華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Radio Ga Ga もしくはギズモカカ (1984. Queen)

Bohemian Rhapsody LIVE AIDHammer To Fall

自分が
幸せになれるか
どうかが
第三者で決まるような
腐った生き方を
俺はせん。
ギズモ カカ!


三代目魚武濱田成夫詩集「世界が終わっても気にすんな俺の店はあいている」1995年


あのねのね ネコニャンニャンニャン

…まちがえました。
今回とりあげるのはこの曲です。


Radio Ga Ga

「時事ネタ」でもあることだし、「ボヘミアン·ラプソディ」を取りあげたのに引き続いて、85年のライブ·エイドで演奏されたクイーンの楽曲は、このさい全部翻訳しておくことにしたいと思う。その最大の理由は「自分自身が楽しむため」である。

あの日、ウェンブリー·スタジアムで2曲目に演奏された「Radio Ga Ga」は、ドラマーのロジャー·テイラーの作品であり、私、この人、むかし地元の東大寺で開かれたコンサートで、見たことあるんですよ。て言っか春先にはそのコンサートを再現する企画をやっていたはずなのだけど、いつの間にかそれが放ったらかしのままになってしまっている。何とかして年内には完結させておかないとと思う。

この曲は一言で言うならば、「ラジオに対する応援歌」になっている。私の幼児期から小学校低学年ぐらいにあたる1980年代前半という時代は、MTVとかそういうものの登場で、音楽というものが「聞くもの」から「観るもの」へと歴史的な転換を遂げつつあった時代であり、長年音楽ファンの「パートナー」としての役割を果たしてきたラジオは、急速にテレビにその座を明け渡しつつあった。後に「インターネット」というものが現れてもう一度その構図が引っくり返される日が来ようとは、当時は大人も子どもも夢にも思っていなかったわけなのだけど、それまでずっとラジオを聞いて育ってきた人たちの気持ちとしては、当時の状況には相当「さびしい」ものがあったらしい。

その意味ではこの曲は、音楽の歴史に鑑みても、このブログの最初期に取りあげた「ラジオスターの悲劇」の「きょうだい曲」という位置づけを持った曲なのだと思う。「ラジオスターの悲劇」の翻訳には本当に苦労させられたものだったが、後に「ラジオスターの悲劇 和訳」で検索した時に「華氏65度の冬」がGoogleで一番最初に紹介されているのを確認した時には、しみじみとブログを始めて良かったという感慨に浸らせてもらったものだった。もっとも世の中において「目立つということ」は、常に諸刃の剣でもある。その日以来私は、JASRACに目をつけられてこのブログがいきなり潰されてしまったらどうしようという不安の中で夜も眠れない日々を送ることになってしまったし、その「Xデー」は今でもやはり、いつ訪れないとも限らない。
nagi1995.hatenablog.com
一応、法律的なことについては自分でも調べて自衛手段をとっては来ているものの、権力者というものが本質的に邪悪なものである以上、最後には向こうのサジ加減ひとつで何をされるかは分かったものではないのである。最大の対抗策は「簡単に潰せないような世論を形成する」ことにかかっていると思うので、心ある皆さんにおかれましては、今のうちからSNS等々で「華氏65度の冬を潰したら許さないぞ!」という声を挙げておいて頂ければ幸いです。まあ、何かのキッカケがなければそういう声は挙げにくいものだと思うけど、「キッカケができた時」には既に手遅れになっているような形で事を進めようとするのが、常に権力者のやり口であるわけだ。憲法改悪もそう。徴兵制もそう。宣戦布告もそう。だからみなさん。今のうちから戦っておきましょう。
nagi1995.hatenablog.com
…「脱線」と言っても、戦争に反対したり排外主義に反対したりする喫緊の課題と比べれば、のんべんだらりと「音楽の話」にウツツを抜かしている方がよっぽど「脱線」であるには違いないのだが、とにかく歌の話に戻ることにします。

さてこの「Radio Ga Ga」という曲のタイトルについて。私は長年、電波の悪いところでラジオを聞く時の「ガーガー言う音」の擬音表現なのだと思っていて、そういうノイズの響きに耳を傾けながら古きよき時代を懐かしむ、みたいな曲なのだという印象を持っていた。ところが調べてみると、全然そういうことではなかったらしい。

何でもロジャー·テイラーが結婚した相手はフランスの人だったのだそうで、新婚家庭ではフランス語が使われていたらしいのだけど、その息子のフェリックスくんがまだ小さかった時、ラジオを聞いていた父親に向かってタドタドしいフランス語で「Radio caca!」と言ったらしいのである。直訳すると「ラジオ、うんち!」となる。多分フェリックスくんは、そのラジオが彼氏にとってとてもつまらなかったものだから、何か違うことをして遊ぼうよ、と父親に言いたかったのだと思われる。

そのいとけない幼子の言葉に現代社会に対する根源的な批評のようなメッセージを感じとったロジャー·テイラーは、その場で「レディオ·カカ」というタイトルの曲を作ることを思いつく。オトナの言葉に直すなら「ラジオなんてクソだぜ」みたいな感じにも響く文字列である。ロジャー氏はフェリックスくんが、きっと立派なロックンローラーに育ってくれるだろうという頼もしさをも、その言葉から感じ取っていたのかもしれない。

だがバンドメンバーやレコード会社は、公共の場所でも流れる歌詞に「うんち」はちょっと…という難色を示す。それはそうだろうと思う。私の場合、食事中に「うんこ」と言われるのはまだ耐えられる。でも「うんち」と言われると絶対キレる。「んち」というその響きから、大便のクリーミーな形状や、その温度、そして立ちのぼる湯気の粒子に漏れなく含まれた強烈な臭気が具体的に想像されてしまい、トイレで食事をしているのと変わらない気持ちになってしまうからである。いやまあここはフランス語の「caca」の話ではあるわけだけど、問題の核心はそういうところにあったのだと思う。「shit」は「座る」という意味です、みたいな小細工ではどうにもならない「うんち丸出し感」が、「caca」の響きには込もっているということなのだろう。知らんのやけど。

ところで英語には、「夢中になっている状態」をあらわす形容詞として「gaga」という言葉がある。これもフランス語由来の言葉らしいのだが、使い方としては

She's gaga about jazz
彼女はジャズに夢中だ。

gaga over the new album
そのニューアルバムに夢中になった。

等々という例文が辞書には載っている。これならポジティブなイメージの言葉だから、ということで、「Radio Ga Ga」というタイトルが誕生することになったらしい。

もっとも「gaga」という言葉は元々お年寄りの「恍惚状態」を蔑んで言う時の表現であり、さらに「精神病者」を排撃するための差別語としても機能していて、「我を忘れて夢中になる」という「プラスの意味合い」は、その「マイナスのイメージ」から派生したものであるに過ぎない。ちなみに「レディ·ガガ」という人の芸名はこの歌から採られているらしいのだけど、この場合は「夢中になってる姉ちゃん」という意味なのだな、と解釈しうる。しかし「レディオ·ガガ」を「夢中になってるラジオ」と「翻訳」するのは明らかにおかしい。ラジオというものは「夢中になるもの」ではなく、人を「夢中にさせるもの」だからである。

従って「Radio Caca」が「Radio Gaga」になったとしても、それはやっぱりラジオをdisっている表現なわけであり、ageている表現ではない。元々「うんち」の語感を和らげるための「gaga」なのだから、それがageになったら歌の意味まで変わってしまう。ここをハッキリさせておくことが、この歌の翻訳の最大のポイントだと言っても過言ではないだろう。なお、偏屈者の私を、disとかageとかいった言葉を自由自在に使いこなせるような立派な現代人に育てageてくれたのは、ひとえにブログ「絶望ノオト」のイスケさんの薫陶によるところに他ならないので、この場を借りて改めて紹介させてもらっておきたいと思います。
zetubow.hatenablog.com
さらに。タイトルと歌詞はそういう経過を経て「ガガ」に決まったわけだけど、レコードやライブの演奏を聞いてみると、フレディ氏は一回目の「Radio Ga Ga」を明らかに「カカ」と発音している。二回目は「ガガ」と言っているから、これは絶対に意識して「うんち」と言っているのである。恐らくは、「表記上はgagaで妥協するけど、この歌の魂は『うんち』なんだからな」、という熱い確認が、ロジャー氏との間で交わされていたからなのだと思われる。この歌はやっぱり、ラジオのことを「うんち」だと言っている歌なのである。

そのことの上で、辞書には載っていないけれども、「gaga」という言葉の響きが「ラジオのノイズ」とカブって聞こえるという要素も、私はこの歌には、確実にあるはずだと思う。日本語話者と英語話者では擬音表現に対する感じ方が相当に違っているらしいので、実際のところはネイティブの人の意見を聞いてみないと何とも言えないのだが、「Radio Ga Ga」を「ガーガー言ってるラジオ」と訳しても、文法的には少なくとも無理のない幅であるはずだ。よしんば作ったロジャー氏にそういう意図がなかったとしても、説明すれば「日本人にはそう聞こえるのか」と、むしろ面白がってもらえる話なのではないかと思う。クイーンというのはそういうバンドだったと聞いている。そんなわけで下の試訳の中では、そういった「擬音的解釈」も1ヶ所だけ採り入れることにしておいた。

なお、この歌のPV(…何回も書いてきたことだけど、いつから「MV」って言うようになったんだろうか)は「ファシズム的」であるという批判が一部から上がっているらしいが、バンドの方からは「あのビデオは全体主義によるマインドコントロールへの批判を込めて作ったもので、ナチスやファシズムを賛美する意図は一切ない」という声明が出されているらしい。私が思うに、ヒトラーとスターリンを足して二で割ったような顔をしていたフレディ氏の「外見」に一番問題があったのであって、ヒゲさえ剃っていればどこからもクレームはつかなかったのではないか、という気がちょっとだけしている。実際問題、前回書いたイヤな先輩の影響もあったのだけど、そういうビジュアル面だけで彼氏のことを毛嫌いしていた側面は、私の場合、確かにあったからである。しかもあの人、身分差別の象徴としか思えない「王様のコスプレ」とか、大好きだったし。とはいえ今では、「人間は外見ではない」と、私も思うようにはなってきている。しかし最低限「やっていい格好」と「悪い格好」というものは、やっぱり、あるのではないかと思っている。

というわけで、以下、試訳です。


Queen-Live Aid 85/07/13
「Radio Ga Ga」は2:50〜

Radio Ga Ga

英語原詞はこちら


Radio - radio
ラジオさん
ラジオさん


I'd sit alone and watch your light
My only friend through teenage nights
And everything I had to know
I heard it on my radio

ぼくはいつも一人で座り込んで
あなたの電源ランプが光っているのを
見つめていたものでした。
ぼくの10代のいくつもの夜を通じて
たった一人の友だちが
あなただったんだなって思います。
そして自分の知るべきことを全部
ぼくはラジオで聞いて知ったんです。


You gave them all those old time stars
Through wars of worlds - invaded by Mars
You made 'em laugh - you made 'em cry
You made us feel like we could fly
Radio

あなたはいろんな人たちに
昔のスターの声を
届けてくれたものでした。
火星人が攻めてきて
世界中が戦争になったあの時も
そうでしたよね。
あなたはいろんな人たちを笑わせて
いろんな人たちを泣かせて
ぼくらを空だって飛べそうな
気持ちにさせてくれたものでしたよね。
ラジオさん。


So don't become some background noise
A backdrop for the girls and boys
Who just don't know or just don't care
And just complain when you're not there

だからあなたには
バックグラウンドで流れているだけの
ノイズになんて
なってほしくないんです。
何も知らなくて
何にも関心がなくて
ただ音が鳴ってるものがなければ
ブーブー言うだけの
兄ちゃん姉ちゃんたちのための
BGMになんて
なってほしくはないんです。


You had your time, you had the power
You've yet to have your finest hour
Radio - radio

あなたは
時代の主人公だったはずでした。
あなたには
パワーがあったはずでした。
あなたにとって
本当にいい時代が来るのは
まだまだこれからだって思うんですよ。
ラジオさん。
ラジオさん。


All we hear is radio ga ga
radio goo goo
radio ga ga
All we hear is radio ga ga
radio blah blah
Radio what's new?
Radio, someone still loves you

ぼくらに聞こえてくるのは
くそみたいなラジオばかり。
うんざりするようなラジオばかり。
耄碌したようなラジオばかり。
ぼくらに聞こえてくるのは
くそみたいなラジオばかり。
どうでもいいようなラジオばかり。
ラジオさん
今は何が流行ってるんだろうね。
ラジオさん
今でもあなたのことを愛してる誰かは
いるはずだと思いますよ。


We watch the shows - we watch the stars
On videos for hours and hours
We hardly need to use our ears
How music changes through the years

画面の上で
何時間もぶっ続けで
ショーを見て
スターの姿を見て
ぼくらは自分の耳を使うことも
ほとんど必要なくなってしまった。
時代の中で音楽は
どれだけ変わってしまったんだろうな。


Let's hope you never leave old friend
Like all good things on you we depend
So stick around 'cos we might miss you
When we grow tired of all this visual

ラジオさん
あなたのおかげで出会うことのできた
いくつもの素晴らしいもの
みんな消えてしまったけど
あなたには消えてほしくない。
昔からの友だちじゃないですか。
だからずっとそばにいてください。
そうでないとぼくらはきっと
さびしくなると思うから。
いつかビジュアルというものに
疲れてしまう日が来た時に。


You had your time - you had the power
You've yet to have your finest hour
Radio - radio

あなたは
時代の主人公だったはずでした。
あなたには
パワーがあったはずでした。
あなたにとって
本当にいい時代が来るのは
まだまだこれからだって思うんですよ。
ラジオさん。
ラジオさん。


All we hear is radio ga ga
Radio goo goo
Radio ga ga
All we hear is radio ga ga
Radio goo goo
Radio ga ga
All we hear is radio ga ga
Radio blah blah
Radio what's new ?
Someone still loves you

ぼくらに聞こえてくるのは
くそみたいなラジオばかり。
うんざりするようなラジオばかり。
耄碌したようなラジオばかり。
ぼくらに聞こえてくるのは
くそみたいなラジオばかり。
どうでもいいようなラジオばかり。
ラジオさん
今は何が流行ってるんだろうね。
ラジオさん
今でもあなたのことを愛してる誰かは
いるはずだと思いますよ。


Radio ga ga (ga ga)
Radio ga ga (ga ga)
Radio ga ga (ga ga)

くそみたいなラジオ
(でも夢中)
耄碌したようなラジオ
(でも夢中)
ガーガー言ってるだけのラジオ
(でも夢中)


You had your time - you had the power
You've yet to have your finest hour
Radio - radio

あなたは
時代の主人公だったはずでした。
あなたには
パワーがあったはずでした。
あなたにとって
本当にいい時代が来るのは
まだまだこれからだって思うんですよ。
ラジオさん。
ラジオさん。

=翻訳をめぐって=

Radio - radio

冒頭、一番考え込んだのは、ラジオを擬人化するとした場合、日本語話者ならどういう言葉でラジオに向かって呼びかけるだろうか、ということだった。「ラジオさん」という呼びかけ方をしてしまうと、この歌はそこから先を全部ですます体で訳す以外になくなってしまう。しかし「ラジオよ」では先が続かないし、「おいラジオ」みたいな乱暴な印象の歌詞でもない。そんなわけで私が訳したこの歌は「ですます体の歌」になった。なお、今回の翻訳は全体がかなり「意訳がち」になっている。

You gave them all those old time stars
Through wars of worlds - invaded by Mars

この歌詞は1938年のハロウィンに、アメリカのラジオ局がH.G.ウェルズの「宇宙戦争」を題材としたラジオドラマの中で、ドラマの一部として「火星人が攻めてきた」というニュース速報を流したところ、多くの人がそれを信じて大騒ぎになったという有名な事件を下敷きにしている。そのラジオ番組は奇しくも「マーキュリー放送劇場」という名前だったそうである。

All we hear is radio ga ga
radio goo goo
radio ga ga
All we hear is radio ga ga
radio blah blah

「gaga」と「caca」に関しては上で述べた通りだが、「goo goo」は「ベタベタした」「うんざりするような」、「blah-blah」は「退屈な」「毒にも薬にもならない」という意味であり、いずれもラジオのことをdisっている。映像メディアに主役の座を明け渡してしまったにも関わらず、旧態依然とした番組ばかり流していた当時のラジオに対し、「もっとしっかりしろよ」とハッパをかける気持ちが込められているのだと思われる。


Leslie Cheung MONICA

中国語で「ゲァガ(哥哥)」といえば「兄貴」「お兄ちゃん」という意味で、2003年に亡くなったレスリー·チャンの愛称でもあった。なので私は「ガガ」という響きを聞くとどうしてもこの人を連想してしまう。どぎついぐらいにゴージャスなクイーンのステージというものは、香港映画のケレン味たっぷりなところと、そう考えてみれば、どこか会い通じるところがあるのかもしれない。そしてそのイメージは関西人である私にとっては、ちょっとだけ大阪の、と言うより宝塚のイメージとも、重なっているのを感じる。という話は以前にもした。というわけでまたいずれ。
nagi1995.hatenablog.com


=楽曲データ=
Released: 1984.1.23.
Key: F