華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Smoke Gets in Your Eyes もしくは煙が目にしみる (1958. The Platters)



前回とりあげたディランの「I Believe In You」という曲の出だしの部分は歌詞といいメロディといい完全に「煙が目にしみる」のパクリではないかと思ったので、ついでと言っては何だけど、この曲のことも取りあげておくことにしたい。それともあれだろうか。「オマージュ」ってやつなのだろうか。何か、「オマージュ」というのは世界で一番ウサンくさい言葉なのではないかという感じがしてならない私である。ちなみに中国語で「パクリ」って「チャオシー(抄襲)」って言うんだぜ。以前、鄭智化という人の「水手」という曲を教えてもらったお返しに長渕剛の「巡恋歌」と中島みゆきの「見返り美人」を紹介してあげたところ、「チャオシーら!たーチャオシーら!(パクリだ!彼はパクったのだ!)」と絶叫していた中国人の友人の顔が私は今でも忘れられない。「ら(了)」という一音節だけであんなにも「取り返しのつかないニュアンス」を表現できる中国語という言語を、私はスゴい言葉であると思う。


Smoke Gets in Your Eyes

Smoke Gets in Your Eyes

英語原詞はこちら


They asked me how I knew
My true love was true
I of course replied
Something here inside
Can not be denied

どうして私の愛が
本物であると分かるんだって
みんなが私にたずねた。
私はもちろん答えた。
何かがこの心の中にあるのだ。
拒むことも否定することも
できないものなのだ。


They, said some day you'll find
All who love are blind
When your heart's on fire
You must realize
Smoke gets in your eyes

みんなは言うのだった。
いつかあなたにもわかるだろう。
恋する人は誰でも
周りが見えなくなってしまうものなのだ。
心が炎に包まれている時こそ
気づかなければならない。
そんな時あなたの瞳は
煙で満たされて
何も見えなくなってしまっているのだ。


So I chaffed them, and I gaily laughed
To think they could doubt my love
And yet today, my love has flown away
I am without my love

だから私はみんなのことを鼻であしらい
快活に笑ってみせたものだった。
私の愛を疑えると思ってるだなんて
全くもって笑ける話ではないか。
それにも関わらず私の愛は
私の愛した人は
私のもとから飛び去り
今の私は
愛なしで暮らしている。


Now laughing friends deride
Tears I cannot hide
So I smile and say
When a lovely flame dies
Smoke gets in your eyes

それみたことかと友人たちは笑いながら
隠しきれない私の涙をあざける。
だから私は微笑みながら言うことにする。恋の炎が消えてしまった時には
煙が目にしみるものなのだ。


Smoke gets in your eyes
煙が目にしみて開けていられなくなって涙はとめどなくこぼれて口はがあーと開いて痛くて痛くて顔を押さえたままのたうち回ることになるのだ覚えておきたまえ諸君もきっとそうなることだろう。



「blind」という言葉は「視覚障害者」に対する差別表現です。ここでは歌詞の原文をそのまま転載しました。

=翻訳をめぐって=

何か、非常に、おまえ誰やねん的な訳詞になってしまったのだけど、一番の理由は、男性の言葉で訳せばいいのか女性の言葉で訳せばいいのか分からなかった点にあるのだと思う。この歌は言わずと知れたプラターズの1958年のヒット曲で、トニー·ウィリアムスという岡けん太なみに歌のうまい人がジンジンするような声を聞かせてくれるものだから、「男性の歌だ」というイメージが私には長い間、強かった。ところが調べてみると、この歌は1933年に作られたとても古い歌で、当初は「ロバータ」というミュージカルの挿入曲だったのだという。そこでこの歌を歌うのは女性の役どころになっていたらしい。なのでそのミュージカルのストーリーはどんな内容だったのかということを調べてみたところ

  • ジョン・ケントはフットボールの名選手であるが婚約者のソフィーに愛想を尽かされて、友達のハックがそのジャズ・バンドを率いてパリへ行くのに同行して来る。彼はパリ一流の夫人衣裳店ロバータの経営者の伯母ミニーの許に訪れる。ロバータの衣裳考案主任のステファニーは亡命のロシアのプリンセスであるが、ジョンはそれとは知らず彼女の美貌と美名に心を引かれる。ハックはロバータで伯爵夫人シャーウェンカという婦人に紹介されるが、それは誰あろう彼と同郷のリッチー・ガッツだった。そして彼女はジャックとそのバンドを自分が勤めているキャバレーに斡旋してやり、ハックと彼女とのダンスはパリでの大評判となる。ミニー伯母さんの急死でジョンは衣裳店ロバータを譲られる。彼は衣裳のことは分からないのでステファニーにパートナーとして働いてくれるように頼む。彼がロバータを継承した事を知って、ソフィーは米国からばるばる訪ねてくる。密かにジョンに恋しているステファニーはこの婚約者の出現に落胆する。ところがソフィーがジョンとの仲違いの原因が衣裳の点にあることを知っているハックは、ステファニーとジョンが互いに口には出さぬが思い合っていることを知っているので、ジョンが淑女には向かないといった衣裳をソフィーに着せるようにステファニーに勧めたのである。するとソフィーはその衣裳がたちまち気に入り、早速それを着込んでキャバレーにジョンと同行する。オーバーを脱ぐとジョンは大嫌いな衣裳をソフィーが着ているので怒ってしまいとうとう2人の仲は完全に決裂してしまった。ジョンはその衣裳をステファニーが勧めたと聞いて、ステファニーの 策だと勘違いし彼女をも罵倒して行方をくらます。主人が居なくなり、同時にステファニーも店を辞職したので、ロバータ衣裳店は大困り、ハックとシャーウェンカが主人代わりに新衣裳発表会の準備をする。ステファニーが居ないので新衣裳はめちゃめちゃである。ステファニーはお別れに来て、その醜態を見兼ね、ハックに衣裳考案の応援をする事となる。準備なってロバータの衣裳発表会は、ハックとそのバンドの奏楽 に盛大に催された。ハックはシャーウェンカと共に得意の歌と踊りで興を添え、最後にステファニーも自ら新衣裳を着て歌を歌った。さすがに心にかかると見えて失踪していたジョンも来ていて、ステファニーの美しい歌に聞き惚れ、2人の和解はなった。そしてハックとシャーウェンカも幸福を獲た。

ロバータ | 映画-Movie Walker

...これ、全部読んで内容を把握できた人って、います?日本語で書かれているのにこれほどまでに頭に入ってこない文章って、私は初めて見たかもしれない。映画やミュージカルって、文字にしたらみんなこんな感じになってしまうのだろうか。当初は物語の内容を踏まえた上でその登場人物の気持ちを通した訳詞を作らなければとか一応まじめなことを考えていたのだけれど、こんな内容では、踏まえようがない。なので結局、男の言葉だとも女の言葉だともつかない言葉で好き勝手に翻訳するしかなくなってしまった次第である。ただ、別に真面目に翻訳する気をなくしたとかそういうことではなく、この歌に関しても真面目に翻訳したつもりで私はいるのだけれど、その結果が上の試訳になってしまったわけだ。「おまえ誰やねん」は私が私自身に対して一番言いたい台詞である。


プカプカ 石田長生

おとこんふふふふー。ではまたいずれ。


=楽曲データ=
Originally released in 1933.
The Platters version was released in November 1958.
Key: E♭

Smoke Gets in Your Eyes

Smoke Gets in Your Eyes