ出かけよう」というとても斬新な言葉を使っていたのだが、「Get your motor runnin'」は別に斬新な表現でも何でもないので、斬新な言葉で翻訳するとそれはそれでおかしな訳詞になってしまうのである。それにつけても鈴木祥子が好きだと言うと、「私もWink好きでした」とか言ってくる人が未だに後を絶たないのは、すごく悲しい。好きになってもう、25年も、経つのに何も、変わらない。というフレーズを書いた上でポンと動画でも貼りつけることができればこの文章は完全にキマっていたのだが、見つからないので、何の話か分からない人は買って聞いてみてほしい。

海辺とラジオ

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Head out on the highway

「Head out」は「出発する」という意味。「on the highway」は「ハイウェイの上」なわけだが、「ハイウェイの上を出発しよう」と直訳するとこれまた自然な日本語にならないのが悩ましい。「ハイウェイから出発しよう」と言うのも、何かおかしい。「ハイウェイへと出発しよう」と言うと「今はハイウェイにいない」ことになるので、誤訳になる。

大体日本にアメリカ的な意味での「ハイウェイ」って、あるのだろうか。ないと思う。ないから、正確なイメージで翻訳できないのだと思う。私の地元で言うなら国道24号線の大和郡山のあたりというのはなかなかアメリカ的な雰囲気が漂っている場所で、さすがはあのカラカラな音がするジッタリンジンを生み出した土地だと手前ミソながら思っていたりするのだが、それでもさすがにこの歌のイメージは、受け止めきれない。

「私の地元にはこの曲の良く似合う『ハイウェイ』が存在する」という読者の方がいらっしゃったら、ぜひお便りを寄せて頂ければ幸いです。

Yeah Darlin' go make it happen

「make it happen」を直訳すると「それを発生させろ」。これは本当に英語的な表現で、似た言い方は日本語にないと思う。「おっぱじめようぜ」的な翻訳を見たことがあるが、物事を「発生させる」ということはそんな風に自分の意思や決意だけで自由になる話ではないはずなのである。

「make it happen」のニュアンスをあえて表現するとすれば、「いったん起こってしまうと自分にはもう責任のとりようがなくなってしまうことを、自分の意思で引き起こす」みたいな感じになるのだと思う。主観と客観がかなり微妙に交錯した言い回しなのだ。これを「意訳」してフツーの日本語に直すと、「後戻りできない状態を自ら作り出す」とでもなるだろうか。「サイは投げられたという状態を作り出すために自らサイを投げる」。そんな感じなのである。それで「戻り道は断ち切ろう」という訳語を宛てたのだが、異論や反論のある方は、コメントして頂ければと思います。

Fire all of your guns at once

「gun」はもちろん「銃」という意味なのだが、それが転じてクルマやバイクの「アクセル」という意味でも使われているらしい。だからこの部分はダブルミーニングで解釈するのが適当なのだと思われる。今ではもう遠い昔になってしまったような気がするブルースブラザーズ特集のラスト近くに出てきた、ジェイクの「Hit it !」が思い出されてしまった。


I like smoke and lightning

「smoke and lightning」の直訳は、試訳に書いた通り「煙と閃光」なのだが、人によってさまざまな意味で解釈されている歌詞である。一番フツーな読み方としては「タバコの煙とライターの炎」という解釈。「バイク」に引き寄せた読み方をすれば、「排気ガスと火花(←カーブや急ブレーキ時に車体の金属部分と路面がこすれるイメージ)」。「大自然」に引き寄せた読み方をすれば、「山火事の煙と稲妻の電光」。「アウトサイダー的な生き方」に引き寄せた読み方をすれば、「マリファナとLSD」。おそらくは、どれでも「正解」なのだと思う。

Heavy metal thunder

「ヘビーメタル」という言葉がロックの中に登場した最初の例として取り沙汰されることの多い歌詞だが、バンドの雰囲気やスタイルからするならばステッペンウルフという人たちは「ヘビメタ」と言うよりむしろ「グランジ」な感じだったのではないかというイメージがある。歌詞の意味するところは、バイクの轟音を「重金属の雷鳴」にたとえたもの。

…翻訳をめぐっては、そんなところかな。


Get Wild

小室哲哉の口から出てくる「ワイルド」という言葉ほどニセモノくさいものはおよそこの世に他にない気がしてしまうのだが、こんな歌ばっかりだったのが私の一番多感な季節だったのだな。

あんなやつから「最近の若い人にはハングリー精神が足りない」と説教されなければならないという屈辱に耐えて大きくなったマイジェネレーションのみなさん、ワイルドに生きてますか?ではまたいずれ。

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Born to Be Wild

Born to Be Wild

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