華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Caledonia Mission もしくはカレドニアで果たすべき使命 (1968. The Band)


Rick Danko ↑1976. ↓1992.


「リック·ダンコが肉団子になっていた」というのは、1992年10月のボブ·ディラン30周年トリビュートライブをニューヨークまで見に行って来たというみうらじゅんが、当時のロック雑誌に書いていたレポートだった。「なっていた」も何も、そのライブを通して初めてザ·バンドに出会った14歳の私にしてみれば、リック·ダンコという人は第一印象の段階から肉団子以外の何ものでもなかった。だから後になってラストワルツの頃の写真を見た時には、切り取って下敷に入れたくなってしまうぐらいの男前だったことに、つくづく驚かされたものである。最近ではロビー·ロバートソンも肉団子化しているのだが、まあ、食べ物に不自由してないってことなのだろうから、いい方に受け止めといてあげるべきなのだろうと個人的には思っている。明日は我が身かもしれないわけだからね。


Robbie Robertson ↑1976. ↓2015.


私にとってリチャード·マニュエルの声が「一番スゴい声」、リヴォン·ヘルムのが「一番カッコいい声」だったとしたならば、リック·ダンコの声は「一番好きな声」で、これは今でも変わっていない。この人が1999年の冬に50代の若さで亡くなってしまった時には、何もする気になれなくて、新聞の死亡記事に載っていた写真の似顔絵を一日中描いていたことを思い出す。2012年にリヴォンが亡くなった時には、新聞を読まなくなってたものだから半年ぐらいそのことを知らずにいた私ではあるのだけれど。



リック·ダンコは1942年の暮れにカナダのオンタリオ州の南西部にある、シムコーという田舎町のタバコ農家の跡取り息子として生まれた。半径数マイルにはタバコ畑以外に何もないというそんな環境で、楽しみはと言えば週末ごとに親戚一同が集まって繰り広げられる音楽大会だけ。そんな少年時代だったらしい。だからリックの家はフツーの農家なのに大変な「音楽一家」で、みんな何らかの楽器が弾けた。

このリックの親戚一同とザ·バンドのメンバーが勢揃いして撮影された、「Next of kin (近親者)」というタイトルの有名な写真が、「ミュージック·フロム·ビッグ·ピンク」のジャケットの見開き部分に使われている。「若者の音楽」であり「不良の音楽」だとされていたロックのレコードジャケットに「家族」の写真が登場するというのが、当時としてはまた逆の意味で「型破り」なことだったらしい。その4曲目に収録されているこの「カレドニア·ミッション」こそは、リックがリードボーカルをとった曲として最初に世に送り出された、記念すべき作品である。


Caledonia Mission

英語原詞はこちら


She reads the leaves
and she leads the life
That she learned so well
from the old wives
It's so strange to arrange it,
you know I wouldn't change it
But hear me if you're near me,
can I just rearrange it?

彼女は紅茶の葉っぱを読んで
自分の人生を占う。
年とったおかみさんたちから
しっかりと学んできたやり方で。
不思議なもんだな。
葉っぱの並び方で
運命が決まってしまうなんてな。
別にそれを
変えようって言うんじゃないんだぜ。
でも聞いてほしいんだ。
もしおまえがそばにいてくれるなら
おれにはそれを並べ直すことが
できるんじゃないだろうか?


The watchman covers me
With his remedy
I can't see and it's hard to feel
I think his magic might be real

見張りの男が
おれのことを守ってくれる。
うまいやり方を
そいつが知ってる。
おれにはわからないし
感じることもできないんだけど
そいつの魔法は
本物じゃないかと思ってるんだ。


I can't get to you
from your garden gate
You know it's always locked
by the magistrate
Now he don't care why you cry,
he thinks it's just a lie
To get out, I don't doubt
that you'd make a try

庭の門からおまえのところに行くのは
むずかしいと思う。
治安判事のせいでいつも
カギがかけられてるからな。
あいつは今じゃ
おまえが泣いてたって気にもとめないし
嘘泣きだとしか思っていない。
おまえはきっと何とかして
出て行こうとしたんだろうな。


If the good times get you through
I know the dogs won't bother you
We'll be gone in moonshine time
I've got a place they'll never find

もしもいい時がめぐってきたら
だいじょうぶ、イヌどもだって
おまえのことを困らせたりしない。
おれたちはもうその時には
月光の中だ。
やつらには絶対に見つけられない
場所を押さえてあるんだよ。


You know I do believe
in your hexagram
But can you tell me
how they all knew the plan?
Did you trip or slip on their gifts,
you know you were just a con?
You knew it, why d'you do it,
I've been hiding in the dark

おまえの六芒星占いを
おれは信じてるよ。
でもそれなら教えてくれないか。
どうしてやつらが
計画をかぎつけたのか。
何かへまをやらかしたのかよ。
それともやつらに買収されたのかよ。
おまえは詐欺師だったって言うのかい?
わかっていたのなら
何であんなことをしたんだよ。
おれはずっと暗闇の中に
隠れていたんだぜ。


Now I must be on my way
I guess you really have to stay
Inside the mission law
Down in Modock, Arkansas

もうおれはおれのやり方で
逃げるしかないみたいだ。
こうなったらおまえはずーっとそこに
いるしかないんだと思うぜ。
アーカンソー州モードックの
教会の掟に閉じ込められて。


Caledonia Mission

=翻訳をめぐって=

記念すべき作品なのはいいのだけれど、これまたえらく謎めいた作品である。「カレドニア·ミッション」というタイトルであるにも関わらず、歌詞の中には「カレドニア」のカの字も出てこない。「カレドニア」というのはそもそもはスコットランドのことを指す古地名であり、「ミッション」とは「任務」「使命」を指す言葉であると同時に「伝道施設」を意味する言葉でもあるわけなのだが、このタイトルにはどういう意味が込められているのだろうか。

リヴォン·ヘルムの自伝やザ·バンドの公式ファンサイトに書かれている情報によるならば、この歌はホークス時代のザ·バンドがディランに「発見」されて世に出る直前に起こった、「ちょっとした法律的トラブル」のエピソードを下敷きにして書かれた歌であるらしい。「ちょっとした」というのはリヴォンの言葉通りの表現なのだけど、1965年の夏のこと。ニューヨークでの大手レコード会社との契約をフイにして、失意のうちにクルマでカナダに戻ってきたホークスのメンバーが、国境を越えてしばらくしたところからなぜか警察につけ回され、トロント空港に着いたところで全員が逮捕されてしまうという事件が、起こったらしいのである。

リックのガールフレンドに横恋慕した男が、「もうすぐマリファナを満載した車が国境に向かう」と警察に密告したことによって仕組まれた、逮捕劇だった。あるいはその男のガールフレンドをリックが横取りしたのかもしれないけど、細かいことにはここでは踏み込まない。そして間の悪いことに、身体捜索を受けたリックのポケットにはしっかりマリファナが入っていた。「ダンコさん、大麻密輸の罪で30年間、刑務所から出られないようにしてやるよ」と、警官は極めてうれしそうにリックに告げたのだという。

ここで大活躍したのが、以前に「ザ·ウェイト」の記事を書いた時にも登場した伝説のグルーピー、キャシー·スミスさん当時16歳だった。のちにジョン·ベルーシの彼女になって、彼女が渡したヘロインのせいで彼氏が死んでしまうという大変な思いをすることになった人なのだが、リックの言によるならその頃はとにかく「トロント一の美人で、彼女に逆らえる男は1人もいなかった」とのことである。そのトロント一の美人が、ホークスの逮捕を「手柄」にしようと一番しゃかりきになっていた警官のことをナンパして、一夜を共にしてからおもむろに「私、まだ14歳なの」と相手に告げた。(ウソなのだけど)。14歳とそんなことをしてしまったことを公にされたら破滅なので、その警官はたちまち行方をくらませてしまった。そしてホークスの他の面々は無罪放免となり、リックも1年間の執行猶予だけで「助かる」ことになったのだという。ものすごく面白い話ではあるのだけれど、その話とこの歌の内容が果たしてどう関係してくるというのだろう。

Googleマップを開いてみると、リックが生まれたシムコーから北東に約50キロ、ナイアガラの滝のあるアメリカ国境からトロントに向かう途中の地点に、「カレドニア」という街があるのが分かる。「カレドニア·ミッション」というのは、あるいは「あの不逞のバンドマン連中をカレドニアで一網打尽にせよ」という、警察側のミッション(任務)のことを表現した言葉であるのかもしれない。「ミッション·インポッシブルちゅーのは、できない相談ちゅーことですなー」とむかし浜村淳がテレビで力説していた、その意味における「ミッション」である。もっともここまで踏み込んだ仮説は海外サイトを見てもどこにも書かれていないので、上は完全に私の想像にすぎない。付け加えて言うなら私は浜村淳が大嫌いなのだが、彼の喋り声と結びつけてしか引っ張り出せない記憶がいっぱいあるのは、生まれた場所が悪かったとしか言いようのないことなのだと思う。



そのことの上で歌詞の内容はといえば、これはもう「事件」の顛末とは全く関係がない。保守的で閉鎖的な生活の中に閉じ込められた一人の女性を、一人の男がナイト気取りで救い出そうとするのだけれど、土壇場で彼女の心変わりに遭って、悪態をつきながら逃げて行く。そういうストーリーにもとづいた寓話仕立ての歌であり、こういう歌詞を好んで書くのは例によってロビー·ロバートソンである。現実の事件の中で彼らは女性に「救われて」いるわけだが、この歌の中では主人公が女性を「救おうとして裏切られて」いる。無理に関係を見つけ出そうとすると、ヘンな話にしかならないと思うので、歌は歌として素直に聞いておけばいいのではないかと私は思う。ただどことなく謎めいた歌詞の中に、彼らの身内にしか分からないキーワードがいくつか散りばめられているといったようなことは、あるのかもしれない。以下は、細かい内容をめぐって。

She reads the leaves

直訳は「彼女は葉っぱを読む」で、何のことやら分からないのだけど、英語圏の人が聞くとこれだけで大体の人に、「紅茶を入れた時に底にたまる葉っぱの形で運勢を見るあの占いのことか」というイメージが浮かぶらしい。「あの占い」って言われてもねえ。「茶柱が立つと吉兆」ぐらいのことしか私たちには分からない。あと、茶柱というのは基本的に誰がどう入れても立つ。それと、あの茶柱というのはお茶の葉っぱの枝の部分なので、茶柱の立つようなお茶を飲んでいるということ自体があまり景気のいいことではないし、紅茶にはもとより茶柱など入っていない。…こういうのを無駄な話と言うのだろう。

The watchman covers me

この「ウォッチマン」というのが何者であるのかは、完全に謎である。(「肩にシレラを乗せたウォッチマン」というフレーズを出してピンと来る方が、読者の中には何人いらっしゃるだろうか)。「事件」のことを踏まえるならば、何となくリック達を警察に売り渡した男の姿が想像される。果たした役割は丸っきり逆なのだけど。

I guess you really have to stay
Inside the mission law
Down in Modock, Arkansas

この歌の中で最大の謎とされているフレーズである。まず「mission law」についてなのだが、ここでの「mission」は「伝道施設/教会」としての「mission」であるとしか考えられず(すなわち「ミッションスクール」のミッション)、「mission law」は「教会の掟」という意味になる。ただしこの部分はどう聞いても「mission walls」と歌っているとしか思えないと主張している人たちが海外サイトにはかなりいて、もしそうならこの部分は「教会の壁」という意味になる。その方が確かに、「閉じ込められるイメージ」としては、分かりやすい。

次に「Modock, Arkansas」なのだが、アーカンソー州にモードックなどという街は、実在しない。ただしリヴォンの地元のヘレナの街から20マイルほど行ったところに「Modok」という場所なら、あるらしい。とはいえ実際にそこに行ってみても「何もない」らしいし、この歌詞とその場所に何らかの関係があるのか否かさえ、リヴォンを含めたザ·バンドのメンバーは、何も語っていない。

さらに後年「Rock Of Ages」というアルバムに収録されることになるこの曲のライブバージョンでは、「Down in Modock, Arkansas」という歌詞が「on a river bank of Caledonia (カレドニアにある川の岸辺の)」に変わっている。「カレドニア」という地名が出てくるのである。ただし、上で触れたアメリカ国境に近いオンタリオ州のカレドニアの街に、「Mission (宗教施設)」に相当するものは、やはり存在しないらしい。

つまりどういうことかというと





…私にはさっぱり分からない。


Caledonia Mission

大体、よっぽどザ·バンドが好きな人でもなければ聞いたこともないであろうこんなマイナーな曲について、こんなに一生懸命いろいろ調べてみたところでまともに読んでくれる人が果たして日本語世界にどれだけ存在するのだろうか。何だか書けば書くほど力が抜けてくるような感じになってきてしまったのだが、いいのである。魂を分かち合える相手というのは世界に一人いればそれで充分なのだから、まともに読んでくれる人が一人でも現れてくれさえすれば、その人のためだけにであっても、私はいくらだって書き続けることができるのである。とはいえ、この記事のPV数が「Taste Of Honey」を上回る日は、やはり永遠に訪れないことだろう。

むかが、つく。ではまたいずれ。



=楽曲データ=
Rick Danko: Lead Vocal & Bass
Richard Manuel: Back Vocal
Robbie Robertson: Electric Guitar & Acoustic Guitar
Garth Hudson: Lowrey Organ
Levon Helm: Drums
John Simon: Piano
Key: G

Caledonia Mission (Live-Academy Of Music)

Caledonia Mission (Live-Academy Of Music)