華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Rocket Brothers もしくは「歩けばいい」原作開発プロジェクト優秀賞受賞記念翻訳記事 (2004. Kashmir)

「GME'94 "AONIYOSHI"」特集の途中ではありますが、私にとって大きなニュースが飛び込んできました。このブログの協賛ブログだった「ミチコオノ日記」を通じて出会い、一緒にファンサイトを運営してきた高岡ヨシさんの書かれた小説「歩けばいい」が、 Amazon × よしもとクリエイティブ・エージェンシーが主催する「原作開発プロジェクト」において、優秀賞を受賞されたそうです。

yoshitakaoka.hatenablog.com
私はAmazonという企業がキライだし吉本という会社はもっとキライだしそもそも出版業界というもの自体が大キライなのですが(人は私を「100万回生きた猫」と呼びます)、敬愛するヨシさんの書いた言葉がそうした業界の人間たちをもウナらせ、より多くの人の目に触れる機会が大きく開かれたということは、私や私たちにとって間違いなく「いいこと」であり、そして自分のことのように「うれしいこと」です。



「歩けばいい」の表紙画を描いているのは(今のところKindle作品なのですが)、このブログのヘッダー画像を描いて下さった方でもある、ミチコオノ氏です。(本名は知ってるし、下北沢で個展を開けるぐらいに有名な人でもあるのですが、本人から公表されることのない限り、「ミチコオノ日記の作者の人」とだけ呼ぶことに私は決めています)。現在、氏は思うところがあったとかなかったとかで、「ミチコオノ日記」のアカウントを閉鎖し、どこかの旅の空の下の空気でも吸っておられるのであろうそういう状況にあるとのことなのですが、願わくはこのニュースに触れて、「はてな」であろうとなかろうと、あるいは「ミチコオノ」という名前であろうとどういう名前であろうと、もういっぺん私たちの前に姿を現してくれるキッカケにしてくれたらいいのにと、私は切に思っています。

後日付記:その後、ミチコオノ日記は下記アカウントでめでたく「リブート」されたとのことです。
michiko-ono-diary.hatenablog.com
受賞のお祝いに、何か一曲ヨシさんの好きな歌で翻訳記事を書かせてほしいと申し出たところ、Kashmirの「Rocket Brothers」という曲でリクエストを頂きました。謹んでお受けします。

「Kashmir (カシミール)」はデンマークで1991年に結成されたバンドで、最初は「ニルヴァーナ」という名前だったのだけど、アメリカの同名バンドの方が有名になってしまったもので翌年に改名したのだそうです。何かよっぽど、仏教的なイメージに惹かれるところのある人たちだったのですかね。私はヨシさんからリクエストを受けるまでこのバンドのことを全然知らなかったので、上に書いたことは全部Wikipediaからの受け売りです。(ちなみに日本語版のWikipediaには記事がありませんでした。ヨシさん、書いてみたらどうですか?)

それで「Rocket Brothers」という曲なのですが、YouTubeで流れていたPVを見てみて私は強烈な衝撃を受けました。これは、一筋縄では行かない翻訳になるだろうなと感じました。

一番時間をかけて悩んだのは、冒頭の「I miss you so much boy」をどういう日本語に移すかということです。「きみに会いたいよ。ねえ」。あるいは「おまえに会いたいよ。おい」。「ブラザー」という言葉で呼び合うような男性二人の関係性においては、どちらがより「ふさわしい」言い方になるのか。しかしながらダウンタウン以降の関西地方の空気を吸ってオトナになった私にとっては、最終的にはどちらも「作った表現」にしか思えなくなりました。物心がついて以来、本当に親愛の情を感じている相手に対して私自身が使ってきたのは、「じぶん」という関西方言の二人称だけだったからです。

そんなわけで、この「Rocket Brothers」という曲は、私としてはその全体を、自分の地の言葉である関西方言で翻訳する以外になくなってしまいました。このブログでは原則的に控えようと決めている「意訳」の手法も、タガが外れて全開になっています。しかしながら個人的に親しい人に贈る個人的な翻訳としては、やはり「自分の言葉」で感じた通りに訳した方が、こうした場合にはふさわしいのではないかとも思います。ヨシさんは何しろカナダ在住の人なので、この東アジアの片隅から一度も離れて暮らした経験を持たない私の翻訳にはとんでもない間違いも含まれていることを往々にして見つけ出されてしまうかもしれませんが、記念にして頂ければ幸いです。


Rocket Brothers

Rocket Brothers

英語原詞はこちら


I miss you so much boy
will we be coming on again
don't ever loose your ropes
this man is hanging by the ends
I owe you so much time
yes you might say it isn't like that at all
but now it's coming back to you
these open moments that I blew

じぶんに会いたいよ。なあ。
おれらもっぺん一緒にやってくことって
でけんねやろか。
じぶんの握ってるロープ
離したらあかんで。
その端っこにぶら下がってるのんは
このおれやっちゅーねん。
おれ、じぶんには借りがある。
ずーっと、せやった。
しゃーわな。
じぶんは全然
そんなことあれへんちゅーかしらんけど
でもおれが台無しにしてきた
全部の瞬間をな。
じぶんに返すとしたら
今やて思うねん。


rocket brothers crack and burst
if they can't meet upon the verge
of breaking into seperate parts
that was not written in our cards
now you got someone to protect
someone you cannot reject

ロケット·ブラザーズ
ピキッとなって
破裂する。
ギリギリのところに立ってる
二人のその足もとが
壊れて
離れていって
二度と会われへんくなったとしても
別にそれはあらかじめ
運命のカードに書き込まれてたとか
そういうことではなかったはずや思う。
今のじぶんには守るべき誰かがおって
その誰かをじぶんは
拒まれへんねんもんな。


I miss you so much boy
but I was buried in the mines
I found it hard to stop
you found me very hard to find
but now that you've made way
I'd better tie together these ropes again
and throw the times right back to you
and all the chances that I blew

じぶんに会いたいよ。なあ。
しゃーけどおれはもうずっと前に
宝の山の坑道ん中に
生き埋めにされてしもた身ぃや。
おれにはやめられへん。
よぉ分かったよ。
おれを探しても
見つからへんくなってもてたことに
じぶんも気ぃついた思う。
せやけどじぶんは自分だけ
うまいことやってもたわけやもんな。
おれもっぺんロープを結び直した方が
ええ時なんやないかって思う。
じぶんと一緒にやってきたおれの時間も
おれがムダにしてきた全部のチャンスも
叩き返したるわ。
わかるやろ。
じぶんに使こてほしいねん。


rocket brothers crack and burst
if they can't meet upon the verge
of breaking into seperate parts
that was not written in our cards

ロケット·ブラザーズ
ピキッとなって
破裂する。
ギリギリのところに立ってる
二人のその足もとが
壊れて
離れていって
二度と会われへんくなったとしても
別にそれはあらかじめ
運命のカードに書き込まれてたとか
そういうことではなかったはずや思う。


those rocket brothers on the verge
we should be careful' cause it could burst
and we're not lonely anymore
lonely as we were before
and now there is someone to protect
someone you cannot reject
something I will not neglect
No...

ギリギリのところに立ってる
ロケット·ブラザーズ。
気ぃつけなあかんわ。
いつ爆発するか分からへんもん。
おれらもう
孤独ではない、よな。
少なくとも前みたいには。
今では守るべき誰かがおって
その誰かをじぶんは拒まれへん。
その現実からは
おれはもう逃げられへん。
あかんわ...

=翻訳をめぐって=

  • おれらもっぺん一緒にやってくことってでけんねやろか=私たちがもう一度いっしょにやって行くことって、できるのでしょうか。
  • don't ever loose your ropes...「握っているロープを絶対に離すな」という文脈で翻訳しましたが、「loose」には「離す」の他に「ゆるめる」という意味もあります。そして次の行では「そのロープの端にぶら下がっているのは私だ」という言葉も出てきます。だとしたら「俺のことを憎しみを込めて絞め殺してしまえばいい」的なニュアンスに聞こえる余地もある歌詞だと思うのです。PVの内容からしても、この歌に出てくる二人の関係性というのは決して「きれいごと」ばかりではなかったのだろうなという感じがします。
  • このおれやっちゅーねん=この俺だってんだよ。
  • せやった=そうだった
  • しゃーわな=そうだよな
  • そんなことあれへんちゅーかしらんけど=そんなことはないって言うかもしれないけど
  • these open moments that I blew...この歌詞は、難しかったです。「open moments (開かれたいくつもの瞬間?)」というのが、全然わかりませんでした。最初は「blew (blowの過去形)」を「感情を爆発させる」という意味にとらえて「おれがモロにキレた全部の瞬間」という風に訳してみたりもしたのですが、二番の歌詞との関係で考えるとこの「blow」はやっぱり「ムダにする」という意味の方がしっくり来ますよね。試訳は意訳と言うより、想像訳です。
  • rocket brothers crack and burst...「ロケットブラザーズにヒビが入り、破裂する」というPVのイメージに即した客観的描写として翻訳しましたが、「ロケットブラザーズ、ハジけてしまえ、爆発してしまえ」という命令形の文として解釈できる余地もあるように思います。これはヨシさんへの質問なのですが、ネイティブの人たちってこういうのをどういう風に「聞き分ける」んでしょうか?
  • that was not written in our cards...「トランプ占いにはそんな風に出ていなかった」という意味の文として読むなら、「こんなはずじゃなかった」という歌詞としても解釈できるように思います。ただ、歌詞の内容としては、今ある二人の状況は「運命」ではなく「選択」の結果なのだ、ということなのだと思います。
  • but I was buried in the mines...「しかし私は坑道に埋められてしまった」。他殺されたのかと思うような物騒な歌詞ですが、しかし「mine (鉱山)」は「未発見の宝物が埋まっている場所」でもあるわけで、それを探している間に出られなくなってしまった、という歌詞なのだと思いました。「それでも探すのをやめられない」のが歌の主人公なのでしょう。私と一緒です。何か、個人的には、匿名の世界で歌を翻訳することにだけ身を削っている自分の立場から晴れがましい文学賞を受賞されたヨシさんに向けられた気持ちが、この歌の歌詞とダブってくるのを感じます。
  • 見つからへんくなってもてたことに=見つからなくなってしまっていたことに
  • but now that you've made way...「make away」=「急いで去る」「逃亡する」。相手は多分「成功」したのでしょうが、「おれのことを置き去りにしやがって」的な主人公の気持ちを、どうしても感じます。「うまいことやってもたわけやもんな」=「うまくやってのけてしまったわけだもんな」。
  • throw the times right back to you...この「throw back (投げ返す)」という言葉には、誤読かもしれないけど、ものすごく「愛憎」が表現されている感じがします。単に「借りを返す」のではなく、「怒りを込めて投げつける」ような。でも同時に心から相手の役に立ちたいと思っているような。そんな言葉として読みました。上の試訳はそんな気持ちを「ありうる関西方言」に置き換えた、意訳と言うより、創作です。

...以上、他の読者の皆さんにおかれましても、これを機会にぜひ高岡ヨシさんの作品に触れてみてもらえたら、幸いです。個人的には、今年に入ってから私に起こった一番大きな事件である「ローリングストーンズとの決別」に自分が踏み込む勇気を持ちえたのも、ヨシさんの「歩けばいい」との出会いがあったからでした。これからの人生でも繰り返し立ち返るべき、新たな出発点にさせてもらいたいと思います。ではまたいずれ。
nagi1995.hatenablog.com


=楽曲データ=
Released: 2003.3.3.
Key: D

Zitilites

Zitilites

歩けばいい

歩けばいい