華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

The Shape I'm In もしくはラストワルツ特集 #2 (1970. The Band)

#1 The Shape I'm In#3

  • ザ·バンドのメンバー3人が、並んで座っている。右からロビー·ロバートソン、リック·ダンコ、リチャード·マニュエル。ロビーはマッチで煙草に火をつけ、リックは紙コップの飲み物をすする。リチャードは煙草を吹かしながらヒゲをいじっている。

Robbie: It was kind of...
We didn't know where we were going, we didn't know what it was.
But, for some reason, it seemed like a good idea.
We got to this place, a joint, in Fort Worth, Texas. It was burned out, bombed out. The roof wasn't even on the place any more.
ロビー:何て言ったものかな…
我々は自分たちがどこに向かっているのか、分かっていなかったし、それにどう名前をつけたものかも、分かっていなかった。
でも、自分たちのやってることは悪くないんじゃないかって思えるような、根拠はあった。
テキサスのフォートワースの、いかがわしい場所でやった時の話なんだが、そこは火事で焼けてて、爆破された跡まであった。あるべきところに屋根さえなかった。

  • 煙草に火をつけたリックが何か口を挟む。「Skyline Lounge」と言っている感じがする。

Robbie: And that's when they decided to call it the Skyline Lounge. And we got there and set up and... A big place. Huge. Bar, way at the back and a big dance floor.
ロビー:それでその場所を「スカイライン·ラウンジ」って呼ぶようになったらしいんだけどな。我々はそこに着いてセットアップを初めて…広いところなんだ。途方もなく。すごく後ろの方にバーがあって、でっかいダンスフロアがあって。

Rick: Real old.
リック:すげえ、古いんだよな。

Robbie: So we set up the first night. We go down to the place to play. We go in and, in this huge place, there's about three people in the audience.
ロビー:それで最初の晩だ。そこに行って演奏するわけだ。そのでっかい場所に入ってみると、3人くらいしか客が入ってないんだ。

  • リックとリチャード、ぷっと笑う。

Robbie: A one-armed go-go dancer and a couple of drunk waiters.
A couple here, a couple there.
Somebody fires a tear gas... And a fight starts.
ロビー:片腕のゴーゴーダンサーに、酔っ払ったウエイターが二人。そこにカップルがいて、あそこにカップルがいて。
誰かが催涙スプレーを噴射して…それでケンカが始まるんだ。

  • 3人、大笑い。

Robbie: There isn't enough people in the place to get angry. And we found out a few years later that it was Jack Ruby's club.
ロビー:腹を立てるにはちょっとばかり、人が少なすぎたよな。何年か後に分かったんだけど、そこはジャック·ルビーが経営してるクラブだったんだ。

  • ジャック·ルビーは、1963年にケネディ大統領暗殺の実行犯として逮捕されたL.W.オズワルド氏(←しかしこの人が犯人だったと本気で考えている人は、現在ではほとんどいない)を移送中に射殺して有名になった、マフィア関係者の名前。ロビーがオチをつけたところで、「The Shape I'm In」の演奏シーンが始まる。


The Shape I'm In

The Shape I'm In

英語原詞はこちら


Go out yonder, peace in the valley
Come downtown, have to rumble in the alley
Oh, you don't know the shape I'm in

彼の地へ往かん。
谷間には平和がある。
おつぎはダウンタウン。
横丁をうろうろしなくちゃ。
ああ おまえは全然わかってない。
おれがどういうことになってるのか。


Has anybody seen my lady?
This living alone will drive me crazy
Oh, you don't know the shape I'm in

おれのレディを
見たやつはいないかい。
こうやって一人で暮らしてると
crazyになりそうだ。
ああ おまえは全然わかってない。
おれがどういうことになってるのか。


I'm gonna go down by the water
But I ain't gonna jump in, no, no
I'll just be looking for my maker
And I hear that's where she's been? Oh!

おれは流れに沿って
進んで行くところだ。
でも間違っても
飛び込んだりはしない。
しないとも。
おれはおれという存在を
この世に送り出したやつを
探しに行くことになるだろう。
聞くところによると彼女は
そいつの所にいるらしいじゃないか?
あーあ。


Out of nine lives, I spent seven
Now, how in the world do you get to Heaven?
Oh, you don't know the shape I'm in

9つある命のうち
おれはもう7つも使ってしまった。
いったいぜんたい天国ってところへ
行くにはどうしたらいいんだろう?
ああ おまえは全然わかってない。
おれがどういうことになってるのか。


I just spent 60 days in the jailhouse
For the crime of having no dough
Now here I am back out on the street
For the crime of having nowhere to go

おれは60日間も
牢屋に閉じ込められてたよ。
現金を持ってないという罪で。
そんでもっておれは
ストリートに戻ってくることになった。
行くところがどこにもないという罪で!


Save your neck or save your brother
Looks like it's one or the other
Oh, you don't know the shape I'm in

自分のクビを守るか
それともきょうだいのことを守るか。
どうも見たところ
ふたつにひとつになっているらしい。
ああ おまえは全然わかってない。
おれがどういうことになってるのか。


Now two young kids might start a ruckus
You know they feel you trying to shuck us
Oh, you don't know the shape I'm in

二人の小さな子どもが
大騒ぎを始めることだろう。
その子たちはおまえがおれたちを
だまそうとしてるって思ってるんだ。
ああ おまえは全然わかってない。
おれがどういうことになってるのか。



「crazy」は「精神病者」に対する差別表現です。ここでは原文をそのまま転載しました。

  • 演奏を終えたメンバーの映像に、ロビーの声が重なる。

Robbie: 16 years ago, when we started, we started with a guy you might have heard of. We'd like to start with him. The Hawk! Ronnie Hawkins!
ロビー:16年前、我々がスタートした時、始めたのは、この人とだった。みんなも聞いたことがあると思う。その人と一緒に(第二部を)始めたい。ザ·ホークこと、ロニー·ホーキンス!...


The Shape I'm In

=翻訳をめぐって=

私は長い間、知らなかったのだが、映画「ラストワルツ」で演奏されている約20曲のライブ映像は、演奏された順番通りに収録されているわけではない。オープニング曲の「Up On Cripple Creek」と今回の「The Shape I'm In」までは実際の順番通りなのだが、ロニー·ホーキンスが登場する次の曲以降は、バラバラにシャッフルされている。Wikipedia等々で確認できる1976年11月25日の「ラストワルツ」コンサートの実際の流れは以下の通りなので、参考までに書き出しておきたい。

  • 主催はビル·グラハム。当日の観客は5400人。チケットは25ドル(←ディナー料金も含まれており、当時としてはありえないぐらいの高額だったらしい)
  • 開場は17時(←リヴォンの自伝には18時とある)。観客はまず正式の七面鳥ディナーを振る舞われ、その後、38人編成のオーケストラに合わせてダンスを踊る時間が設けられた。この時の様子は、映画の冒頭に少しだけ出てくる。
  • 21時、コンサートが開始。第一部はザ·バンド単独のステージ。セットリストは以下の通り。

0:00:00 - Introduction / Up on Cripple Creek
0:05:54 - Shape I'm In
0:10:15 - It Makes No Difference
0:18:02 - Life Is A Carnival
0:22:50 - This Wheel's On Fire
0:27:24 - The W.S. Walcott Medicine Show←ここで、ホーンセクションが入る。
0:31:18 - Georgia On My Mind
0:35:08 - Ophelia
0:39:20 - King Harvest (Has Surely Come)
0:43:30 - The Night They Drove Old Dixie Down
0:48:20 - Stage Fright
0:53:24 - Rag Mama Rag

  • 22時、休憩を挟むことなく、ゲストミュージシャンが参加しての第二部に突入。セットリストは以下の通り。

0:57:32 - Introduction / Who Do You Love (with Ronnie Hawkins)
1:02:45 - Such A Night (with Dr. John)
1:08:32 - Down South in New Orleans (with Dr. John)
1:13:29 - Mystery Train (with Paul Butterfield)
1:19:35 - Caledonia (with Muddy Waters)
1:26:19 - Mannish Boy (with Muddy Waters)
1:33:55 - All Our Past Times (with Eric Clapton)
1:38:37 - Further On Up The Road (with Eric Clapton)
1:45:27 - Helpless (with Neil Young)
1:51:20 - Four Strong Winds (with Neil Young)
1:56:52 - Coyote (with Joni Mitchell)
2:02:00 - Shadows And Light (with Joni Mitchell)
2:07:36 - Furry Sings The Blues (with Joni Mitchell)
2:13:42 - Dry Your Eyes (with Neil Diamond)
2:17:08 - Tura Lura Lural (with Van Morrison)
2:21:13 - Caravan (with Van Morrison)
2:27:20 - Acadian Driftwood (with Joni Mitchell and Neil Young)

  • この時点でザ·バンドのメンバーは3時間以上もステージに出ずっぱりになっており、リヴォン·ヘルムの手からは血が流れていたという。30分の休憩の間、ステージはザ·バンドの友人のサンフランシスコの詩人たちによる、詩の朗読タイムになる。

2:34:18 - Poem (Emmett Grogan)
2:36:02 - Poem (Hell's Angel Sweet William)
2:39:12 - JOY! (Lenore Kandel)
2:40:40 - Prologue to The Canterbury Tales (Michael McClure)
2:42:05 - Get Yer Cut Throat Off My Knife / Revolutionary Letter #4 (Diane DiPrima)
2:45:05 - Transgressing The Real (Robert Duncan)
2:46:50 - Poem (Freewheelin' Frank Reynolds)
2:48:17 - The Lord's Prayer (Lawrence Ferlinghetti)

  • 休憩時間の間、出演15分前になってボブ·ディランが「映画には出たくないからカメラは回さないでくれ」と言ってくるという一大事が起こったらしいが、ビル·グレアムが必死でとりなし、2曲だけ撮影することが許されたのだという。フィナーレに向けて最後の演奏が始まる。

2:49:47 - Genetic Method
2:56:10 - Chest Fever
3:01:56 - The Last Waltz Suite: Evangeline
3:07:34 - The Weight
3:12:52 - Baby Let Me Follow You Down (with Bob Dylan)
3:15:39 - Hazel (with Bob Dylan)
3:19:30 - I Don't Believe You (She Acts Like We Never Have Met) (with Bob Dylan)
3:24:30 - Forever Young (with Bob Dylan)
3:30:09 - Baby Let Me Follow You Down (Reprise) (with Bob Dylan)
3:33:33 - Everyone Comes Onstage
3:36:33 - I Shall Be Released (with Bob Dylan, Ringo Starr & Ron Wood)

  • 「I Shall Be Released」が終わった時、ザ·バンドらしい終わり方だという気がしなかった。とリヴォンは自伝に綴っている。それで隣に座っていたリンゴ·スターとジャムセッションを始めたところ、他のミュージシャンたちもぞろぞろ参加しはじめ、30分ぐらいたったところで「ようやくこれがザ·バンドだという気がしてきて」締めくくりの「Don't Do It」が演奏された。時間は翌日の午前2時を回っていた。


The Last Waltz (Official)

  • セットリストの左の時間は、YouTubeで公開されている「The Last Waltz (Official)」と称する4時間20分の長大な動画におけるタイムテーブルである。なぜこんな映像が残っていたのか想像もつかないし、ボブディラン等々との関係からすれば確実に契約違反のはずなのだが、残っていたものは残っていたのだ。ファンとしては喜ぶべきことなのかもしれないが、しかし映画と比べると余りにチープで悲しくなってしまうので、私はまだ全編を通して見ていない。

The Shape I'm In」という曲をめぐって。個人的にも大好きな曲である。歌詞の内容は結構ヘビーなのだが、曲調はザ·バンドの楽曲の中でも一二を争うぐらいフレンドリーで、聞いているとウキウキしてくる。「お--ーゆどおんのお!」という決め台詞的なフレーズについては、わからず屋の人を相手にした帰り道などに、自転車もしくはバイクの上で何回絶叫したか数えきれない。「何ゆーとんのん?」という関西方言と微妙に響きがカブっていることも、魅惑の秘密のひとつなのだ。

この曲は私の中で、オーティス·レディングの「Dock Of The Bay」とものすごく相性がいい。と言うか、「Dock Of The Bay」を口ずさんでいると必ず途中でこの曲に切り替わってしまうのである。「So I guess I'll remain the same, yes」というオーティスの歌詞を噛みしめた後で、次の「Sittin' here resting my bones…」というフレーズにまともに行けたためしがない。どうしても飛び跳ねながら「Out of nine lives...」と絶叫したくなってしまう。歌詞の翻訳が知りたくてこのページを訪れて下さった皆さんには、全く関係ない話を聞かせてしまって、恐縮なのですけど。

翻訳をめぐって、特に文法的にややこしいところはないのだが(「Go out yonder」というフレーズに「古語」が使われているくらい)、英語圏の人たちは「I'm gonna go down by the water」というフレーズを、「洗礼を受けるために川に行く」というイメージと重ねて聞いているケースが多いらしい。さらに「I'll just be looking for my maker」という歌詞には明らかに「神」に会いに行くというイメージが込められているのだが、英語圏の人たちにとって「神に会う」ということは「死ぬ」ということと同義であるらしい。つまりこの部分では「生と死の葛藤」みたいなテーマが綴られているのだというのが、主だった海外サイトの解釈になっている。

とはいえ、読みようによってはいろんな意味に解釈できる歌詞なのである。原文には「water (水)」としか書かれていないが、それを「川」であると判断しうるのは「down」という言葉が出てくるからだ。高低差のある場所に存在する水。つまりは「流れている水」なのである。それに「沿って歩く」けれども「飛び込むことはしない」というのは、「世間の風潮には流されないぞ」という、ややヒネくれているけど頼もしい決意表明であるようにも読める。また「自分を創造した存在(maker)を探しに行く」というのは、「本質を探求しに行く」というアグレッシブなフレーズでもあると思う。世の中で言われているよりは「前向きな歌」だという印象を私は持っている。

カンに触るのは、後にリチャード·マニュエルが自殺を選んだという事実と重ね合わせて予言者気取りでこの歌を「解釈」したがる人が後を絶たないことである。そうした人たちに対して言いたいことは以前にまとめて書いたので、ここでは繰り返さない。

というわけで今回は以上。次回に乞うご期待。


=楽曲データ=
Released: 1970.8.17.
Key: G