華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Respect もしくは敬意すなわち =追悼アレサ·フランクリン②= (1967. Aretha Franklin)

Aretha Franklin’s signature song was a groundbreaking female empowerment anthem of the late 1960s.
アレサ·フランクリンのテーマ曲ともいうべきこの歌は、1960年代後半、女性に力を与える画期的なアンセムとなった。

Originally a minor hit by Otis Redding in 1965, Aretha’s “Respect” was given a new arrangement and new lyrics about a woman boldly demanding the respect of her man. The song hit #1 on Billboard’s pop chart for 2 weeks in the summer of 1967, causing Rolling Stone to remark “Aretha Franklin has shot out of nowhere and become Lady Soul.”
原曲はオーティス·レディングの1965年のマイナーなヒット曲であり、アレサの「リスペクト」はそれに新たなアレンジと新たな歌詞が与えられていた。自分の男に対してあけすけに自分への「敬意」を求める女性像が、そこでは歌われていた。この歌は1967年の夏に2週間にわたってビルボードのヒットチャートの一位を記録し、ローリング·ストーン誌は「アレサ·フランクリンはどこからともなく現れて、ソウルの貴婦人となった」と記した。

Otis Redding’s original had a significantly different storyline: it’s sung from the perspective of a hard-working man demanding “respect” (a euphemism for sex) from his woman. Engineer Tom Dowd—who worked on both Redding’s version and Aretha’s—suggested covering the song, and created a new arrangement. Aretha and her sisters rewrote the lyrics, including the song’s memorable breakdown:
オーティスの原曲のストーリーラインは、明らかにアレサのものとは違っていた。元々それは、激しく働いた男性が彼の女性に対して「敬意」(「リスペクト」...セックスの婉曲表現)を求める内容だった。アレサにこの曲をカバーし新しいアレンジを加えるよう薦めたのは、オーティスとアレサの両方のバージョンに関わったエンジニアのトム·ダウドだった。アレサとそのきょうだいたちは歌詞を書き換え、あの有名なブレイクダウンが出来上がった。

R-E-S-P-E-C-T
Find out what it means to me
R-E-S-P-E-C-T
Take care, TCB
Sock it to me, Sock it to me, Sock it to me, Sock it to me


“Respect” appeared on Aretha’s 11th album I Never Loved A Man The Way I Love You, her first for Atlantic Records. Its lyrics popularized several phrases, including “taking care of business” and “propers” (which later became “props,” one of the defining slang terms of the hip-hop era). “Sock it to me” became a major meme in the late ’60s—Richard Nixon even used it to help get elected President in 1968.
「リスペクト」はアトランティック·レコードからの最初のアルバムであり、彼女にとって11枚目のアルバムとなる「I Never Loved A Man」に収録された。この歌詞を通じてポピュラーになった言葉が、いくつもある。「TCB(自分のことは自分でやれ)」「propers(正当な評価。後にはpropsと略されるようになり、ヒップホップの時代になるとその文化を象徴するひとつのキーワードとなった)」。「Sock it to me」は60年代後半の有名なミームとなり、1968年にはリチャード·ニクソンが選挙運動で使用したことさえある。

In 2004, Rolling Stone ranked “Respect” at #5 on their list of The 500 Greatest Songs of All-Time. In 2010, the song’s producer Jerry Wexler reflected on Aretha’s career:
ローリング·ストーン誌は2004年、「リスペクト」をかれらの選ぶ「史上もっとも偉大な500曲」の5位にリストアップした。この歌のプロデューサーだったジェリー·ウェクスラーは、2010年にアレサの経歴を以下のように振り返っている。

“Respect” had the biggest impact, with overtones for the civil rights movement and gender equality. It was an appeal for dignity combined with a blatant lubricity. There are songs that are a call to action. There are love songs. There are sex songs. But it’s hard to think of another song where all those elements are combined.
「リスペクト」は、公民権運動や性の平等を求める運動と共鳴して、最大のインパクトを与える曲となった。どぎついまでにいやらしい言葉で、尊厳を求める曲だったんだ。行動を呼びかける歌というものがあるし、ラブソングというものもある。セックスの歌だってある。でもそれが全部ひとつになった歌というのは、この歌の他には思いつかない。

-海外歌詞サイト「Genius」より


Respect (Blues Brothers 2000)

Respect

英語原詞はこちら


What you want
Baby, I got it
What you need
Do you know I got it?
All I'm askin'
Is for a little respect when you get home (just a little bit)
Hey baby (just a little bit) when you get home
(just a little bit) mister (just a little bit)

あんたのほしいものは
ベイビー、あたしが持ってるよ。
あんたに必要なものも
わかってる?
あたしが持ってるんだよ。
あんたに言いたいのは
家に帰ってきた時には
ちょっとは敬意というものを
示してほしいということだけ。
(ちょっとは!)
ねえベイビー(ちょっとは!)
家に帰ってきた時ぐらい(ちょっとは!)
旦那さん(ちょっとは!)


I ain't gonna do you wrong while you're gone
Ain't gonna do you wrong 'cause I don't wanna
All I'm askin'
Is for a little respect when you come home (just a little bit)
Baby (just a little bit) when you get home (just a little bit)
Yeah (just a little bit)

あんたがいない時にも
あたしはあんたに対して何も
間違ったことはしないよ。
何も間違ったことはしない。
やりたいとも思わないもん。
あんたに言いたいのは
家に帰ってきた時には
ちょっとは敬意というものを
示してほしいということだけ。
(ちょっとは!)
ねえベイビー(ちょっとは!)
家に帰ってきた時ぐらい(ちょっとは!)
いえい(ちょっとは!)


I'm about to give you all of my money
And all I'm askin' in return, honey
Is to give me my propers
When you get home (just a, just a, just a, just a)
Yeah baby (just a, just a, just a, just a)
When you get home (just a little bit)
Yeah (just a little bit)
Ooo, your kisses
Sweeter than honey
And guess what?
So is my money
All I want you to do for me
Is give it to me when you get home (re, re, re ,re)
Yeah baby (re, re, re ,re)
Whip it to me (respect, just a little bit)
When you get home, now (just a little bit)

あたしの持ってるお金は全部自由に
使ってくれていいと思ってるんだよ。
そのかわりあんたにお願いしたいのは
ハニーあたしのことを
正しく評価してほしいってこと。
家に帰ってきた時ぐらい
(ちょっとはちょっとはちょっとは)
いえいベイビー
(ちょっとはちょっとはちょっとは)
ああああんたのキスは
はちみつより甘いよ。
それで何が言いたいかわかる?
あたしのお金もそうなのよ。
あんたに言いたいのは
家に帰ってきた時には
ちょっとは敬意というものを
示してほしいということだけ。
(りーりーりーりー)
いえいベイビー(りーりーりーりー)
しゃんとしなさいよあたしのために。
(リスペクト、ちょっとは!)
家に帰ってきた時ぐらい(ちょっとは!)


R-E-S-P-E-C-T
Find out what it means to me
R-E-S-P-E-C-T
Take care, TCB

RESPECTという言葉があたしにとって
何を意味しているかを考えなさい。
R-E-S-P-E-C-T 気をつけなさい。
自分のことは自分でやりなさい。


Oh (sock it to me, sock it to me
Sock it to me, sock it to me)
A little respect (sock it to me, sock it to me
Sock it to me, sock it to me)
Whoa, babe (just a little bit)
A little respect (just a little bit)
I get tired (just a little bit)
Keep on tryin' (just a little bit)
You're runnin' out of fools (just a little bit)
And I ain't lyin' (just a little bit)
(re, re, re, re) When you come home
(re, re, re ,re) 'spect
Or you might walk in (respect, just a little bit)
And find out I'm gone (just a little bit)
I got to have (just a little bit)
A little respect (just a little bit)

あー!
(ズバッと言ってちょーだい
バシッと行ってちょーだい
ドカッとやってちょーだい
一発かましてちょーだい)
ちょっとぐらいは敬意というものを
(ズバッと言ってちょーだい
バシッと行ってちょーだい
ドカッとやってちょーだい
一発かましてちょーだい)
あたしゃ疲れたよ(ちょっとだけ)
がんばり続けてちょーだい(ちょっとだけ)
あんたは「runnin' out of fools」してるのね
(ちょっとだけ)
あたしはウソなんかつかないよ。
(ちょっとだけ)
帰ってきた時ぐらいは
(りーりーりー)すぺくとしてちょーだい。
そうでなければ家に入ってきても
(リスペクト、ちょっとは!)
あたしはいなくなってるから。
(ちょっとは!)
あたしには必要なんだな。(ちょっとは!)
ちょっとした敬意というものが。


Respect

=翻訳をめぐって=

上の映像は映画「ブルース·ブラザーズ2000」からのもの。前作では連れ合いのマットと小さなソウルフード店をやっていたアレサさん(正しくは「アリーサ」と発音されるらしいことを、今回の逝去報道を通じて初めて知りました)が、店を放り出してブルースブラザーズと旅に出ようとするマットに向かって猛烈な勢いで「Think」を歌い、考え直すことを要求したわけだけど、「2000」でも全く同じシーンで、アリーサさんの押しも押されぬこの代表曲が歌われている。

歌の終わりに出てくる台詞は

Listen, Matt. You ain't all of that, cat.
And Elwood, you ain't no good.

マット、聞きなさい。あんたはこんな連中と一緒にいるようなタマじゃないんだからね。そしてエルウッド。あんたはろくでなしよ。

という二行。(「cat」というのは「子猫ちゃん」みたいな意味かと思ったのだが、「クールな男性」のことを「cat」と表現する場合もあるらしいことをスラング辞典で知った。知らんのやけど)。けれどもマットがシュンとして物欲しそうな顔で自分のことを見ているのに気づくと

Matt, this is something I really don't want you to do. For heaven's sake, if this is what you'll be like to live with, go ahead.
マット。私はあんたに絶対やめてほしいって思ってる。後生だからね。でもそれが本当にあんたのやりたいことだって言うんだったら、行きなさい。

と声をかけ、今度は自分から旅立ちを許してくれている。18年という時間がそうさせたのか、金持ちの自動車ディーラーになって暮らしに余裕ができたからなのかは分からないけれど、えらく「丸くなっている」のである。そこが前作と比べると何となく物足りなくもあるし、一方で観る人間にいろんな感慨を引き起こすシーンにもなっていると思う。この「2000」が公開されてからでさえ、既に20年もの時間が流れてしまっているのだな。

「Respect」という言葉には実は「かなりどぎつくえろい意味」も含まれていたのだということを、今回の翻訳作業に取りかかるまで私は全然知らずにいたのだけれど、知ったら知ったで

単に男女の恋愛を描いた曲でも、アレサが歌うとまるで人類愛を歌っているように聞こえる

というWikipediaで紹介されていた世評がいっそう胸に迫って感じられる。聞き続けることで、追悼に代えて行きたいと思う。

What you want
Baby, I got it
What you need
Do you know I got it?

オーティス·レディングの原曲では、ここで2回出てくる「I got it」が両方とも「you got it」になっていたのだという。つまりこの歌はもともと

おまえのほしいものは
何でも与えてやってるだろう?
おまえに必要なものは
何でもそろえてやってるだろう?

と、男の側から恩着せがましい言い方をすることで、女性に対して「それに満足すること」を強要する歌だったのだ。それをアリーサさんは

あんたのほしいものは
ベイビー、あたしが持ってるよ。
あんたに必要なものも
わかってる?
あたしが持ってるんだよ。

と、文字通り完全に引っくり返した。この歌が「革命的な歌」として受け入れられたのも、当然のことだったに違いないと思う。2016年のインタビューで、アリーサさんは以下のように語っている。

As women, we do have it. We have the power. We are very resourceful. Women absolutely deserve respect. I think women and children and older people are the three least-respected groups in our society.
女性として、私たちはそれ(リスペクトを受ける権利?)を所有している。私たちには力がある。私たちは能力と可能性に満ちている。女性は完全に、敬意を受けるに値する存在だ。女性と子どもと老人は、私たちの社会の中で最も敬意を払われていない3つのグループだと私は考えている。

そしてこの後に続く「All I'm askin' is for a little respect when you get home 」という歌詞でも、アリーサさんは「when I get home」というオーティスの原詞を「you」に変えている。オーティスは「家に帰ってきたオレに敬意を払え」と歌っていたのに対し、アリーサさんは「ずっと家にいたアタシに敬意を払え」と言ってみせたわけである。さらに「Respect」という言葉には「敬意」と同時に「ごほうびのセックス」と言うか「正当な見返りとしてのセックス」みたいな意味が含まれているわけだけど、それが男の側から口にされるか女性の側から口にされるかによって、やっぱり意味は変わるのだ。すごく、緊張感に満ちた歌だと思う。

I ain't gonna do you wrong while you're gone
Ain't gon' do you wrong 'cause I don't wanna

この部分はオーティスの原詞では「Do me wrong, honey, if you wanna / You can do me wrong, honey, while I’m gone」となっている。「もしおまえが望むなら、おれがいない間に浮気したっていいんだぜ」という風に読める歌詞で、これはどう解釈すべきなのだろう。寝盗られ宗介的な愛情表現の一貫なのだろうか。それをアリーサさんは「私はあんたを裏切ったりしない」と歌い変えている。その真面目さに、迫力が際立っている。

And all I'm askin' in return, honey
Is to give me my propers

「propers」という言葉が「こういう使い方」をされた最初の例がこの歌であるらしく、「正当な評価」という意味が込められているらしい。それを省略した言い方として「prop(s)」という言葉が生まれ、ヒップホップの歌詞の世界では相手に敬意を評する時や、また自分の支持者のことを呼ぶ言葉として、広く使われているらしい。私は全然聞かないから、知らないのだけど。

同時に「prop」という言葉には「支え/支柱」という意味があり、それで直訳すると「私が見返りに求めるのは支柱だけ」という、読みようによってはかなりえろいイメージを喚起しないでもない字面になるのだが、落ちついて考えよう。「propers」は複数形である。だからここでの「proper」によしんば「支柱」という意味が含まれているとしても、相手の男性が一人である以上、その「支柱」には別にえろいイメージが込められているわけではないのである。

...わざわざ書かねばならないほどのことだったのだろうか。

Ooh, your kisses, sweeter than honey And guess what? So is my money

ここもオーティスの歌詞では「Hey, little girl, you’re so sweeter than honey / And I’m about to just give you all of my money」となっているのに、アリーサさんが改編を加えている。オーティスは「おれのカネは全部おまえにやってもいい」と言ってるわけだが、そういう風に男がカネのことをチラつかせて女性より優位に立とうとすることに対し、アリーサさんは「自分は経済的に自立している」ということを正面から突き出してそれをピシャリとハネつけていることになる。

R-E-S-P-E-C-T
Find out what it means to me
R-E-S-P-E-C-T
Take care, TCB

「TCB」は「Take Care Business」の略語で、「自分のことは自分でやりなさい」という意味になる。この歌を通じて、メジャーになった言い方らしい。

ただし、かなりのアメリカ人の耳にはこの部分が「Take out TCP (TCPを取りなさい)」と聞こえているらしく、「R-E-S-P-E-C-TからT-C-Pを取ったらR-E-S-Eになるけれど、RESEって何なのだ?」ということを真剣に考え込んでいる人たちの姿が、ネットを見渡してみるとかなり見つかる。(そしてRESEという文字列に意味はない)。けれどもこれは完全に「単なる聞き間違い」らしいので、迷う人がいてもいけないから、付記しておきたい。

sock it to me, sock it to me
Sock it to me, sock it to me

RCサクセションの「スイート·ソウル·ミュージック」を通じて、私の耳にも大昔から馴染みのあったフレーズ。「さけとめさけとめ」と聞こえる響きが妙に日本語的で、親しみを感じていたのだが、意味をまともに調べたことは、今まで一度もなかった。

「sock」とは「強烈な一撃」を意味する名詞であるらしく、「sock it to me」を直訳すると「私のためにそれに強烈な一撃を与えて下さい」みたいな意味になる。どういうことなのだろうと思ってさらに調べると、「Fuck me hard」とか「Give me your best shot」とかいった、見たこともないくらいえろい言葉による「解説」が次々と出てきたもので、一時私は完全に面食らってしまったのだが、考えてみれば日本語でも「一発かます」などという、語源を類推するならものすごくえろえろしい言葉を、何も知らない小学生が野球の応援歌で大声で歌っていたりしてしかもそれは全部えろえろしくないのだから、「sock it to me」も「その程度の言葉」だと解釈しておくのが一番実情に近いのではないかと思う。だから上述のように、ニクソンが選挙運動に使うこともできたりしたわけなのだろう。

現在では「sock it to me」は「tell me」という意味で使われることが一番多いとスラング辞典にはあり、「ガツンと言ってちょーだい」みたいな感じになるのだと思う。それに「強烈な一撃」という原義から類推されるいろいろな意味内容をくっつけて、結局上記のような形で意訳した。「ちょーだい」という言い方にどうしても余計なイメージがくっついてくることが、気になってはいるのだけれど。

You're runnin' out of fools

「Runnin' out of fools」は「Respect」の前に出たアリーサさんのヒット曲のタイトルで、ここではそれが歌詞の中にアドリブで採り入れられているらしい。どういう背景があるにせよ「fool」は「精神病者」に対する差別表現であり、あらゆる差別を許さないという立場に立つなら、歌詞にできる言葉でもなければ「翻訳」できる言葉でもない。ここでは原文をそのまま転載しました。

ではまたいずれ。

と言ってしまってから、アリーサ·フランクリンさんにはもうこの言葉が届かなくなってしまっていることに気づく。

生きてる人間は生きてる人間として、これからも生きてる人間のやるべきことをしっかり続けて行かねばならないと思うし、その中で一番大切なことが「死んだ人のことを忘れない」ことなのだと思います。

R.I.P. (requiescat in pace=rest in peace)


=楽曲データ=
Originally sang by Otis Redding in1965.
Released: 1967.4.29.
Key: C

Respect

Respect