華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Instant Karma! もしくはソッコーのカルマ!(1970. John Lennon & Plastic Ono Band)


Instant Karma! (We All Shine On)

Instant Karma! (We All Shine On)

英語原詞はこちら


Instant Karma's gonna get you
Gonna knock you right on the head
You better get yourself together
Pretty soon you're gonna be dead
What in the world you thinking of
Laughing in the face of love
What on earth you trying to do
It's up to you, yeah you

因果応報はソッコーで君に返ってくる。
君の頭をまともに直撃することだろう。
君は自分自身を取り戻すべきだ。
あっと言う間に
死んじゃうことになるよ。
いったいぜんたい君は
何を考えてるわけ?
愛を目の前にして
笑ってるなんてさ。
ほんとにまったく君は
何をやろうとしてるわけ?
すべては君にかかってるんだぜ。
君にだよ!


Instant Karma's gonna get you
Gonna look you right in the face
Better get yourself together darling
Join the human race
How in the world you gonna see
Laughing at fools like me
Who on Earth d'you think you are
A superstar?
Well, right you are

因果応報はソッコーで君に返ってくる。
自分自身のおこないが正面から
君の顔を見すえることになるだろう。
君は自分自身を取り戻すべきだ。
ダーリン。
全人類の一員になれよ。
いったいぜんたい君は
どういう風に見ようとしてるわけ?
ぼくみたいにfoolな人間のことを
笑い者にしてさ。
ほんとにまったく君は
自分を何だと思ってるわけ?
スーパースター?
その通りだよ。


Well we all shine on
Like the moon and the stars and the sun
Well we all shine on
Ev'ryone come on

ぼくらは輝き続けるんだ。
月のように星のように太陽のように。
ぼくらは輝き続けるんだ。
みんな!おいでよ!


Instant Karma's gonna get you
Gonna knock you off your feet
Better recognize your brothers
Ev'ryone you meet
Why in the world are we here
Surely not to live in pain and fear
Why on earth are you there
When you're ev'rywhere
Come and get your share

因果応報はソッコーで君に返ってくる。
君は自分のカルマに
ビックリさせられることだろう。
自分にはきょうだいがいるんだって
ことに気づいた方がいい。
君の出会うみんながそうなんだ。
いったいぜんたい何のために
ぼくらはここにいるんだろう?
傷ついたりおびえたり
するためじゃないはずだ。
ほんとにまったく君は
どうしてそこにいるんだろう?
世界は君で満たされてるっていうのに。
来いよ。
君の取るべきものを受け取るといい。


Well we all shine on
Like the moon and the stars and the sun
Yeah we all shine on
Come on and on and on on on
Yeah yeah, alright, uh huh, ah

ぼくらは輝き続けるんだ。
月のように星のように太陽のように。
ぼくらは輝き続けるんだ。
来いよ!
その調子だ!


Well we all shine on
Like the moon and the stars and the sun
Yeah we all shine on
On and on and on on and on

ぼくらは輝き続けるんだ。
月のように星のように太陽のように。
ぼくらは輝き続けるんだ。
輝き輝き輝き輝き続けるんだ。


Well we all shine on
Like the moon and the stars and the sun
Well we all shine on
Like the moon and the stars and the sun
Well we all shine on
Like the moon and the stars and the sun
Yeah we all shine on
Like the moon and the stars and the sun

ぼくらは輝き続けるんだ。
月のように星のように太陽のように。
ぼくらは輝き続けるんだ。
月のように星のように太陽のように。
ぼくらは輝き続けるんだ。
月のように星のように太陽のように。



コーマの次はカーマ」という、必然性があるのかないのか私自身にもよく分からないような今回の選曲なのだけど、この「インスタント·カーマ」の「カーマ」というのは仏教用語で言うところの「カルマ」、鳩摩羅什だか三蔵法師だかの昔のお坊さんが漢字に翻訳してくれた日本人に馴染みのある言い方を使うなら、「業(ごう)」という概念を表す言葉の英語読みなのだそうである。

私が仏教というものをどう思っているかということについては以前に「般若心経」を取りあげた際に長々と綴ったことがあるが、私の好き嫌いとは別にして、仏教では昔から「因果応報」ということが言われている。世の中の全てのものごとには理由があり、「原因」があって「結果」が生じる。原因の因と結果の果で「因果」であり、生きている限りこの「因果」から逃れることは誰にもできない。体にいいことをすれば体が良くなるし、体に悪いことをすれば体が悪くなる。人に親切にすれば感謝が返ってくるし、残酷なことをすれば怨念が返ってくる。それ自体は、当たり前のことである。

しかしながら仏教においてはこの「因果」の概念が「拡張」されて、「今ある人生」は「前世のおこない」の「結果」なのだ、というような考え方がなされている。「現世」の自分が「不幸」なのは、「前世のおこない」が「悪かった」からなのだ。だから「来世」では「幸せ」になれるように、この「現世」で「いいこと」をしておこう、というのが、ザックリ言うならば仏教における「道徳観」なのだと考えて間違いない。この「前世のおこない」が「宿業」と呼ばれるものであり、また「来世での生まれ変わり」を信じて「現世で積み重ねるおこない」のことも「業」と呼ぶ。つまりはこの歌における「カーマ」=「カルマ」の概念である。

そしてこんな風にカギカッコをいっぱい使ってしかその思想を紹介することができないのは、やっぱり私自身がその考え方を大嫌いだからである。何を勝手に「因果」の概念を「拡張」してくれてんねや、と思う。私がむかつくのは、それが単に「非科学的だから」ではない。この仏教思想はまさにその「現世」において、社会的に差別される立場にある全ての人々に対し、「それはお前の『自業自得』なのだからあきらめろ」と絶望を押しつける役割しか果たして来なかったし、今も果たし続けている現実があるからである。私には年上の「障害者」の友人がいるのだけれど、その人は少年時代に家に創価学会がやって来て「お宅に『障害者』が生まれたのは親御さんの前世のおこないが悪かったからだ」ととんでもないことを言われ、さらにそれを「信じた」両親が「救済」を求めて「入信」するという、自分の人格を何重にも踏みにじられる苦しみを味あわされなければならなかった。私の実家は天理教の家だったけど、その世界でもまた同様のことを見聞きして育ってきたことは、以前に触れた通りである。神や仏というものを私は一度も心から「信じた」ことがないけれど、別に積極的にその存在を否定したいわけではない。いるならいたで構わないと思う。けれどももしもそいつが人を差別するようなやつだったとしたら、相手が神であろうが仏であろうが、許せないものは許せない。その一線についてだけは、絶対に譲ることができないと考えている。

そうしたことがあった上で、もしくはそうしたことを知ってか知らずか、60年代のカウンターカルチャーの勃興の中で、欧米の若者の間では仏教思想が爆発的なブームになったことが、あったのだという。亡くなった年にあたる1980年の「プレイボーイ」誌におけるインタビューの中で、ジョン·レノンは「インスタント·カーマ」というフレーズを思いついた過程を、以下のように語っている。

Everybody was going on about karma ... but it occurred to me that karma is instant, as well as it influences your past life or your future life. There really is a reaction to what you do now ... Also, I'm fascinated by commercials and promotion as an art form ... So, the idea of instant karma was like the idea of instant coffee: presenting something in a new form.
あの頃はみんながカルマって言葉をがなり立てていた…でも、カルマっていうのはインスタントなものなんじゃないかって、気がついたんだ。それが前世や来世に影響を及ぼすのと同じくらいにさ。自分が今何をやったかに対するリアクションっていうのは、実際、起こるわけだ…芸術の形をとったコマーシャルやプロモーションには、僕だって夢中になることもあるしね。だから「インスタント·カルマ」ってアイデアの中味は、「インスタント·コーヒー」ってアイデアと同じようなもんだよ。今ある何かに新しい形を持たせて提示するやり方のひとつだね。

…「前世」からの「動かしがたい宿命」として、今ある人生を支配してしまう「カルマ」の概念とは対照的に、この「現世」において自分の「因果」を好き勝手に操作し、自分の望んだ通りの人生を送らせてくれるツールとなるような、「インスタントなカルマ」。何だかのび太がそんなひみつ道具はないのかと注文してドラえもんが引っ張り出してきたのが「インスタント·カーマ」だった、みたいな話の流れだが、実際このフレーズを思いついた時のジョンは、自分がドラえもん的な存在になったような感じを味わっていたのではないかという気がする。確かに「インスタント·カーマ」というのは、「使える」概念だ。この言葉を使えば「カルマ」という言葉が持つ宿命論的なイメージは消え去り、「自分のやったことは全部自分に返ってくる」。「だからハッピーなことをやってハッピーになろう」というポジティブな結論部分だけが残される。つまるところ、「カルマ」という概念を「あきらめるため」ではなく「前向きに生きるため」に転用すべく、新たに開発された概念が「インスタント·カーマ!」なのだと言えるだろう。

…要するに、何かすごいことを言ってるようで全然大したことは言っていない、というのが私の正直な感想なのですけどね。つまらない世界も見方を変えれば輝いて見えてくる、ということは実際にあることだし、素敵なことでもあると思うけど、そこで終わってしまったら宗教にしかならないと思う。世界を変えるためにはまず自分が変わらなければならない、というのは疑いえない真理だが、自分が変わっただけで世界が変わると思ったら、それはやっぱりとんでもないカン違いだと言わざるを得ない。「概念」だけがいくら変わっても、現実の世界が何も変わらないなら、その「概念」はインチキなのだ。概念。概念。概念。こんな風に「概念」という言葉が振り回されるのを見るたびに思い出されるのは下の野性爆弾の伝説的なコントなのだけど、それと同んなじように何んにも残らないのがこの歌だと思う。とまで言ってしまったら、ジョンレノンのファンの人たちは怒るだろうか。楽曲的にも「愛こそはすべて」と「Dig A Pony」を混ぜ合わせて適当にデッチあげたみたいな、すごいやっつけ仕事な感じがするし。「インスタント」だからそれでもいいのかしら。


野性爆弾 概念

ちなみにジョンが望んだ通りにと言うべきなのか何なのか、「インスタント·カーマ」という言葉は今ではすっかり「英語の一部」になっているらしく、例えば自分の捨てたバナナの皮を5秒後に自分で踏んで転倒したやつを笑いものにする際などに「Instant Karma!」というフレーズが使われるらしい。私は世の中で言うところの「仕事の段取りが悪い人」で、自分がさっき置いたボウルのせいでまな板を出す場所がなくなってしまいそれを片付ける場所を探している間にフライパンがこげついてしまう、みたいなことをしょっちゅう起こすのだが、そういうのもいちいち「インスタント·カーマ」だということになる。何だか、全然ありがたくない言葉である。

「Instant Karma」という言葉でYouTubeを検索してみると、怖い事故から微笑ましい失敗までいろんなアクシデント映像をまとめた動画がいくつも出てきて、それぞれが何十万回も再生されている。「Instant Karma」は「珍プレー好プレー」とか「決定的瞬間」とかいったのと同じく、今の英語圏ではひとつの「ジャンル名」としての位置を獲得しているらしい。一番再生数の多かった動画をとりあえず貼りつけておくけれど、私はこういうのは何だか全然好きになれなかったな。人の不幸を見世物にして「自業自得だ!」と喜んでいるような感じしかしてこない。「インスタント·カーマ」という言葉でジョンが訴えたかったのはきっとそんなことではなかったと思う。もとより上に書いたように、大したメッセージが込められた歌であるようにも全然思えないわけなのだけど。


Most Viewed Instant Karma Videos 2018

ところで、一番上に貼りつけた動画は、この曲が発売された当時にBBC放送でのプロモーション用に撮影されたものらしいのだけど、一見フツーの演奏風景のように見えつつ、よく見るといろんな部分がかなり変わっている。いまだビートルズに籍は置いていたけれど実質脱退状態だった当時の短髪のジョン·レノンが白いピアノに向かってシャウトしているその向こう側では、なぜかヨーコさんが白い目隠しをして編み物をしている。さらにジョンの背後の、一貫して正面からは映し出されないステージの一角では、なぜか複数の女性が「檻の中」で踊っている。これは一体どういうコンセプトのもとに撮影された動画だったのだろう。

と思ったら何とその動画に小野洋子さん本人がコメントをつけて当時のことを振り返っているのを見つけてしまい、私はでんぐり返ってしまった。すごいんだなYouTubeって。以下はそのコメント欄からの転載である。



1970年2月12日、私は生理用品で目隠しをして、当てもなく何かを編んでいました。私はそれを、私たちの未来を象徴する男性が「ぼくらは輝き続ける」と歌っているその時にやっていたのです。そう。私たちは輝くことでしょう。けれどもそのためには私たちは自分自身の目隠しを外し、何を編んでいるのかも分からない編み物をやめるこから始めなければなりません。それが、私たち女性が自分たち自身を何から自由にしなければならないかを表現するための、私なりのやり方だったのです。

…ごめんなさい小野さん説明されてもあんまりよく分からないんですけど、何はともあれ半世紀後の日本のリスナーの一人として、そのメッセージはしっかり受け止めておくことにしたいと思います。それにつけてもこんな風に「当事者」がフツーに参加しているような動画であっても、別のところにいる人間が著作権がどうの的な判断を下したら簡単に消されてしまうようなことがしょっちゅう起こっているので、YouTubeというのは本当によく分からない。

=翻訳をめぐって=

Instant Karma's gonna get you

この歌の文脈における「instant」という言葉の一番「正確」な訳語は、日本語で「天罰テキメン」とか言う時の「覿面」なのだと思う。しかし「覿面のカルマ」とか訳しても全然わけが分からないし、第一読めない。他にも「刹那のカルマ」とか「瞬殺のカルマ」とか、アニメの題名みたいな訳語をいくつか考えてみたが、どれもこれも全然イメージが伝わってこない。

思うにこれは、「カルマ」という言葉をそのまま訳詞に使おうとすることから無理が生じてくるのだと思う。キリスト教世界の人が仏教思想を学ぼうと思ったらいきなり「カルマ」というサンスクリット由来の用語から入るわけだが、日本ではその概念を説明するために「業」とか「因果」とかいった「馴染み深い訳語」が大昔から存在しており、あえて「カルマ」という「原語」にこだわるのは学者か新興宗教団体に限られているというのが現実なのである。なので訳詞の中に「カルマ」という「業界用語」をあえて採り入れたら、その時点で日本語世界においてはこの歌は学者か新興宗教団体の人間にしか「伝わらない」歌になってしまう。それならば、「因果応報」という比較的宗教色の薄まった用語を使って意訳した方が、誤解やアレルギー反応は少なくて済むと言えるだろう。

「ソッコーで」という言葉が「急いで」とか「即座に」とかいった意味で使われるようになったのは、いつごろのことなのだろうか。私が知る限り、90年代初頭までの関西地方では使われていなかった言葉であり、初めて聞いた時にはとても不思議な感じがしたことを覚えている。この「ソッコー」は「即効」なのか「速攻」なのかはたまた「即行」なのか。私はかれこれ20年ぐらいいろんな方面に目を光らせているのだけれど、いまだスッキリした説明を与えてくれる辞書なり文章なりに出会えたことはない。

友だちが貸してくれたCDの歌詞カードを読みながら歩いていて、横からその友だちが「ソッコー、はまんで?」と言うので「ほんまにい?」とか生返事をしていたら、側溝にはまりかけた経験を持っているのは、はい。19の頃の私です。

Join the human race

直訳は「人類に参加しろ」。「全人類の一員になろうじゃないか」みたいな比較的「押しつけがましくない」訳し方をしたい誘惑にとらわれたのだが、ジョンという人は明らかに「押しつけがましい」人なのである。日本人だったら絶対「全人類の一員になれよ」的な言い方をすると思う。だからあえて直訳に近い訳し方をしたのだが、そうしたらそうしたで私の責任でジョンレノンの好感度を下げるような結果を招いてしまうことは明らかなわけで、悩ましい話である。

ところで私は「human race (人類)」と言う時の「race (人種)」という言葉が、英語では同時に「競争」を意味していることが昔から気になっている。「人種」の存在そのものが「競争」を必然とするのだ、といったような「思想」がその背後に横たわっているように感じられて、何だかとてもイヤな気分になる。私が懸念するのは、「human race」というのは「人間同士の競争」みたいなイメージを同時に含んだ言葉なのではないかということである。「全人類の一員になれよ」というのと「全人類の競争に参加しろよ」というのでは全くその意味が違ってくるし、よもやこの歌のメッセージが後者であることはありえないと思うのだが、英語話者の人たちはこの「race」という言葉を一体どんな風に感じているのだろうか。誰かネイティブ感覚で教えてくれることのできる方が読んでいらっしゃったら、コメント頂ければ幸いです。

Laughing at fools like me

「fool」という言葉は「精神病者」に対する差別表現です。ここでは原文をそのまま転載しました。

A superstar?
Well, right you are

この歌詞は多分「地球上に生きる人の全てはスーパースターだ」みたいなことを言っているのだと思うけど、そうなると「スーパースター」という言葉は「意味」を失ってしまうので、「ヘンな歌詞」だと思う。そもそもジョンレノンという人自身が「スーパースター」という言葉にある種のニヒリズムを感じていたことは明らかなわけで、ポジティブなメッセージの内容とは裏腹に何となく投げやりな印象を受ける。

Gonna knock you off your feet

「knock off somebody's feet」で「(誰かのことを)ビックリさせる」という意味になるのだとのこと。直訳するなら「因果応報に足払いをかけられるだろう」みたいな形でも訳せるのだが、それだと「カルマ」というものは「人の足を引っぱるもの」になってしまう。この歌における「インスタント·カーマ」というのは「ポジティブな概念」なのだから、「自分のやり方次第ではビックリするぐらいいいことがあるよ」みたいなイメージで訳した方が多分ジョンの言わんとするところには近いのだと思う。「It's up to you」なのである。

Better recognize your brothers

「全人類」のことを歌っている歌のようではありつつも、「brothers」と言っている以上、ジョンは「男のことしか」歌っていないし、「男に向けてしか」歌っていないのではないだろうか。揚げ足取りみたいだけど、私はそういうことがけっこう気になる。もちろん、悪い歌だとは思わないし、真面目な歌だとも思う。でもその「真面目さ」が「中途半端なもの」を孕んでいる場合、その「中途半端なところ」からその人の生き方はどんどん崩れてくることが起こりうる。私はそんな例を、けっこういっぱい見ている。


カメラ!カメラ!カメラ!

…何となく思い出しただけ。ではまたいずれ。


=楽曲データ=
Released: 1970.2.6.
Key: A

Instant Karma All-Time Greatest Hits

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