華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

We Will Rock You もしくは すとんすとんクラッ!(1977. Queen)

Crazy Little Thing Called Love LIVE AIDWe Are The Champions



この見開きのLPジャケットの内側、子どもの頃に親戚の誰かの家で見た記憶があるのだけれど、ものすごく怖かったことしか覚えていない。


キリンメッツ We Will Rock You

この歌を初めて聞いたのは、間違いなく上のCMを通じてだった。とにかくスケールの大きさに度肝を抜かれたのを覚えている。歌にも映像にも。


ポカリスエット We Will Rock You

その他にもとかくこの歌は「飲み物のCM」に使われているイメージが強いのだけど、下のペプシのやつは初めて見た。3分間もあるCMなんて、一体どういう時に流すのだろう。アメリカでは割と当たり前なのだろうか。


ペプシコーラ We Will Rock You

さて、この超有名曲をブログで取りあげるにあたり、一番最初に解決しておかねばならないのは、例の「二回足踏み、一回手拍子」に我々はどういう擬音表現を当てはめればいいのか、という問題なのではないかと思う。何か、映画「ボヘミアン·ラプソディ」のTwitter公式アカウントの人たちとかは、「#ドンドンパッ」というハッシュタグを流行らせようとかしてはるらしいのだけど、「ドンドンパッ」て言われたら、ねえ。私には下の「音頭」のイメージが強すぎて、全然クイーンの曲だという感じがしてこない。て言っかこれって「秋田民謡」だったのかよおい。今まで全然知らなかった。


さゆりのドンパン節

「ドンドンチャッ」と表記するのもひとつの見識だと思うが、これはこれで「♪ は〜あドンチャック」みたいになってしまうので、我々世代には、頂けない。三拍目に硬質の音を配した「ドンドンカッ」というのが響き的には一番行けてる感じもするが、これだと「手拍子」だということが伝わりにくいのが、悩ましい。


ドンチャックと一緒に

クイーンのギタリストのブライアン·メイという人は、「みんなが一緒に演奏に参加できる歌」がほしくてこの歌を作ったのだという。満員でぎゅうぎゅうのスタジアムでも、「手と足」だけはとりあえず、空いている。それで思いついたのが「二回足踏み、一回手拍子」という「振り付け」だったのだそうで、英語ではこれが「Stomp, stomp, clap」と表現されている。「すとんすとんクラッ!」である。ややスカした感じがしないでもないが、この際このブログではこれをそのまま使わせてもらうことにしようと思う。私が思うにこれを「ドンドンなになに」というカタカナ表記に置き換えようとした場合、「ドン」と言った時点で既に「違和感」が生じて来てしまうように感じるのである。

「ドン」というのは飽くまで「和太鼓のために創造された擬音語」なのであり、従ってその文字を見た日本語話者は反射的に「和太鼓の音」を連想することになってしまう、と言えないだろうか。だとしたら私に言わせるならそれは「誤訳」になってしまうのだ。別に和太鼓を使った「We Will Rock You」があっても構わないけれど、それはその時点で「和製We Will Rock You」になっており、クイーンの原曲とは「違った何か」になってしまっている。

この曲は飽くまでも英語話者の手によって「Stomp, stomp, clap」で作られた曲なのである。だったらそれに「素直に」耳を傾けることが大切だと思う。「すとんすとんクラッ!」で行くことにしよう。すとんすとんクラッ!すとんすとんクラッ!…それにも関わらずこの音を頭の中で鳴らしてみた時に、私が無意識に待ち望んでしまうのは下の曲だったりする。「日本のリズム感」というものからは、どうあがいても抜け出せないような仕組みになっている感じである。


花*花 あ〜よかった

ところで、この曲の和訳を試みているサイトは、ざっと調べただけでもかなり沢山あるのだけれど、あえて言わせてもらう。ろくなのが見つからない。付け加えて言うならば、上の二本のCM動画についている字幕も、私にはあまりいい翻訳だとは思えない。

この歌を翻訳する時の決定的なポイントは、「We Will Rock Youってどおゆうことやねん」という問題をどれだけ「ハッキリ」させられるかにかかっていると思うのだが、そこにおいてどの翻訳例を見ても、みんな余りに「勝手な解釈」を繰り広げすぎている感じがする。

We Will Rock You」を直訳するならば「我々は君のことをRockするであろう」ということになる。そしてこの「Rockする」ってどういうことなのかと聞かれたら、正直私には「わからない」としか言いようがない。専門外だから分からないと言っているわけではなく、かつてロックンローラーだった経験も持っているそれなりのロックファンの一人としての責任において、「わからない」と言っているのである。どんな「大物」のロックンローラーに聞いても、答えは同じだと思う。「ロックって何なんですか」と聞かれて「一言」で答えられる人なんて、いるわけがない。

ロックンローラーにとって、と言うよりロックンローラーであればあるほど、「ロック」というものは「ロック」という言葉でしか言い表しようのないものであるはずなのだ。そのかけがえのない「ロック」を動詞に使って「お前をロックしてやる」と言っているのが、このフレーズの第一義であると考えないとハズレになると思う。この歌は、ロックなのだ。(決して「カギをかける」とか「技を決める」とか「狙いをつける」とかではない。それらは全部「Lockする」である)

その「ロックする」というフレーズをどういうニュアンスで解釈すればいいかという話になれば、とりあえず

  • あなたをロックな状態にしてあげよう。
  • あなたをロックの中に叩き込んであげよう。
  • あなたにロックというものを体験させてあげよう。
  • あなたにロックというものを教えてあげよう。

ということになるのだと思われ、聞く方はそれぞれの「ロック感」に合わせてその言わんとするところを受け止めればよい、ということになるのだと思う。…まあ、難しく考える必要はないし、クイーンの人たちも絶対、難しくすることは望んでいないと思う。要は自分の体を使って「二回足踏み、一回手拍子」をやりながら、「これがRockというものか!」「私は今まさにRockされているのだ!」という感動に打ち震えればいいのであって、少なくともクイーンというバンドが聞き手に対して求めているのは多分「それだけ」である。

そのことの上で「Rock」という英単語には、「ロックンロール」の語源となった「揺さぶる」という元々の意味が存在している。このことから多くの和訳サイトでは「魂を揺さぶる」とか「震えるような感動を与える」といった翻訳の仕方がされており、それらはそれぞれ、「誤訳」にはなっていないと思う。ただし相手を「Rockする=動揺させる」と言った場合、それは必ずしも「感動させる」という意味であるとは限らない。「恐怖」を与えることで「動揺」させる場合もありうる。私の故郷には藤田まことという人が開発した

耳の穴から手ぇ突っ込んで奥歯カッタカタ言わしたろかいワレェ!

という有名な脅し文句が存在しているわけだが、この「カッタカタ言わす」は英訳するならそれこそ「Rock you」になるのである。さらに実際、Weblioのネット辞書を引いてみると、「Rock you」には「一発でやっつける」という意味もあるということが、明記されている。

従って、新しい問題が生じてくる。「We Will Rock You」というのは相手のことを「応援し励ます」ためのフレーズなのか、それとも相手に「ケンカを売る」ためのフレーズなのか、という問題である。そしてこのことについては、「文脈次第でどちらにもなりうる」としか言えない気が私はする。

例えばこの歌は英語圏でも日本でも「スポーツの応援」のために歌われることが非常に多いが、この場合の「We Will Rock You」は完全に相手チームに向かって「お前らをぶっ倒してやるぞ!」と言っているのである。そしてその場合には、前段の「Buddy you're a boy make a…」の部分まで含めた全部が「相手チームへのdisり」になっている。

お前らなあ
イキって天下取るとか言うてるけどなあ
調子乗っとったら行てまうからなあ
見てみい顔に泥ついたあるやないけ
恥っずかしいやつらやのお
缶蹴りでもしとけっちゅーねん
お前ら行てもーたるからな
お前ら行てもーたるからな

…みたいな歌詞になっていると考えてほぼ間違いない。だから今まで「自分のチームを応援しているつもりで」この歌を歌っていた人たちは、こんなえげつない言葉で相手のことをdisっていたのかということに気づいて赤面すべきだと私は思う。応援するのはいいのだよ。でもdisるのは絶対感心しない。

ということは、である。クイーンというバンドはファンに向かってケンカを売るためにこの歌を歌っていた、という話になりはしないだろうか。この歌には子どもと若者と老人という「三人の登場人物」が出てくるけれど、フレディはその全員のことをdisりまくっているということなのだろうか。若者が相手ならまだしも子どもや老人をdisるだなんて。思わず義憤にかられて立ち上がってしまいそうになるけれど、そこは必ずしもそういうことではない、というのがこの歌の微妙なところなのだと思う。スポーツもしくは戦争なら「rock you」は「相手をぶっ倒す」ことになるけれど、音楽もしくはセックスなら「rock you」は「相手を幸せにすること」を意味しているのである。

従って「歌を歌として」聞いた場合、聞き手や登場人物のことを「disりながら励ましている」のがこの歌だ、ということになるのだと思う。「ケンカを売ること」を通して「相手に元気を与える」という、少年ジャンプみたいな価値観に立脚してこの歌は組み立てられているのである。多分。でもってそういう価値観を私はマッチョだと思うし、そもそも小さい頃から全然なじめなかったし、ちっとも好きにはなれないのだけど、ともかくこの歌に「理屈抜きで人を興奮させる得体の知れない力」が宿っていることは、認める以外にないと思う。そしてそれは歌詞よりむしろ90%以上は、「すとんすとんクラッ!」というあのプリミティブな「リズム」そのものの中に宿っている「力」なのである。というわけでようやくこの歌が「どういう歌」かという下書きのスケッチができあがったと思うので、試訳を見てもらうことに致しましょう。


LIVE AID We Will Rock You

We Will Rock You

英語原詞はこちら


Buddy you're a boy make a big noise
Playin' in the street gonna be a big man some day
You got mud on yo' face
You big disgrace
Kickin' your can all over the place
Singin'

おいお前
うるさい音を立てながら
通りで遊んでるお前だよ。
いつかはお前も
大物になるやつなんだろうな。
顔に泥がついてるぜ。
恥ずかしいやつだな。
そこら中で空き缶を蹴飛ばしながら
歌ってやがる。


We will we will rock you
We will we will rock you

おれたちはおれたちは
お前をやっつけてやるぞ!って。


Buddy you're a young man hard man
Shouting in the street gonna take on the world some day
You got blood on yo' face
You big disgrace
Wavin' your banner all over the place

おい兄ちゃん
お前ってカタいやつだよな。
路上で大声をあげて。
そのうち世界を手にすることも
夢じゃないんだろうけどさ。
顔に血がついてるぜ。
恥ずかしいやつだな。
そこら中で
自分らの旗を振り回してさ。


We will we will rock you
Sing it
We will we will rock you

おれたちはおれたちは
お前のことをグラグラにしてやるぞ。
歌ってやれ。
おれたちがおれたちが
お前にロックを教えてやるぞ。


Buddy you're an old man poor man
Pleadin' with your eyes gonna make
You some peace some day
You got mud on your face
Big disgrace
Somebody betta put you back into your place

おいじいさん。
あんたもかわいそうな人だよな。
哀れっぽい目をしてさ。
そうしてればそのうち落ち着くところに
落ち着けるのかもしれないけど。
顔に泥がついてるぜ。
恥ずかしい話だよ。
誰かに元の生き方に
引っ張り戻してもらった方が
いいんじゃないのか。


We will we will rock you
Sing it
We will we will rock you
Everybody
We will we will rock you
We will we will rock you
Alright

おれたちがおれたちが
あんたを元気にしてやるぞ。
歌ってやれ。
おれたちはおれたちは
お前をやっつけてやるぞ。
みんなで歌おう。
おれたちはおれたちは
お前のことをグラグラにしてやるぞ。
おれたちがおれたちが
お前にロックを教えてやるぞ。
よくできました。


We Will Rock You

=翻訳をめぐって=

上述のようにこの歌には「子ども、若者、老人」という三人の人物が登場し、フレディはそのそれぞれに向かって「We will we will rock you」と語りかける、という内容になっている。この三人は「同一人物の人生の三段階」を象徴しているという読み方もできないではないが、それだと歌い手は時空を超越した存在だということになり、おまえ何者やねん火の鳥かという話になってしまうので、まあとりあえず「同じひとつのストリート」で遊んだりデモしたり座り込んだりしている年齢の異なる三人の人物に、それぞれ話しかけていると解釈した方が「自然」だと思う。

Buddy you're a boy make a big noise
Playin' in the street gonna be a big man some day
You got mud on yo' face
You big disgrace
Kickin' your can all over the place
Singin'

…この歌の英語はかなり文法が崩れていると言うか、強引なのである。あえて直訳するなら「おいお前は少年だ街頭で遊びながら大きな雑音を立てている少年であるところのお前はいつかひとかどの人物になるであろう少年だ」みたいな感じになる。(もともと無理なことをやっているので文法的な対応関係の正確さは保証しない)。それだとあまりに破調になるので、試訳には適当な意訳を施している。

この「少年」は「遊んで」おり、「大きな音」を立てているわけだけど、「一人(=a boy)」であり、遊んでいる内容は「一人缶蹴り」である。かなり、寂しい感じを醸し出している少年なのだと思う。フレディはその子を「disりながら励ましている」のである。

さらに注目すべき点として、一番にだけは最後に「Singin'」という歌詞が入っている。つまり一番の「We Will Rock You」だけは、フレディではなく「その子」が歌っているのである。ここ、見落とされがちだと思う。

Buddy you're a young man hard man
Shouting in the street gonna take on the world some day
You got blood on yo' face
You big disgrace
Wavin' your banner all over the place

二番の若者は、おそらく社会への怒りに燃えて政治活動をしているのである。旗を振り回したり大声で叫んだりしているのは、デモをしていることの描写だろう。そして顔から血を流しているのは、多分警官に殴られたのである。フレディはこの若者に対しては、幾分の「対抗心」を持って「We will rock you」をぶつけているように感じられる。

なお、上で言い忘れたが、「buddy」という言葉は「相棒」という意味ではあるものの、「おい」とか「お前」という乱暴な呼びかけにも使われる言葉であり、フレディと三人の登場人物は別に「仲良し」であるわけではない。むしろ、多少の距離感と緊張感を感じさせる呼びかけ方だと思う。

Buddy you're an old man poor man
Pleadin' with your eyes gonna make
You some peace some day
You got mud on your face
Big disgrace
Somebody betta put you back into your place

三番は、おじいさんだ。生きる気力を失い、人の情けにすがるしかないような顔をして、路上に座り込んでいる。「顔に泥がついている」という一番と同じ歌詞は、「人生が一周したこと」の象徴だろう。

そのおじいさんに向かって「Somebody betta put you back into your place」と言っているのは、「あんたにも昔は夢があったんだろうからそれを思い出せ」みたいなことを言っているのだと思うけど、言うかなあこんなこと。どうせ相手の人生に責任取る気も持ってないなら、せめてそっとしておくということができないものだろうかと私は思う。もちろん「見殺しにすればいい」と言ってるわけではないのだが。


浜松東高校ダンス部 We Will Rock You

…ひとつの歌について調べようとするとその過程でいろいろな動画に出会えるのは、楽しいことだ。ではまたいずれ。


=楽曲データ=
Released: 1977.10.7.
Key: G