華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Slippin' And Slidin' もしくはラストワルツ特集 #8 (1956. Little Richard)

#7 The Weight#9

  • 長椅子に寝そべったリチャードが言う。

Richard: Well, we were The Hawks.
リチャード:んーと、な。おれたちは、ザ·ホークスだったんだ。

  • カメラ、切り替わってロビーを映し出す。

Robbie: Everything was fine. We were sailing along. And all of a sudden, one day, The Hawks meant something else altogether.
ロビー:すべては順調だった。我々は波に乗って航海していた。それである日突然、ザ·ホークスは、それまでとは全然違った何かになってしまったんだ。

  • 再びリチャードの映像。

Richard: It was right in the middle of that whole psychedelia. "Chocolate Subway". "Marshmallow Overcoat". Those kind of names.
リチャード:サイケデリックの時代のど真ん中になってた。「チョコレートの地下鉄」だとか、「マシュマロのオーバーコート」だとか、そういう名前のやつだ。

  • 再びロビーの映像。

Robbie: When we were working with Bob Dylan and we moved to Woodstock, everybody referred to us as The Band. He called us The Band. Our friends and neighbours called us The Band.
ロビー:ボブ·ディランと一緒に仕事をするようになって、我々はウッドストックに移ったんだが、みんなが我々のことを「ザ·バンド(あのバンド)」と呼ぶようになった。ボブは我々を「ザ·バンド」と呼んだし、友だちも隣人たちもみんな「ザ·バンド」と言うようになった。

  • みたびリチャードの映像。

Richard: And we started out with The Crackers. We tried to call ourselves The Honkies. Everybody kind of backed off from that, you know? It was too straight. So we decided just to call ourselves The Band.
リチャード:それでおれたちは「クラッカーズ」って名前でスタートしたんだ。自分たちのことを「ホンキーズ」って呼ばせようとしたんだけど、みんな何て言うか、引いちゃってさ。「ストレートすぎる」って。それで結局おれたちは自分たちのことを、「ザ·バンド」って呼ぶことに決めたんだ。


The Weight

The Weight

詳しい翻訳記事はこちら


I pulled into Nazareth, was feelin' about half past dead;
I just need some place where I can lay my head.
"Hey, mister, can you tell me where a man might find a bed?"
He just grinned and shook my hand, and "No!", was all he said.

ナザレスの街で
乗り物から降りた。
おれは半分
死んだみたいな気持ちになっていた。
とにかく横になれる場所がほしかった。
考えていたのはそれだけだ。
「ねえお兄さんこの辺で
泊めてくれるような場所はないかな」
そいつは歯を見せて笑うと
おれの手を握って
「ないね」と言った。
それだけだった。


Take a load off Fanny, take a load for free;
Take a load off Fanny, And (and) (and) you can put the load right on me.

ミス·ファニーから
荷物をひとつ受け取ってくれ
一文の得にもならないけれど
引き受けるしかないことなんだ。
ミス·ファニーから
荷物を受け取ったなら
そいつはおれに預けていいよ。


I picked up my bag, I went lookin' for a place to hide;
When I saw Carmen and the Devil walkin' side by side.
I said, "Hey, Carmen, come on, let's go downtown."
She said, "I gotta go, but m'friend can stick around."

自分のカバンを拾い上げ
どこかに隠そうと歩き出した時
カルメンと悪魔が
並んで歩いて来るのが目に入った。
「よおカルメン、来いよ。
一緒にダウンタウンに行こうぜ」
とおれが言ったら
「あたしは行きたいんだけどね。
でもこの友だちも
一緒についてくることになるよ」
と彼女は言った。


Take a load off Fanny, take a load for free;
Take a load off Fanny, And (and) (and) you can put the load right on me.

ミス·ファニーから
荷物をひとつ受け取ってくれ
一文の得にもならないけれど
引き受けるしかないことなんだ。
ミス·ファニーから
荷物を受け取ったなら
そいつはおれに預けていいよ。


Go down, Miss Moses, there's nothin' you can say
It's just ol' Luke, and Luke's waitin' on the Judgement Day.
"Well, Luke, my friend, what about young Anna Lee?"
He said, "Do me a favor, son, woncha stay an' keep Anna Lee company?"

行くがいい。ミス·モーゼス。
あんたが言うべきことは何もない。
そいつは昔なじみのルークだよ。
最後の審判の日を待ってるんだ。
「なあルークよ。
アンナ·リーの姉ちゃんはどうしてる?」
「悪いけどおまえさ。
ここに残ってアンナ·リーと
つきあってやっちゃくれないか」
とルークは言った。


Take a load off Fanny, take a load for free;
Take a load off Fanny, And (and) (and) you can put the load right on me.

ミス·ファニーから
荷物をひとつ受け取ってくれ
一文の得にもならないけれど
引き受けるしかないことなんだ。
ミス·ファニーから
荷物を受け取ったなら
そいつはおれに預けていいよ。


Crazy Chester followed me, and he caught me in the fog.
He said, "I will fix your rack, if you'll take Jack, my dog."
I said, "Wait a minute, Chester, you know I'm a peaceful man."
He said, "That's okay, boy, won't you feed him when you can."

Crazyのチェスターが追いかけてきて
霧の中でおれに追いついた。
「おれのジャックを連れて行ったら
おまえの前歯をへし折るぞ。
ジャックだよ。おれの犬だよ」
と言うのだった。
「ちょっと待ってくれよチェスター。
おれはピースフルな男だぜ」
と言ったら
「ならオーケーだ。
時間がある時には
ジャックにエサをやっといてくれよ」
とチェスターは言った。


Take a load off Fanny, take a load for free;
Take a load off Fanny, And (and) (and) you can put the load right on me.

ミス·ファニーから
荷物をひとつ受け取ってくれ
一文の得にもならないけれど
引き受けるしかないことなんだ。
ミス·ファニーから
荷物を受け取ったなら
そいつはおれに預けていいよ。


Catch a cannon ball now, t'take me down the line
My bag is sinkin' low and I do believe it's time.
To get back to Miss Fanny, you know she's the only one.
Who sent me here with her regards for everyone.

弾丸列車をつかまえて
おれは線路の人になろう。
おれのカバンは
ずっしり重たくなってしまった。
潮時というやつなんだろう。
ミス·ファニーのところに
戻るとするか。
彼女はね。
自分の望みをみんなに伝えるために
おれをこの地につかわした
たった一人の存在なんだ。


Take a load off Fanny, take a load for free;
Take a load off Fanny, And (and) (and) you can put the load right on me.

ミス·ファニーから
荷物をひとつ受け取ってくれ
一文の得にもならないけれど
引き受けるしかないことなんだ。
ミス·ファニーから
荷物を受け取ったなら
そいつはおれに預けていいよ。




「crazy」という言葉は「精神病者」に対する差別語です。ここでは原文のまま転載しました。

nagi1995.hatenablog.com
ザ·ウェイトの歌詞は上記リンクで翻訳済み。ザ·バンド関係の翻訳の中では今のところ一番文字数の多い記事になっているのだけれど、スッキリした訳詞は、いまだに未完成のままになっている。

この歌のコーラス部分の解釈をめぐる課題を改めてまとめておくならば、

  • Take a load off Fanny」というフレーズには「荷物を下ろせ、ファニー」説と「ファニーから荷物を受け取れ」説がある。
  • And you (can) put the load right on me」というフレーズには「その荷物は俺に預けていいよ」説と「そしたらお前はその荷物を俺に押しつけやがった!」説がある。
  • 英語話者のあいだでもこの部分をどう解釈するかは意見が別れており、どの読み方が「正しい」かという結論を下すことは、ロビー·ロバートソンが沈黙を守っている以上、誰にもできない。

...というわけで私の記事も文字数の割に歯切れの悪い内容にならざるを得なかったわけなのだけど(ちなみに「take a load for free」というフレーズも誤解されがちなのだが、これは明らかに「荷物をひとつ無償で引き受けてくれ」という意味である)、「正解がない」ことだけはこれほどハッキリしているのだから、開き直って各人が各人なりの解釈を持っていればそれでいいのではないかと最近では思う。文法的に無理のある誤読にこだわることは、考えものだと思うけど。

ラストワルツの映画には、ステイプル·シンガーズとのコラボレーションで演奏されたこの曲のゴスペルバージョンが収録されている。先頃物故されたアレサ·フランクリンさんによるカバーも、併せて貼りつけておきたい。


The Weight

このシーンではリチャードとロビーによって「ザ·バンド」というバンド名の由来が語られているのだが、その名前に決まるまでの行きさつが、リヴォン·ヘルムの自伝では以下のように語られている。

I recall one meeting at Big Pink where we actually had to come up with a name for the band.
バンドの名前を決めなきゃならなくなって、ビッグピンクでミーティングをやったことを覚えてる。

Rick said, “Let's have some real pretentious bullshit name."
「思い切りもったいぶった、ふざけた名前にしようぜ」とリックが言った。

"How about the Chocolate Subway?" Richard suggested. “Or Marshmallow Overcoat."
「チョコレート·サブウェイってのはどうだ?」とリチャードが提案した。「さもなきゃ、マシュマロ·オーバーコート」。

Laughter. I said, "Tell it like it is. Tell 'em who are: the Honkies!" I always was the provocative type.
笑いが起こった。おれは言った。「名は体を表すって言うだろ。おれたちはこれですって言ってやろうぜ。ザ·ホンキーズ!」おれは昔から挑発的なタイプなんだな。

I had suggested we could modify it to the Crackers. Crackers were poor southern white folks, and as far as I was concerned, that was the music we were doing. I voted to call it the Crackers and never regretted it. That's how Capitol signed the band, in any case.
それをもうちょっとやわらげて、「ザ·クラッカーズ」にしたらどうかとおれは提案した。クラッカーというのは、南部で貧乏な白人のことを呼ぶ言い方だ。そしておれに言わせるなら、それこそがおれたちのやってた音楽のなまえだった。おれはクラッカーズに投票したし、それを後悔したことは一度もない。何はともあれ、キャピトルとはその名前で契約した。

When the album was eventually released on July 1, 1968, we were shocked to find it credited not to the Crackers but to a group called...”The Band".
アルバム(ミュージック·フロム·ビッグ·ピンク)が1968年7月1日にとうとう発売された時、おれたちはクラッカーズという名前がクレジットされていないことに驚いた。代わりにそこに載っていたのは、「ザ·バンド」という名前だった。

Well, it was us. That's what Woodstock people called us locally: the band. When the people on the other side of the desk at Capitol didn't want to release an album called Music From Big Pink by the Crackers, they just went and changed our name!
うーん。それがおれたちだった。それはウッドストックの人たちが地元でおれたちを呼ぶ時の言い方だった。キャピトルのデスクの向こう側にいた人らは、「ミュージック·フロム·ビッグ·ピンク By ザ·クラッカーズ」というアルバムをリリースするのが気に入らなかったんだろう。それでおれたちの名前を変えたんだ!

You know, I thought the Crackers was a funny name, and still do. I was shocked when I first heard about "The Band." Calling it The Band seemed a little on the pretentious, even blowhard, side-burdened by greatness- but we never intended it that way. I voted for the Crackers, though.
まったく、おれは「ザ·クラッカーズ」をいかした名前だと思ってたし、今でも思ってるんだぜ。「ザ·バンド」って名前を最初に聞いた時は、ショックだったよ。「ザ·バンド」なんてキザだし、自慢たらしいし、それに…偉大さを鼻にかけてるような感じじゃないか。でも、おれたちは全然そんな名前を名乗りたいとは思ってなかった。おれは、クラッカーズに投票したんだけどね。

...「チョコレートの地下鉄」や「マシュマロのオーバーコート」は、リチャード自身の発案だったのだな。いずれにしても複数の方面からの話を総合してみると、「伝説」の全体像が見えてくる感じがする。つまりは、「偉大さを鼻にかけてるようなキザで自慢たらしいバンド名」を不快に思うメンバーと誇らしく思うメンバーの両方があのバンドには在籍していて、結局後者の側の意見が勝利を収めたということなのだと思う。でもってそういうのを「誇りたがる」タイプのメンバーというのは、私の知る限りあのバンドには1人しかいなかったはずである。

ちなみにそのメンバーの根性と言うか性根と言うか人となりと言ったようなものを一番露骨に垣間見せてくれるのは、ボブ·ディランの自伝の一節に書かれていた以下のようなエピソードであると、前々から私は感じている。ディランがウッドストックに引っ込んでいた当初、ザ·バンドとしてデビューする直前のホークスのメンバーとツルんでいた時期に、ロビーの運転する車で走っていた夏の日の出来事だったとのことである。

He says to me, "Where do you think you're gonna take it?"
I said, "Take what?"
"You know, the whole music scene."
The whole music scene! The car window was rolled down about an inch. I rolled it down the rest of the way, felt a gust of wind blow into my face and waited for what he said to die away- it was like dealing with a conspiracy. No place was far enough away.


ロバートソンが「これから、どこへ持っていこうと思ってる?」と訊いてきた。
「どこへって?何を?」とわたしは訊きかえした。
「音楽シーンをどうするかってことさ」
音楽シーンだって!車の窓は少し開いていた。わたしはそれを全開にし、強い風を頭に当てて、彼のことばが頭から消えるのを待った――まるでふたりで音楽シーンをどうにかしようとしているみたいな言い方だ。どこまで逃げても逃げ切れなかった。


(菅野ヘッケル訳。イラストは今回も、葉踏舎管理人のマリノさんの作品集から転載させて頂きました)

…まあ、ディランという人にだってこのエピソードのほんの数年前には、ロビロバ氏どころでなく生意気だった季節が確実に存在していたはずなのだから、ここでこんな風にカマトトぶったことを書くのはイヤらしくて卑怯なやり口だと私は思う。それにしても十数年前にこの本が発売された時、ロビロバ氏はどんな顔をしてこのくだりを読んでいたのか、今でも気になってしまう。今年の秋には彼氏の自伝の日本語訳も出版されるらしいけど、そのあたりのことは、書いてあるのかな。

ロビー・ロバートソン自伝

ロビー・ロバートソン自伝

ところで、バンド名の候補として「ホンキーズ(Honkies)」という案も上がっていたらしいという件について。私はリヴォン·ヘルムという人を基本的に良心的な人だったと思っているのだけれど、趣味のいいアイデアだったとはとても思えないので、付言しておきたい。

大抵の英和辞典では、「honkie」という言葉に「黒人が白人に対して使う蔑称」という説明が与えられている。原義としては「悪臭を放つやつ」、ニュアンスとしては「白人野郎」みたいな感じで使われている言葉なのだと思う。だが、白人による黒人への差別が存在している社会において、白人が黒人のことを「黒人野郎」と呼ぶことは「蔑称」以外の何ものでもないにせよ、黒人が白人のことを「白人野郎」と呼ぶことは、「怒りと憎悪の込められた表現」ではありえても「蔑称」にはなりえないはずである。

時々「逆差別」という言葉を使ってみせたがる人間がいるけど、そういう言葉を使える人間というのはその時点で差別者に他ならないと私は感じている。「逆差別」などというものは、およそこの世には存在しないのである。なぜなら差別というものは「支配する側の人間集団」と「支配される側の人間集団」とのあいだの「平等でない力関係」の上に成立しているものであり、その力関係そのものが革命によって逆転させられることでも起こらない限り、「蔑まれる側が蔑み返す」関係など、成立しうるはずかないからだ。女性が男性のことを「オトコ」と呼び捨てにする場合、それは「怒りと憎悪の表現」ではありえても「蔑称」ではない。けれども男性が女性のことを「オンナ」と呼び捨てにするならば、それは相手の命をも奪うような「蔑称」として機能する。差別というのは、常にそんな風に「一方的」な形で成立しているものなのだ。

日本が朝鮮半島に対する侵略を開始した時期に生まれた朝鮮語として、「チョッパリ」という言葉がある。原義はチョク(割れた)パリ(足)で、爪先の割れた足袋を履いている日本人をヒヅメの生えた動物に例える言い方であり、ニュアンスとしては「日本人野郎」みたいな語感になっている。この言葉がまたWikipediaを初めとした各種の辞書では「日本人に対する蔑称」であり「差別語」であると「解説」されていたりするのだが、自分たちが侵略し植民地支配の対象にしてきた地域の人々を「差別」し「蔑視」してきたのは一体どちらの側なのだ、と私は思う。それに対する反省も謝罪もなしに、相手から「人間あつかい」されることを求めるのは、そもそも虫の良すぎる話だと言わねばならない。よしんば言葉の上で「謝罪」がなされたとしても、人殺しがその遺族に向かって「私はもう反省したのだから、私のことを人間あつかいして頂きたい」などということを要求できる「権利」が、果たして人殺しの側にあるものだろうか。遺族の人々からしてみれば、人殺しからそんな言葉を投げつけられること自体が、自分たちの尊厳が再び踏みにじられること以外の何をも意味しないはずである。現代の朝鮮語圏においては「チョッパリ」という言い方はやめようという議論も存在しているらしいが、少なくとも日本人の側にそれをどうこう言える資格が存在しないということは、「わきまえて」おかねばならない話だと私は思う。

「イエローモンキー」というバンドの名前を私は好きではなかったけれど、白人を中心とする世界観や歴史の現実に対する「突っ張り方」として「ありうる」表現だし、以前にも書いたがその姿勢は「悪くない」と感じている。(聞くところによれば、そのバンド名を初めて聞いた時のローリングストーンズの反応は「すげえ名前だな。絶対忘れねえ」というものであったらしい)。「イエローモンキー」というのは、日本人のことを蔑視の対象としている白人がヘラヘラ笑いながら口にすることのできる、文字通りの「差別語」なのである。それを日本人の側から自らのバンド名に採用することは、「言えるものなら言ってみろ」という積極的な意味を持つ。

だが「チョッパリ」という言葉が日本人に向かって「ヘラヘラ笑いながら」口にされることというのは、およそありえない。それは差別された側の人間による、差別する側の人間への「怒りの表現」なのである。その怒りには、向こうは笑っていないのだから、「真面目に」向き合わねばならないはずだ。なぜ自分たちは人間の範疇に含まれない禽獣に等しい呼ばれ方をしているのかということを「真剣に」考えねばならないはずだ。それを真面目に受けとめることもせず、自分たちのバンドに「チョッパリーズ」という名前をつける日本人がもし現れたとした場合、「ヘラヘラしている」のは明らかにそいつらの側である。そしてそのバンド名は「チョッパリで結構。自分たちは日本が朝鮮に対してやってきたことを反省しないし、変わる気もない」という「挑発的な意味」を持つ。「チョッパリ」という言葉をそんな風に「おもちゃ」にできる日本人が存在するとしたらそいつは間違いなく右翼だし、それを面白がることのできる人間も右翼だけである。

それにも関わらずWikipediaを初めとした各種の辞書で「チョッパリ」という言葉が「差別語規定」されているということ自体、今の日本社会において「差別される人間の怒り」がいかに「おもちゃ」のように扱われているかを示して余りある現実だと私は腹立たしく感じているのだけれど、脱線になるのでそれ以上のことは、いい。

なぜこんな話をしたのかといえば、アメリカ南部出身の白人であるリヴォンが最初に提案したという「ホンキーズ」というバンド名は、私に言わせるなら日本人が「チョッパリーズ」を名乗るのとおなじくらいに悪趣味な話だ、ということをハッキリさせておきたかったからである。そんな名前をつけてアフリカ系の人たちが怒らないとでもリヴォンが本気で考えていたのだとすれば、その感覚にはガッカリさせられる他にない。彼の自伝には黒人を差別の対象にしていた地元の白人たちへの憤りや、黒人社会の中から生み出された音楽への敬意が、至るところで綴られていたにも関わらずである。

それの「代案」として出されたという「クラッカーズ」は、アメリカ南部の貧しい白人層が自分たちのことを呼ぶ自嘲的な言い方だとのことなので、それについて私はどうこう言える言葉を持っていない。もしも「ザ·バンド」というバンドが「クラッカーズ」というバンドになっていたとするなら、中学生の頃の私は「クラッカーズ」という言葉に間違いなく「憧れ」を感じるようになっていただろうなとは思うけど。ともあれ私に言えるのは、ホークスは「ホンキーズ」にならなくて本当に良かった、ということだけである。おかげでザ·バンドのことを語るにはいちいち「ザ·バンドというバンド」などという「坂崎さんの番組という番組」みたいなややこしい言い方をしなければならない事情が生まれてしまったわけだけど、そんなことは後の時代の評価を考えるなら5番目くらいに大事なことでしかない。

ザ・バンド 軌跡

ザ・バンド 軌跡

さて、「The Weight」が翻訳済みである以上、今回もまた何か別の曲を翻訳しておかなければ歌詞対訳ブログとしての体裁をなさない。そんなわけで今回は、リトル·リチャードの「Slippin' And Slidin'」という曲を取りあげてみることにしたい。ロックンロールの草創期から多くのミュージシャンにカバーされている曲であり、有名なところではジョン·レノンの「Rock'N'Roll」というアルバムでも取りあげられている。ザ·バンドのオリジナルアルバムにはなぜか一回も収録されることがなかったものの、ライブではいつも「とっておきの場面」で演奏される鉄板曲で、とりわけザ·バンドの事実上のデビューライブとなった1969年4月のウインターランドでのコンサートの2日目におけるアンコールでのこの曲の演奏は、「ロックンロールの歴史に残る瞬間のひとつ」として語り継がれているらしい。(ちなみに1日目は緊張でロビーが高熱を出してしまったことにより散々な結果に終わり、グレイル·マーカスの語るところによれば「ロックンロールのショウで初めて経験する怒りと激情」に迎え撃たれることになったのだという。後に「Stagefright」という曲ができたのは、この時の記憶にもとづいているらしい)

YouTubeの時代になり、その一年後に演奏されたザ·バンドによる「Slippin' And Slidin'」の映像をとうとう私も目にすることができたわけなのだけど、何と言うか、ザ·バンドというのは「こういうバンド」だったのだということを、初めて知らされたような気がしたものだった。リチャードのピアノの音の元気なこと。ロビーの肘の上がり具合のアグレッシブなこと。とにかくメンバーの全員が音楽を大好きで、演奏するのが楽しくてたまらないということが、悪い録音の中からもほとばしるように伝わってくる。

だから「ラストワルツ」ではこの曲が演奏されなかったんだろうなという気が、少しだけしている。あのコンサートを締めくくることのできる曲は、やはり「Don't Do It」でしかありえなかったのだと思う。


Slippin' And Slidin' (1970)

Slippin' And Slidin'

英語原詞はこちら


Slippin' and a-slidin'
Peepin' and a-hidin'
Been told a long time ago.
Slippin' and a-slidin'
Peepin' and a-hidin'
Been told a long time ago.

滑って転んで覗いて隠れて
大昔から耳タコだぜ。
滑って転んで覗いて隠れて
大昔から耳タコだぜ。


Baby I've been told
Baby You've been bold
I won't be your fool no more.

もう聞き飽きたぜ。
おまえは厚かましいぜ。
おまえの道化にゃならないぜ。


Oh Big conniver
Nothin' but a jiver
Done got hip to your jive.
Oh Big conniver
Nothin' but a jiver
Done got hip to your jive.

腹黒いやつだぜ。
ホラ吹きそのものだぜ。
自分のホラにケツまでつかってやがるぜ。
腹黒いやつだぜ。
ホラ吹きそのものだぜ。
自分のホラにケツまでつかってやがるぜ。


Slippin' and a-slidin'
Peepin' and a-hidin'
won't be your fool no more.

滑って転んで覗いて隠れて
おまえのピエロにゃならないぜ。


Slippin' and a-slidin'
Peepin' and a-hidin'

滑って転んで覗いて隠れて

Oh Malinda
She's a solid sender
You know you better surrender
Oh Malinda
She's a solid sender
You know you better surrender

ああマリンダ
あいつはバリバリのクロートだぜ。
うかつに手は出さない方がいいぜ。
ああマリンダ
あいつはバリバリのクロートだぜ。
うかつに手は出さない方がいいぜ。


Slippin' and slidin'
Peepin' and hidin'
won't be your fool no more.

滑って転んで覗いて隠れて
おまえの道化にゃならないぜ。



「fool」という言葉は「精神病者」に対する蔑称であり、差別表現です。ここでは原文をそのまま転載しました。


=楽曲データ=
Originally released by Little Richard in March 1956.