華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Hammer To Fall もしくは48億の個人的な憂鬱 (1984. Queen)

Radio Ga Ga LIVE AIDCrazy Little Thing Called Love


Hammer To Fall

Hammer To Fall

英語原詞はこちら


Here we stand or here we fall
History won't care at all
Make the bed, light the light
Lady Mercy won't be home tonight.

おれたちがここに立っていようと
ここで倒れることになろうと
歴史はそんなこと
気にかけちゃくれない。
ベッドを準備して
灯りをつけよう。
慈悲の女神は
今夜ここにはいてくれない。


You don't waste no time at all
Don't hear the bell but you answer the call
It comes to you as to us all
We're just waiting for the hammer to fall

ムダにしていい時間はない。
ベルの音なんて聞くんじゃない。
それなのにお前はそれに応えてしまう。
おれたちみんなに訪れるのと同じように
お前の上にもそれは訪れるんだ。
おれたちはただハンマーが
打ち下ろされるのを待っているだけ。


Oh every night, and every day
A little piece of you is falling away
But lift your face the Western Way
Build your muscles as your body decays.

ああ毎日毎晩
お前のカケラが少しずつ
剥がれ落ちて行く。
でも顔を上げろよ。
お前の身体は
ボロボロになってたっていうのに
西側世界のやり方ってやつは
その上から筋肉をくっつけて
たくましく見せかけていた
だけだったんだ。


Tow the line and play their game
Let the anaesthetic cover it all
Till one day they call your name
You know it's time for the hammer to fall.

綱引きの綱を手にとって
やつらのゲームに参加してやろう。
やつらがお前の名前を呼ぶまで
すべての上に麻酔をかけてやろう。
わかるか。
ハンマーが打ち下ろされる時が
やってきたんだ。


Rich or poor or famous for
Your truth it's all the same
(Oh no! Oh no!)
Lock your door but rain is pouring
Through your window pane
(Oh no!)
Baby, now your struggle's all vain.

金持ちも貧乏人も
そいつにとっての真実とかいうものの
おかげで有名になった連中も
みんな同じなんだ。
(いやだ!いやだ!)
ドアに鍵をかけろ。
でもお前の窓枠から
黒い雨は滴り落ちてくる。
(いやだ!)
なあお前のたたかいは
すべてムダだったんだよ。


For we who grew up tall and proud
In the shadow of the Mushroom Cloud
Convinced our voices can't be heard
We just wanna scream it louder and louder and louder

キノコ雲の影の下で大きくなって
プライドを育まれてきたおれたちは
みんな自分たちの声なんて
誰も聞いてくれないのが
当たり前なんだっていう風に
しつけられてきた。
おれたちはただ叫びたいんだ。
もっと大きな声で!
もっと大きな声で!
もっと大きな声で!


What the hell are we fighting for?
Just surrender and it won't hurt at all
You just got time to say your prayers
While you're waiting for the hammer to—hammer to fall.

いったい何のために
おれたちは戦ってるっていうんだ。
やめちゃえよ。
それで誰が傷つくっていうんだ。
お祈りをしといた方がいいぜ。
ハンマーが打ち下ろされるのを
待っている間に
待っている間に!


Yeah! Yes.
Let's get on the floor!
Yeah! Hammer!
You know
Hammer to fall!

そうだ!
フロアに出よう!
ハンマーだよ!
わかるか。
ハンマーが落ちてくるんだ!


Yeah!

I've been waiting for the hammer to fall!
While you're waiting for the hammer to fall.

おれはずっとハンマーが
打ち下ろされるのを待っている。
ハンマーが打ち下ろされるのを
お前が待っているその間もずっと。


Give it to me one more time!
もう一発来いやあ!


Queen-Live Aid 85/07/13
「Hammer To Fall」は7:40〜

「ライブ·エイド」の3曲目で歌われたこの曲は、ギタリストのブライアン·メイの作品で、核戦争の恐怖を歌った歌。その割には陽気な曲調なのだが、良きにつけ悪しきにつけ80年代というのはそういう時代だったのだろうなと、自分の子ども時代を振り返ってみても、感じるところがある。

21世紀になってから生まれた人たちにとっては、「東西冷戦」とか「西側世界」とかいった言葉自体が、「わかりにくく」なっているはずだと思う。以前にまとめて「解説」しておいたことがあるので、詳しく知りたいという若い方は以下のリンクを参照されたい。
nagi1995.hatenablog.com
nagi1995.hatenablog.com
アメリカとソ連という「二大国」による「冷たい戦争」の構図が世界を支配していた時代、人々の頭に思い描かれていた「具体的な戦争のイメージ」は、「両大国による全面核戦争」の恐怖だった。そんなことが実際に起こればみんな死んでしまうことが明らかなので、当時の人々は基本的にみんな戦争に反対していた。はずだと思う。少なくとも私の身の回りでは、そうだったはずだった。

この歌に出てくる「ハンマー」は、「農民と労働者」の象徴として当時のソ連の国旗に描かれていた「鎌とハンマー」のメタファーになっている。つまるところは「ソ連の核兵器が飛んでくるぞ」という歌である。「西側世界」の住人だったかれらにとって、確かに「飛んでくる可能性があった」のは「ソ連の核兵器」だったに違いない。でもそんな風に「相手の国を名指しする」ことは、それ自体が「敵意を煽る行為」になってはいないだろうか。その意味においてこの歌は「厭戦の歌」ではあっても、「反戦歌」にはなっていないというのが私の感想である。

…「戦争に反対する」ということは、具体的には「自分の国の支配者」と「戦う」ことでしかありえないはずだ、と私は思っているし、このブログは常にそうした私自身の政治的立場にもとづいて書かれている。それに賛同する人にも賛同できない人にも、そのことを頭に入れた上で読んでもらえさえすれば、それでいい。どんな言葉であれ、「自分の立場をハッキリさせることのできない人間」の口から吐かれた言葉は、「無責任な言葉」にしかなりえないのだ。戦争という「数え切れないぐらいの人の命のかかった問題」をテーマにした歌を取りあげるにあたって、適当な言葉でお茶を濁すようなことを、私はしたくない。だからこうした記事を書く際には、別に聞かれているわけではないけれど、必ず「自分の立場を明らかにして」書くことを心がけている。

1991年にソ連が崩壊し、「冷戦構造」という言葉が「過去のもの」となった現在においても、「核戦争の恐怖」というものは依然として存在し続けている。けれども「核戦争でない戦争」なら「やっていい」という話には、ならないはずである。それにも関わらず、時代が21世紀を迎えてからのこの20年近くというものは、少なくとも私にとっては、「自分が死ぬことさえなければ」戦争というものを受け入れても構わないと思っている人間が、世の中にはこんなに多かったのかということを、思い知らされる経験の連続だったように思う。その意味で「みんなが戦争に反対していた」はずの20世紀の終わり頃の日々が、「なつかしく」感じられてしまうことが私にはある。けれども「今みたいな時代のタネ」は、やはり「平和」だったように見えたその時代から、既に周到に撒き散らされていたものだったのである。

「戦争はイヤだ」と言うだけの歌なら、私の周りには山ほどあった。でもこれからの時代、そうした歌はもう何も私たちのことを「守って」くれないのだということを、私は痛感させられている。私がこのブログでやろうとしていることは、そうした「やさしい思い出」たちに自分自身の手で別れを告げて、来たるべき時代と向き合うための準備作業に他ならない。だからクイーンのこの歌に関しても、私自身はこの歌では、こんな歌では、もう踊れないな、と個人的には感じている。以上は蛇足。

=翻訳をめぐって=

Lady Mercy won't be home tonight

「Lady Mercy (慈悲の女神)」とは何のことだろうと思って調べてみたところ、特定の神話や伝説をもとにしているわけではないのだけれど、イタリアで13世紀から宗教画のテーマとして繰り返し描かれてきた「絵のイメージ」が、ここには投影されているらしい。画家や時代によってバリエーションはあるものの、聖母マリアと思われる女性が大きなマントを広げて、多くの人をかくまっているというのがその構図である。



多くの人がこの絵から連想するのは「核シェルター」なのではないかと思う。でもそんな風に自分たちの命を守ってくれるものなどここにはないから、いつも通りにベッドを準備して灯りを点けて死ぬのを待つしかない、ということがここでは歌われているわけだ。

一方でこの絵のイメージは、「核の傘」という「ヘンな言葉」のメタファーであるようにも思われる。核保有国の子どもたちはそれが自分たちのことを「守ってくれる」と教えられて育つのだけど、死ぬ時には結局「核によって」死ぬことになるわけだ。自分たちのことを「守って」くれるはずだった「核」は、別の国に飛んで行って別の国の人々を殺しているだけで、いずれにしても「ここ(home)」にはいない。そういう歌詞として読んだ方が、私はしっくり来る感じがする。

Don't hear the bell but you answer the call

直訳は「ベルを聞くな。でもお前は呼び出しに答える」。意味の取りにくい歌詞である。「ベル」は「電話の音」だと考えるのが普通だと思うが、「玄関の呼び鈴」のことかもしれない。いずれにしても主人公は「you」に対して、「世間とはもう関わるな」みたいなことを言っているのだと思う。どっちにしたって死んじゃうわけだから。それなのに「you」はやはり「世間的な務め」を果たそうとしている。それは「仕事に行くこと」かもしれないし「学校に行くこと」かもしれないし「兵役につくこと」かもしれない。いずれにせよ、主人公も「you」も、「間違っている」としか言いようがない気がする。

Oh every night, and every day
A little piece of you is falling away
But lift your face the Western Way
Build your muscles as your body decays.

…けっこう分かりにくい歌詞だったので全体が「意訳」になっているのだけれど、ここでの「you」は特定の友人や恋人ではなく「西側世界の全体」を指す言葉になっているのだと思われる。核武装(=muscle=筋肉)で表面だけは「強そうに」装っているけれど、その内実はボロボロで腐朽しつつある(decay)し、そのメッキはポロポロ剥がれ落ちている(falling away)という、自分たちの社会の実態がここには描かれている。「lift your face (顔を上げろ)」というのは「その現実を直視しろ」ということなのだと思う。ここは結構「いい歌詞」だと感じる。

Tow the line and play their game

直訳は「綱を引け。そしてかれらのゲームに参加しろ」。分かりにくいのだが、「their game」というのは要するに「両大国の力比べ」のことを言っているのだと思う。そんでもって戦争状態にある国の中では、「公共の利害のために働く」ということはすべてその「戦争に勝つという大目的」のために「奉仕」させられるということにしかなりえない。しかし、働かなければ生きていけない。だから「やつらのゲーム」に付き合って、参加してやることにしよう。どうせ死ぬんだし。そういうことが歌われているのだと思う。

…「参加するなよ」としか私には言いようがない。

Rich or poor or famous for
Your truth it's all the same

この歌詞は、とても分かりにくい。「famous for your truth」というのは「あなたの真実のおかげで有名です」みたいな感じにしか訳しようのないフレーズで、Google翻訳かよと思ってしまうのだが、その線から意味を類推するしかない。「rich」も「poor」も「famous for your truth」も、文法的には全部「形容詞」なのだが、ここではそれが全部「名詞」として使われている。ということは「famous for your truth」は「そういう人間」のことを言い表したフレーズだとしか思えないので、上のような訳し方になったが、誤訳かもしれない。意見のある方はコメントして頂ければ幸いです。

For we who grew up tall and proud
In the shadow of the Mushroom Cloud

直訳は「キノコ雲の影の中で、大きく誇り高く育ってきた我々すべてにとって」。人間を消し飛ばしてしまう「キノコ雲」というものの下で「誇り高く」育ってきたという言い方自体がえらく「滑稽」に響くのだが、この「proud」という言葉はそうした皮肉を込めて使われているのだと思う。

What the hell are we fighting for?
Just surrender and it won't hurt at all

「surrender」は「(要求・強制によって)(…を)(…に)引き渡す,明け渡す,降参する,自首する,(…に)手渡す,(…に)譲る,放棄する,身を任せる,おぼれる,ふける」という意味なのだが、どういう言葉でこれを翻訳すればいいかがすごく難しい。「降参しろ」と訳しても何も間違いではないのだけれど、「負けを認めろ」というニュアンスが非常に強くなり、だったら「相手の国が核を使って勝利すること」は受け入れるのかよ、という話になってしまう。て言っか、そういう「ややこしさ」があるからこそ、世界から核を無くすということは「難しい」のであり、その難しいことを無理やり歌詞にしようとしているのがこのフレーズなのである。「やめちゃえよ」としか訳しようがなかった。

Let's get on the floor!

直訳は「さあみんなでフロアに立とう」。「フロア」というのは「床」のことだけど、這いつくばるのならまだしも、「get on (乗り出そう)」というのは、核戦争が迫っている時に言われる言葉としてあまりピンと来ない。調べたら「floor」には「議場」という意味もあるようなので、「みんなで国会に乗り込もう」みたいなことを意味している可能性もあるわけなのだが、そこまで書いても「訳しすぎ」になるような気がしたので、「フロアに出よう」にとどめた。

Give it to me one more time!

これはフレディ氏の口ぐせが、そのまま最後の歌詞に採用されたというだけの話らしい。いやまあ元気がいいのはいいことなのだけど、あかんやろ。広島と長崎だけで沢山だ。


ブルーハーツ ハンマー

ではまたいずれ。


=楽曲データ=
Released: 1984.2.27.
Key: A