華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Mary of the South Seas もしくは南太平洋のメアリー (1996. The Finn Brothers)


え / id:flightsloth


Mary of the South Seas

Mary of the South Seas

英語原詞はこちら


She boarded the boat a long time ago
It opened her up to the world
But time goes so slowly
You won't see it pass
A phone call from Dublin I'm with you at last

遠い昔
彼女は船に乗り
世界を知った。
けれども時がすぎるのは
とてもゆっくりで
それが流れる姿を見ることは
誰にもできない。
ダブリンからかかってきた
一本の電話。
とうとうぼくはいま
きみと同じ時間をすごしている。


And I swear that I've always worked hard to be good
Just like I promised you once
And if I could spare you
You know that I would
Strange things can happen in this heat

ぼくはいつだって
まじめにやってきた。
いつだったかきみに
約束したとおりにね。
きみなしですごすことが
平気になればいいのにと思う。
やろうと思えば
できるんだぜ。
この亜熱帯の空気の中では
不思議なことが起こるものなんだ。


Mary of the South Seas
Mary of the South
Mary of the South Seas
I feel your presence
Do you remember me

南の海のメアリー
南のくにのメアリー
南の海のメアリー
きみがここにいるような気がする。
きみはぼくのことを
思い出すことがあるんだろうか。


The sea is so swollen it's golden and silver
And all is a beckoning wave
The beauty contestant
On a ship from Southampton
The stars look so different from here

海はたっぷりと水をたたえ
金色に銀色に
ふくれあがっている。
手招きをする波は
すてきな伴走者。
それがすべての世界だ。
サウサンプトンの港を離れた
船の上からは
こことは違った星が
見えるんだろうね。


Mary of the South Seas
Mary of the South
Mary of the South Seas
I feel your presence
Do you remember me

南の海のメアリー
南のくにのメアリー
南の海のメアリー
きみがここにいるような気がする。
きみはぼくのことを
おぼえているだろうか。


I wish I could help you, it's hard to discover
The ones that you love slip away
So go on your journey
And when you recover
All the dreams that you've buried
Shall bloom in the day

きみのために
何かしてあげられたらって思う。
きみがかつて愛し
今ではもう失われてしまった
いろいろなこと
その姿を再び見つけだすことは
たぶんもうできないんだ。
だからきみには
きみの旅を続けてほしいと思う。
いつかきみが立ち直る
そんな日が来たなら
きみが土の中に埋めてきた
いくつもの夢たちがいっせいに
花を咲かせるはずだと思うよ。


Mary of the South Seas
Mary of the South
Mary of the South Seas
I feel your presence
Do you remember me

南の海のメアリー
南のくにのメアリー
南の海のメアリー
きみがここにいるような気がする。
きみはぼくのことを
思い出すことがあるんだろうか。


Mary of the South Seas
Mary of the South
Mary of the South Seas
Do you remember
Do you remember me

南の海のメアリー
南のくにのメアリー
南の海のメアリー
おぼえているだろうか。
ぼくのことをおぼえているだろうか。


I feel your presence
Do you remember me

きみがここにいるような気がする。
きみはぼくのことを
思い出すことがあるんだろうか。

=翻訳をめぐって=

フィン·ブラザーズは、現在58歳のニール·フィンと65歳のティム·フィンという、やや年の離れたきょうだいからなるニュージーランドのフォーク·デュオ。二人の母親はアイルランドで生まれ、2歳の時に移民としてニュージーランドにやってきた人だとのことであり、かれらは自らの音楽的なルーツを、アイルランドに見出している。

18世紀から19世紀にかけ、オーストラリアがイギリスの「流刑植民地」とされていたことから、南半球のこの地域にはイギリスの支配に抗して戦った数え切れないほどのアイルランドの人々が、「罪人」として送り込まれてきた歴史があった。また19世紀半ばの「ジャガイモ飢饉」の際にはアイルランドの総人口の半数にあたる人々が餓死するか移民になるかという選択を迫られる中、多くの人々が大西洋を渡って行った一方で、オーストラリアやニュージーランドに移住する道を選んだ人たちも、少なからず存在した。現在のニュージーランドの総人口は約470万人で、福岡県の総人口よりも少ないぐらいなのだが、そのうち何らかの形でアイルランドとつながりを持っている人たちの数は、実に4分の1以上にのぼるのだという。

フィン·ブラザーズのお母さんは年齢的に見て「ジャガイモ飢饉」より一世代後の人だったはずだが、それでもアイルランドを離れざるを得なかったことには、やはり切実な理由があったのだと思う。そしてその時代に移民の道を選んだ人たちと、アイルランドの地で暮らし続けている人たちとの結びつきは、現在でも非常に強いのだという。U2の「Rattle and Hum (魂の叫び)」という映画でも、「囚人船」に乗せられて南半球に送られて行った自分たちの同胞にメンバーが思いを馳せていた場面が、あった気がする。

フィン·ブラザーズが育ったアワムツというニュージーランド北島の街は、19世紀にマオリの人々がイギリスによる土地の強奪に抗して戦った戦争の、最大の激戦地でもあったらしい。そうやって作られた「白人の街」に、今度はそのイギリスによって迫害されたアイルランドの人々が大勢住み着くことになった。私はこうした歴史の複雑さについて、あれこれ「解説」できるような資格が自分にあるとは到底思えない。ただ言えることは、自分の全く与り知ることのできないそうした歴史の結果としてニュージーランドという島で生まれ、そこで育ち、そこを「故郷」であり「世界」であると感じつつ、一方で地球の反対側の北半球の島には自分たちの「本当の故郷」が存在しているといったような不思議な感覚を、この歌を作った人たちはずっと心のどこかに抱えながら歌い続けてきたのだろうな、ということだけである。

そういう感覚を知っている人たちは、たぶんそれを知らない人たちよりも、きっと世界の広さというものを本当によく「わかって」いるのだと思う。私はその気持ちを、想像でしか語ることができない。

この歌には、ストーリーがある。亜熱帯気候のニュージーランド北島の暖かい風の中で生まれた、ルーツを同じくする男の子と女の子がいて、2人は若い頃、と言うか幼い頃、という感じがする。愛しあっていた。けれども女の子の方は、小さい頃から聞かされてきた「もうひとつの故郷」への憧れが抑えきれず、ある年齢に達した時、彼氏を残して船に乗り、「世界を知った」。そしてどれくらいともつかない時間が流れたある日、アイルランドのダブリンにいる彼女から、ニュージーランドの彼氏のもとに、一本の電話がかかってきた。それが歌の冒頭の風景である。

「A phone call from Dublin I'm with you at last」という歌詞を、私は最初、「僕はとうとう君と一緒になることができた」という言葉として理解した。彼女がアイルランドから帰ってきて、やっと二人は結ばれることができる。そういう歌なのかと思ったのだった。

でもこの歌を最後まで聞いてみると、この二人が「また一緒に過ごすことのできた時間」というのはその「一本の電話」の間のことでしかなく、その後二人が実際に再会することがあったのかといえば、なかったのではないかという気がする。そうでなければ、「Do you remember me?」という涙が出そうなぐらいせつない言葉が、最後になって2回も繰り返されることは、普通、ないと思う。

二番の歌詞で、彼女は「再び」船の上の人になっている。正確には、その情景を思い浮かべている彼氏の言葉が綴られている。サウサンプトンは、ロックフェスティバルが開かれたことで有名なワイト島の対岸に位置するイギリスの港町。そこから彼氏の待つニュージーランドを目指して彼女は船に乗ったのだという風にも、読める節がないではない。しかしそれでも私には、彼女の船が向かう先はニュージーランドではないのではないかという気がしてならない。三番の歌詞の内容から考え合わせるなら、彼女は「新しい旅に出た」のだと考えた方が自然なのではないだろうか。南十字星の見えるニュージーランドで彼氏が思い描く「今の彼女」は、「北半球の星空」を眺めている。もしもその船がオセアニアを目指すなら、いずれ主人公が眺めているのと「同じ星空」が見えてくることもあるだろう。でも例えばその船の行き先が西のアメリカだったりした場合には、彼氏の見上げる空と彼女の空が「同じ空」になることは、これから先もやはりないのである。

それでも彼氏は、彼女が地球のどこにいようとも、彼女は変わることなく「南太平洋のメアリー」なのだということを知っている。知っているから、1人でも生きてゆくことができる。

そしてそのことは間違いなく、彼女自身の「生きる力」にもなっている。だから彼女は、「新しい旅」に出発する前に一度だけ、南半球の彼氏に電話をかけたのだと思う。自分は地球のどこにいても「南太平洋のメアリー」なのだということを、彼氏の声を聞いて確かめたかったからである。

彼氏にとっても彼女にとっても、その「一本の電話」だけで充分だったのではないかと私は思う。それきり二度と会えることがなかったとしても、二人はきっと「生きてゆくことができる」に違いない。

「Common Ground」という20年前に発売されたCDを持っている人以外は多分誰も知らないような歌だけど、私にとっては、とてもかけがえのない気持ちにさせてくれる歌なのだ。

Common Ground

Common Ground



三回前の記事で私は勢い余って「世界は今日から春です」などと口走ってしまったわけだけど、考えてみれば南半球の同緯度ぐらいの世界では、これからだんだん秋に向かってゆくところなんだよな。こういう軽口をこそ、本気で反省しなければならないのだと思う。「自分にとっての全て」でしかないような世界より、本当の世界というものは、確実にもっともっと広いのだ。

今回の記事のタイトル画像には、「ミチコオノ日記」読者集会所の新しい編集メンバーになって下さった「ナマけもの」さん(id:flightsloth)の描いた絵を使わせて頂きました。次回はこの方からのリクエストに応えて、ニルヴァーナと同様に今まで一度も私が聞いたことのなかった「Dinosaur Jr」というバンドの歌詞翻訳に挑戦してみる予定です。

ではまたいずれ。

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=楽曲データ=
June 11, 1996
Accordion [Button Accordion] – Mairtin O Connor*
Arranged By – White*, Lunny*, Finn*, Finn*
Backing Vocals – Andy White (4)
Bass – Eoghan O Neill*
Bouzouki [Electric Bouzouki] – Donal Lunny
Drums – Ray Fean
Guitar – Donal Lunny
Low Whistle – Davy Spillane
Mixed By – Brian Masterson, Donal Lunny
Piano – Neil Finn
Recorded By – Tim Martin
Recorded By [Additional Vocal - Assistant] – Julie Gardiner*
Recorded By [Additional Vocal] – Pete Lewis
Recorded By [Assistant] – Richard Rainey
Ukulele – Neil Finn
Vocals – Neil Finn, Tim Finn
Written-By – Andy White (4), Neil Finn, Tim Finn
Key:G

Mary of the South Seas

Mary of the South Seas

  • Marist School Herne Bay Choir
  • ポップ
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes