華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Daniel And The Sacred Harp もしくは 竪琴をあがなふべしと云ひ置きて男は去れりガレリの海へ (1970. The Band)


Daniel And The Sacred Harp

Daniel And The Sacred Harp

英語原詞はこちら


Daniel, Daniel and the sacred harp
Dancing through the clover
Daniel, Daniel would you mind
If I look it over

ダニエル、ダニエル
そしてあの聖なるハープ
クローバーの真ん中で踊っている。
ダニエル、ダニエル
かまわないかな。
ここでずっと眺めていても。


I heard of this famous harp years ago back in my home town
But I sure never thought old Daniel be the one to come and bring it around

ぼくがその
有名なハープのことを聞いたのは
何年も前。
自分の街にいた頃のことだった。
でもあの昔なじみのダニエルが
そのハープを持って
やって来ることになろうとは
夢にも思っていなかった。


Tell me Daniel how the harp came into your posession
Are you one of the chosen few who will march in the the procession?

ねえダニエル
教えてよ。
どうやってそのハープは
あんたの手に入ることになったんだい。
あんたはそのハープの持ち主となるべき
選ばれた数少ない人間の
ひとりだったって言うのかい。


And Daniel said
するとダニエルは言った。

The sacred harp was handed down, from father unto son
And me not being related, I could never be the one

「その聖なるハープは
父親から息子へと
代々引き継がれて
ゆくものだったんだ。
おれはそのつながりとは
何の関係もなかったし
そのひとりになれるわけもなかった」


So I saved up all my silver, and took it to a man
Who said he could deliver the harp, straight into my hand

「だからおれは
ありったけの銀をかき集めて
ある男に渡したんだ。
そいつはそのハープを
まっすぐおれのところに
持ってきてくれると請け合った」


Three years I waited patiently
'Till he returned with the harp from the sea of Galilee

「3年のあいだ
おれは辛抱強く待った。
その男がガリラヤの湖から
ハープを持って帰ってくるのを」


He said there is one more thing I must ask
But not of personal greed

「そいつは言った。
実はもうひとつあなたから
 頂きたいものがあるんです。
 わたしの個人的な欲得とは
 無関係なものなんですけどね』」


But I wouldn't listen I just grabbed the harp
And said take what you may need

「でもおれは
聞いちゃいなかった。
ただハープを握りしめ
好きなものを持って行くがいいって
そいつに言った」


Now Daniel looked quite satisfied, and the harp it seemed to glow
But the price that Daniel had really paid, he did not even know

いまやダニエルは
とても満足しているようだった。
そしてそのハープはハープで
光り輝いて見えた。
けれどもダニエルは
自分が本当に支払った代価が
何だったのかということに
気づいてさえもいなかった。


Back to his brother he took his troubled mind
And he said dear brother I'm in a bind
But the brother would not hear his tale
He said Old Daniel's gonna land in jail

ダニエルは乱れた心を抱えて
きょうだいのところに戻り
「まずいことになっちまった」と言った。
でもそのきょうだいは
ダニエルの話に耳も傾けず
じゃあお前さんは監獄行きだな」と
言うだけだった。


So to his father Daniel did run
And he said oh father what have I done
His father said son you've given in, you know you won your harp
But you lost in sin.

それでダニエルは
父なるひとのもとに走り
「わたしは一体
何をしてしまったんでしょうか」
と言った。
「息子よ。
おまえは打ち負かされたのだ。
聞きなさい。
おまえはハープを手に入れた。
けれどもそのことで
罪に沈むことになったのだ」
と父なるひとは言った。


Then Daniel took the harp and went high on the hill
And he blew across the meadow like a whippoorwhill

そしてダニエルはハープを抱えて
高い丘に登り
ヨタカがむせび泣くようなメロディを
草原に向けてかき鳴らした。


He played out his heart just the time to pass
But as he looked to the ground, he noticed no shadow did he cast

時の過ぎ行くままに
彼は心から演奏を続けた。
でも地面に目を落とした時
彼は自分の体から
影が失われていることに気づいた。


Daniel, Daniel and the sacred harp
Dancing through the clover
Daniel, Daniel would you mind
If I look it over

ダニエル、ダニエル
そしてあの聖なるハープ
クローバーの真ん中で踊っている。
ダニエル、ダニエル
かまわないかな。
ここでずっと眺めていても。

=翻訳をめぐって=

上に貼りつけた絵は、この曲にインスピレーションを受けたカナダの絵描きさんがネットで公開していた作品を、無断で使わせて頂いた。確かに、もし自分に絵が描けたとしたならば、ものすごく「絵心」をくすぐる歌であると思う。「ミチコオノ日記」の作者の人とか、公民館の関係者の皆さんとか、良かったら何か描いてみてくれないかしら。もしもくすぐられたらの話で、いいのだけれど。

  • Daniel, Daniel and the sacred harp…「ダニエル」は普通の人名といえば人名なのだけど、旧約聖書の「ダニエル書」に出てくる預言者の名前でもあり、キリスト教世界では「聖書的なイメージ」を強く喚起させる名前であるらしい。なお、彼が手に入れたという「ハープ」について、レヴォン·ヘルムは「口で吹くハープ」すなわちハーモニカをイメージしながら歌っていたというのだが、上の絵描きさんを含め、やはりこの歌を聞いたほとんどの人が想像するのは「竪琴」のイメージであるらしい。作詞者のロビロバ氏は、具体的なことは語っていないようである。
  • old Daniel…この「old」は「ダニエルじいさん」という意味ではなく、「おなじみの」という「愛称」としての意味で解釈すべきだと、海外サイトには書かれていた。確かにこの歌はダニエルの「若さゆえの過ち」を描いた物語として受け止めた方が、しっくり来る。なお、レヴォン·ヘルムが担当しているナレーター役の登場人物についても、「おっさん」ではなく「少年」的なイメージが、昔から私にはある。しかしよく読むと「自分の街から何年も離れていた」とあるわけだから、これはいいとこ「青年」かな。でも私はどうしても「この子」には、「教えてよ」という言葉を喋らせてみたかったのだった。
  • And Daniel said…ここでボーカルが「ナレーター役」のレヴォン·ヘルムから「ダニエル役」のリチャード·マニュエルへと、劇的にチェンジする。
  • So I saved up all my silver, and took it to a man…この「男」は、キリスト教世界の住人でない人間が見ても直感的に分かるけど、絶対に「悪魔」である。悪魔と契約した老学者を主人公とするゲーテの「ファウスト」や、「ある四つ角」で夜中に出会った悪魔に魂を売り渡してギターのテクニックを手に入れたと言われている伝説のブルースマン、ロバート·ジョンソンのエピソードなど、さまざまな物語のイメージがこの歌には重ねられている。
  • 'Till he returned with the harp from the sea of Galilee…私が持っていたCDの歌詞カードではこの「sea of Galilee」という言葉が「ガレリの海」と訳されていて、何てロマンティックな響きを持った想像上の地名なのだろうと、一人でうっとりしていた。ところが今回「一応」調べてみると、実は「sea of Galilee」とはパレスチナに実在する「ガリラヤ湖」の英語表記にすぎなかったのだということが、私にとって初めて、明らかになった。もしこのことを知ったのがもう少し前だったなら、このブログのタイトルは「華氏65度の冬」ではなく「ガレリの海」になっていたかもしれない。要するにそれぐらいこの歌とこの歌詞を私は好きだったのだということをここでは言いたい。


ガリラヤ湖 - Wikipedia

  • But not of personal greed…「greed」とは「欲望」という意味なのだが、日本盤の歌詞カードにはそれが「grief」と記載されており、この部分が「個人的な悲しみのためにハープを弾いてはならない」という「男」からダニエルへの忠告として解釈されていた。20年以上の歴史を誇るザ·バンドの公式ファンサイトにはこの「日本盤歌詞カードの誤記」についてもしっかり言及があり、「griefでは意味をなさないばかりではなく、needと韻を踏む関係にもなっていない」とハッキリ批判されていた。よくそんな外国の細かい事情についてまで調べているものだと思うが、そういうことはぜひ日本語にして日本のレコード会社に伝えてやって頂きたい。と言うか、伝わるのだろうか。私がここに書いとけば。
  • Back to his brother …この「brother」は「肉親」とも解釈できるし「隣人」とも解釈できる。しかし「肉親」にしてはダニエルへの態度があまりに冷たいので、ここはやはり「隣人」と解釈すべきなのではないか。というのはこれまた海外サイトからの受け売り。
  • So to his father Daniel did run…この「father」も、「肉親」とも解釈できるけど、キリスト教的にはより強烈に「神」のイメージと重なる言葉である。
  • whippoorwhill…この言葉が90年代にはどんな辞書を引いても載っていなくて、「ムチを鳴らす音」の擬音表現だろうかとかいろいろ想像してみたのだったが、今回Wikipediaを調べてみて、「ホイップアーウィルヨタカ」という北アメリカ産の鳥の名前だったことが分かった。「whippoorwhill」と鳴くのだそうで、日本語版には言及がなかったが、中国語版のWikipediaでは「三声夜鷹」と訳されていた。

  • he noticed no shadow did he cast…子どもの頃に「影をなくした男」という物語を読んだことがあったけど、どんな話だったか忘れたな。あと「名探偵カゲマン」というマンガもうちにあったはずだけど、どんな絵だったかも忘れてしまった。でもとにかく、そういうイメージのことが歌われているのだと思う。




Zabadak 遠い音楽

ハープの音色が素敵な歌をひとつ。ではまたいずれ。



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=楽曲データ=
Released August 17, 1970
Recorded May–June 1970
Levon Helm: 1st Lead Vocal & 12 String Acoustic Guitar
Richard Manuel: 2nd Lead Vocal & Drums
Rick Danko: Accoustic Bass & Violin
Robbie Robertson: Electric Guitar & Autoharp
Garth Hudson: Lowrey Organ
Key: G

Daniel and the Sacred Harp

Daniel and the Sacred Harp

  • ザ・バンド
  • ロック
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes