華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Shadows And Light もしくはラストワルツ特集 #11 (1975. Joni Mitchell)

#10 Coyote#12

  • ザ·バンドのメンバーが、大きな南軍旗の飾られた部屋で一堂に会している。(南軍旗は差別主義者や奴隷制擁護論者のシンボルにもなっている旗であり、私自身は「日の丸」やナチスの旗と同じくらいに大嫌いな旗であるということは、付記しておきたい)。最初に映るのはガース·ハドソンの顔。カメラが右にパンしてリチャード。さらに向かって右にはリヴォンが座っており、向かって左にはカウボーイハットにサングラスをかけたリックが座っている。ロビーは一人だけ車座から離れるような感じで、リチャードの背後の家具に腰かけている。なお、映画の全編を通じ、ザ·バンドの5名全員がそろった形でのインタビューはこのシーンだけである。

Scorsese: When you started playing as The Band, you shied away from publicity a lot. Talk about that a little.
スコセッシ:ザ·バンドとして活動を始めた頃、みんな、すごく露出を避けてたよね。そのあたりについて、ちょっと聞かせてくれないか。

Garth Hudson: That was just part of a lifestyle that we got to love in Woodstock. We got to like it, you know, just being able to chop wood or hit your thumb with a hammer. We'd be concerned with fixing a tape recorder, fixing a screen door. Stuff like that.
ガース·ハドソン:ウッドストックでの生活をみんなが気に入るようになってからは、それがライフスタイルの一部になってたんだな。木こりの真似をしたり、ハンマーで自分の親指を叩いたり、そういうことが好きになったんだよ。テープレコーダーを修理したり、網戸を修繕したり、そういうことに夢中になってた。

Rick: And getting the songs together. We always seemed to get a whole lot more done when we didn't have a lot of company around. We were more productive. And as soon as company came, of course, we'd start having fun. You know what happens when you have too much fun.
リック:そんで、歌を持ち寄るようになった。おれたち、周りに仲間があんまりいなかった頃は、やらなきゃいけないことがもっと沢山あるような感じだったんだけどさ。もっと生産的だったし。で、仲間が周りに増えてくると、そりゃ、楽しいことを始めたくなるだろ?楽しいことが増えすぎると、どういうことが起きると思う?(笑)

Scorsese: Something we've kind of evaded around here, but I'll ask it now.
What about women and the road?
スコセッシ:このあたりのことはいつも、はぐらかされがちになるんだけど、あえて聞きたい。
旅暮らしと女性、そこは、どうなんだろう。


Richard: I love 'em. That's probably why we've been on the road.
リチャード:大好きだよ。だからおれたち、旅暮らしを続けてきたんじゃねーの?

  • ロビー、背後からリチャードの肩をポンと叩く。

Garth: That's it.
ガース:だよな。

Richard: Not that I don't like the music.
リチャード:音楽が好きじゃないって言ってるわけじゃないんだぜ。

  • リチャード、ウインクして、笑う。



Levon: I thought you weren't supposed to talk about it too much.
リヴォン:そんな話、あんまりしない方がいいんじゃないのか。



Scorsese: No, I guess we're not.
スコセッシ:そんなことないよ。

Levon: I thought we were supposed to... pan away from that sort of stuff, get into something else.
リヴォン:おれたちはそういう話は…話題を変えて何か違う話にしないか。

Rick: Since the beginning, since we started playing together, just like we've all grown just a little bit, so have the women.
リック:いちばん初めからすればさ。一緒にやり始めた頃からすればさ。おれたち、ちょっとは成長したと思うんだよな。だから、女も作るようになった。

  • 笑い声

Rick: You know? And it's amazing
リック:だろ?素晴らしいことだよ。

  • リックはこの映画の中では、出てくるたびに帽子や衣装を変えていて、一番おしゃれなのだが、このサングラスはどうなんだろうと思う。どこのおばはんやねん。

: That's right. That's good.
(誰の声か聞き取れず):そうだよな。いいことだよ。

Richard: I just wanna break even.
リチャード:おれは、割に合いさえすればそれでいい。(笑)

  • 画面、ステージに切り替わる。

Robbie: Joni Mitchell. Right.
ロビー:ジョニ·ミッチェル。その通り!


Coyote

Coyote

詳しい翻訳記事はこちら


No regrets Coyote
We just come from such different sets of circumstance
I'm up all night in the studios
And you're up early on your ranch
You'll be brushing out a brood mare's tail
While the sun is ascending
And I'll just be getting home with my reel to reel
There's no comprehending
Just how close to the bone and the skin and the eyes
And the lips you can get
And still feel so alone
And still feel related
Like stations in some relay
You're not a hit and run driver no no
Racing away
You just picked up a hitcher
A prisoner of the white lines on the freeway

後悔することはない。コヨーテ。
私たちはあまりに違う環境の中にいた。
ただそれだけ。
私はスタジオで徹夜する日々。
あなたは牧場で朝早く起きて
太陽が昇る頃には
繁殖用のメス馬の尻尾に
ブラシをかけてやってるんだろうね。
私は多分その時分は
オープンリールのテープを抱えて
家に帰るところだ。
私たちはわかりあってなんかいない。
どれだけ骨と肌と瞳を寄せあっても
私の唇はあなたのものになっていても。
すごく孤独にも感じるし
結びついているようにも感じる。
乗り継ぎか何かで
降りた駅みたいな感じなのかな。
あなたは
全力疾走するひき逃げドライバー?
なわけはないか。
あなたはただ
ヒッチハイカーを拾っただけ。
鉄格子みたいに見える
フリーウェイの白い車線の
囚人だった私のことを。


We saw a farmhouse burning down
In the middle of nowhere
In the middle of the night
And we rolled right past that tragedy
Till we turned into some road house lights
Where a local band was playing
Locals were up kicking and shaking on the floor
And the next thing I know
That coyote's at my door
He pins me in a corner and he won't take no
He drags me out on the dance floor
And we're dancing close and slow
Now he's got a woman at home
He's got another woman down the hall
He seems to want me anyway
Why'd you have to get so drunk
And lead me on that way
You just picked up a hitcher
A prisoner of the white lines on the freeway

農家の家が焼けおちるのを
私たちは見た。
どこでもない場所の真ん中で
時間も夜の真ん中だった。
私たちはその悲劇を
軽やかにやりすごした。
町の灯りが見える道に入ったらもう
そこで演奏してる地元のバンドのことしか
考えていなかった。
地元の人たちはフロアの上で
踊ったり飛び跳ねたり。
そして私が気付いた時には
犬の姿をしたあのコヨーテが
私の入り口のところにいた。
そいつは私を隅っこに釘づけにして
断っても聞く耳もたず
私をダンスフロアに引っ張りだした。
そして私たちは
ぴったりくっついてゆっくり踊った。
そいつには家に女の人がいたわけだけど
別の女の人を
そこに連れてきてもいたわけで
いずれにせよ
そいつは私のことを
欲しがってるように見えたわけだ。
どうしてあなたはあのとき
あんなに酔っぱらって
私のことを
連れ出さなきゃならなかったんだろうね。
ははは。
あなたはただ
ヒッチハイカーを拾っただけ。
鉄格子みたいに見える
フリーウェイの白い車線の
囚人だった私のことを。


I looked a coyote right in the face
On the road to Baljennie near my old home town
He went running thru the whisker wheat
Chasing some prize down
And a hawk was playing with him
Coyote was jumping straight up and making passes
He had those same eyes just like yours
Under your dark glasses
Privately probing the public rooms
And peeking thru keyholes in numbered doors
Where the players lick their wounds
And take their temporary lovers
And their pills and powders to get them thru this passion play
No regrets Coyote
I'll just get off up aways
You just picked up a hitcher
A prisoner of the white lines on the freeway

1匹のコヨーテ。
私はその顔をまじまじと見つめた。
私が生まれたバルジェニーの街へ
向かう途中の道で。
そいつは麦の穂の間を走りぬけ
獲物を追いかけていた。
1匹のタカがそいつとふざけあっていた。
コヨーテはまっすぐに跳びあがって
タカにちょっかいを出していた。
あいつの目
あなたみたいだったよ。
濃いサングラスの下のあなたの目。
パブリックルームを
プライベートに探索するのだ。
そしてナンバーが振られたドアの鍵穴から
覗き見するのだ。
中の人たちが傷をなめあってるところを。
一夜の愛人として
お互いを迎え入れるところを。
そしてかれらが情熱をかきたてるための
錠剤とパウダーを。
コヨーテ。後悔はしないこと。
私はこのあたりで
遠いところへ行くよ。
あなたはただ
ヒッチハイカーを拾っただけ。
鉄格子みたいに見える
フリーウェイの白い車線の
囚人だった私のことを。


Coyote's in the coffee shop
He's staring a hole in his scrambled eggs
He picks up my scent on his fingers
While he's watching the waitresses' legs
He's too far from the Bay of Fundy
From appaloosas and eagles and tides
And the air conditioned cubicles
And the carbon ribbon rides
Are spelling it out so clear
Either he's going to have to stand and fight
Or take off out of here
I tried to run away myself
To run away and wrestle with my ego
And with this flame
You put here in this Eskimo
In this hitcher
In this prisoner
Of the fine white lines
Of the white lines on the free free way

コヨーテはコーヒーショップの中。
スクランブルエッグの間に
あいた穴を見つめてる。
ウェイトレスの脚を眺めながら
自分の指に残った私の匂いに気づくのだ。
東海岸のファンディ湾から
彼氏はあまりに離れたところにいる。
アパルーサ種の馬や野生の鷲や海嘯からも
エアコンの効いた仕事場からも。
インクリボン付きのタイプライターは
そのことをハッキリと物語っている。
彼氏が
立ちあがって戦わなければならないにせよ
あるいは自分から離れて行くにせよ
私は逃げようとしたのだ。
逃げて自分のエゴと戦おうとしたのだ。
そしてこの恋の炎をもみ消そうとした。
あなたはこのEskimoを
ここに連れてきた。
このヒッチハイカーを。
この囚人を。
鉄格子みたいに見える
くっきりした白い車線の
自由な自由な
フリーウェイの囚人を。




「Eskimo」という言葉は、北米大陸の先住民に対する差別的な呼称です。ここでは原文をそのまま転載しました。

nagi1995.hatenablog.com
「コヨーテ」の歌詞は以前に翻訳済み。このシーンでは画面から流れてくるベースの音とリック·ダンコの指の動きが「合っていない」ことがよく指摘されるが、以前にも触れた通りジョニ·ミッチェルという人は「常識ではありえないよえなチューニング」でギターを弾く人なのである。いくらリック·ダンコが偉大なベーシストでも、数回だけのリハーサルでジャコ·パストリアスと同じことがやれるわけはないのだし、比較するのはあんまりな話だと私は思う。それに、YouTubeで公開されている実際のライブの未編集映像を見てみても、ベースの音は全然外れている感じではないし、私なんかにはどこをどう直す必要があったのか、また直されているのか、少しも聞き分けることができない。

さて、このラストワルツで、ジョニ·ミッチェルは実は3曲も歌っている。カナダ出身アーティスト全員で歌った「Acadian Driftwood」を入れるなら、4曲だ。ゲストミュージシャンの中では、ボブ·ディランに準ずる扱いだったことになる。映画の中では順番が逆になっているが、実際にはジョニ·ミッチェルが3曲歌い終えた後に出てきたのがニール·ダイアモンドだったので、「ボクは一曲しか歌わないんですけど」云々という彼氏の言葉は一層いじけて聞こえる。そして当日のセットリストでは、その後に登場したのが実にヴァン·モリソンだったのである。改めて思うけど、同じ演奏でも曲順が入れ替えられるとこうまで印象が変わってくるものなのだな。

ラストワルツで演奏された楽曲はとにかく全部翻訳しておかなければ気が済まない、というのがこの企画の趣旨である。今回はジョニ·ミッチェルが「コヨーテ」に続けて歌った「Shadows And Light」という曲をとりあげておきたい。実際の映像では「コヨーテ」が終わった後、演奏は中断されることなく、メドレー形式でこの曲に突入している。


Shadows And Light

Shadows And Light

英語原詞はこちら


Every picture has its shadows
And it has some source of light
Blindness, blindness and sight
The perils of benefactors
The blessings of parasites
Blindness, blindness and sight
Threatened by all things
Devil of cruelty
Drawn to all things
Devil of delight
Mythical devil of the ever-present laws
Governing blindness, blindness and sight

あらゆるイメージには影の部分があり
そして光源にあたる
いくつかの部分がある。
見えないこと、
見えないことと見えること。
慈善家たちを襲う危機。
寄生者たちに訪れる幸運。
見えないこと、
見えないことと見えること。
私たちは
あらゆるものにおびやかされている。
すべてのものの前に引きずり出された
残忍さをつかさどる悪魔。
よろこびをつかさどる悪魔。
見えないこと、
見えないことと見えることを
支配する永遠の法を
つかさどる架空の悪魔。


Suntans in reservation dining rooms
Pale miners in their lantern rays
Night, night and day
Hostage smile on presidents
Freedom scribbled in the subway
It's like night, night and day
Threatened by all things
God of cruelty
Drawn to all things
God of delight
Mythical god of the everlasting laws
Governing day, day and night

先住民保留地の
いくつものダイニングルームの中の
いくつもの日焼けした顔。
ランタンの灯りに照らし出された
鉱夫たちの蒼白の顔。
夜、夜と昼。
おえらがたの顔に浮かぶ
人質にされたような微笑み。
地下鉄の落書きの
中にある自由。
夜のようだ。
夜と昼のようだ。
私たちは
あらゆるものにおびやかされている。
すべてのものの前に引きずり出された
残忍さをつかさどる神。
よろこびをつかさどる神。
昼を、昼と夜とを
支配するとこしえの法を
つかさどる架空の神。


Critics of all expression
Judges in black and white
Saying it's wrong, saying it's right
Compelled by prescribed standards
Or some ideals we fight
For wrong, wrong and right
Threatened by all things
Man of cruelty - mark of Cain
Drawn to all things
Man of delight - born again, born again
Man of the laws, the ever-broken laws
Governing wrong, wrong and right
Governing wrong, wrong and right
Wrong and right

あらゆる表現に対する批評家たち。
白か黒かで裁いてみせる。
あれは悪い、あれは正しいと言いながら。
所定の基準やあるいは
悪いこと、悪いことや正しいことのために
私たちが戦っているところの理想に
屈服させられて。
私たちは
あらゆるものにおびやかされている。
すべてのものの前に引きずり出された
残忍な人間、カインの烙印。
よろこびの中の人間。
生まれ変わったのだ生まれ変わったのだ。
悪いことを、悪いことと正しいことを
つかさどる不磨の法典を
遵守する人間。




「blindness」という言葉は「視覚障害者」に対する差別表現です。ここでは原文をそのまま転載しました。