華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

静夜思 もしくは ちんいぇーす (8世紀. 李白)


唐詩歌曲

静夜思

中国語原詞はこちら


Chuáng qián míngyuè guāng,
チョアんチェン みんゆえこぁん

床前明月光,
yí shì dìshàng shuāng.
いーシィ てぃシャん ショアん

疑是地上霜。
Jǔ tóu wàng míngyuè,
ちゅいトウ わん みんゆえ

挙頭望明月,
dītóu sī gùxiāng.
てぃートウ すー くーしぁん

低頭思故郷。

寝床の向こう側に
月光が差し込んでいた。
寝台の足もとの地面に降りた霜が
輝いているのかと思った。
空には明るい月。
下を向いて故郷のことを考えた。



=中国語歌詞の「ふりがな」のめやす=

  • ひらがな表記とカタカナ表記について: 中国語や朝鮮語には、日本語の濁音と非濁音に相当する音の区別がありません。しかしその一方で、日本語にはない「有気音」と「無気音」の区別が存在します。同じ「か」という音でも、痰を吐くように「カハァ」(中国語ではka/ 朝鮮語では카) と発音するか、口の前にティッシュをぶら下げてもその紙が揺れないぐらいにやさしく「か」(中国語ではga/ 朝鮮語では가) と発音するかの違いが、大陸の人たちには「か」と「が」が違うのと同じくらい、「違う音」に聞こえるのです。その違いを表現するために、当ブログでは有気音にカタカナ、無気音にひらがなのルビを当てています。だからカタカナでルビが振られている箇所は、口から唾が飛び出すぐらい思いきり「空気を出して」歌って下さい。
  • 「ん」の表記について: 「ん」の音には3種類あります。唇を閉じて発音される「m」の音、舌先を上の歯茎につけて発音される「n」の音、口を開けて発音される「ng」の音です。当ブログでは「ng」を「ん」、「n」を「ン」と表記し、「m」は思い切って「む」で表記しました。この例に従うと日本語の「3万円になります」は、「さむまんえンになります」という表記になります。
  • 太字について: 太字の部分は、中国語に独特の「そり舌音」と呼ばれる発音になっています。日本の文字で表記すると同じ「チャ」や「シャ」の音でも、舌を口の天井に当てて発音するのです。具体的には、下で口の天井を後ろ向きになぞってゆくと、途中で「カド」にぶつかると思います。そこに舌を当てて発音して下さい。
  • 後は、適当です。

本格的に勉強したい人には、漢字を入力すれば拼音と呼ばれるローマ字のルビを自動的に表示してくれるサイトがたくさんありますので、探してみて下さい。


静夜思

=翻訳をめぐって=

寝床でまどろんでいた李白がふと目を開けると、足の方が明るくなっているのに気がついた、というのが歌の風景の始まりなのだと思う。

最初、李白は、寝台の下の地べたに降りた霜が自ら発光しているのだろうかと思った。(昔の家だし、中国は靴文化なので、ベッドは土間の上に直に置いてあったはずなのだ)。

だから、この詩の挿し絵によく登場するような後ろ手を組んで月を見上げている李白のイメージというのは、ウソなのではないかと私は感じている。

日本でも有名な詩だけれど、中国では当然もっと有名で、中国の小学一年生が学校に入って最初に覚える「古詩」がこの「静夜思」なのだという。確かに漢詩にもいろいろあるわけだけど、他のどんな詩と比べてみても「静夜思」は「別格」だという感じがする。行間から伝わってくる空気の張り詰め方、耳がキーンとしてくるような静謐さ、闇と光のコントラストの中にあらゆる色彩を抽象化させてしまう凄絶さ等々、いちいちが尋常ではない。恐らくは、言葉の中に月光そのものが宿っているからなのだろう。

日本の学校教科書に載っている「静夜思」は、中国で知られている上の詩句とは少し文言が異なっている。日本で普及しているのは明代に編纂された「唐詩選」のバージョンであり、中国で普及しているのは清代に編纂された「唐詩三百首」のバージョンなのだという。参考として、併記しておくことにしたい。

床前看月光
しょうぜん げっこうをみる
是地上霜。
うたがうらくは これ ちじょうの しもかと
挙頭望山月,
こうべをあげて さんげつをのぞみ
低頭思故郷。
こうべをたれて こきょうをおもう


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