華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Ol' '55 もしくは夜明けの歌 (1973. Tom Waits)


Ol' '55

Ol' '55

英語原詞はこちら


Well, my time went so quickly
I went lickety-splitly out to my ol' fifty-five
As I pulled away slowly, feelin' so holy
God knows I was feelin' alive

おれの時間は
あっという間に過ぎちまった。
リケティ·スピリットリィに
ということは
大急ぎでってことだ。

飛び出して
55年型のボロ車に乗り込んだ。
ゆっくりと走り出した時
何だかとっても聖なる気持ちになってた。
神のみぞ知るってやつだ。
おれは生きてるんだなって
そんな感じがしたんだな。


Now the sun's comin' up, I'm ridin' with Lady Luck
Freeway cars and trucks
Stars beginnin' to fade, and I lead the parade
Just a-wishin' I'd stayed a little longer
Oh Lord, let me tell you that the feeling gettin' stronger

見ろよ。
太陽がのぼってくる。
おれは
幸運の女神と一緒に走ってる。
高速を走るクルマ
それにトラック。
星がだんだん消えてゆく。
そしておれは
パレードの先頭に立っている。
ただひたすらおれは
もうちょっとだけ
こうしていられたらって思う。
神よ
神さんよ
言っちゃっていいかな。
そんな気持ちが
どんどん強くなってきてるんだ。


And it's six in the mornin'
Gave me no warnin', I had to be on my way
Well, there's trucks all a-passin' me, and the lights all a-flashin'
I'm on my way home from your place

そんでもって今は
朝の6時だ。
別にそうした方がいいって
言われたわけじゃないけど
おれは帰り道につかなきゃいけなかった。
トラックはみんなおれを追い越して行くし
周りのクルマはみんなおれに
パッシングしてる。
おれはおまえのところから
自分の場所に戻るところだ。


And now the sun's comin' up, I'm ridin' with Lady Luck
Freeway cars and trucks
Stars beginnin' to fade, and I lead the parade
Just a-wishin' I'd stayed a little longer
Oh Lord, let me tell you the feeling gettin' stronger

そしてほら
太陽がのぼってくる。
おれは
幸運の女神と一緒に走ってる。
高速を走るクルマ
そしてトラック。
星がだんだん消えてゆく。
そしておれは
パレードの先頭に立っている。
ただひたすらおれは
もうちょっとだけ
こうしていられたらって思う。
神よ
神さんよ
言っちゃっていいかな。
そんな気持ちが
どんどん強くなってきてるんだ。


And my time went so quickly
I went lickety-splitly out to my ol' fifty-five
As I pulled away slowly, feelin' so holy
God knows I was feelin' alive

何しろおれの時間ってやつは
あっという間に過ぎちまった。
大急ぎで飛び出して
55年型のボロ車に乗り込んだ。
ゆっくりと走り出した時
何だかとっても聖なる気持ちになってた。
神のみぞ知るってやつだ。
おれは生きてるんだなって
そんな感じがしたんだよ。


And now the sun's comin' up, I'm ridin' with Lady Luck
Freeway cars and trucks
Freeway cars and trucks
Freeway cars and trucks

そして
太陽がのぼってくる。
おれは
幸運の女神と一緒に走ってる。
高速にはクルマにトラック。
高速にはクルマにトラック。
高速にはクルマにトラック...


Ol' '55 (Eagles)

=翻訳をめぐって=

  • Ol' '55」というのは、トム·ウェイツ自身の言葉によるならば、「55年型のビュイック·ロードマスター」というクルマの名前なのだそうである。ただし後述するように、この人の言葉というものはどこまで信用していいものなのか全然わからない。

  • lickety-split」はアメリカの一部で使われているスコットランド由来の方言で、「全速力」「大急ぎ」みたいな意味だとのこと。「ソッコーで」とか「テッパツで」とか「必死のパッチで」とか、いろいろ訳し方はあったように思えるが、こういうのは音訳するのが一番いいような気がした。
  • Oh Lord」を「神よ神さんよ」と訳したことには、むかし好きだった人の家に電話をかけて相手が出て「もしもし」と言ったのでこちらが「亀よ亀さんよ」と言ったら実はその相手がお母さんだったという私自身の苦い記憶がこだましたりしているのだが、誰も聞いちゃいないですよね。
  • Gave me no warnin'...この部分だけ、翻訳には自信がない。直訳は「私は警告を受けなかった」なのだけど、警告を出さなかった相手が誰なのかというその主語が、なぜか省略されている。従って「警告」というのがどんな「警告」だったのかということが、よく分からない。彼女からの「早く帰らないと親が気づいたりしてやばい」という「警告」みたいなイメージで解釈してみたが、警察からの道交法にもとづく「警告」みたいなものであることもありうる。何とも言えない。

...歌詞の文句に関してはそれぐらいでいいとして

私はこの歌が好きである。14年前からずっと好きである。好きなのは間違いないのだけれど、この歌に歌われているのが「どういう情景」なのかということが、いまいち正確に思い描けずにいる。

大体のことは、書かれていると思うのである。彼氏は彼女のところで幸せな時間を過ごしたのだけど、その時間はあっという間に過ぎ去ってしまった。今はクルマで家路をたどっているのだけど、幸せな時間の余韻が抜けずにどうしてもウキウキしてしまう。太陽も自分のことを祝福してくれてるみたいに思える。左へカーブを曲がると青い海が見えてくる。ぼくは思う。この瞬間は続くと。いつまでも。おそらくは、そういう歌なのだと思う。


小沢健二 さよならなんて言えないよ

しかし「細部」がどうも、よく分からないのである。たとえば冒頭、主人公は「大急ぎで」クルマに乗り込んでいるのに、「ゆっくり」走り出している。どういうことなのだろう。「隣には幸運の女神」ってことは、彼氏は彼女のことを「連れて帰る途中」なのだろうか。つまり彼女は同乗しているのだろうか。いないのだろうか。周りのクルマがみんなパッシングしているというのは、普通なら「焦る」状況である。それなのにこの主人公は、えらくマイペースである。一体、どういう状況なのだろうか。

海外サイトを回ってみると、いろんな解釈が繰り広げられていた。分からないことをあれこれ想像するよりも、ネイティブの人たちにはこの歌がどういう風に聞こえているのかということに素直に耳を傾けた方が、こうした場合は有益であるように思える。特に厳密さが要求されているわけではないと思うので、原文やリンクは貼らないけれど、いくつか転載させてもらうことにしたい。

  • josinsさんの見解

オトコとクルマの関係を歌った歌では、最高の歌だよな。

  • lunaburningさんの見解

恋人と夜を過ごした男の、帰り道の歌だよ。そういう時ってのは、人生で一番幸せな気持ちになれるんだ。いいセックスをした後には、ほら、ほとんど宗教的な気持ちになったりすることって、あるだろ?

  • necrophageさんの見解

歌詞の言葉は幸せそうだけど、トム·ウェイツの声はえらく悲しそうだと思わないか?

  • timbokingさんの見解

歌詞を文字通りに解釈するなら、これはデートの翌朝のドライブの歌だ。でもその下に隠されてる深い意味は、この主人公は今まさに人生を終えて、死に向かおうとしてるってことじゃないんだろうか。

  • Lioness89さんの見解

人生のある時期にピリオドを打って、新しい世界に踏み出そうとしてる男の歌なんだと思う。行かなくちゃいけないことは分かってるんだけど、過去の輝いてた思い出が足にすがりつくんだよ。だから「もうちょっとだけこうしていたい」って歌ってるんだ。

  • wallace113さんの見解

みんなをガッカリさせるようなことは書きたくないけど、これは完全に死についての歌だよ。この歌は、主人公が霊柩車に乗せられて発車するところから始まってる。「パレードの先頭に立つ」ってのは、死んだ彼こそが葬列の主役だってことだ。霊柩車ってのはゆっくり走るだろ。だから周りのクルマは追い越して行ったり、パッシングして危険を知らせたりしている。そんな情景を横目で見ながら、主人公は神に向かって「もう少しこの世界にとどまっていたい」って語りかけてる。タイトルが「Ol' '55」なのは、この主人公が55歳で死んだってことを言ってるのさ

...そんでもって、トム·ウェイツ自身は、1999年のライブの様子を切り取った下の動画の中で、この歌について以下のようにコメントしている。それにつけても、デビューアルバムの頃と比べて、ものすごい声にならはったもんである。この動画の時代から数えても、既に20年近く経っているわけだけど、今ではどういうことになっているのだろう。


Ol' '55 (1999)

これはクルマについての歌やねんけどな。おれが子どもの頃にはビュイック·ロードマスターの55年型がうちにあって...せやけど実際は、ラリー·ビーザーって名前の昔の連れからインスパイアされた曲やねん。おれはその時、(ハリウッドの)トロピカーナ·ホテルに泊まっとってんわ。ほしたら真夜中に、ノックの音がするねがな。見たらそいつや。ビーザーや。夜中の2時やで。ほんで、言いよるねん。「おれデートの最中やねんけどな。彼女まだ17歳やねん。ほんで今から彼女のこと(30キロ離れた)パサディナまで送って行かなあかんねんけど、おれのクルマ、イカれてて、バックのギアしか使われへんねん...」「へぇて、おれにどないせえちゅうね」言うたらな。「とりあえず、ガソリン代貸してくれへんか?」やて。ほんで「代わりにこの話、ネタとして使うてくれてかまへんから」ちゅーねん。取り引きとしては悪くない話やちゅーことで、この歌ができたわけやけど、そいつ、帰ったよ。バックで30キロ走って。パサディナまで。ずっと走行車線で。表彰モンやわな。ちゅーことで、何やった。Ol' '55や。歌わしてもらいまっさ...

...そりゃ、高速道路をバックで走ってたら、後ろにはパレードができるだろうし、周りのクルマも追い越して行くだろうし、パッシングもされるだろうけれど、そんな話があるものなのだろうか。聞くところによるとトム·ウェイツという人のライブはいつも万事がこんな調子で、「真面目な話」が出てくることはほとんどないらしい。単なるホラ話として聞いておいた方がいいような気が、私はする。真相は謎に包まれているとしか言いようがないのだけれど、何かもう、何でもいいや。どういう歌であろうとやっぱり私はこの歌が好きだと思ったし、夜明けの風景に出会った時にはこれからも無意識に口ずさみ続けることになるのだと思う。今回はそれでよしとすることにする。

ckrecord.hatenablog.com
↑私が今まで出会ってきた中で、一番トム·ウェイツ的な文章を書く人のブログです。できることなら彼氏の言葉は、この人の文体で翻訳したかった。というわけでまたいずれ。


=楽曲データ=
Released: 1973.3.6.
Key: F#

Closing Time

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