華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

The Spy もしくは悪いやつ (1970. The Doors)


The Spy

The Spy

英語原詞はこちら


I'm a spy in the house of love
I know the dream, that you're dreamin' of
I know the word that you long to hear
I know your deepest, secret fear
I'm a spy in the house of love
I know the dream, that you're dreamin' of
I know the word that you long to hear
I know your deepest, secret fear
I know everything
Everything you do
Everywhere you go
Everyone you know

我はスパイ。
愛の棲み家の内なるスパイ。
汝の見る夢を
我は知る者なり。
我は知る。
汝の最も聞かまほしき言葉を。
我は知る。
汝が秘めたる最も深き恐怖を。
我はすべてを知る者なり。
汝のなすことすべてを。
汝の向かう場所すべてを。
汝の知る者すべてを。


I'm a spy in the house of love
I know the dream, that you're dreamin' of
I know the word that you long to hear
I know your deepest, secret fear
I know your deepest, secret fear
I know your deepest, secret fear
I'm a spy, I can see
What you do
And I know

我はスパイ。
愛の棲み家の内なるスパイ。
汝の見る夢を
我は知る者なり。
我は知る。
汝の最も聞かまほしき言葉を。
我は知る。
汝が秘めたる最も深き恐怖を。
汝が秘めたる最も深き恐怖を。
汝が秘めたる最も深き恐怖を。
我はスパイ。
我には見える。
汝のなすことは
我の知るところとなる。



アルバム「モリソンホテル」の中では一番どーでもいいと言うか、キライだった曲。長いし辛気臭いし曲調はナルシスティックだし歌詞は邪悪である。陽気な「Land Ho !」が終わってこの曲が始まるたびに、早く終わって次の曲に行ってくれないかなとイライラしながら別のことをしていたことを思い出す。LPというのはそんなに簡単に早送りとか頭出しとかできるものではなかったから、基本的には黙って待ってるしかなかったのである。今にして思えば、そういうのも「大切な時間」だったというような気も、しないではないのだけれど。

大体「I'm a spy」というのが、ふざけている。ジムモリソンが「スパイ」という言葉にどの程度の意味を込めているのかは判然としないし、「こっそり見ているやつ」ぐらいのイメージなのかもしれないが、スパイというのは原義的には「味方のふりをした敵」のことなのである。味方のふりをして相手を信用させておいて最後にはだまして害を与えるのだから、ものすごく悪いやつではないか。

とはいえそんな風に原則的に考えてみた場合、「I'm a spy (私はスパイです)」というのはすごく「ヘンな歌詞」である。もしそんな風に自己紹介してしまったら、相手は「ああ、この人は味方のふりをしているけれど実は敵なのだな」ということに気づいてしまい、それきり信用されなくなってしまう。つまりは、スパイとしての活動が成立しなくなるわけだから、もしもこんなことを自分から言い出すスパイがいるとしたら、その時点でそいつはスパイ失格だと言っていい。

そうである以上はこの歌詞は、初めから終わりまで「歌い手の頭の中でだけ」つぶやかれている言葉なのだと解釈するのが妥当であろう。

...何が「妥当であろう」じゃ。

歌詞の中でも一番邪悪に感じられるのは「I know your deepest, secret fear (私はあなたの隠された最も深い恐怖を知っている」という部分で、こういうやり方で人のことを支配しようとする人間が私は一番キライなのである。にも関わらずどうして人間は、そういうやり方に「ひっかけられて」しまうようにできているのだろうか。そういうやり方をハネ返せる方法って、ないのだろうか。最近の私は、そんなことばかり考えている。それというのもこの日本という社会における「天皇制に反対できない雰囲気」=「戦争にも差別にもあらゆる不正に対しても公然とは反対できない雰囲気」というのは、「そういうやり方」で作られているのではないかとしか思えないようなところがあるからである。

このブログの協賛ブログである正統派叙情青春絵日記文学作品「ミチコオノ日記」の読解をめぐって最近書いた文章には、そういう問題意識も込められているので、興味のある方はご一読されたい。
nagi1995.hatenadiary.com
...まあ、何より一番大切なのは、「自分の内なる恐怖に本当に立ち向かうことができるのは自分だけ」ということだろう。それをジャマしようとする人間が現れたら、そいつこそ敵だと思えばいいのである。

そう思えば、多分いろんなことが「怖くなくなってくる」はずだと思う。

...何だかヘンな記事になってしまったな。

ではまたいずれ。


=楽曲データ=
Released: 1970.2.9.
Key: G

The Spy

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