華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Drain You もしくはいいぞ赤ちゃん吸いまくれ (1991. Nirvana)


Drain You

今まで翻訳してきた曲とは打って変わって、行進曲みたいに明るいミディアムテンポの曲。スネアドラムが四分音符で「たし、たし、たし、たし」と打ち鳴らされるこの不敵なビートに私は昔からとっても弱くって、似たような曲ばかりいっぱい集めてプレイリストを作っていた時期もある。CCRの「スージー·Q」から南野陽子の「はいからさんが通る」に至るまで実に雑多な曲が入っていたが、とにかくこのリズムの曲は無条件に好きになってしまうので、無視するということができないのである。だからこの歌のことも、いっぺんに好きになった。(検索でお越しの方のために付け加えると、協賛ブログ「ミチコオノ日記」とのコラボレーションで始まったこの「Nevermind」特集は、今まで一度もニルヴァーナを聞いたことのなかった私がゼロの状態から翻訳を試みるという趣向になっています。素人ゆえに至らぬ点も多々あると思われますが、ご寛恕ください)

ちなみに「Drain You」を初めて聞いた時に私が反射的に連想したのは、この曲だった。


ユニコーン 抱けないあの娘

曲の背景について調べてみたところ、タイトルの由来ともなっている「It is now my duty to completely drain you (あなたを完全に吸引しつくすことは今や私の義務である)」というフレーズは、「Nevermind」のアルバムが出る直前までカートと付き合っていたトビ·ヴェイルさんが別れ際にカートに突きつけた台詞がそのまま歌詞になっているらしいということが明らかになった。この人の写真を貼りつけるのはもう3回目になるけれど、コートニー·ラブという人と一緒になる前のカートがこのドキッとするような瞳の恋人からいかに大きな 影響を受けていたかということが、改めてしのばれる。



さて、その上でこの歌は「One baby to another says (ひとりのベイビーがもうひとりに向かって言う」というフレーズで始まるのだけど、この「ベイビー」をどういう意味で解釈するかによって、「歌の風景」が大きく異なってくる。

「ベイビー」を「恋人」に対する愛称だと解釈するなら、この歌はフツーに(そんなにフツーでもないけれど)「恋人同士の歌」だということになる。他のサイトで和訳を試みている記事は、大体この解釈に従っているものが多い。

一方、「ベイビー」を文字通り「生まれたばかりの(もしくは生まれる前の)子ども」と解釈する読み方も可能なわけであり、私はそう読んだ方が「自然」であるように思う。海外サイトを見ても、そういう聞き方をしている人が多い印象を受けた。ただしこれを「赤ん坊が別の赤ん坊に語りかけている歌」であると解釈しようとすると、それはそれでいろんな無理が生じてくる。

一通り自分なりに歌詞を読み込んだ上での私の結論は、この歌は「当時20代前半だったカートと同年代の男性が、いまだ母親になった経験を持たない同年代の恋人に対し、自分がその恋人のお腹から生まれてくる赤ちゃんになった『てい』で歌われているラブソング」であると解釈すれば、一番しっくり来るというものだった。下の試訳はそういう前提で作ったものだが、他にもいろんな読み方はありうる。それについては、後段で補足を試みたい。

…なお、完全に余談なのだが、「生まれたばかりの子ども」をどういう言葉で呼べばいいのかということについて、私はずっと昔から悩ましい気持ちを抱え続けている。「赤ん坊」と言うと何だか蔑称みたいだし、かと言って「赤ちゃん」と言うと「それほど親しくもないし…」というオモハユい気持ちが先に立つ。「やや子」とか言うとヤクザみたいだし、「嬰児」などと言うとそれこそ血も涙もない感じがする。

それを言うなら「子ども」の「ども」だって「愚民ども」の「ども」と同じなわけだから、これは完全に蔑称が意識された呼称なのである。「子供」と表記すると「従者」的な別の意味合いが生じてくるが、これはこれで身分差別の存在を当然視している人間の口からしか出てこない言い方だと思う。「man(人間)」ではないものという意味が込められた言葉としての「woman」という言い方と同じように、いずれは改められねばならない言い方だと思っているが、今は「腐った妥協」であることを自覚しつつ、「子ども」という呼称を使い続けている。

子育て中のお母さんのブログなどで最近目にするようになった「小さい人」という言い方を、私はとても気に入っている。惜しむらくはそれが「子ども」のことであることを理解できるまでに、今の段階ではまだ少しだけ、時間がかかってしまうことである。

以上、余談でした。以下、試訳です。

Drain You

英語原詞はこちら


One baby to another says -
I'm lucky to have met you
I don't care what you think
Unless it is about me
It is now my duty to completely drain you
A travel through a tube
And end up in your infection

ひとりの赤ん坊が
もうひとりの人間に言う。
あんたに会えて
ラッキーだったと思ってるよ。
あんたが何を考えてようと
おれの知ったことじゃない。
それがおれに関することでない限りね。
今となっては
あんたを干からびるまで
吸いつくしてやることがおれの使命だ。
ある種の管の中を抜ける旅
そして最後には
あんたの病気を伝染されるってわけだ。


Chew your meat for you
Pass it back and forth
In a passionate kiss
From my mouth to yours
I like you

あんたの肉
噛んでやるよ。
口移しで
行ったり来たりさせよう。
情熱的なキスだ。
おれの口からあんたの口へ。
あんたのこと
好きだよ。


With eyes so dilated
I've become your pupil
You've taught me everything
Without a poison apple
The water is so yellow,
I'm a healthy student
Indebted and so grateful -
Vacuum out the fluids

眼玉を飛び出すぐらい見開いて
おれはあんたの
ピューピル(生徒/瞳)になりましたよ。
あんたはおれに何でも教えてくれました。
禁断の樹の実も使わずに。
トイレの水は真っ黄色。
おれは健康な生徒ですよ。
恩に着てるし感謝してます。
お互いの流動的な分泌
すすりあいましょう。


Chew your meat for you
Pass it back and forth
In a passionate kiss
From my mouth to yours
I like you
You
You
You
You
You

あんたの肉
噛んでやるよ。
口移しで
行ったり来たりさせよう。
情熱的なキスだ。
おれの口からあんたの口へ。
あんたのこと
あんたのこと
あんたのこと
あんたのこと
好きだよ。


One baby to another says -
I'm lucky to have met you
I don't care what you think
Unless it is about me
It is now my duty to completely drain you
A travel through a tube
And end up in your infection

ひとりの赤ん坊がもう一人に言う。
あんたに会えて
ラッキーだったと思ってるよ。
あんたが何を考えてようと
おれの知ったことじゃない。
それがおれに関することでない限りね。
今となっては
あんたを干からびるまで
吸いつくしてやることがおれの使命だ。
ある種の管の中を抜ける旅
そして最後には
あんたの病気を伝染されるってわけだ。


Chew your meat for you
Pass it back and forth
In a passionate kiss
From my mouth to yours
Sloppy lips to lips
You're my vitamins
I'm like you

あんたの肉
噛んでやるよ。
口移しで
行ったり来たりさせよう。
情熱的なキスだ。
おれの口からあんたの口へ。
びちゃびちゃの
唇から唇へ。
あんたはおれのビタミンだ。
おれ
あんたに似てると思うよ。

=翻訳をめぐって=

One baby to another says

「ひとりの赤ん坊がもうひとりに話しかける」と訳すると、どうしても「もうひとり」も赤ん坊であるような印象になってしまうため、「もうひとりの人間に」という形で翻訳した。私がこの一番の歌詞から受け取ったのは、恋人の胎内に身ごもられた赤ん坊が、母親であるその恋人に向かって胎内から語りかけているというイメージである。

…フツーに書いてしまったが、何て「ありえない設定」なのだろう。でも、そういう風にでも解釈しなければ、もっと訳の分からない歌になってしまうのだ。

It is now my duty to completely drain you

関係を持った相手から自分に必要なものを奪えるだけ奪ってしまうというのは、主人公がオトナ同士であると仮定するなら神も仏もない話になるが、赤ちゃんが自分に必要なものを母親から「吸い取る」のは、極めて自然な話である。胎盤からも乳腺からも、とにかく吸って吸って吸いまくることが赤ちゃんの仕事なのだ。そんな風に、成人男女の歌として捉えるとどうしようもなくエロかったりグロかったりするこの歌なのだが、ひとたび「赤ちゃんの歌」だと思って聞いてみると、ちっともやらしくないのである。実に、よくできた曲だと思う。(それで合ってるのかどうかの保証は正直、できないのだけど)。

A travel through a tube

この「チューブ(管)」が何を意味しているかについて、海外サイトでは様々な解釈が乱れ飛んでおり、代表的には「ペニス」「へそのお」「食道」「ドラッグの注射針」などの諸説が挙げられているのだが、私は「母親の産道」であると解釈するのが一番自然だと思う。主人公自身が「travel(旅)」することのできる「tube(管)」は産道だけであり、他の解釈だと「旅する主体」が別のものになってしまうからである。

ただし、それなら露骨に産道と言えばいいものをあえて「管」というファジィな言葉で表現しているのは、別の意味で解釈できる余地を残しておきたいという作詞者自身の意図の反映でもあるだろう。とりわけ「ドラッグの注射針」説に関しては、無視できないだけの説得力がある。このことに関しては、後述したい。

end up in your infection

親子なんだから、母子感染ぐらいするだろう。でも、気にすることではない。親子なんだから。ちなみに「好きな相手の病気だったら伝染されたってかまわない」という「愛し方」は、屈折してるとは思うけど私個人は「アリ」だと思っている。

一方、英語圏ではこのフレーズから「注射針(tube)の使い回しによる病気感染(infection)」を連想している人が相当数見受けられ、それはそれで、ありうる解釈なのだと思う。何だかこのあたりからこの歌の歌詞は、いろんなイメージが混ざりあって行く感じなのである。

Chew your meat for you

わざわざ書くまでもないことかもしれないが、「your meat (あなたの肉)」とは「あなたの分の肉」という意味であり、「あなたの身体の一部」という意味ではない。と思う。焼肉屋で「おれの肉、やるよ」と言われて「ありがとう」と答える人は、相手がいきなり自分の身体に刃を突き立てて肉片を切り取るかもしれないという風には、普通思わない。そのレベルの話だと思う。

…だが100%そうではないとも言いきれない感じがするのが、この歌の不気味なところではある。

いずれにせよ、じゅるじゅるの食べ物を口移しで交換しあうというのは一番動物的と言うか原初的なレベルでの愛情表現の形であり、カートはそういうのを「美しいもの」として「讃えて」いるのだと思う。そして気がつけばこの部分で歌い手のカートは、オトナに戻っている。赤ちゃんには歯がないからね。じゃあ相手は誰なのだという話になるが、「今の恋人」でもいいし、「年老いた母親」に昔そうしてもらった恩返しをしていると考えてもいいだろう。何だっていいのである。要するに、愛なのだ。愛の形が、ここには描かれているのだ。

さらに海外サイトではこの部分から、ドラッグを静脈注射する時にあらかじめ腕から血液を吸い上げて、注射器を押したり引いたりすることでクスリとよく混ぜ合わせてから注入する「ポンピング」という行為を連想している人もおり、そんな話は聞きたくないとも思うのだが、そういうのもやはり、イメージの中には含まれているのだと思う。ひとりの人間が経験したことのあるあらゆることは、イメージの世界では全部混ざり合い、つながりあってゆくものだからである。

そしてそんな風にこの部分をカートが「注射器の中のドラッグ」になった「てい」で彼女に語りかけている歌詞だと解釈するなら、「Chew your meat for you」は「おまえの肉体を蝕んでやるぞ」という意味にも、読める。それはそれで「愛の形」なのだ。いろんな読み方を許容した上でイメージだけは言葉の骨格にしっかりと保持している点において、この歌詞は本当によくできていると改めて思う。

余談ながら「I'll chew your meat for you」ではなく「Chew your meat for you」といった具合に、あえて主語を書かないフレーズを多用しているのがカートの歌詞の特徴であり、この点、日本語話者と非常に似通った言語感覚を持っていたのではないかという感じが私はする。もっともそれを論理的に説明できるほど私は英語話者の言語感覚に精通しているわけではないので、今のところは「そんな感じがする」としか言えない。

With eyes so dilated
I've become your pupil

「pupil(生徒)」という言葉が出てきたことから、主人公は冒頭の「赤ん坊」状態から「子ども」へと成長したことがうかがえる。同時に「pupil」には「瞳」という意味もある。英語には「He's an apple in mom's eye (彼氏はママの目の中のリンゴ)」=「彼氏はママのお気に入り」といったような表現があり、日本語の「目に入れても痛くない」と似た感じの言葉なのだけど、そんな風に「あなたの目の中の存在」になったということを宣言しているということは、「自分はあなたから最も愛される存在になった」ということを彼女に対して宣言している歌詞でもあると思う。(ややこしいな)。

ところで「生徒になった」と言われると、何の生徒になったのだという疑問が湧くが、これは相手の彼女のことを「先生」にしてえろいことをいろいろ教えてもらったという意味で「生徒」を自称しているのだということが、後段の歌詞で明らかになる。だから歌詞の中での二人の関係を本当の母子であると仮定すると、この歌は近親姦の歌になってしまう。そうであってもいけないと言うつもりはないのだけれど、やはり「当時20代前半だったカートと同年代の男性が、いまだ母親になった経験を持たない同年代の恋人に対し、自分がその恋人のお腹から生まれてくる赤ちゃんになった『てい』で歌われているラブソング」であると考えた方が、「自然」であると思う。(その設定自体が「自然」でないと言われたら、もう私には一言もないのだが)。

You've taught me everything
Without a poison apple

「poison apple」の直訳は「毒リンゴ」なわけだが、その意味するところは聖書に出てくる「禁断の樹の実」であるという解釈で、英語圏のリスナーの意見はほぼ一致している。昔々アダムとイブが神から創造されたとき、二人は裸で生活していたわけだけど、お互いの体を見ても何もえろいことは考えなかった。ところが蛇にそそのかされて、神から食べるなと言われていた「禁断の樹の実」を口にすると、とたんにえろい気持ちになり、えろいことをしてしまった。それで人類の祖先は神の怒りを買い、楽園から追放されることになった。というのが聖書の伝説の骨子であり、その「樹の実」というのは学術的には(←どんな学術だ)アンズの一種だったと考えられているらしいのだけど、西洋世界ではなぜかそれが昔から「リンゴ」だったと言われている。だからキリスト教世界の人たちというのは、もう「リンゴ」という言葉を聞いただけで反射的にえろいことを連想してしまうように、物心つく前の段階から、仕込まれているのである。何という長ったらしい説明なのだ。

そしてその「禁断の樹の実」の力を借りることもなく彼女はいろんなことを教えてくれたということで、つまり彼女は彼女自身めちゃめちゃえろい人だったということがここでは語られているのだと思う。それだけの歌詞だと思う。

なお、「pupil」のところでいろんなことを書いたのは、あの「瞳」のイメージがここでの「リンゴ」のイメージにも微妙に重なり合っているように私には感じられたからである。イメージがイメージを呼び、そんな風にしてこの歌は作られている感じがする。その意味で本当にこの歌を作った一番スゴい存在は、トビ·ヴェイルという人の「瞳」だったと言えると思う。

The water is so yellow,
I'm a healthy student

直訳すれば「その水はとても黄色い」としか言っていないのだが、誰が読んでもその「水」を「尿」のことだとしか思えないのは、英語圏でも同じことらしい。それが「とても黄色い」というのは全然健康そうな感じがしないし、海外サイトでも自分の体験と重ねてドラッグとの関係を指摘する人が山ほどいるのだが、どうなんだろう。健康かどうかは「気持ちの問題」ということなのだろうか。

Vacuum out the fluids

「fluid」は「流動物」であり、とても抽象的な言葉である。一方「vacuum out」は普通だと「掃除機で吸い取る」という場面でしか使わない言葉であるらしく、だから私は最初このフレーズを「そのゲロみたいなやつ、掃除しといて下さい」と翻訳した。だが、海外サイトでこの歌詞の引用の横に貼りつけられた写真を見ると、そこでは男女がお互いの身体の分泌物をすすりあっていた。だから、そう翻訳した。

…以上か?


Theピーズ そばにいたい

OK。ラブソングだぜ。ではまたいずれ。



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Drain You

Drain You

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