華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

No Reply もしくは Once And Only Love (1964. The Beatles)


No Reply

No Reply

英語原詞はこちら


This happened once before
When I came to your door
No reply
They said it wasn't you
But I saw you peep through your window

こないだのことやねんけどな。
じぶんとこの玄関まで行ってんけどな。
返事ないねん。
みんなはな。
人違いやちゅーねんけどな。
おれ見てもーてん。
じぶんが窓からのぞいとーとこ。


I saw the light, I saw the light
I know that you saw me
As I looked up to see your face

電気ついとったやん!
電気ついとったやん!
じぶんおれのこと見とったやろ。
おれ知ってんねんで。
上向いたらじぶんの顔
見えたもん。


I tried to telephone
They said you were not home
That's a lie
'Cause I know where you've been
I saw you walk in your door

電話してみたわ。
留守やて言われたわ。
ウソやろ。
おれじぶんがどこにおったか
知ってるもん。
家、入って行くとこ
見たもん。


I nearly died, I nearly died
'Cause you walked hand in hand
With another man in my place

死ぬ思たわ!
死ぬ思たわ!
じぶん
知らんやつと手ぇつないどんねんもん。
手ぇつないで歩いとんねんもん。
そこはおれの場所なんとちゃん!


If I were you I'd realize that I
Love you more than any other guy
And I'll forgive the lies that I
Heard before when you gave me no reply

おれがじぶんやったらの話
おれぐらいじぶんのこと
思ってる男はいてへんて
絶対わかる思うわ。
そんでやけど
あの返事なかった時より前に
じぶんから聞かされたウソについては
ぜんぶ許したっても
かまへんて思てんねやで。


I've tried to telephone
They said you were not home
That's a lie
'Cause I know where you've been
I saw you walk in your door

電話してみたわ。
留守やて言われたわ。
ウソやろ。
おれじぶんがどこにおったか
知ってるもん。
家、入って行くとこ
見たもん。


I nearly died, I nearly died
'Cause you walked hand in hand
With another man in my place

死ぬ思たわ!
死ぬ思たわ!
じぶん
知らんやつと手ぇつないどんねんもん。
手ぇつないで歩いとんねんもん。
そこはおれの場所なんとちゃん!


No reply, no reply
返事なし!
返事なし!

=翻訳をめぐって=

今まであまり意識したことはなかったのだけど、私がビートルズナンバーの中で一番繰り返し聞いてきた回数が多いのは、ひょっとしてこの曲かもしれない。

ひとつに、全部で13あるビートルズのアルバムの中で私が昔から一番好きなのが、この曲から始まる4枚目の「フォー·セール」だからである。デビューから2年、映画やらコンサートやらで一番忙しかった時期の合間を縫って「やっつけ仕事」で作られたのがこのアルバムなのだそうで、世の中では「地味な作品」だと言われているらしいことをネットの時代になってから知ったのだが、私の印象としては一番「素直に作られた作品」であるような気がする。だから聞く方も、他と比べて非常に素直な気持ちで聞ける感じがするのである。

abbeyroad0310.hatenadiary.jp

ふたつにこの「No Reply」という曲は、何と言うかものすごく「エモい」のだ。何十年聞いてきても、ジョンレノンが最初に「I saw the light!」と絶叫するところでは、いまだにドキッとする。ジョンがここまで赤裸々な感情を叩きつけている歌というのを、私は他に知らない。ここで歌われている、と言うか叫ばれているのは、恋人から裏切られたことに対するジョンレノンのナマの怒りとナマの悲しみであり、この曲と比べてみるなら、あとの時代におけるジョンの曲の中での「怒り」というのは全部「作った怒り」と言うか、「演出された怒り」にしか思えなくなってくる。

おそらくそうした「本当の怒り」や「本当の悲しさ」というものは、たとえそれが一生引きずるような内容のものであったとしても、本質的には Once & only な感情なのだと思う。同じ怒りや同じ悲しみから「作品」を作り出すことができるのはおそらく「1回だけ」で、それはもとより「使い回す」ことができるような性格のものではない。本当に好きになった相手から手ひどく裏切られた経験を持つ人間には、そこからは二度と「同じ気持ち」で人を好きになることが、できなくなってしまう。この曲はおそらくそんな風に「汚れて」しまう前の状態の心で作られた、ジョンレノンにとっての Once & only な曲なのだ。そしてそこで「失われたもの」というのは、いかに彼がジョンレノンであろうと、とんでもない作品をたくさん作り出そうと、二度と戻ってくることはなかったのだと思う。


Once and only love (Sion)

私がこの歌を自分にとっての「地の言葉」である関西弁でしか翻訳できないと感じたのは、他の言葉では「I saw the light!」に込められた気持ちをどうしても言い表せないと思ったからだった。心の叫びというものは「作った言葉」には置き換えられない。訳す人によってどんな言葉になるのかは、違うのだと思う。「電気ついてたじゃん!」と訳す人もいるかもしれないし、「ついてたじゃねえか!」と訳す人もいるかもしれない。でも、もし自分が同じ気持ちになったらということを想像した上で言葉を選ぶとするなら、それぞれの人にとって出てくる言い方は必ず「一種類」にしかならないはずだと思う。

「灯りがついているのを見たんだ」的な直訳の仕方は、この曲に関する限りで言えば、誤訳と言っていいレベルのものだと思う。この文字列は全然「叫んで」いない。

翻訳をめぐって特に難解な歌詞はないのだが、この歌の舞台としては「学生寮」みたいなところを想像するのが一番「合っている」ように思われる。彼女が親と一緒に暮らしているなら、ジョンも訪ねて行きにくいし、彼女も別の男は連れ込みにくいはずだ。それにもしそうなら、「No reply」だったとしてもそれは彼女の意志ではなく親の意志ではないかということを、まず考えたくなるのが人情だと思う。そうではなく、モロに彼女から裏切られたことを疑いえない状況だから、この主人公は打ちのめされているのである。

60年代だから電話は公衆電話だし、かかってくる彼女の方にも、おそらく寮の建物の中にひとつしかない。彼女の代わりに電話に出た「they」とは、たぶん彼女と口裏を合わせている同じ寮のルームメイトたちのことを言っているのだと思われる。

I'll forgive the lies that I
Heard before when you gave me no reply

と、最後の方でジョンは荒れる心を押さえつつ彼女に譲歩することを試みているわけだが、この部分を「居留守を使ったことを許してあげるよ」と訳しているサイトが多い。しかし私は文法的にも内容的にも、その訳し方は疑問だと思う。

ひとつにジョンが「許す」と言っている「嘘」は、「lies」と複数形になっている。彼女がついた嘘はひとつだけではないのである。

ふたつに、「No Reply」というのは「嘘」ですらない。ジョンは完全に無視されて、存在まで否定されてしまっている。(「彼女は留守だ」というのは「they」がついた嘘であって、彼女の嘘ではないのである)。それに比べたら例え「嘘」であっても、彼女から直接言葉をかけてもらえる方がこの時のジョンにはどれだけ幸せだったろう。だから「それまでに(before)」彼女がついた嘘については全部許す、とジョンは申し出ているのだと思われる。「無視するのだけはやめてくれ」という叫びなのだと私は解釈したい。

それでも「No Reply」なのだ。この歌には本当に、救いがない。

でも、ピュアである。そのピュアさが誰かを救うことは、あると思う。


ハートのイヤリング

私の中でずっと昔から「No Reply」と重なって響いているのがこの歌だ。どちらも、強がることでかえって傷口を広げてしまっているのが自分のことのように痛い。この歌の主人公の人は最後の最後になって、それまで歌ってきたことを全部「なかったこと」にするかのように「春になる頃あなたを忘れる」と言うのだけれど、子ども心にそんなことができるのだろうかとずっと疑問に思っていた。今でも疑問な歌詞である。ではまたいずれ。



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=楽曲データ=
Released: 4 December 1964
Recorded: 30 September 1964
John Lennon: vocals, acoustic rhythm guitar, handclaps
Paul McCartney: harmony vocals, bass, handclaps
George Harrison: rhythm guitar, handclaps
Ringo Starr: drums, handclaps
George Martin: piano
Key: C

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