華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Everywhere もしくは あっちでもこっちでも (1991. Billy Bragg)


Everywhere (Billy Bragg)

Everywhere

英語原詞はこちら


Dig in boys for an extended stay
Those were final orders
to come down that day
Waiting to be saved in the Philippines
You'll wait forever
for the young Marines

そこで持ちこたえるために
塹壕を掘るんだ、ボーイズ。
それがその日
最後に下された指令だった。
フィリピンで救出されるのを待っている
若い海兵隊員。
彼を待っている人は
永遠に待ち続けることになるだろう。


Now I believe to be here is right
But I have to say
that I'm scared tonight
Crouching in this hole
with a mouth full of sand
What comes first
the country or the man?

ここにいることは
正しいことなんだと信じている。
でも今夜
おれは怖いと思っている。
それは隠しても仕方がない。
口の中を砂でいっぱいにして
この穴の中にかがんでいる気持ち。
先にやって来るのは
国家からの救援だろうか。
それとも
おれに死をもたらす人間だろうか。


Look at those slanted eyes
coming up over the hill
Catching us by surprise,
it's time to kill or to be killed

丘を登ってくるあの
キツネ目の連中を見てみろよ。
おれたちを見つけて
ビックリしてる。
殺すか殺されるかの
時になっちまった。


Over here, over there,
it's the same everywhere
A boy cries out for his mama
before he dies for his home

こっちでも
あっちでも
同じなんだ。
どこでだって同じなんだ。
自分のくにのために
死ぬその前に
男の子が叫ぶのは
母親の呼び名なんだ。


All my life I wanted to be
As clever and strong
as my best friend Lee
We grew up together along
Half Moon Bay
Lee was Japanese, born in the USA

おれの最高の友だちに
リーってやつがいて
おれはそいつみたいに
強くて賢くなりたいと
ずっと思っていた。
カリフォルニアのハーフムーンベイで
おれたちは一緒に育った。
リーはアメリカで生まれた
日本人だった。


When Tommy was fighting Jerry
along the River Seine
Me and Lee wanted to do the same
Then they bombed Pearl Harbour
at the break of day
I was headed for these islands
while Lee was hauled away

トミー(イギリス軍)がジェリー(ドイツ軍)
セーヌ川沿いで戦ってた頃には
おれもリーも心をひとつにして
一緒に戦いたいって
思ってたものだった。
その後で真珠湾が
夜明けに爆撃を受けた時
おれはその太平洋の島々に
向かうことになった。
リーが連行されてゆくのを
横目に見ながら。


They said look at his slanted eyes,
he's guilty as guilty can be
Sent here as enemy spies
to sabatage the Land of the Free

あいつの吊り上がった目を見てみろよ。
この世で最も邪悪な瞳だ。
リーはそう言われていた。
この自由の国で
ハカイカツドウをやらかすために
送り込まれた
敵のスパイなんだって。


Over here, over there,
it's the same everywhere
A boy cries out for his mama
before he dies for his home

こっちでも
あっちでも
同じなんだ。
どこでだって同じなんだ。
自分のくにのために
死ぬその前に
男の子が叫ぶのは
母親の呼び名なんだ。


I never got home,
my platoon was never saved
That little fox hole
became my island grave
Lee got out of jail
but a prisoner he remained
Till he ended his own life
to lose that ball and chain

おれたちの小隊が
救出されることはなく
おれが故郷に帰ることも
ついになかった。
キツネの穴みたいなその塹壕が
その島のおれの墓穴になった。
リーは収容所から抜け出したけど
ずっと囚人と同じだった。
あいつがその人生を終えるまで
鎖と鉄球がついて回ることになった。


And they said Oh Little Slanted Eyes
can't you forgive and forget?
And he said, Oh Mr Friendly Ghost
Can you catch water in a net?

よおキツネ目。
許したり忘れたりすることは
できないもんなのか?
リーにそんな風に言うやつらがいて
リーはこう答えたそうだ。
フレンドリーなゴーストさんよ。
穴の開いた網で
水をすくいあげることが
できるもんでしょうかね。


Over here, over there,
it's the same everywhere
A boy cries out for his mama
before he dies for his home

こっちでも
あっちでも
同じなんだ。
どこでだって同じなんだ。
自分のくにのために
死ぬその前に
男の子が叫ぶのは
母親の呼び名なんだ。


Everywhere (Sid Griffin)

=翻訳をめぐって=

  • この曲を作ったのは、グレッグ·トゥルーパーとシッド·グリフィンという、どちらも戦後生まれの2人のヨーロッパ系アメリカ人。下の動画はシッド·グリフィンのバージョンだが、21世紀になってから発表されたものなので、元々はビリー·ブラッグのために提供された曲なのだと思われる。なお、ビリー·ブラッグはイギリス人。
  • 一番の歌詞の舞台は、第二次大戦中のフィリピンの連合軍側の塹壕である。主人公はそこで眠れぬ一夜を過ごした後、自分たちの方に向かってくる日本兵たちの姿を目にする。「最後の瞬間」が迫っている。
  • Look at those slanted eyes…「slanted eyes」の直訳は「つり上がった目」だが、「slant (傾斜)」という言葉はそれ自体、日本人に限らず東洋人の全体を指す蔑称として、使われる場合があるのだという。「キツネ目」と翻訳したが、実際のキツネというのは、割と丸っこい目をしている。どうして「吊り目」のことを「キツネ目」とよぶようになったのだろう。たぶん、「グリコ·森永事件」の頃のマスコミが、罪もないキツネに「悪いイメージ」をいっぱいくっつけてしまったのだ。


  • …その後、こんなキツネの画像も見つけてしまったのだが、それはそれなのである。

  • 二番では、主人公の回想が語られる。アメリカ人(おそらくヨーロッパ系)の彼には、リーと呼ばれる日系アメリカ人の親友がいた。「リー」というのはどう考えても「日本人の名前」には思えないが、「東洋系の子ども」が一緒くたにされて「リー」というアダ名で呼ばれていたといったようなことなら、ありそうな感じはする。
  • Lee was hauled away…真珠湾攻撃から3ヶ月後の1942年2月、アメリカ大統領令9066号により、合州国西海岸諸州およびハワイ在住の約12万人の日系アメリカ人が住居を追われ、その多くが人里離れた強制収容所に送られた。リーも、その一人になったのだ。
  • I was headed for these islands…親友が収容所に送られるのを横目に、主人公は徴兵され、戦地に送られる。「these islands」は「それらの島々」なので、文脈的にはハワイ諸島なのだが、最終的に主人公が戦死する場所はフィリピンである。「太平洋の島々」という言葉で翻訳した。
  • sabatage…「サボタージュ/破壊活動」を意味する「sabotage」というフランス語を、どこかで聞きかじった人間が「言えてない言い方」で吹聴していることの表現なのだと思われる。
  • Lee got out of jail but a prisoner he remained…「get out of」は「外へ出る」「抜け出す」を意味する熟語だが、リーが終戦によって収容所から出られたことを意味するのか、それとも「脱走」したのかは、この歌詞からは定かではない。終戦後も日系アメリカ人の市民権は1952年に至るまで回復されず、公民権運動の時代を経るまで長きにわたり「二級市民」扱いされる、社会的差別を受け続けることになったという。「prisoner he remained (彼は囚人のままだった)」という歌詞は、そうした歴史の描写であると思われる。
  • Oh Mr Friendly Ghost…この最後のバースの歌詞は、「死んだ主人公とリーとのあの世での会話」の描写なのだというネット記事の解説を見たことがあるが、ここでリーに話しかけているのは「They (やつら)」であり、主人公は明らかにこの会話に参加していない。しかしリーは相手に対して「Oh Mr Friendly Ghost (ああ私の友好的な幽霊よ)」と呼びかけているので、やはり「あの世での会話」だと解釈するのが妥当なのかもしれない。ちなみにアメリカで「The Friendly Ghost」といえば、1945年に制作された「おばけのキャスパー」のことを指すらしいのだが、だからといって「Q太郎」とか訳しても、わけが分からなくなるだけである。ここでは直訳に近い形で訳した。



=楽曲データ=
Written by Greg Trooper & Sid Griffin
Released: 1991.9.17.
Key: D

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