華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Queen Of The Highway もしくはハイウェイの女王 (1970. The Doors)


Queen Of The Highway

Queen Of The Highway

英語原詞はこちら


She was a princess, Queen of the Highway
Sign on the road said: "Take us to Madre"
No one could save her, save the blind tiger
He was a monster, black dressed in leather
She was a princess, Queen of the Highway

彼女は王女だった。
ハイウェイの女王。
道の標識にはこう書かれていた。
「マドレ(スペイン語で「母」)
いざなってください」
誰にも彼女を救うことはできなかった。
blindになった虎を救うことは
誰にもできなかった。
彼氏はモンスターだった。
黒い革の衣装をまとっていた。
彼女は王女だった。
ハイウェイの女王。


Now they are wedded, she is a good girl
Naked as children out in a meadow
Naked as children, wild as can be
Soon to have offspring, start it all over

二人は結婚した。
彼女は良い子だ。
草原の子どもたちのように
生まれたままの姿をしている。
子どもたちのように裸で
あたうる限りにワイルドだ。
ほどなく子どもを産み
すべてが繰り返されることになるだろう。


Start at all over
すべてをもう一度
始め直すんだ。


American boy, American girl
Most beautiful people in the world
Son of a frontier Indian Swirl
Dancing through the midnight whirl-pool, formless
Hope it can continue a little while longer

アメリカの少年
アメリカの少女
世界で最も美しい人たち。
未開拓地の子ども。
Indianたちの旋舞。
かたちを持つこともなく
真夜中の渦巻きの中で踊っている。
その姿をもう少しだけ長く
見ていることができればと思う。



この歌を初めて聞いた時、とても「おそろしい気持ち」がしたのを、よく覚えている。

American boy, American girl
Most beautiful people in the world

という歌詞から、非アメリカ人である自分が「拒まれていること」を、ハッキリと感じとったからである。

憧れたり尊敬したりしていた対象の人物が、実は平気で人を差別する人間だったり、右翼的な考えの持ち主だったりしたことが分かって幻滅させられるケースというのは、世の中において何ら珍しいことではない。むしろテレビに出たりマスコミに取りあげられたりして有名になる人物の中には、そうでない人間を探す方が難しいくらいなのである。

日本で言うなら天皇のことを「天皇陛下」と呼び、災害時にはためらいなく自衛隊を応援し、ワイドショーでは自分たちの日頃の暮らしを棚に上げて「外国人観光客のマナーの悪さ」を面白おかしく語ってみせることのできるタイプの人間でなければ、基本的には「お茶の間の人気者」としての立場を維持し続けることはできない。アメリカであれイギリスであれ、テレビやマスコミのある世界ではどこでも事情は似通ったようなものなのだということが、インターネットの時代になってみると改めてよく分かる。

そういう経験をするたびにショックを受けたり裏切られたような気持ちになったりということは、最近ではほとんどもうなくなった。「またか」と思ったり「こいつもか」と思う程度である。

けれどもこの歌を初めて聞いた頃の私は、まだそうした経験に慣れていなかった。ジムモリソンともあろう人が人間を平気で差別することなんてあるはずがないと思ったし、信じたくない気持ちだった。だからこの歌詞の裏側には、何か自分にうかがい知れない深い意味でも隠されているのではないかと勘ぐったりまでしていたものだ。

「アメリカ人は世界で一番美しい」という彼氏の傲岸な物言いに、反発を覚えるのではなくむしろそれを「おそろしい」と感じてしまったのは、その時の私が「間違っているのは自分で正しさは彼氏の側にあるのではないだろうか」と思わされてしまっていたからであり、つまりは私自身が「差別に負けていた」からだということになるのだろうな。

「アメリカ人」という存在は「アメリカ人でない人々」との「関係」において初めて成立している。直接この歌で歌われているのは「アメリカ人は美しい」という言葉だけであっても、その歌詞には「アメリカ人以外の人間は美しくない」というメッセージが明らかに含まれている。だからこの歌は差別的な歌であり、排外主義的な歌なのであって、それ以上の「深い意味」も何んにもありはしない。

ジョン·デンズモアの自伝「Riders On The Storm」(邦題「ドアーズ」)には、ジムモリソンという人間がブルースなどの黒人文化に対しては「リスペクト」を払いつつも、現実社会のアフリカ系の人々に対しては一貫して差別的に振舞っていた様子が、赤裸々に綴られている。以下は活動停止直前の1970年12月に、ドアーズがニューオーリンズを訪れた場面の描写。

フレンチ·クォーターにあるぼくたちのホテルにリムジンが迎えにきた。この街はアメリカの中でも独特の雰囲気をもっている。凝った装飾の鉄格子、オクラのにおい。車に乗り込む前に、ジムとぼくは角にあるバーにビールを一杯ひっかけに行った。窓に掲げられた看板には、「有色人種おことわり」と書かれていた。

ジムはその看板に触発されたらしく車に乗り込むと、運転手を相手に話しはじめた。

「バーの看板を見ただろ。黒人どもは居場所をわきまえるべきなんだよな」

「イエス、サー!」白人の運転手は間髪をいれずに答えた。「連中には連中の居場所があるんですよ」

ぼくたちはうんざりした。これぞ人種差別の実態だ。運転手はその後もずっとしゃべり続け、ジムは相づちを打ち続けた。

(翻訳:飛田野裕子)

ちなみにこの歌には、ジムモリソンの恋人だったパメラ·カーソンさんを思わせる女性や、「Swirl (渦巻き=旋舞)」を踊る先住民の人々など、彼氏にとって「他者」にあたる存在が次々と登場するが、かれらに与えられた役どころというのは、ジムモリソンという人間の心象の「アメリカ」をスケッチするために配置された「風景」みたいなものであるにすぎない。いずれもおよそ人間性を感じさせない描かれ方がなされており、それがこの歌の印象を冷たいものにしている。恋人であるはずの女性に対してさえ、何か「別の生き物を見るような視線」が貫かれており、ジムモリソンという人の女性観をよく示している歌だという感じがする。(「子を産む性」を神秘化してみせる態度というのは、男性優位主義の裏返しにすぎない)。

つまりは、右翼的な歌だし、他には何ら取り立ててコメントするに値するようなことがあるとは思えない。そう思えるようになるまでに私には20年近い時間がかかってしまったことになるけれど、そう思えるようになったことを思えば、その20年も決してムダではなかったということなのだと思う。

=翻訳をめぐって=

She was a princess, Queen of the Highway

Princessは「王女」で、Queenは「女王」。「かつて王女だった彼女が今では女王になっている」という意味なのか、「彼女は王女であり、女王でもあった」という意味なのか、私にはよく分からなかった。「was」という過去形の動詞は、ひとつしかない。

Sign on the road said: "Take us to Madre"

ロサンゼルスの北方には「シエラ·マドレ(マドレ山脈)」という名前の街がある。彼女と一緒に走っていてその街への標識を見つけたジムモリソンは、彼女が「母親という存在」になるべき道を走りつつあるという寓意をそこに重ねたのかもしれない。何か、えらく他人事めいて響くのだが。

No one could save her, save the blind tiger

「blind」は「視覚障害者」に対する差別表現。ここでは原文をそのまま転載しました。

He was a monster, black dressed in leather

明らかに、ジムモリソン自身のことを歌っている。

Start at all over

ジムモリソンが愛読していたというニーチェの「永劫回帰」の思想が反映されていると思われる歌詞。私に言わせるならニーチェなんかを有難がるのは選民思想の持ち主に限られているという感じがするのだが。

Son of a frontier

「frontier」はアメリカ東部から進出してきた人間たちにとっての「未開拓地」を意味する言葉であり、「西の終点」になっているカリフォルニアの別名でもあるが、あくまで白人視点に立った言葉でしかない。


Queen Of The Highway

この歌には、ジャズバージョンもあったのだな。知らなかった。ではまたいずれ。


=楽曲データ=
Released: 1970.2.9.
Key: G→F

Queen Of The Highway

Queen Of The Highway