華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Up Around the Bend もしくはあの曲がり角のところへ (1970. C.C.R.)



今回がなぜ「Up Around the Bend」なのかといえば、前回が「Up Where We Belong」だったからである。アップしかおーたらへんやないけちゅわれたらアップしかおーたらへんぜ?(Upしか合っていないじゃないかと言われたら、Upしか合っていませんよ)。しゃーけど(けれども)私にとっては、大きな意味を持ったことなのだ。というのも、「Up」とか「Down」とかいった単語を使った英語の言い回しに以前の私は強烈な苦手意識を持っており、昔なら絶対どう訳していいか分からなかっただろうと思うからである。それが今なら、何となく分かる。つまり私は「成長した」ということになる。ブログというのもやってみるものだなという感慨に、しみじみととらわれている。

思えばこのブログを始めてからそろそろ一年が経とうとしているのだけど、一番最初に取りあげたのがザ·バンドの「The Night They Drove Old Dixie Down」という曲で、この最後の「Down」にはどういう意味が込められているのだろうということを、それまで私はマジな話20年以上も考え続けてなおかつ本気で「分からなかった」のである。副詞や前置詞の使い方というのには「英語話者独特の発想」が一番集中的にあらわれるものであり、その感覚というのはネイティブの英語話者に生まれ変わることでもできない限り自分には一生身につかないのではないかとさえ、一人で誰に見せるともしれない翻訳を書き続けていた頃には、何度となく思わされたものだった。

そんなあの頃の自分に、今なら自信を持って言ってやることができるように思う。

「up」は「上がって行く感じ」で、「down」は「下がって行く感じ」で、翻訳すればいいのである。

...何をどう成長したというのだろうか。私。


Up Around the Bend

Up Around the Bend

英語原詞はこちら


There's a place up ahead and I'm goin'
Just as fast as my feet can fly
Come away, come away if you're goin'
Leave the sinkin' ship behind

道の向こうに何かが待っている。
そこに行くんだ。
足が地面から浮き上がって
飛んで行くぐらいの速さで行くんだ。
離れて行け。
離れて行け。
みんなも行きたいなら
沈んでゆく船を後にして。


Come on the risin' wind,
We're goin' up around the bend
Oh

風よ巻きあがれ。
カーブをぐるっと回った
その先の世界に行くんだ。
うー!


Bring a song and a smile for the banjo
Better get while the gettin's good
Hitch a ride to the end of the highway
Where the neon's turn to wood

バンジョーに合わせて
歌を道連れにしよう。
笑顔も忘れずに。
手に入れたものがキラキラしている間に
しっかり自分のものにするんだ。
ハイウェイが終わるところまで
ヒッチハイクで連れてってもらおう。
ネオンが森に変わるところまで。


Come on the risin' wind,
We're goin' up around the bend
Oh

風よ巻きあがれ。
カーブをぐるっと回った
その先の世界に行くんだ。
うー!


You can ponder perpetual motion,
Fix your mind on a crystal day,
Always time for a good conversation,
There's an ear for what you say

永久運動というものについて
思いをめぐらすのもいいだろう。
心はクリスタルな一日に
しっかりと据えつけておけ。
いい話ができるような時にはいつでも
きみの言葉を聞いてくれる
いい耳が待っててくれてるものさ。


Come on the risin' wind,
We're goin' up around the bend.
Yeah

風よ巻きあがれ。
カーブをぐるっと回った
その先の世界に行くんだ。
うー!


Catch a ride to the end of the highway
And we'll meet by the big red tree,
There's a place up ahead and I'm goin'
Come along, come along with me

ハイウェイが終わるところまで
ヒッチハイクで連れてってもらおう。
大きなレッドツリーのところで
落ち合うことにしよう。
さあ来いよ。
一緒に行こう。


Come on the risin' wind,
We're goin' up around the bend
Yeah

風よ巻きあがれ。
カーブをぐるっと回った
その先の世界に行くんだ。
うー!


Do do do do
Do do do do
Do do do do
Do do do do yeah
Do do do do
Do do do do


Hanoi Rocks Up Around the Bend

  • この歌は80年代にはハノイ·ロックスによるカバーでも有名になっていたらしい。レコード屋に行くとザ·バンドと同じハ行の棚に並んでいたから名前だけは知っていたけれど、声を聞いたり姿を見たりしたのはこれが初めてだったし、こんな人たちだったこともフィンランドのバンドだったことも全然知らなかった。バンド名にどうしてベトナムの地名が入っているのだろうということはずっと気になっていたのだけれど、調べてみると「ハノイ·ロックス」というのは「ヘロイン」の通称なのだそうで、バンド名はそこから来ているらしい。それだとベトナムの人たちは、きっといい気持ちはしないだろうな。とまれ思わず目を奪われてしまうくらい、楽しそうに「ロック」をやっている人たちではある。何か、まともに聞き始めたら、ハマってしまいそうな予感がする。

=翻訳をめぐって=

この歌は昔から大好きだった。こんなに疾走感があってかつ重量感も備えている曲、聞いていると地平線がクッキリと見えてくる曲というのは、ザラにない。しかしタイトルならびにサビの歌詞でもある「Up Around The Bend」の意味が、ずっと私には分からなかった。

辞書を引くと「around the bend」は「go crazy」という意味だと書いてあり、実は差別的な歌だったのだろうかと思って、それが長いことこの曲を取りあげるのを躊躇してきた理由になっていた。しかしアメリカ英語で「around the bend」にそういう意味はないらしく、いつも参考にしている「Songfacts」というサイトには、C.C.R.がイギリスツアーを行った際にはわざわざ記者会見まで開いてこの歌はそういう歌ではないという説明がなされたと書かれている。

だとしたらこの歌詞は、文字通りに「あのbendのaroundに行くんだ」と歌っていることになる。「ベンド」というのは「道がカーブしているところ」ということなので、これは問題ない。しかし「around」を「カーブのあたりへ」と訳せばいいのか「カーブを回り込んで」と訳せばいいのかに関しては、正直言って自信がない。自信がないことの上で気持ちとしては「カーブを回り込んで」と訳したいところである。「カーブのあたりに行くんだ」と訳したら、そのカーブのあたりで旅が終わってしまうことになってしまう。とはいえもとよりそんなのは私の願望にすぎないのであって、願望で人の言葉を都合よく翻訳したりしてはいけない。誰か、文法的に説明してくれることのできる方がいらっしゃったら、教えて頂ければ幸いです。

その上で最初に「up」がついているということは、そのカーブのある場所が歌の主人公の現在いる場所よりも地形的に、あるいは気持ちの中で「高いところ」にあることを示しているのである。こういう「情報」は、日本語表現の中ではあまり言葉としては出てこないから、直訳するのが難しい。しかし直接そういう言葉を使わなくても、そういう「風景」が見えてくるような言葉に置き換えることならできる。この一年間で私に何か「成長」したと言えるような点があるとしたら、その「風景」が見えるようになった、ということなのだと思う。それさえ見えてしまえば、後は日本語表現の問題なのだ。

これに加えてアメリカ英語では、「around the bend」には「年老いている」とか「酔っ払っている」とかいった形容詞的な意味も存在するのだという。これらを総合するなら結局「bend (カーブ)」という言葉には、時間的にも空間的にも「今とは違う世界への入口」みたいなイメージが込められているのだと思う。て言っかカーブというのはそもそもそういうものであるわけだけど。いずれにしてもそんな風に考えた結果としてできあがったのが、上の試訳である。

その他、海外サイトによると、「みんなで自由な世界に飛び出そう」といった単純明快なメッセージと同時に、「徴兵制度を拒否しよう」という呼びかけとしてこの歌を聞いている人も、英語圏にはかなり多いのだという。具体的に歌詞のどの部分がそう聞こえるのかというところまでは、調査不足で分からなかった。しかしながらそういうものとして聞くなら、この歌の全体がそういう歌なのだと解釈することは何ら難しいことではない。「システムに組み込まれてしまう前にここから飛び出せ」ぐらいのことは、リンドバーグでさえ歌っていたのである。リンドバーグでさえなのだ。

  • 「big red tree」という歌詞からアメリカ人が連想するのは、カリフォルニア州などに密生しており世界一高い木として知られる「redwood (セコイア)」のイメージなのだという。一番高いものだと120〜130メートルにもなるのだそうで、これは通天閣より高い。しかしながら阿倍野ハルカスと比べたら3分の1ぐらいの高さではある。あれはむかつく建物である。


Around The Corner

「Up Around The Bend」は「あのカーブの向こうへ」と訳せばいいのだと分かった時に心の中を流れ出したのは、この曲だった。そして9年前にあの人の訃報をケータイのニュースで知った時にも、頭の中を流れ出したのは「やさしさ」でも「ヒッピーにささぐ」でもなくこの曲だったことを、唐突に思い出した。

そういえばあの時も今と全く同じように、見渡す限りの風景の中で田植えが行われていて、えろい感じの匂いが空気の中に満ちていた。思い立って調べ直したらあの人の命日が5月2日で、それをニュースで知ったのは9年前のちょうど今日だったことが、今さらだけど、分かった。

こういうことって、あるんだな。ではまたいずれ。


=楽曲データ=
Released: 1970.4.
Key: D

Up Around The Bend

Up Around The Bend

  • アーティスト: クリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァル
  • 出版社/メーカー: Universal Music LLC
  • 発売日: 2014/02/10
  • メディア: MP3 ダウンロード
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RAZOR SHARP

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