華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Roadhouse Blues もしくはバンガローでガンバロー (1970. The Doors)


イラストは「ミチコオノ日記」の作者の人による連作絵物語「」から拝借しました。


知り合いの夏バテオさんが書いているブログに、ドアーズの「ロードハウスブルース」の日本語歌詞が掲載されているのを見て、思わずキャーって言ってしまった。オトコだってキャーって言う時は言うのである。「ロードハウスブルース」こそは、私とドアーズの出会いの曲だった。地元の県内に一軒しかなかった古レコード屋で300円で買った「モリソンホテル」のLPに、最初に針を落とした時の衝撃は今でも忘れられない。バテオさんが「デッデデッデデッデデーレ」と形容していた冒頭のあのベースみたいなギターの音に、「お前のことをずっと待っていたぜ」と言われたような気がしたものだったのだ。

http://natsubatesaurus.hatenablog.com/entry/2018/07/04/035112natsubatesaurus.hatenablog.com
私は周知の通り、他人が外国語で書いた歌詞を日本語に翻訳することしかやっていない人間なのだが、バテオさんがやっていることは「日本語で歌える歌詞を作る」という「創作活動」に他ならない。しかしひとつひとつの言葉の中に、バテオさんがこの歌を今までどんなふうに聞いてきたかという歴史の全てが込められているので、原詩の内容とはかけ離れた日本語歌詞の中にも「歌の心」はしっかりと保持されている。そこに何より、ウナらされてしまった。私が同じことをやったとしたら、例えば2番の歌詞に出てくる「バンガロー」という言葉を何とかして「ガンバロー」に変換できないかとか、そういうセコいことにばかり頭が行ってしまって、ロクな歌詞にはならなかったに違いない。そこへもってきて「今朝 目が覚めたら通用しなかった」みたいな言葉が飛び出してくる異次元的な跳躍力には、本当に、シビれてしまった。

思い起こせばこのブログを始めた時に2回目に取りあげたのが、「モリソンホテル」でこの「ロードハウスブルース」の次に収録されている「Waiting For The Sun」という曲だった。以来「華氏65度の冬」は一貫してドアーズとザ·バンドとクラッシュの翻訳を三枚看板にお届けしてきたはずなのだが、子どもの頃から好きなおかずを最後の最後まで残しておく傾向のあった私は、翻訳曲がもうじき500曲になんなんとしているこの期に及んでもいまだ全然その作業を先に進めることができていない。そこへ持ってきて今回このバテオさんバージョンの「ロードハウスブルース」に巡り会えたということは、「やるなら今」ということなのだと思う。本当は今回は別な曲を予定していたのだけど、その前に今までずっと後回しにしてきた、私にとって最も特別なアルバムのひとつであるところの「モリソンホテル」の全訳作業。これにいよいよ取り組んで行きたいと思う。こういうのは本当に、タイミングが重要なのである。


Roadhouse Blues

Roadhouse Blues

英語原詞はこちら


Yeah, keep your eyes on the road, your hand upon the wheel
Keep your eyes on the road, your hands upon the wheel
Yeah, we're goin' to the Roadhouse
We're gonna have a real
Good time

目はしっかりと道を見て
手はしっかりとハンドルに。
目はしっかりと道を見て
手はしっかりとハンドルに。
そうおれたちは
例のロードハウスに行って
過ごすんだ。
最高の時間を。


Yeah, back at the Roadhouse they got some bungalows
Yeah, back at the Roadhouse they got some bungalows
And that's for the people
Who like to go down slow

ロードハウスの裏には
バンガローが建っている。
ロードハウスの裏には
バンガローが建っている。
ゆっくりゆっくりやるのが
好きな人間向けの場所だ。


Let it roll, baby, roll
Let it roll, baby, roll
Let it roll, baby, roll
Let it roll, all night long

ぐるんぐるんさせてくれベイビー
ぐわんぐわんさせてくれベイビー
ぎゅいんぎゅいんさせてくれベイビー
始めてくれ。
一晩中だ。


Do it, Robby, do it
いいぞロビーもっとやれ。

You gotta roll, roll, roll
You gotta thrill my soul, all right
Roll, roll, roll, roll
Thrill my soul
You gotta beep a gunk a chucha
Honk konk konk
You gotta each you puna
Each ya bop a luba
Each yall bump a kechonk
Ease sum konk
Ya, ride

しっかり回転させてくれ。
おれのことを魂からゾクゾクさせてくれ。
そうだ。
ぐるんぐわんぎゅいんぎゅわん
ゾクゾクさせてくれ。
ネバネバなのをビチャッと言わせろ。
言わせなければならない。
鼻から鼻から警笛を鳴らして
お前の高原状の部分を両方とも
打ち当てる動きごとにルーバ
下腹部を突き出すような感じで
ケチョンクするたびに
両鼻をスースーさせろ。
させなければならない。
よし乗れ。


Ashen lady, Ashen lady
Give up your vows, give up your vows
Save our city, save our city
Right now

蒼白のレディ。
蒼白のレディ。
立てた誓いはあきらめろ。
立てた誓いはあきらめろ。
街を救うんだ!
街を救うんだ!
今すぐに!


Well, I woke up this morning, I got myself a beer
Well, I woke up this morning, and I got myself a beer
The future's uncertain, and the end is always near

朝目を覚ましたおれは
自分の体にビールを補充した。
朝目を覚ましたおれは
自分の体にビールを補充した。
未来は当てにならないし
終わりはいつだってそこに見えている。


Let it roll, baby, roll
Let it roll, baby, roll
Let it roll, baby, roll
Let it roll, all night long

ぐるんぐるんさせてくれベイビー
ぐわんぐわんさせてくれベイビー
ぎゅいんぎゅいんさせてくれベイビー
始めてくれ。
一晩中だ。



「ロードハウス」というものは日本で言う「ドライブイン」みたいなものだと私はずっと理解していたのだけど、アメリカは日本と違うわけだから、パイプ椅子が並んでいて小さいテレビが置いてあってうどんといなりずしが提供されているようなそういう店ではもちろんない。イメージとしてはブルースブラザーズ特集の時に出てきた「ボブの店」みたいなのを想像すれば、一番実態に近いのではないかと思う。

海外サイトによるならばこの歌の「ロードハウス」は、ロサンゼルス西郊の山の中にあった「Topanga Corral (トッパンガ·コラール)」という実在のナイトクラブのことを指しているらしい。当時の周辺地域のカウンターカルチャーの発信地になっていたような場所で、ドアーズはもとよりジャニスやジミヘンなどさまざまな顔ぶれがそのステージに立った伝説的な店だというのだが、1986年に焼失して以降はサラ地になっているのだとのこと。上は当時の写真である。ロスの街からこのトッパンガ·コラールに向かうには、ぐねぐねの山道をかなり走らなければならなかったため、本当に「目は道に集中して、しっかりハンドルを握って」いなければ、大変なことになったらしい。

トッパンガ·コラールの裏側には実際に何軒かの「バンガロー」が建っていて、そのうちの一軒をジムモリソンは恋人のパメラ·カールソンさんのために購入し、しばしばプライベートな時間を過ごしていたのだという。(パムことパメラさんは1991年の映画「ドアーズ」の準主人公に当たる人なのだが、あの映画を見て以来私は「世界で最も苦労した女性」だったろうなというイメージを拭えない)。YouTubeには、かつてそのトッパンガ·コラールが存在した場所にわざわざ出かけていって、フェンスで囲われたサラ地を前に興奮した口調で三分ぐらいいろんなことを喋っている奇特なドアーズファンの人の動画が投稿されていた。せっかくなので、貼りつけておきたいと思う。


Roadhouse Blues

この曲ではドアーズの楽曲としては珍しいことに、ゲストミュージシャンがベースで参加している。ロニー·マックという人で、Wikipediaによるならば「伝説的なギタリスト」らしいのだけど、他の分野でのその人の活躍を私は全然知らない。当初、私は冒頭の「デッデデッデデッデデーレ」がその「ベースの音」なのだとずっと思い込んでいて、ベースなしバンドのドアーズとの出会いの音がベースの音だったというのは実に因果なことだといったような感想をずっと持ち続けていたのだが、最初のあれはロビー·クリーガーが弾いている「ギターの音」で、ベースの音は5秒目ぐらいから初めて入ってくるのだということが、今回聞き直してみてようやくハッキリした。大好きな曲ではあっても、今まで本当に何も聞いていなかったのだなとつくづく思う。

自分のことを「音楽が好きな人間」だとは思っているけれど、私はどちらかと言えば「言葉しか聞いていないタイプの人間」なのかもしれない。私のためにこのブログのデザインを一から作成して下さったサラさんという人の書いている「駄目人間達のWall Of Death」というブログがあって、メタルを全然聞かない私には残念ながらついて行けない話題であることが多いのだけど、この人の書いていることは私のブログとは打って変わって「音に関する話」ばっかりで、どうして音の話だけでそんなに書くことがあるのだろうといつも驚いてしまう。同じ「音楽のブログ」だとは思えない。て言っか私みたいなのが「音楽のブログ」を自称していること自体が、本当ならオコがましい話なのかもしれない。そうなんだよな。まともに音楽をやっている人から見れば「ボーカルしか聞いてない」というのは丸っきり「シロートの聞き方」なんだよな。でも気がつけば「声しか聞いていない」という傾向がずっと私にはあって、一人一人のミュージシャンが演奏している楽器の音を「聞き分ける」ということが、いまだにちゃんとできない。とりわけ「ベースの音を追いかける」ということが一番私は苦手で、いつも途中で見失ってしまうと言うか、聞き失ってしまう。たぶん、自分で演奏したことのない楽器だからなのだと思う。

abcdefghijklmnopqrstuvwxyz.hatenablog.jp
また、ハーモニカを担当しているゲストミュージシャンとしてG. Pugleseという名前がレコードにはクレジットされているのだけれど、これはラヴィン·スプーンフルのリーダーだったジョン·セバスチャンの変名だったのだということが、今回調べてみて分かった。何でもこの曲が録音されたのは、マイアミでのコンサートでジムモリソンがステージ上で自慰行為をしたとして逮捕されたという有名な事件からあまり時間が経っていない時期のことだったらしく、ジョン·セバスチャンはそれとの関連でいろいろ言われるのがイヤだったらしい。

つくづく、調べれば何でも分かる時代になったものだと思うけど、溢れ返っている情報の中には根も葉もないウソの量も当然際限なく増えている。マイアミの件に関して言うならそういう容疑でジムモリソンが逮捕されたという事実は確かに存在しているわけだけど、話を読めば読むほどこの「事件」自体がどうも警察のデッチあげくさい。じゃあジムモリソンは実際にはマイアミで「どこまでやったのか」ということも気にならないわけではないけれど、そういうことに興味を持つこと自体が警察のやり口に誘導されてる感じがするし、わざわざ調べるのも悪趣味な話だと思う。このブログに書くことはできるだけ、「歌を聞く人間にとって本当に必要な情報」だけにとどめてゆきたい。それがなかなか、難しいのだけど。

=翻訳をめぐって=

back at the Roadhouse they got some bungalows

「バンガロー」というのは日本では「キャンプ場に建っている、テントよりもうちょっとマシな木造の小屋」のことを指す言葉として使われているけれど、アメリカでは割としっかりした木造平屋の宿泊施設のことを言うらしい。元々は「ベンガル地方のスタイルの家」という意味で、それがイギリスによる植民地支配のネットワークを通じて各方面に「バンガロー」と呼ばれる建築様式が広がって行ったらしいのだが、南アジアの伝統文化とは全く無関係にイギリス人が勝手に作った建築様式だという話もあるらしく、よく分からない。

なお「ベンガル地方」は大まかには現在のバングラデシュとインドの一部を指している。このバングラデシュという国家が私の母親が子どもの頃には「東パキスタン」と呼ばれていたということを知って驚いた経験が私にはあり、それをきっかけにイギリスによるインド支配の残虐さによっていろんなことを学ばされていった長い話もあるのだけれど、書くなら別のところでちゃんと書こうと思うので、ここでは書かない。

And that's for the people
Who like to go down slow

「ゆっくりやるのが好きな人たち向け」という言葉には、「のんびりした時間を過ごそう」とか「スローライフ的に生きよう」とかいろんな幅で解釈できる余地もあるように思われるが、歌詞に使われている「go down」という言葉は「えろい行為をする」という意味の一番くだけた表現らしいので、何を「ゆっくりやるのか」というその内容はここではある程度限定されていると考えていいと思う。...変な文章。

Let it roll, baby, roll

直訳は「それをロールさせろベイビー、ロールさせろ」。「roll」という単語の一番基本的な意味は「回転する/させる」という意味だけど、そこから英語では本当にいろんなイメージを込めてこの「roll」という言葉が使われている。「横揺れすること」も「雷が落ちること」も「水が流れる」ことも「体の表面を液体が伝う(←主には涙)」ことも全部「ロール」である。「Let's roll!」と言えば「始めよう!」という意味にもなるらしい。さらにロールはもちろんロックンロールの「ロール」でもある。そうした事情からこの歌詞にはジムモリソンという人の人生観が余すところなく示されているのだといったような持って回った解釈も海外サイトでは紹介されていたが、結局一番即物的な形で解釈されるのがフツーなのではないかと思う。今回の試訳は、何と言うことはないのだけど、10代の頃の私には絶対にたどりつけなかった言葉遣いになっていることが、個人的には感慨深い。

Do it, Robby, do it

...私が昔持っていたCDの歌詞カードでは、この部分が「いいぞロドニーもっとやれ」と書かれていて、ロドニーって誰なんだろうとずっと思っていた。普通に考えれば、どう考えてもロビーなんだよな。あの歌詞カードを作った人、ドアーズのギタリストの名前、知ってたんだろうか。

You gotta roll, roll, roll...

今回調べて最も驚愕したのはこの部分だった。私はずっとこの間奏部分は「意味のないスキャット」だと思っていたのだが、ネットの歌詞サイトで再現されていたこの文字列の中で「辞書に載っていない言葉」は「chucha」と「luba」と「kechonk」の3つだけであり、後の単語には全部「意味」がある。それももれなく「えろい意味」が込められているので、ジムモリソンという人は本当に言葉の魔術師だったとしか思えない。「bump (下腹部を前方に突き出す)」という動詞の挟み方など、もう、的確にえろいのだ。辞書に出ていない言葉にしても「ちゅちゃ」で「けちょんく」なわけだから、響きだけでも充分えろい。文法的にはメチャメチャだから正確に翻訳することなどおよそ不可能なのだけど、そのこと自体、えろい行為が人間の理性や筋道立った思考をぐちゃぐちゃに解体してゆくさまの極めてリアルな表現だと言えはしないだろうか。(...何が「言えはしないだろうか」じゃ)。とりあえず、自分に可能な翻訳の仕方を今回私はしたのだけれど、より深く知りたい人はぜひとも自分で辞書を引いてみてほしい。なお、「You gotta 〜」は以前にも書いたことがあるけれど、「あなたは 〜しなければならない」という意味で解釈すれば、ほぼ間違いない。

それにしても、この「歌詞」から浮かびあがってくるのは仰臥姿勢のまま自分は一切カラダを動かすことなく人に向かってあれこれ命令しているジムモリソンの姿だと思うのだが、何と言えばいいのだろう。よっぽど面倒くさがりだったのだろうなという感じがする。

Ashen lady

私が持っていた歌詞カードではこの部分が「I should later」となっていて、「遅くなりそうだ」みたいな訳語がついていたのだけれど、それだと文法的にもおかしい。ただしドアーズの楽曲にはいまだに「公式歌詞」と呼ばれるべきものが存在していないらしく、歌詞サイトによっては「passionate lady」とか「action lady」とか、さまざまな「別の聞き取り方」がされていることが分かる。

「ashen」という聞き慣れない単語は「青白い」とか「土気色の」といった意味で、「不健康そうな顔色」を表現するのに使われることが多いらしい。一説によると「ashen lady」というのは、パメラさんのことを「教会のシスター」にたとえた言葉なのだという。そう解釈すれば「give up your vows (立てた誓いはあきらめろ)」という後の歌詞との整合性もとれるということが、海外サイトには書かれていた。

Save our city

ここ、どういう風に歌えばこんな歌い方ができるのか、いまだに分からない。音が1オクターブ上がってるのか上がってないのか、それすらも分からない。この記事を書く前に改めていっぺん歌ってみたのだけど、やっぱり分からなかった。ジムモリソンはすごい。

というわけでまたいずれ。


=楽曲データ=
Released: 1970.2.9.
Key: G

モリソン・ホテル

モリソン・ホテル