華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

(You Make Me Feel Like) A Natural Woman もしくはナチュラルウーマン =追悼アレサ·フランクリン③= (1967. Aretha Franklin)


(You Make Me Feel Like) A Natural Woman

アリーサ·フランクリンさん(「アレサ」という発音では本人に言っても伝わらなかったということをこのかんのネット記事を通じて知ったので、今後はこのブログでも表記を改めることにしたいと思います。名前の呼び方って、大切なことだと思うのです)が危篤状態に陥ったというニュースが流れて以来、上に貼りつけた動画の紹介をあちこちで目にするようになって、その流れで私も初めて、見ることになった。そしてやはり、すごいと思った。

この動画は、2015年に「ケネディセンター名誉賞」の受賞者となったキャロル·キングを讃えるための祝賀公演の、クライマックスシーンの様子なのだそうである。「ケネディセンター名誉賞」というもの自体を私は知らなかったのだが、1978年以来毎年アメリカで「優れた芸術家に対して送られている賞」なのだとのことであり、「受賞者の発表は9月のレイバー·デー期間、祝賀公演は例年12月にジョン·F・ケネディ·センター歌劇場で開催され、その模様はCBSで中継録画される。授賞式は12月第1日曜日にホワイトハウスにて大統領夫妻から贈呈される」のだとのことで、アメリカでは大層「名誉ある賞」だと見なされているらしいことがうかがえる。(カッコ内は「Wikipedia」からの引用)

私は元々こういう「セレブの式典」みたいなものに、全然心を奪われるタイプの人間ではない。アメリカのものである場合、なおさらそうである。それがゴージャスなものであればあるほどに、アメリカという国家が世界中のいろんなところでどんな風にいろんな人たちを抑圧しているかということを自慢げに見せつけられているような感じがしてきて、心が寒くなる。

「賞を授ける主体」がアメリカ大統領だというのは、なおさらゾッとしない話だ。アメリカという国家が建国されて以来、その手を血に汚していない大統領というものは一人も存在しない。上の動画に出てくるオバマは確かに「トランプよりはマシ」だったかもしれないけれど、イラクやアフガンでの戦争政策は継続し続けていたし、沖縄への新基地建設の最高責任者であり続けていたわけだし、原爆投下を「謝るためでなく居直るため」に、核ボタンの入ったカバンを部下に持たせたまま広島に乗り込むという、決して許せない行為に踏み込んできた人物でもある。そんな人間と同席したり、あまつさえそんな人間から賞を与えられて喜んだりすることのできる人間は、その時点で同罪なのだと言わねばならないだろう。

ということを頭では分かっているのだけれど、上の動画にはやはり圧倒されてしまった。

動画の冒頭に出てくるのは、キャロル·キング本人に扮したブロードウェイの女優さんである。(受賞祝賀公演の全体を収録した20分ぐらいの動画も見たけど、この女優さんが進行役になって、貴賓席のキャロル·キング本人を喜ばせたり赤面させたりしながらその半生の功績を紹介してゆくというのが、ショーの内容だった。すごく、アメリカ的だった)。最初に「ジェリー(·ゴフィン)と私は離婚したけど今でもいい友だちよ」みたいなことが言われ、「そのジェリーと作った最後の大ヒット曲」としてこの歌のことが紹介される。「『つづれおり』の中で私も自分で歌ってるけど、彼女が歌うのとは全然違ってる。なぜって、アリーサ·フランクリンはたった一人しかいないから!」という最後の台詞に合わせて演奏が始まり、ものすごくラグジュアリーなステージにものすごくトレメンダスな格好をしたアリーサさん本人が登場してくる。毛皮だ。指輪だ。何が入ってるのか不明だがキンキラキンのハンドバッグだ。目がチカチカしてくる。

受賞者の証である虹色の襟章をつけたキャロル·キングが、観覧席から夢中で投げキスを送っている。アリーサさんも投げキスでそれに応じる。その風格がまた、圧倒的である。

アリーサさんがピアノの前に座ると、キャロルキングは口をとんがらかしてビックリしている。本人が演奏してくれるとは思わなかった、という驚きなのだろうか。とにかくこのキャロルキングのはしゃぎ方だけでも、この動画は何度でも繰り返し見たくなる。

アリーサさんが歌い出したら歌い出したで、またまたビックリしている。自分で作った歌なのだから、何の歌か分かってビックリしたということでは、ないのだと思う。だとしたら何にビックリしているのだろう。出てきた声が余りに素晴らしかったからなのだろうか。きっとそうなのだろう。しかし何百回も聞いてきたはずの歌で、今さらそんなにビックリすることって、あるのだろうか。あるのだろうな。それがこの動画なのである。

歌詞の一行目が終わったところで、オバマが早くも涙ぐんでいる。多分、いろいろな思い出が甦ってきたのだろう。アメリカ大統領などというものは基本的に嘘つきでしかないということが分かっていても、これは多分本当に泣いているのだろうなと思わずにいられない。だって、早すぎるから。アリーサさんの声にはそれだけ「即効性」があるということなのだ。

二番の途中では、完全に目を裏返してしまったキャロルキングの顔が、一瞬映し出される。すぐに我に返るのだけど、人間、本当に感動している時にはああいう顔になるのだということを、今さらながら勉強させられたような気持ちになってしまう。

そしてアリーサさんがマイクを握ってピアノから立ち上がる。毛皮のコートを脱ぎ捨てるとそれを合図にしたように、客席が一斉に立ち上がる。まるで雪崩か何かの自然現象を見ているようである。と言うよりこれは、人間が計算づくで引き起こしたり再現したりすることなどおよそ不可能な、自然現象そのものを記録した動画なのである。本当にものすごいコンサートでは、こういうことが起こるのだ。

一瞬だけ映し出される同時受賞者のジョージ·ルーカスは、キャロルキングの隣で茫然とした表情を浮かべている。この人はこの人で、感動にすっかり我を忘れているのである。その感動はこれからこの人が作る映画をどんな風に変えてゆくのだろうか。そしてこの会場にいた人や、この動画を見ている何千万人もの人の人生をも、どんな風に変えてゆくことになるのだろうか。感慨は尽きない。

そして最後に深々と一礼するアリーサさんの姿に、改めて世界はもう二度とこんなパフォーマンスを目にすることはできないのだという現実を突きつけられているような思いがする。昨日の夜中に逝去のニュースが流れてから、何度も繰り返してこの動画を見ている。きっと、これからもっと、伝説になってゆくに違いない。

タイトルの「Natural Woman」は、直訳すればもちろん「自然な女性」みたいな意味になるのだけれど、およそ別な言葉に置き換えることのできるフレーズだとは思えなかった。きっと歌う人や聞く人それぞれの中で、その人だけの回路を通じて本当の意味が「発見」されてゆくような、そういうタイプの言葉なのだと思う。だから試訳の中でこの言葉は、音訳するにとどめてあります。三回にわたってお送りしてきたアレサ(アリーサ)·フランクリン追悼特集は、以上をもって終了です。

改めて、聞き続けてゆきたいと思います。

(You Make Me Feel Like) A Natural Woman

英語原詞はこちら


Looking out on the morning rain
I used to feel so uninspired
And when I knew I had to face another day
Lord, it made me feel so tired
Before the day I met you
Life was so unkind
You're the key to my piece of mind

外に降る朝の雨を眺めても
何も感じなくなってしまっていた。
また新しい一日を迎えないと
いけないのかと思うとかみさま
私はうんざりしていた。
あなたに出会ったあの日まで
人生はあんなにも冷たいものだった。
私の心を開けてくれるカギ
それがあなたなんだ。


Because you make me feel
You make me feel
You make me feel
Like a natural woman

だってあなたといると私は
自分のことを
自分のことを
ナチュラル·ウーマンなんだって
思えるから。


When my soul was in the lost and found
You came along to claim it
I didn't know just what was wrong with me
Till your kiss helped me name it
Now I'm no longer doubtful
Of what I'm living for
And if I make you happy
I don't need to do more

私のたましいが
落し物センターに行っていた時
引き取りに来てくれたのは
あなただった。
自分の何がおかしくなってしまったのか
私には全然わからなかったし
それに名前をつけることもできなかった。
あなたがキスしてくれるまで。
自分が何のために生きているのか
今ではもう迷わない。
あなたを幸せにすることさえできれば
他にはもう何も要らない。


Because you make me feel
You make me feel
You make me feel
Like a natural woman

だってあなたといると私は
自分のことを
自分のことを
ナチュラル·ウーマンなんだって
思えるから。


Oh baby, what you done to me
What you have done to me
Made me feel so good inside
Good inside
And I just want to be close to you
Want to be
You make me feel so alive

ああベイビー
あなたが私にしてくれたことが
あなたが私にしてきてくれたことが
私を内側から
とてもいい感じにさせてくれた。
内側からいい感じに。
そして私はただ
あなたのそばにいたい。
いたい。
自分は生きてるんだって気持ちに
すごくなれるから。


Because you make me feel
You make me feel
You make me feel
Like a natural woman

だってあなたといると私は
自分のことを
自分のことを
ナチュラル·ウーマンなんだって
思えるから。


=楽曲データ=
Co-written by Carole King and Gerry Goffin
Released: 1967.
Key: C

(You Make Me Feel Like) A Natural Woman

(You Make Me Feel Like) A Natural Woman