華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Reel Around The Fountain もしくは風の歌を聴け (1984. The Smiths)

今、僕は語ろうと思う。

もちろん問題は何ひとつ解決してはいないし、語り終えた時点でもあるいは事態は全く同じということになるかもしれない。結局のところ、文章を書くことは自己療養の手段ではなく、自己療養へのささやかな試みにしか過ぎないからだ。

しかし、正直に語ることはひどくむずかしい。僕が正直になろうとすればするほど、正確な言葉は闇の奥深くへと沈み込んでいく。

弁解するつもりはない。少なくともここに語られていることは現実の僕におけるベストだ。つけ加えることは何もない。それでも僕はこんな風にも考えている。

うまくいけばずっと先に、何年か何十年か先に、救済された自分を発見することができるかもしれない、と。そしてそのとき、象は平原に還り僕はより美しい言葉で世界を語り始めるだろう。

-村上春樹「風の歌を聴け」1978年-


Reel Around The Fountain

Reel Around The Fountain

英語原詞はこちら


It's time the tale were told
of how you took a child
and you made him old

語られるべき時が
来たのだと思います。
あなたがどんな風に
ひとりの子どもを自分のものにして
その子に年をとらせたのかという
その物語が。


It's time the tale were told
of how you took a child
and you made him old
you made him old

語られるべき時が
来たのだと思います。
あなたがどんな風に
ひとりの子どもを自分のものにして
その子に年をとらせたのかという
その物語が。


Reel around the fountain
slap me on the patio
I'll take it now

噴水の周りの円舞。
中庭での平手打ち。
今なら受け入れることが
できるような気がします。


Fifteen minutes with you
well, I wouldn't say no
oh people said
that you were virtually dead
and they were so wrong!

あなたとの15分間
ああわたしには
ノーだなんてとても言えないです。
ひとびとは
あなたは死んでいるのも同然だなんて
言っていましたが
そんなのは全然
間違っていたんです。


Fifteen minutes with you
I wouldn't say no
oh people said
that you were easily led
and they were half-right

あなたとの15分間
ああわたしには
ノーだなんてとても言えないです。
ひとびとはあなたはもっと
自分を大切にすべきだみたいなことを
言っていましたが
かれらは半分しか
正しくなかったんです。


It's time the tale were told
of how you took a child
and you made him old

語られるべき時が
来たのだと思います。
あなたがどんな風に
ひとりの子どもを自分のものにして
その子に年をとらせたのかという
その物語が。


It's time the tale were told
of how you took a child
and you made him old
you made him old

語られるべき時が
来たのだと思います。
あなたがどんな風に
ひとりの子どもを自分のものにして
その子に年をとらせたのかという
その物語が。
あなたはその子に
年をとらせたんです。


Reel around the fountain
slap me on the patio
I'll take it now

噴水の周りの円舞。
中庭での平手打ち。
今なら受け入れることが
できるような気がします。


Fifteen minutes with you
I wouldn't say no
oh people see no worth in you
oh but I do

あなたとの15分間
ああわたしには
ノーだなんてとても言えないです。
ひとびとはあなたの中に
なんの値打ちも見出そうとしません。
でもわたしにはわかるのです。


Fifteen minutes with you
oh I wouldn't say no
oh people see no worth in you
but I do

あなたとの15分間
ああわたしには
ノーだなんてとても言えないです。
ひとびとはあなたの中に
なんの値打ちも見出そうとしません。
でもわたしにはわかるのです。


I dreamt about you last night
and I fell out of bed twice
you can pin and mount me
like a butterfly

ゆうべはあなたのことを夢に見て
二回もベッドから転がり落ちました。
蝶々みたいにピンで止めて
上から押しつけてくれても
かまわないんですよ。


But take me to the haven of your bed
was something that you never said
two lumps, please
you're the bee's knees
but so am I

けれども天国みたいなあなたのベッドに
連れて行ってくれるという言葉が
あなたの口から語られたことは
ありませんでした。
かたまりあったふたつの影
どうかよろしくお願いします。
あなたは柔らかく折れ曲がった
ミツバチの膝のようにデリケート
でも私だってそれは
同じなのですよ。


Meet me at the fountain
shove me on the patio
I'll take it slowly

噴水のところで会ってください。
中庭で押し倒してください。
ゆっくり時間をかければ
受け入れることができると思います。


Fifteen minutes with you
oh I wouldn't say no
people see no worth in you
oh but I do

あなたとの15分間
ああわたしには
ノーだなんてとても言えないです。
ひとびとはあなたの中に
なんの値打ちも見出そうとしません。
でもわたしにはわかるのです。

=翻訳をめぐって=

以下は前回同様、英語圏の歌詞読解サイト「Genius」から翻訳·転載したこの歌の解釈についてのコメントです。
genius.com

About “Reel Around the Fountain”
この曲について

From The Smiths' eponymous first album. “Reel Around the Fountain” met with controversy, with some tabloid newspapers alleging the songs were suggestive of paedophilia, a claim strongly denied by the group.
自らのバンド名を冠したザ·スミスのファーストアルバムの収録曲。「Reel Around the Fountain」の歌詞は、いくつかのタブロイド紙から小児性愛を示唆しているという指摘がなされ、論争を呼んだが、グループはそのクレームを強く否定している。

It's time the tale were told
Of how you took a child
And you made him old


Morrisey is talking about his first relationship. In particular the physical aspect of it. He was a child-like and immature before, but his first sexual experience was the beginning towards maturity for him.
モリッシーは、彼にとっての「最初の関係」について語っている。とりわけ身体的な側面についてである。彼はかつては子どもじみていて未成熟だった。だが彼にとっての最初の性的体験は、大人になることの始まりを意味していた。

The case can also be made that is describes an abusive relationship, or maybe the other person treated him like a sex object and these experiences made him grow up faster.
その体験は虐待的な関係の中でなされたか、あるいは別の人物が彼のことを単なる性的対象として取り扱ったということが描写されているようにも、読める。そしてそうした経験が、彼が「大人になること」を早めたのだ。

  • 備考: 「It's time the tale were told」で「were」という「過去形の動詞」が使われている理由について。何となく深い意味がありそうな気がしたのだけど、「It's time 〜」で始まる文章には慣用句的に過去形が使われることが「普通」であるらしく、特に難しく考える必要はないらしい。例文としては「It's time you went to bed (寝る時間だよ)」「It's time we told your mother (いいかげんにしないとお母さんに言いつけるよ)」等々。文法的には仮定法の特殊な用法らしいのだが、あまり深入りはしないことにする。

Reel around the fountain

A “reel” in the UK & Ireland is a type of dance. The line could be referencing the “dance” lovers do, one pursuing the other in courtship.
イギリスとアイルランドにおける「リール」とは、ダンスの一種である。この歌詞は、求愛のために片方がもう片方を追いかける、恋人同士の振る舞いを、「ダンス」として表現しているものだと思われる。

The phrase"reel around the fountain" also refers to the act of oral sex, predominantly in the gay community.
「噴水の周りのリール」というフレーズは、主にゲイのコミュニティにおいては、オーラル·セックスに言及する言葉でもある。


アイルランドのリールダンス

Slap me on the patio

In England, “slap & tickle” is slang for sexual play. The line taken with the previous could mean in the early two refrains they’re flirting and playing around on the patio. The latter switch to “shove me on the patio” could mean that their relationship has turned from playful courtship to now just going through the motions after that the speaker realizes they’re not a serious love interest but a physical fling — “Take me to the haven of your bed was something that you never said”
イングランドにおいて「Slap & Tickle (叩いてくすぐる)」というのは、セックスのやり方に関するスラングのひとつである。この歌詞は前の部分と合わせるなら、以前の二人がパティオ(中庭)でふざけあっていた様子の描写なのだと思われる。それが後になって「shove me on the patio (中庭で私を押し倒して下さい)」に変わるのは、ふざけ合いの求愛行動が具体的な動きをとったことの描写であり、その瞬間に語り手は、それが本当の愛情からではなく、単に肉体的な衝動を処理するための行動にすぎなかったことに気づく。そのことが「Take me to the haven of your bed was something that you never said」という、後段の歌詞に示されている。

Oh, people said that you were virtually dead And they were so wrong

This line possible implies that the other person was much older, “virtually dead”. Or he had no money, no job, no good position in society, so he was dead to them.
この歌詞は相手の人物が語り手より遥かに年長だったことを示唆していると思われる。「事実上死んでいる」ほどに。もしくはカネも仕事も社会的な地位もないために、「死んでいるも同然」と見なされている人物だったのかもしれない。

It also has a double meaning of the subject being emotionally or metaphorically dead. Morrissey says they were so wrong because their encounter showed him the person was actually vivid.
同時にこの歌詞はダブルミーニングとして、語り手自身が感情的に、あるいは比喩的に「死んだ」状態にあると言われているのだとも読みうる形をとっている。(補足: つまりこの歌詞における「you」は、相手のことだとも歌い手のことだとも読めるということ)。どちらにせよ、それは間違いだとモリッシーは言っている。その相手との出会いは今でも彼の中で鮮明な輝きを放っているからだ。

Oh, people said that you were easily led And they were half-right

People thought the lover was “easy”. But Morrisey claims they were only half right.
人々はその恋人が「イージーな」人間であると考えた。でもモリッシーは、それは半分しか正しくないと言っている。

He could be trying to say that somebody was “easy”, but it was he himself, not his lover. People had it backwards.
彼は「イージー」だったのは自分自身であり、その恋人ではなかったと言っているのだと思われる。人々の見方は逆転しているというのだ。

  • 「you were easily led」の直訳は「あなたは簡単について行かされた」みたいな感じになる。試訳は意訳になっている。

I dreamt about you last night And I fell out of bed twice

A quote from the play"A Taste of Honey" by Shelagh Delaney. A story about a working class, masculine girl called Jo, her dreadful mother and a homosexual art student in 1950’s Manchester.
この歌詞はシーラ·デラニー(イギリスの劇作家)の「蜜の味」からの引用である。1950年代のマンチェスターを舞台に、労働者階級に属する男性的な少女であるジョー、その恐ろしい母親、そしてホモセクシャルの美術学校生との関係が描かれている。

The play caught Morrissey’s eye and is a huge influence on his work. It is taken from Act 1 scene 2 when Jo and her black sailor boyfriend are talking about each other:
この作品はモリッシーの目に止まり、彼の仕事に巨大な影響を与えている。このセリフは第一幕シーン2の、ジョーと彼女の黒人の船乗りのボーイフレンドとの会話から取られている。

Boy: Good night.
少年: おやすみ。

Jo: Dream of me.
ジョー: あたしのことを夢に見てよね。

Boy: I dreamt about you last night. Fell out of bed twice.
少年: ゆうべはきみの夢を見て二回もベッドから転げ落ちたよ。

Jo: You’re in a bad way.
ジョー: そんな見方じゃなくてさ。

Boy: You bet I am. By seeing you!
少年: きっと見るよ。誓ってもいい。

Jo: [as she goes] I love you.
ジョー: (立ち去りながら)愛してるよ。

Boy: Why?
少年: 何で?

Jo: Because you’re daft.
ジョー: あんたって、めちゃめちゃだもん。

This title ‘A Taste of Honey’ could also be the reason for the reference to bee’s knees at the end of this verse.
「蜜の味」というこの戯曲のタイトルは、後に出てくる「蜜蜂の膝」という歌詞にもインスピレーションを与えていると思われる。

You can pin and mount me like a butterfly
But "take me to the haven of your bed"
Was something that you never said


Morrissey is implying that he will allow his lover to pin and mount him in a sexual advance but delicately this time, as previously he used the line “shove me on the patio” which is rough and rushed. Ending with Morrissey asking for butterfly-like sex, he wants it to feel like a haven which his lover also feels.
モリッシーはその恋人に対し、性的な語りかけとしてピンで止められたり標本にされても構わないという言葉を使っているが、前の部分で乱暴なイメージの「中庭で押し倒す」という言葉が使われていたのとは対照的に、「今度はやさしくしてほしい」と言っているのだと思われる。「蝶のようなセックス」を相手に対して求めることで、モリッシーは相手がそう感じるのと同じように、それを天国のようなものにしたいと望んでいるのだろう。

The reference to “pin and mount me like a butterfly” is a reference to The Collector by John Fowles. The main character collects women as a butterfly collector collects butterflies.
「蝶のようにピンでとめて標本にする」という歌詞は、ジョン·ファウルズの「コレクター」という小説を元ネタにしている。あたかも蝶のコレクターが蝶を集めるのと同じように、主人公が女性を集めようとする話である。

  • 「mount」という言葉は、「標本にする」という意味と「上からのしかかる」という意味のダブルミーニングで使われている。試訳の言葉遣いは一応、それを踏まえたものになっている。


Reel Around The Fountain (1983)


=楽曲データ=
Released: 1984.2.20.
Key: A

Reel Around the Fountain

Reel Around the Fountain

  • ザ・スミス
  • ロック
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes