華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Most Of All You もしくはソウルミュージックっちゅーやつやな (1989. Bill Medley)



映画「メジャーリーグ」のエンディング曲。作中では、トム·べレンジャーが演じるジェイクという名のキャッチャーが、試合が終わった後にブルペンカーに乗ったまま昔の恋人を訪ねてゆく場面でも使われていた。

とにかく、シブい曲なのだった。子ども心にもそう思った。小学生の頃は全然意識していなかったのだけど、中学生ぐらいの頃からどんどん好きになった。「going nowhere (どこにも行けない)」とか「Chasing after rainbows (虹を追いかけて)」とか「no one's there (そこには誰もいない)」とか、中学生の耳にも時々飛び込んでくる「分かるフレーズ」に、いちいちビビッと来た。外国の歌はそういう風に「ところどころ分かるフレーズがある」感じの曲が、特に思い出に残りやすい傾向を持っていると思う。後になってから辞書を引きながら翻訳してみると、「全体像」がイメージと全然違っていたりすることは、すごくよくある話なのだけど。

この歌の歌詞も、オトナになった今の目線から翻訳してみると、「ずいぶん調子のいい歌」であるように思う。かつて夢のために恋人を捨てた男が、夢やぶれて恋人のところに戻ってくる。そんな情景が描かれているように思うのだが、主人公の「自嘲」はあっても相手に対する「ごめんなさい」がないというのは、いかがなものなのだろうか。とりわけかつての自分が人生まで賭けたはずの夢を「toys (おもちゃ)」とまで、言うか?と思う。そんな風に言われたらそのために捨てられた昔の恋人だって、浮かばれないことだろうに。

とまれ、この歌を歌っているビル·メドレーという人の声質と、言葉への情熱の込め方に、ぐぐっと来るものがあるのはやはり事実である。昔の私は大柄な黒人男性が抑えた声で歌っている情景を想像し、「これがソウルミュージックっちゅーやつやな」と一人納得していたのだったが、後になってから知ったところではこのビル·メドレーという人は「ブルーアイド·ソウル」と呼ばれる白人のソウルシンガーで、「ゴースト」の主題歌を歌っていたライチャス·ブラザーズというデュオの片割れの人だった。「ブルース」との出会いを提供してくれたこの映画のオープニング曲も、「ソウルミュージック」との出会いを提供してくれたこのエンディング曲も、フタを開けてみれば白人が歌う言わば「バッタもの」であったというところに、つくづく私は「因縁」を感じている。

「most of all 」とは「とりわけ」とか「いちばん」とか「その中でも特に」とかいった意味の熟語。試訳はやや、意訳になっています。3回にわたってお送りしてきた「メジャーリーグ」特集は、今回で終了です。ではまたいずれ。


Most Of All You

Most Of All You

英語原詞はこちら


Woke up one day, what did I find?
Holes in my pockets, memories on my mind
So many things I lost on the way
But most of all you

あるひ目を覚まし
おれが見つけたものは
何だったろうか。
ポケットに空いた穴に
心の中の思い出。
ここに来るまでのあいだに
とても多くのものを
おれは失ってきた。
でもとりわけ大きかったのは
きみを失ったことだった。


Pennies and dreams carelessly spent
Pieces of time and who knows where they went
Is there a chance to pick up the pieces
And try for it all again

いいかげんに
使い捨ててしまった
夢のかけらに
1セント玉の山。
時間の切れっ端。
どこに行ってしまったのかは
誰も知らない。
もう一度拾い集めて
元通りにできる
そんなチャンスは
あるんだろうか。


Sometimes you're just so busy running
Running round in circles
You never see you're going nowhere

走ることであまりに忙しく
それなのに同じところばかり走っていて
自分がどこに向かっているのかが
いつまでたっても見えてこない
そういうこともあるだろう。


Sometimes you get so tired of chasing
Chasing after rainbows
You look around your life
And find no one's there
No one's there, no one's there

追いかけることに
虹を追いかけることに疲れきって
自分の人生を振り返ってみる
そういうこともあるだろう。
そしてそこには
誰もいなくなってしまっていることに
気づくんだ。
誰もいない。
誰もいないんだよ。


If there's a time everyone sees
They may have missed the forest for the trees
How could I let the best things roll by
And most of all you

もしも少しの時間があれば
誰にだって分かるだろう。
「木を見て森を見ず」ってやつ。
きっとみんなそれを
やらかしてたんだ。
自分にとって一番かけがえのないものに
自分の脇を素通りさせてゆくなんて
どうしてそんなことが
おれにはできたんだろう。
とりわけ
きみにだ。


You knew me better than I knew myself
Somehow you always knew
There'd come a day
I'd put my toys away

きみはおれのことを
おれよりずっとよくわかっていた。
何となくきみは
ずっと知っていたんじゃないかと思う。
いつかおれが自分のおもちゃを片づける
そんな日が来ることを。


I was a fool traveling so far
Only to find that home is where you are
You are the way there, just let me stay there
I'll have it all if most of all there's you

おれはfoolだったよ。
とんでもなく長い旅をして
そしてわかったことは
きみのいるところが
おれの家なんだってこと
それだけだった。
きみこそがおれの
歩むべき道なんだ。
おれをそこにいさせてくれないか。
おれの望みはすべてかなう。
とりわけもし
きみがそこにいてくれたなら。


「fool」は「精神病者」に対する差別語です。ここでは原文をそのまま掲載しました。



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=楽曲データ=
Release: April 7, 1989
Key: A♭→A

Most of All You

Most of All You

  • Bill Medley
  • サウンドトラック
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes