華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Anachie Gordon もしくはアナーキー·ゴードン (18c? Scottish Folk Song)


Anachie Gordon

Anachie Gordon

英語原詞はこちら


Harking is bonny and there lives my love
My heart lies on him and will not remove
It will not remove ohh for all that I have done
Ohh I never will forget me love Anachie
For Anachie Gordon he's bonny and he's rough
He'd entice any woman that ever he saw
He'd entice any woman and so he has done me
O I never will forget me love Anachie

ハーキングは素敵なところ。
私の恋人はそこに住んでいる。
私の心は彼のもとに横たわり
絶対によそに行ったりしない。
絶対に動かない。ああ
私が何をしてしまったにしても。
ああ 私は愛するアナーキーを
絶対に忘れたりしない。
アナーキー·ゴードンは素敵で
おとこらしい人だから。
彼に見つめられた女は
みんな彼のとりこになった。
彼はどんな女もとりこにした。
私のこともだ。
ああ 私は愛するアナーキーを
絶対に忘れたりしない。


Down came her father and he's standing by the door
Saying Jeannie your trying the tricks of a whore
You care nothing for a man who cares so very much for thee
You must marry Lord Sultan and leave Anachie
For Anachie Gordon he's barely but a man
Although he may be pretty but where are his lands
O the Sultan's lands are broad and his towers they are high
You must marry Lord Sultan and leave Anachie

彼女の父親がやってきて
ドアのところに立った。
おまえはwhoreの真似をしているのだと
彼は言うのだった。
おまえは自分のことを
本当に気にかけてくれる男性である
私のことを何も気にかけていない。
おまえはアナーキーと別れて
領主のスルタンと結婚せねばならない。
アナーキー·ゴードンなど
ただの男にすぎない。
見た目はいいかもしれないが
あの男の土地がどこにあるというのか。
スルタンの領土はひろく
その塔は高くそびえている。
おまえはアナーキーと別れて
領主のスルタンと結婚せねばならない。


With Anachie Gordon I'd beg for my bread
And before I'll marry Sultan it's gold to my head
With gold to my head and gowns fringed to the knee
And I'll die if I don't get me love Anachie
And you that are my parents to church you may me bring
But unto Lord Sultan I'll never bear a son
To a son or a daughter I'll never bow my knee
And I'll die if I don't get me love Anachie

アナーキー·ゴードンとなら
私は物乞いをして歩いたっていい。
スルタンと結婚すれば
頭の高さまでの黄金が
もらえるのだとしても。
頭の高さまでの黄金と
膝まで飾りつけられたガウンが
もらえるのだとしても。
愛するアナーキーと
一緒になれないのなら私は死ぬ。
親であるあなたは私を
教会まで連れて行くことはできるだろう。
でもスルタンなんかのためには
絶対子どもは産んでやらない。
男であろうと女であろうと産まない。
私は絶対に膝を屈しない。
愛するアナーキーと
一緒になれないのなら私は死ぬ。


Jeannie was married and from church she was brought home
And when she and her maidens so merry should have been
When she and her maidens so merry should have been
She went into her chamber, she cried all alone

ジニーは結婚式をあげ
教会から連れ帰られた。
彼女とその侍女たちが
本当なら浮かれているべきそのとき
彼女とその侍女たちが
本当なら浮かれているべきそのとき
ジニーは自分の部屋に駆け込んで
たったひとりで泣いた。


Come to bed now Jeannie me honey and my sweet
For the style you my mistress it would be so sweet
Being mistress or Jeannie it's all the same to me
But in your bed Lord Sultan I never will lie
And down came her father and he's spoken with reknown
Saying you that are her maidens go loosen off her gowns
But she fell down to the floor so close down by his knee
Saying father look I'm dying for me love Anachie

ジニーよ。ベッドに来るんだ。
かわいいおまえ。いとしいおまえ。
お望みなら女王様とお呼びしようか。
女王様でもジニーでも私には関係ない。
でもロード·スルタン私は
あなたのベッドには絶対行かない。
ジニーの父親が現れて
重々しく言った。
侍女たちに向かって
ジニーの服を脱がせるように言った。
けれどもジニーは床に崩れ落ちて
父親の膝にすがりついた。
父さん見てちょうだい。
私は愛するアナーキーのために
死んでゆくわ。


The day Jeannie married was the day that Jeannie died
And the day that young Anachie came home on the tide
And down came her maidens all wringing of their hands
Saying Lord it's been so long you've spent so long on the sands
Ohh so long on the sands, o so long upon the flood
They have married your Jeannie and now she lies dead.

ジニーが結婚式をあげた日は
ジニーの死んだ日だった。
そして若いアナーキーが
波をかきわけて帰ってきたのも
その同じ日だった。
ジニーの侍女たちが
手を固く握りしめて
彼のところにやってきた。
ああアナーキーさん
あなたはあまりにも長く
あまりにも長く砂の上にとどまっていた。
あまりにも長く
波の上を漂っていた。
あなたのジニーは結婚させられて
そして今は死んで横たわっている。


You that are her maidens come take me by the hand
And take me to the chamber that me love she lies in
And he's kissed her cold lips 'til his heart has turned to stone
And he's died in the chamber that his love she lies in.

ジニーの侍女だったあなたたちは
僕の手をとって
僕の恋人が横たわっている
彼女の部屋へと連れてきてくれた。
そして彼氏は彼女の
冷たい唇にキスをした。
自分の心臓が石に変わってしまうまで。
恋人の横たわる部屋の中で
彼氏も死んで冷たくなっていた。

=翻訳をめぐって=

シャロン·シャノン&フレンズによる「Libertango」の収録曲。歌っているのはシネイド·オコーナーさんなのだけど、この2人が「ともだち」だったというのがスゴいと言うか意外と言うか、とてもミラクルな感じがする。この組み合わせを何に例えたらいいのだろう。チャットモンチーとゼルダ。何か違う。遊佐未森と戸川純。いや、ずいぶん違う方向に行ってしまった気がする。NOKKOと和田アキ子。あーもー何の話がしたかったのか分からなくなりつつある。

とにもかくにもシネイドさんの声には、本当に叫び声から囁き声に至るまで、いちいち説得力がある。2010年代に入ってから耳にするようになった言葉で「エモい」というのがあるけれど、「エモい」が「emotional」を意味しているのならば多分こういう歌い方を「エモい」と言うのかもしれないな、と私は思ったのだったが、ズレた使い方になっていたら恥ずかしいので今回はとりあえず使わない。

「説得力がある」などと言う割に、この歌がどういうことを歌った歌だったのかということを実は今回調べてみるまで私は全然知らずにいて、「アナーキー·ゴードン」の「アナーキー」も「アナーキー·イン·ザ·UK」の「アナーキー」、すなわち「無政府主義者のゴードンさん」のことを歌っているのだとずっと思い込んでいた。だって、歌ってる人間がシネイドさんなのだもの。フタを開けてみると「アナーキー」は単なる人名で、歌の世界を流れる時間もかなり昔の時代だったことが分かったのだけど、そういう勘違いをしている人は英語圏にもいるらしく、イギリスのフォークソングを研究しているとある海外サイトには

アナーキー·ゴードンの親戚の名前は、きっとデモクラシー·ゴードン(民主制ゴードン)とかモナーキー·ゴードン(君主制ゴードン)とかアレガーキー·ゴードン(寡頭制ゴードン)とかタイラニー·ゴードン(独裁制ゴードン)とかニュー·レイバー·ゴードン(ブレア時代の労働党政権ゴードン)とか言うのだろう。

などという面白くも何ともないことを極めてうれしそうに書き込んでいる人の姿が見受けられた。まあ、こういう恥ずかしいことを身を挺してやってのけてくれた人がいたおかげで、自分が恥をかく羽目にならずに済んだわけなのだから、私はこの人に感謝すべきなのかもしれない。

英語版のWikipediaでは、この歌が「Lord Saltoun and Auchanachie (ロード·サルトゥーンとアーハナッキー?)」というタイトルのとても古いバラッドとして紹介されている。バラッド(歌物語)というのは英語圏の文化に特有のもので、アイルランドやスコットランドといったゲール語圏にはもともとそうした形式の歌は存在しなかったらしいのだが、イングランドによる支配が継続した結果として、これらの地域にも「アイリッシュ·バラッド」や「スコティッシュ·バラッド」と呼ばれるようなジャンルの音楽が成立するようになった。従って、成立年代が不詳とされているこの歌も、少なくともそれ以降の時代になってから生まれたものだということは、書いて間違いにはならないと思う。

19世紀までのイギリスでは、この「バラッド」を歌って回る人や印刷して回る人がマスコミの代わりを果たしていたとのことであり、そこから考えるとこの歌は何らかの実在の事件に題材をとっている可能性もあるのだが、詳しいことは分かっていないらしい。ちなみにスコットランドの地方領主で「サルトゥーン家」というのは実在しており、英語版のWikipediaには現在にまで続くその系図まで載っていたりするのだが、何かそういうのを見るたびに、私はイヤな気持ちになる。そういうのがWikipediaに載せられなければならない必要があるということ自体が、イギリスという国で身分制度というものがいまだに「終わっていない」ことを示していると思うからである。天皇制を残している日本も全然、よそのことは言えないのだけど。

とまれ、イギリス周辺の英語圏において、この悲恋物語は「ロミオとジュリエット」と同様、かなり人口に膾炙したものとなっているらしく、ネット上にはこの歌から題材をとった二次創作作品まで見つけることができた。歌の形式が古いせいか、歌い手の立場が次々と入れ替わっていて所々わかりにくいこの歌の解釈は、上記のリンクから多くを負っている。以下は、注釈が必要だと思われる各点をめぐって。

  • Harking is bonny...この歌の歌詞にはいくつかのバージョンがあるのだが、メアリ·ブラックやシネイド·オコーナーが歌っているこの歌詞では「ハーキング」という実在しない街が舞台になっている。
  • Jeannie your trying the tricks of a whore...「whore」は性産業に従事している女性に対する蔑称。ここでは原文をそのまま転載しました。
  • You must marry Lord Sultan...元々の歌詞は「サルトゥーン」という人名だったはずなのだが、ここでは「スルタン」というオスマントルコの支配者を思わせる名前に変わっている。
  • She went into her chamber, she cried all alone...歌の背景となっている文化や風習を知らないと情景を想像しにくいが、当時のスコットランドでは教会で結婚式を挙げた後、新婦は自分の家に戻り、その部屋に新郎が上がり込んで初夜を迎える、という慣わしになっていたのだという。そしてその際、新婦は「服を脱いで待っていなければならなかった」のだという。
  • father look I'm dying for me love Anachie...歌の中ではジニーがどのようにして死んでしまったのかが明示されていないが、上記の二次創作作品では父親に突き飛ばされて死んだことになっている。
  • young Anachie came home on the tide...これも歌詞では明示されていないが、アナーキー·ゴードンは船乗りだったというのが通説らしい。
  • you've spent so long on the sands...「波の上にいた」なら分かるけど「砂の上にいた」というのはどういうことなのだろう。上陸してからグズグズしていたことをなじっているのだろうか。
  • he's died in the chamber that his love she lies in....アナーキーがどのようにして死んでしまったのかも明示されていないので、聞き手は想像するしかない。


Anachie Gordon

上はメアリ·ブラックさんによるバージョン。ではまたいずれ。


=楽曲データ=
Scottish folk song
(Child 239, Roud 102)
Key: F

Anachie Gordon

Anachie Gordon