華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

The Last Waltz Suite もしくはラストワルツ特集 #15.

#14 Evangeline#16

  • スコセッシとリック、シャングリラ·スタジオの廊下に立っている。スコセッシ、カメラに向かって「OK」と言い、歩き出す。

Scorsese: So, Rick, what is Shangri-La? Maybe you could give us a little tour.
スコセッシ:それでリック、シャングリラってのは、何なんだい?ちょっと探検させてくれよ。

Rick: What is Shangri-La? It's a club house where we get together and play. Make records.
リック:シャングリラかい?おれたちが集まって演奏したりレコードを作ったりする、クラブハウスさ。

Scorsese: Yeah.
スコセッシ:なるほど。

Rick: Kind of better. It's like an office, I guess. It used to be a bordello.
リック:いいところだよ。オフィスみたいに見えると思うけど、昔は売春宿だった。

Scorsese: A bordello?
スコセッシ:売春宿?

Rick: You can tell by the wallpaper. That decadence, that softness in the barroom. I've heard a few funny stories, man.
リック:壁紙を見れば分かるよ。デカダンスな感じ。ベッドルームの柔らかな感じ。いくつか、面白い話も聞いてるよ。

Scorsese: That's why all these rooms are here.
スコセッシ:それで、こういう部屋がいっぱいあるんだな。

Rick: You can't believe most of what you hear. This was a master-control bedroom, this is now a master-control music room.
リック:ほとんど、信じられないだろうけどね…ここは昔、マスター·コントロール·ベッドルームだった。今ではマスター·コントロール·ミュージックルームだ。

Scorsese: Let me ask you, now that The Last Waltz is over, what are you doing now?
スコセッシ:聞いてもいいかい。ラストワルツが終わって、きみは今、何をやってるのかな。

  • リック、「あー…」と言いながら黒い帽子をかぶり、スタッフに声をかける。

Rick: Eddie, why don't you...
リック:エディ、やってくれよ。

  • 「シップ·ザ·ワイン」のイントロが流れ出す。



Rick: Just making music, you know?
リック:音楽を作ってるよ。

Scorsese: Oh, yeah.
スコセッシ:ああ。

Rick: Trying to stay busy, man.
リック:忙しくしてないと、な。

I want to lay down beside you
I want to hold your body close to mine
Like a grape that grows ripe...

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  • バックにリックの「Sip the Wine」が流れる中、画面が切り替わり、ロビーが映る。



Robbie: It's where the music took you. Otherwise you would never go to such a situation. Because of the music, it took us everywhere. It took us to some strange places.
ロビー:それが音楽の連れてってくれるところさ。他のやり方じゃ絶対それは味わえない。音楽のおかげで、我々はあらゆるところに連れてってもらえる。音楽は我々を不思議な世界にいざなってくれる。

Scorsese: Physically and spiritually?
スコセッシ:肉体的に?精神的に?

Robbie: Physically, spiritually and psychotically... It just always wasn't on the stage.
ロビー:肉体的に、精神的に、病的にだ…。いつもまるで、ステージにいないような感じになる。
「psychotically」は、「精神病者」に対する差別表現です。ここでは原文をそのまま転載しました。

Scorsese: Even though you were on the stage.
スコセッシ:ステージの上にいてもか。

Robbie: Even though we were on the stage.
ロビー:ステージの上にいてもだ。


Evangeline-The Last Waltz

Evangeline

She stands on the banks of the mighty Mississippi
Alone in the pale moonlight
Waitin' for a man, a riverboat gambler
Said that he'd return tonight

大きな大きなミシシッピー
その岸辺に彼女は立つ
青白い月光の中にひとり
男を待っている
川を行く汽船のギャンブラー
今夜 帰ってくると言っていた


They used to waltz on the banks of the mighty Mississippi
Lovin' the whole night through
He was a riverboat gambler off to make a killin'
And bring it on back to you

大きな大きなミシシッピー
その岸辺でふたりはよくワルツを踊って
ひとばんじゅう愛しあった
彼氏は川を行く汽船のギャンブラー
大儲けをしに出かけて
それを持ってきみのところに戻ってくる


Evangeline Evangeline
Curses the soul of the Mississippi Queen
That pulled her man away

エヴァンジェリン エヴァンジェリン
クイーン号の船員を
母なるミシシッピーの魂を呪う
彼氏は連れて行かれてしまったから


Bayou Sam from South Louisian'
Had gamblin' in his veins
Evangeline from the maritime
Was slowly goin' insane

南ルイジアナ生まれの
バイヨー・サム
血管にギャンブルが流れていた
海に生きる人たちのあいだに
生まれたエヴァンジェリン
心が少しずつこわれていった


High on the top of a Hickory Hill
She stands in the lightning and thunder
Down on the river the boat was a sinkin'
She watched that Queen go under

ヒッコリーの丘の上高く
稲妻と雷鳴の中に
彼女は立つ
眼下の川で船は沈んでいった
水の中に消えてゆくクイーン号を
彼女は見てしまった


Evangeline Evangeline
Curses the soul of the Mississippi Queen
That pulled her man away

エヴァンジェリン エヴァンジェリン
クイーン号の船員を
母なるミシシッピーの魂を呪う
彼氏は連れて行かれてしまったから

nagi1995.hatenablog.com
「ラストワルツ」が終わってしまった後のシャングリラ·スタジオにリックの「Ship The Wine」が鳴り響くこのシーンは、映画の中でも私が一番「きゅん」となるところである。選曲が、最高だと思う。スコセッシから「最近、何やってるの?」と聞かれたリックが「あー」と言いながら意味もなく派手な帽子をかぶるのは、「涙を隠そうとしたから」だったのではないかという気が昔からしている。おしゃれなリックはこの映画の中で、出てくるたびに違う帽子をかぶっているのだけれど。

リックとロビーのインタビューの後に続くのは、コンサートとは別に収録されたエミルー·ハリスを迎えての「Evangeline」の共演である。(歌詞については、上記リンクで翻訳済み。さらに詳しく知りたい方は、「Acadian Driftwood」の記事も併せてご覧ください)。映画がクライマックスに近づく直前に一瞬だけフワッと夢幻の世界に連れてゆかれるような構成が、またよくできていると思う。映画にここまで付き合ってきた観客は、少なくともこのシーンでだけは、ザ·バンドの歴史がもうすぐ終わってしまうという「現実」を「忘れる」ことができるはずである。もっとも資料によるならば、実際には「ラストワルツ」の後に収録されたこの「Evangeline」こそが、ザ·バンドの5人が同じ舞台で共演した最後の演奏だった。歌が終わった後に舞台の片付けが始まるところまで映画の中に映っているのは、それが本当の「終わり」だったことを暗示するための演出なのかもしれない。

ところで、私は長い間知らなかったのだけど、この「Evangeline」は「ラストワルツ」の本番の舞台でも、ザ·バンドのメンバーだけの手によって、演奏されていた。最後にボブ·ディランが出てくる二曲前である。(直前に演奏されたのが「The Weight」)。そしてその際、ウインターランドの観客に対して、この曲は「The Last Waltz」というタイトルで紹介されていた。

「ラストワルツ」のサントラの三枚組のLPのF面(すなわち三枚目の裏側の最後の面)には「The Last Waltz Suite (ラストワルツ組曲)」と題するスタジオ録音の曲が6曲収録されているのだけれど、ロビー·ロバートソンの構想としてはこの「組曲」を文字通り「ラストワルツ」を象徴するひとつの壮大なテーマ曲として、ウインターランドの舞台に持って行きたいという腹案があったらしいのである。けれども他のゲストの曲の練習や調整で全然時間がとれず、リヴォンの自伝によるならばその中心となる「Evangeline」という曲がようやく完成したのは、コンサートの前日の11月24日だった。それを何とかリハーサルなしでもやれるようにと、フィナーレの直前の30分の休憩時間(その間、ステージではサンフランシスコの詩人たちがポエムを朗読していた。さらに舞台裏では、ディランが「映画には出たくない」といきなりゴネだしていた)で慌ただしく調整して、とうとうステージに間に合わせた。大したことをしたものだ。

けれどもリハーサル不足は歴然としており、YouTubeに上がっている実際の映像を見てみると、リヴォンもリックも歌詞を飛ばしているし、リチャードは全く声が出ていない。ファンとしてはそれでも全然構わないのである。いつも完璧な演奏を見せてくれているザ·バンドなのだから、たまにはグダグダな場面があってもいいし、むしろそういうのをこそ、見てみたい。けれども客観的に見るなら、確かに映画にもレコードにもできない演奏だったろうなとは思う。21世紀になってから発売された「完全版」と題するCDにさえ、この時の演奏は収録されていない。

とはいえ、本当なら「ラストワルツ」の中で一番「大事な曲」になるはずだったのが、この「The Last Waltz Suite」なのである。そして本番の舞台で演奏されたバージョンには、レコードになっていない歌詞やアレンジもいろいろと含まれている。ザ·バンドの公式ファンサイトに掲載されていた聞き取りをもとにして、今回はその歌詞を翻訳しておくことにしたい。


The Last Waltz Suite

The Last Waltz Suite

英語原詞はこちら


(Robbie:)"We’re gonna try a song we never played before... uh, we put together kinda for the occasion. It’s called 'The Last Waltz.'"
ロビー:一度もやったことのない曲をやります。あー、この日のために準備したものです。タイトルは「ザ·ラスト·ワルツ」。

(Rick:)
She stands on the banks of the mighty Mississippi
Holding a lantern light
Waitin' for a man who's a riverboat gambler
He said he'd return tonight

大きな大きなミシシッピー
その岸辺に彼女は立つ
ランタンの灯をかかげて
男を待っている。
川を行く汽船のギャンブラー
今夜 帰ってくると言っていた


(Levon:)
They used to waltz on the banks of the mighty Mississippi
[Unintelligible; doesn't sound like "Loving"] the whole night through
The riverboat gambler went off to make a killin'
And bring it on back to you

大きな大きなミシシッピー
その岸辺でふたりはよくワルツを踊って
ひとばんじゅう…した(←聞き取れない)
彼氏は川を行く汽船のギャンブラー
大儲けをしに出かけて
それを持ってきみのところに戻ってくる


Evangeline, Evangeline, curses the soul of the Mississippi Queen
That pulled her man away

エヴァンジェリン エヴァンジェリン
クイーン号の船員を
母なるミシシッピーの魂を呪う
彼氏は連れて行かれてしまったから


(Rick:)
Now, Bayou Sam from South Lousianne
Had gamblin' in his veins
And Mama Moo (??) who loves only you
Why do ya cause her such pain?

南ルイジアナ生まれの
バイヨー・サム
血管にギャンブルが流れていた
そしてママ·ムー(?)
きみのことを愛している
たった一人の人だ
どうして彼女のことを
悲しませるようなことをするかな


(Levon:)
She went to the top of Hickory Hill
Stand in the lightnin' and thunder
Riverboat, it was sinkin’
She watched that boat go under

ヒッコリーの丘の上に向かい
稲妻と雷鳴の中に
彼女は立った
川船 沈んでゆくところだった
彼女はそれが消えてゆくのを
見てしまった


Evangeline, Evangeline, curses the soul of the Mississippi Queen
That pulled her man away

エヴァンジェリン エヴァンジェリン
クイーン号の船員を
母なるミシシッピーの魂を呪う
彼氏は連れて行かれてしまったから


(Robbie & Richard:)
The last of November
Leaves on the ground
It's hard to remember
What city, what town (what town)
So many roads
Mothered (?) in stone
Surrounded by bones
It feels so alone

11月の終わり
一面に散らばる落ち葉
うまく思い出すことができない
どこの街のことだったか
どこの町のことだったか
いくつもの道が
石の中で育まれ(?)
骨にかこまれて
とてもさびしいところ


The last waltz, the last waltz
The last waltz with you
Don’t mean the last dance is over
The last waltz, the last waltz
The last waltz was through
But that don’t really mean that the party's over

最後のワルツです
あなたとの最後のワルツです
でもまだダンスは
終わったわけではありません
最後のワルツです
最後のワルツが終わってしまいました
でもまだパーティは
終わったわけではありません