華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Please Please Me もしくは どうぞどうぞ私 (1963. The Beatles)


Please Please Me

Please Please Me

英語原詞はこちら


Last night I said these words to my girl
I know you never even try, girl
C'mon (C'mon), c'mon (C'mon), c'mon (C'mon), c'mon (C'mon)
Please please me, whoa yeah, like I please you

きのうの夜にゆーたってん。
じぶん、やってみようともしーひんちゅーのはどーなん?ちゅーて。
来ぃさ。来ぃさ。来ぃさ。来ぃさ。
頼むよってん楽しましてーさ。
おれがやったるみたいにやー
ちゅーて。


You don't need me to show the way, love
Why do I always have to say "love"
C'mon (C'mon), c'mon (C'mon), c'mon (C'mon), c'mon (C'mon)
Please please me, whoa yeah, like I please you

やりかたみたい
わかったあんねやろ。じぶん。
なんでいちいち
「愛してます」とか言わんなんのん?
来ぃな。来ぃな。来ぃな。来ぃな。
頼むよってん楽しましたってーな。
おれがやったるみたいにやー。


I don't wanna sound complaining
But you know there's always rain in my heart (In my heart)
I do all the pleasing with you, it's so hard to reason
With you, whoah yeah, why do you make me blue

泣き、入ってるみたいに聞こえたら
イヤやねんけどやー。
おれの心ん中、知っとー?
いっつも雨ふったあんねんぜ。
じぶんがよろこんでくれることやったら
何でもしたるっちゅーねん。
しらこいやっちゃな。
ブルーにさせやんといてくれな。
ほんまにぃ。


Last night I said these words to my girl
I know you never even try, girl
C'mon (C'mon), c'mon (C'mon), c'mon (C'mon), c'mon (C'mon)
Please please me, whoa yeah, like I please you
(Me) Whoa yeah, like I please you
(Me) Whoa yeah, like I please you

きのうの夜にゆーたってん。
じぶん、やってみようともしーひんちゅーのはどーなん?ちゅーて。
来ゃんかい。来ゃんかい。
来ゃんかい。来ゃんかい。
頼むよってん楽しましたらんかい。
おれがやったるみたいにやー。
おれがやったるみたいにやー。
おれがやったるみたいにやー。
ちゅーて。

=翻訳をめぐって=

誰でも知ってるこの超有名曲も、このかんの流れの中で改めて聞き直してみると、やはり関西弁に聞こえた。遠い昔、3歳か4歳だった頃には、「ひらけ!ポンキッキ」でしょっちゅう流れていた「かもんかもん!」というこの曲を、「ポンキッキ」と関係なしに母親のLPでいつでも好きな時に聞ける自分というのは、何て幸福で恵まれた男の子なのだろう、という世間に対するいっちょまえの優越感みたいなものを、早くも感じていたようなおぼろげな記憶がある。自分というのはそんなにも昔からそういう鼻持ちならない人間だったのかという事実に改めて情けない気持ちがこみあげてくるが、何しろそんな風に、私にとってはものすごく付き合いの古い曲のひとつなのである。と言うかここではむしろ、「私にとっても」という言葉を使うべきであるのかもしれないけれど。

ところでそんな風に付き合いの古い曲であるにも関わらず、歌詞の意味は全然知らなかったという人、とりわけ「プリーズ·プリーズ·ミー」というタイトルの意味を「どうぞどうぞ私」とカン違いして、カン違いしたまま「何じゃそらわけわからん」という感想を持ち続けてきた人というのは、日本語世界にきっと私一人ではなかったはずだと思う。(…何か知らんけど、今回は我ながらえらい悪文である)。いろんなところで解説されていることなので、そういうカン違いをしていた張本人が知ったかぶったことを書くのも気が引けるのだが、このタイトルにはジョン·レノンによる「言葉遊び」が施されていて、1回目の「プリーズ」が「どうぞ」とか「お願いします」を意味するおなじみの間投詞である一方、2回目の「プリーズ」は「喜ばせる」という意味の他動詞の命令形になっている。つまりこのタイトルは「どうぞ私を喜ばせて下さい」と解釈するのが「正解」なのであり、その意味では「プリーズプリーズ·ミー」ではなく「プリーズ·プリーズミー」という言い方をした方がより「正確」であるということになる。しかしそうは言っても、いったん「プリーズプリーズ·ミー」で覚えてしまった人間にとって今さらその認識を改めろというのはかなり無茶な話なのであり、私には結局このタイトルがいつまでたっても「プリーズプリーズ·ミー」に聞こえ続けてしまうのだろうという、あきらめにも似た確信がある。そう聞こえ続けている限りは、「どうぞどうぞ私」というわけのわからないイメージも、永遠にこの曲について回り続けるわけである。「三つ子の魂百まで」というやつだ。昔の私がこのフレーズを「三人兄弟の絆は死ぬまで続く」という意味だとカン違いしていたというエピソードについては、これ以上話をややこしくしても仕方がないので、今回は触れないことにする。

以下は、内容をめぐって。

  • Last night I said these words to my girl…直訳は「昨夜私は私の少女に向かってこれらの言葉を言った」。この歌の中ではこの1行目だけが「現在」で、後に続く歌詞は全部、昨夜彼氏が彼女に語ったという「これらの言葉」であることになっている。なお、「昨夜」を口語的に表現した「ゆうべ」にあたるような語彙は、どうも関西方言の中には存在していないような気がする。
  • I know you never even try, girl…直訳は「少女よ。君はトライしようとさえしないことを私は知っている」。何に「トライ」しないのかということがここには書かれていないが、おそらくはえろいことであり、この曲が書かれた1962年末における時代的制約の中では、この書き方が「最大限」だったのだと思われる。これを「やってみようともしないのはいかがなものか」と意訳した上で関西方言に移すとやってみようともしーひんちゅーのはどーなん?という形になるわけだが、「しーひん(しない)」はかなり私の地元色が強く出た訳し方であり、大阪の広い地域では「せえへん」と言うのが一般的だと思う。「しーひん」は「しやひん」になる場合もある。
  • 来ぃさ(きぃさ)…私の地元で「〜しなさい」を意味する命令形の言葉はほとんど「〜しーさ」で表現される。「行きーさ」「見ーさ」「帰りーさ」「食べーさ」…なので私は「seesaaブログ」という文字列に「命令されているような反発」を感じてしまい、それがむかついてはてなブログを選んだという経緯を持っているのだが、そんなことはまあどうでもよい。ただしこの「〜しーさ」は関西でもかなり限られた地域の言葉だと思われ、大阪だと「〜しぃ(→行き/見ぃ/帰り/食べ)」だけで済ます人が多いし、京都では「〜しよし(→行きよし見よし帰りよし食べよし)」と言う人に出会える。この「〜しよし」は、かわいい人が言うとめちゃめちゃかわいいが、むかつく人に言われるとめちゃめちゃむかつく。もっとも、言葉というのは何でもそうだと言われたら、それはその通りである。
  • 頼むよってん楽しましてーさ…東京方言で訳そうとする人にこの頭韻の踏ませ方は、恥ずかしすぎてできないはずである。関西弁の恥知らずさの勝利だな。「よって」については「Mr.Moonlight」の回で詳述。
  • おれがやったるみたいにやー…「おれがやってあげるみたいにさあ」に相当。「やー」という語尾については前々回で詳述。
  • You don't need me to show the way, love…直訳は「愛する人よ。あなたは私がやり方を示すことを必要としていない」。どうもこういう「他人の気持ちを勝手に決めつける言い方」って日本語話者には違和感があるのだが、とりあえず「やりかたみたいわかったあんねやろ」と意訳。「みたい」は「なんか」、「わかったあんねやろ」は「わかっているのだろうに」に相当。
  • 言わんなんのん?…「言わなければならないのですか」に相当。「しなければならない」を「しゃんなん」で済ませられるのは関西弁のものすごく便利なところで、文字数も節約できる。こっちが「標準語」になればいいのである。
  • 来ぃな(きぃな)…「〜しーさ」と比べて「〜しーな」はやや「哀願調」である。お母さんが子どもに「はよしーさ(早くしなさい)」と言うのは単なる「叱責」だが、「はよしーな」と言うと「私も頑張るから貴方も頑張って頂戴」的な呼びかけのニュアンスが生じてくる。ように思う。なおこの「〜しーな」は、「〜しーさ」と違ってかなり広い地域で使われている。
  • I don't wanna sound complaining…直訳は「グチってるように聞こえるのは望ましくない」。「グチをこぼす」ことを「泣きが入る」と表現するのは、関西だけの言い方ではないように思うが、どうかしら。
  • 知っとー?…この語尾については前々回で詳述。
  • いっつも雨ふったあんねんぜ…「いつも雨が降っているのだよ」に相当。関西弁の「ぜ」は東京って言うか横浜的なオレオレダゼダゼ口調の「ぜ」とは完全に異質なものであり、ざらざらしていてめちゃめちゃカッコいいのだが、「で」に押されて今ではかなり年配の人しか使わなくなりつつある。同じ関西でも阪急沿線の「つるつる世界」の人は、聞いたこともないかもしれない。近鉄沿線は「ざらざら世界」なのである。
  • it's so hard to reason with you…直訳は「君を納得させるのは骨の折れることだ」。「聞き分けの悪い子だ」的なニュアンスで歌われているのだと思われ、この「聞き分けが悪い」という言葉に「生意気」「ふてぶてしい」「ずる賢い」などのありとあらゆる邪悪なニュアンスを加味した言葉が関西弁の「しらこい」である。もっとも「目上の人間」から「目下の人間」に向けて使われる言い方なので、私はこの言葉が好きではない。はい。「しらこい」と言われまくって育ってきました。
  • ブルーにさせやんといてくれな…「ブルーにさせないでくれないかな」に相当。なおこの「ブルーになる」という言い方も、関西弁ではないけれど、明確に「ダウンタウン以降の言葉」という感じがする。
  • 来ゃんかい…「〜しーさ」「〜しーな」は男女を問わず使われる言葉だが、これは完全に男言葉。もっとも意味としては「こんなに来てほしいのになぜ来てくれないんだ」という「懇願の気持ち」が込められた言い方なので、字面ほど乱暴な言葉ではない。一番乱暴な言い方は何かと言うと、結局私は「来い(こい)」と言われるのが一番イヤな気がする。

ではまたいずれ。



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=楽曲データ=
Released: 11 January 1963 (UK)
Recorded: 11 September, 26 November 1962
John Lennon: lead vocals, rhythm guitar, harmonica
Paul McCartney: harmony vocals, bass
George Harrison: harmony vocals, lead guitar
Ringo Starr: drums
Key: E

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