華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Mystery Train もしくはラストワルツ特集 #12 (1973. The Band)

#11 Mystery Train#13

  • ピンクのカーテンのついた豪華な部屋に、リヴォンを除くザ·バンドのメンバー4人。座っているのは右からリチャード、ガース、リック。ロビーひとりがその後ろを、立ったり歩いたりしている。

Robbie: Levon's home town, it's near West Helena. One time we were there, for some reason or another, and we decided we were gonna look up one of the legends of that town, which was Sonny Boy Williamson.
ロビー:リヴォンの田舎なんだが、ウエスト·ヘレナの近くにある。みんなでそこに行った時、どういう成り行きだったか、その街の伝説の人に会いに行こうって話になった。サニーボーイ·ウィリアムソンだ。

Richard: In my opinion, he's the best harp player, that's like harmonica, blues harmonica, that I've ever heard.
リチャード:おれは、あの人こそ最高のハープ·プレイヤーだと思う。ハーモニカみたいなやつだよ。ブルースのハーモニカ。おれが聞いてきた中じゃな。

Robbie: He's the big Daddy of 'em. And he took us to a friend of his, a woman's place, who served food and corn liquor.
ロビー:彼はその世界のビッグ·ダディだった。それで彼は、我々を友だちのところに連れて行ってくれた。食堂と酒場をやってる女性のところだ。

Rick: In a southern booze can.
リック:南部式のナイトクラブだよ。


Robbie: He would sit there and he was playing for us. And we were getting drunk and trying to figure out where we were.
He was spitting in a can. I thought he was dipping snuff. I thought he had something in his lip. And he kept spitting in this can and playing, and we kept getting drunker. Finally, I looked over in the can and I realised it was blood. He was getting pretty tired and pretty drunk by then.
And we made big plans for the future and all kinds of things we were gonna do. And it was tremendous. A great night.
A couple of months later, we got a letter from his manager, or whoever it was, saying that he had passed away.
ロビー:サニーボーイ·ウィリアムソンはそこに座って、我々のために演奏してくれた。
我々はだんだん酔っ払ってきて、自分たちはどこの世界にいるんだろうっていうような気持ちになっていた。
ウィリアムソンは、缶の中に唾を吐いていた。嗅ぎタバコでもやってるんだろうかって最初は思った。唇に何か引っかかるんだろうってね。それで彼はずっとその缶に唾を吐きながら演奏を続け、我々はどんどん酔っ払っていった。それで最後にその缶の中が見えて、分かったんだけど、彼は(唾じゃなくて)血を吐いてたんだ。その時には彼もすっかり疲れて、酔っ払っていた。
そのとき我々は、自分たちが何をすべきなのか、どこに向かうべきなのかを決めたんだ。すごい経験だった。偉大な夜だった。
それから2〜3ヶ月して、ウィリアムソンのマネージャーだったか誰だったかから手紙が来た。彼が亡くなったって書かれていた。



Mystery Train

Mystery Train

英語原詞はこちら


Train arrive 16 coaches long
Train arrive 16 coaches long
Well that long black train
Took my baby and gone

列車がやってくる。
16輌編成のやつだ。
列車がやってくる。
16輌編成のやつだ。
真っ黒で長いあの列車が
おれのあの子を連れて行ってしまった。


Train, train rollin' around the bend
Train, train, train, rollin' around the bend
Well it took my baby
Away from me again

列車、列車だ。
カーブを曲がりこんで行く。
列車、列車、列車だ。
カーブを曲がりこんで行く。
あの子をまたおれから
遠くへ連れて行ってしまった。


Come down to the station
To meet my baby at the gate
Asked the station master
If my train's a-running late
He said "If you're a-waiting
on the 444
I hate to tell you son
That train don't stop here any more"

改札であの子を待つために
駅に行った。
僕の待ってる列車は遅れてるんですかって
駅長さんに聞いた。
「もしも444便を待ってるんなら
言いにくいんだけど兄ちゃん
もうこの駅には止まらないんだ」
と彼は言った。


Train train, train, rollin', around the bend
Train train, train, rollin', around the bend
Well it took my baby
Away from me again

列車、列車だ。
カーブを曲がりこんで行く。
列車、列車、列車だ。
カーブを曲がりこんで行く。
あの子をまたおれから
遠くへ連れて行ってしまった。


Heard that whistle blowin'
It was the middle of the night
When I got down to the station
The train was pulling out of sight

あの汽笛の音を聞いたのは
真夜中のことただった。
駅に着いた時には
列車が見えなくなるところだった。


Mystery train rollin' around the bend
Mystery train rollin' around the bend
Well it took my baby
Away from me again

謎の列車。
カーブを曲がりこんで行く。
謎の列車。
カーブを曲がりこんで行く。
あの子をまたおれから
遠くへ連れて行ってしまった。

Robbie: Paul Butterfield!
ロビー:ポール·バターフィールド!


憂歌団 ちょいとそこ行くネエちゃん


Good Morning Little School Girl

サニーボーイ·ウィリアムソンⅡ世といえば、憂歌団のデビューアルバムに入っている「ちょいとそこ行くネエちゃん」という歌の「元歌」を歌っていた人として、ザ·バンドを知る以前から名前だけは私にとって馴染みのあった人だった。(名前に「Ⅱ世」がついているのは、この人、それ以前に「サニーボーイ」を名乗って売れていたジョン·リー·ウィリアムソンという人の成功にあやかり、名前自体をパクってデビューしたという大胆な経緯があったかららしい)。リヴォンの地元のヒーローで、カナダにいたリチャードたちさえ夜中にアンテナをいじったりしてこの人のラジオショーを聞いて育ったらしいというエピソードを後から知った時には、自分までそこにいたかのような不思議な因縁を感じてしまったものだった。まあ、私が「聞いて育った」のは飽くまでも憂歌団や誰がカバやねんロックンロールショーなわけであって、「一緒」では全然、ないのだけれど。

ラストワルツのこのシーンに「肝心の」リヴォンの姿がないのがどうにも私は気になってしまうのだが、彼氏の自伝によるならばこのエピソードの後に起こったとされている出来事は、いっそうショッキングで、かつ「アメリカ」の何たるかを生々しく物語るものだ。セッションを終えてサニー·ボーイの馴染みの店でバーベキューを食べていた彼らは、いきなりパトカー3台に囲まれて街を出て行くように脅されたのだという。そこが「黒人の店」で、ホークスの面々が「黒人と食事をしていた」のがその唯一の理由だった。リヴォンはサニー·ボーイに対する申し訳なさ、カナダ人の仲間たちに対する恥ずかしさで爆発しそうになるが、引き下がるしかなかったとある。時は公民権運動のただなかの1965年4月で、その前の年にはミシシッピ州で3人の活動家が警官によって殺されたばかりだったという。リヴォンたちと談笑していたサニーボーイ氏はもとより、リヴォンたち自身も、身の危険を感じざるをえない局面だったのである。

その顛末が映画の中で語られていないのは、どういうことだったのだろうと思う。何らかの「政治的配慮」が働いていたのだろうか。現在読み進めているロビーの自伝でそのあたりのことがどう書かれているのか気になるが、まだそこまで行っていない。また別の機会に書きたいと思う。

その後ホークスのメンバーたちは「サニーボーイ氏のバックバンドになること」をかなり本気で追求していたらしいのだが、ロビーも語っているごとく、それから僅か1ヵ月後に、伝説のブルースの巨人は急逝している。サニーボーイ氏が血を吐きながらハーモニカを演奏していたというこのエピソードが、「いつもそれだけ激しい演奏をしていた」ということを物語っているのかそれとも「病をおして演奏していた」ということを物語っているのか。そのあたりが私には今でもよく分からない。


Mystery Train
ジュニア·パーカーによるオリジナル (1953年)


Mystery Train
エルヴィス·プレスリーによるカバー (1955年)

「Mystery Train」という歌について。メンフィス·ブルースの古典と言うべき作品で、最初はジュニア·パーカーという人によって1953年に発表され、それをエルヴィス·プレスリーが1955年にカバーして有名になった。しかし両者のバージョンはいずれも「Train train〜」という部分だけで出来上がっており、「Come down to the station〜」および「Heard that whistle blowin'〜」というブリッジ部分の歌詞とメロディはいずれもロビー·ロバートソンによって後から書き加えられたものであるらしい。ということは今回調べて初めて知った。

タイトルの直訳は「謎の列車」。何が「謎」なのだということ自体が少しばかり謎な気がするのだが、とりあえずこのタイトルのおかげもあって、この歌に出てくる「列車」は時刻表や他の乗客の人たちの都合などに関係なく、ただただ主人公の彼女を奪い去って消えてゆくためにのみこの世に出現する「列車」であるかのような、禍々しいイメージを備えていると言えなくもない。そしてその禍々しさという点からすれば、やはりこのロビーのアレンジの加わったザ·バンド&ポール·バターフィールドのバージョンが一番であると私は思う。

翻訳をめぐって。「If you're a-waiting on the 444」というフレーズがなぜ「waiting for」ではなく「waiting on」になっているのかということが少しだけ気になったのだが、「確実に来ることが予定されている対象」を待つ時には「for」を使うけど「来る保証のないものを当てもなく待っている」ような場合には「on」が使われる傾向があるらしい。ただし「来るかどうか分からないもの」に対しても「for」を使うことはあるので、その辺の感覚というものはネイティブの人に聞かなければ私には全然わからない。

なぜ「444」という数字が出てくるのかということは、全く分からなかった。と言うか、「444の意味」みたいな感じで検索してみたところ、英語圏の怪しげな占いサイトばかりがズラッと出てきたので、調べるのをやめてしまったのである。うかつにそういうところに情報を求めようとすると、次の日から「あんたの運勢を2ドルで占ってあげるよ」みたいなメールが毎日送られてきて大変なことになってしまうことを、経験的に知っているからだ。て言っか、今日も送られてきている。何か、そのメールを無視した回数だけ私は世界の覇者になれるタイミングを逃しているみたいなことが言われているのだが、多分それを送ってくる人の口ぶりからすると世界の覇者になれるチャンスは明日も明後日も変わることなく巡ってくるみたいなので、別に焦ろうとも思わないのである。と言うより、その世界の覇者になれるチャンスというやつと、私は一体どうしたら手を切れるのか。一番教えてほしいのはそのことだったりするのだが。


橘いずみ ロックンロール·ウィドウ


フラワーカンパニーズ 恋をしましょう

ポール·バターフィールドという人はとにかくハーモニカの名手で、ディランがエレクトリックに転向した時、ザ·バンドが抜擢される前にバックを務めていたのはこの人のバンドだったらしいのだけど、実はそれ以上のことはほとんど知らず、今までまともに聞いたこともなかった。だから書けることがちっともない。バターフィールド。バターの野原。べとべと。乳臭い匂い。あなたは知っているだろうか。いくらバターが高いからと言って、マーガリンを使ってホワイトソースを作ろうとしても絶対上手くいくことはないのだということを。そしてまたいくら牛乳が高いからと言って、低脂肪乳でフルーチェを作ろうとしても絶対に固まってくれることはないのだということを。私に書けるのはそれぐらいなのであって、それぐらいしか書くことがないなら何も書かない方がよっぽどマシなのである。そんなわけで、私が昔聞いて「シビれたハーモニカ」の動画を2つあげて今回は終わりにさせて頂きたい。バターフィールズフォーエバー。ではまたいずれ。