華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Wanted Dead Or Alive もしくは死して屍拾うものなし (1986. Bon Jovi)

Wanted Dead Or Alive

英語原詞はこちら


It's all the same, only the names will change
Every day it seems we're wasting away
Another place where the faces are so cold
I'd drive all night just to get back home

どこに行ったって同じだ。
街の名前がかわるだけ。
毎日おれたちは
やせ細って行くみたいだ。
誰もかれもが冷たい目をした
よその場所。
帰れるものならおれは
一晩中ドライブしたってかまわない。


I'm a cowboy, on a steel horse I ride
I'm wanted dead or alive
Wanted dead or alive

おれはカウボーイ。
鋼鉄の馬にまたがったカウボーイ。
おれはお尋ね者。
生死を問わず追われる身。


Sometimes I sleep, sometimes it's not for days
And the people I meet always go their separate ways
Sometimes you tell the day
By the bottle that you drink
And times when you're alone all you do is think

時々は眠れることもあるし
何日も眠れないこともある。
会う人々はいつもみんなそれぞれの
バラバラの道を進んでいる。
自分が飲んでる酒の瓶でしか
日付がわからなくなるような時もある。
そして一人でいる時に
できることといったら
考えることだけなんだ。


I'm a cowboy, on a steel horse I ride
I'm wanted dead or alive
Wanted dead or alive

おれはカウボーイ。
鋼鉄の馬にまたがったカウボーイ。
おれはお尋ね者。
生死を問わず追われる身。


And I walk these streets, a loaded six string on my back
I play for keeps, 'cause I might not make it back
I've been everywhere, and still I'm standing tall
I've seen a million faces and I've rocked them all

6連発ならぬ6弦ギターを背中に
おれはストリートを行く。
真剣勝負でやらせてもらうぜ。
生きて帰ってこれる気がしないからな。
おれはどこにだっていたし
今でもまっすぐ立ち続けている。
100万人もの顔を見て
その全員をrockさせてきたぜ。


'Cause I'm a cowboy, on a steel horse I ride
I'm wanted dead or alive
'Cause I'm a cowboy, I got the night on my side
I'm wanted dead or alive
And I ride dead or alive
I still drive, dead or alive
Dead or alive

なぜならおれはカウボーイ。
鋼鉄の馬にまたがったカウボーイ。
おれはお尋ね者。
生死を問わず追われる身。
なぜならおれはカウボーイ。
夜はおれの味方だ。
おれはお尋ね者。
生死を問わず追われる身。
そしておれは駆け続ける。
生きていようと死んでいようと。
おれは走り続けている。
生きていようと死んでいようと。
生きていようと死んでいようと。


Bon Jovi 1994 Nara Japan part2 「Wanted Dead Or Alive」は7:00〜

=翻訳をめぐって=

ツアーに明け暮れるロックスターとしての毎日を「カウボーイ」の生き方になぞらえた歌。もっとも「カウボーイ」って「何」なのかということが改めて問われたならば、我々の大半は意外なほどその実態を知らないのが現状なのではないかと思う。アメリカ先住民の人々が理由もなく虐殺されてゆくさまを「娯楽」として描いた「西部劇」と呼ばれるジャンルの作品群が、テレビでも映画館でも当たり前のように放映されていたのは、既に我々の親や祖父母の時代の出来事である。そしてそうした映像作品に描かれていた通りの形での「カウボーイ」という職業は、20世紀の段階では既に消滅し、現在「カウボーイ」と呼ばれているのは遥かに近代化された牧場経営者である場合が、一般的らしい。それにも関わらず「カウボーイ」という言葉は今なお「アメリカを象徴するキーワード」であり、かつ場合によっては「憧憬を込めて」語られる言葉としてあり続けている。
nagi1995.hatenablog.com
「カウボーイ」を主人公とした歌としては、ブルースブラザーズ特集の時に取りあげた上のような歌があるが、その昔、19世紀のアメリカ西部には何百万頭もの「野性の牛」が生息していたらしく、これを群れごと「捕まえて」、さらに鉄道のある街まで「歩かせて」、そこで業者に「売りさばく」というのが、「カウボーイ」と呼ばれる人々の仕事内容の「原型」だったのだという。「自分で育てた牛」を売っていたわけではなく、もっと略奪的というか、ダイナミックな仕事内容だったわけで、いわゆる「牧場主」とは全然違った「職業」だったことが分かる。そしてこうした「職業」は、「持ち主のいない牛」がそこらじゅうで野生化していた「恵まれた自然条件」が失われてしまえば必然的に消滅せざるを得なかったわけで、言うなれば19世紀のアメリカという歴史的条件のもとにのみ成立しえた「時代の徒花」だったということができるだろう。

さて、そんな風にして捕まえた何千頭もの牛の群れを、何百キロも歩かせて鉄道のある街まで連れてゆく「旅暮らしの日々」が、「カウボーイ」と呼ばれた人々の生活の大半をなしていたわけなのだが、この「旅」が当時においては「long drive (ロング·ドライブ)」と呼ばれていた。ボンジョビのこの歌に出てくる「drive」という言葉の中にエコーしているのは、その「ロング·ドライブ」のイメージである。そして自らを「カウボーイ」に、ツアーを「ロング·ドライブ」になぞらえている以上、「一緒に歩く何千頭もの牛」には「ファン」のイメージも重ねられているというのが海外サイトの解釈で、こういうことは言われてみないとなかなか分からないことではあるけれど、だったらこの歌は「ファン」に対して結構「失礼」な歌なのではないかという感じもする。



「持ち主のいない牛」を好き勝手に捕まえて「売りさばく」という生活のスタイル自体、外部の世界の感覚からすると相当に「無法」な感じがするのだが、「Wanted Dead Or Alive」というのはそうした「無法」が支配していた19世紀のアメリカ西部において、「お尋ね者のポスター」に記載されていた「決まり文句」のひとつである。「Wanted」は直訳としては「求ム」。意味としては「指名手配」。「Dead Or Alive」は「生死を問わず」。つまり、お尋ね者のこの人物を保安官に引き渡してくれたら、そいつが生きていようと死んでいようと、これだけの賞金を差し上げますよ、という意味になる。そんな風に「法律の執行」を「民間」に委託するということ自体、江戸時代以降の日本の歴史では一度も起こりえなかったことなので、この「決まり文句」に対する「正確な訳語」というものは、「同じような決まり文句」としての形では、存在しない。「死して屍拾うものなし」というのは「Wanted Dead Or Alive」とは全然関係のないフレーズなのだけど、「そういうタイプの決まり文句」であるという点だけが共通しているので、何となく今回のサブタイトルに採用させてもらった。

さらに「Wanted Dead Or Alive」というのは、日本では「拳銃無宿」というタイトルで放映されていた大昔の有名なテレビドラマのシリーズ名でもあるのだそうで、アメリカ人にとっては「大江戸捜査網」的な「響き」を持ったタイトルなのだということも、同時に言えると思う。そのことの上で「Wanted」は上述のごとく「指名手配」を意味する言葉なのだけど、この歌の主人公が「ロックスター」であることを考え合わせるならば、文字通りファンや世の中から「求められている」「必要とされている」ことが表現された言葉なのだという風にも、読める。ただしそうした人たちが「必要」としているのは、レコードや雑誌を通じて伝えられる「ロックスターの幻影」であるにすぎないので、そのロックスター本人が生きていようが死んでいようが実際のところは何も関係ないのだ、といったようなことが自嘲的に表現されたフレーズとして、解釈できる余地も存在している。

何しろ言葉というものはそんな風に連想が連想を生んで聞き手の中にいろんなイメージを形作ってゆく力を備えているわけだが、「違う言語」というものには「違う文化」と「違う歴史」が自ずとくっついて回るものだから、英語を母語としていない人間が英語話者と「同じイメージ」を受け取ることはなかなか大変なことなのである。とはいえ「想像」を通じてそれを埋めてゆく作業は、時としてとんでもない勘違いの危険性も孕んでいるものの、それなりに「英語話者には味わえないタイプの楽しみ」になっているのではないかとも思う。以下は、細かい点をめぐって。

  • I'm a cowboy, on a steel horse I ride...ほとんど説明するまでもないことだが、「鋼鉄の馬」というのは近代化されたツアーバスや自家用ジェットのメタファーなのだと思う。
  • Sometimes you tell the day by the bottle that you drink...直訳するしかなかったが、わかりにくい歌詞。単調な旅暮らしの中でその日の日付が分からなくなる、というのは極めて起こりがちな話で、例えば昔の海軍ではそれを防ぐために1週間ごとにカレーを出してメリハリをつけていた、みたいな話を聞いたことがあるけれど、「飲んでいる瓶から日付を知る」って、どういうことなのだろう。賞味期限のラベルを見ているのだろうか。あるいは「一日にここまでしか飲まない」と「決めて」飲んでいるのだろうか。何とも言いようがない。
  • a loaded six string...「a loaded six shooter」なら「フル装填した6連発の銃」。その「銃」にあたる単語が「弦 (string)」になっているので、ここでは「ギター」を「銃」になぞらえているのである。
  • I play for keeps...「for keeps」は「本気で」「真剣勝負で」あるいは「勝ちとったものは返さなくていいというルールで」という意味。西部劇につきものの「ギャンブラー」のイメージが投影された歌詞。
  • I might not make it back...「make it back alive」で「生還する」という意味になる。多分「alive」が省略されている。
  • I've rocked them all...ここでの「rock」という言葉の使い方については、下記の記事を参照のこと。

nagi1995.hatenablog.com

Wanted Dead Or Alive

ではまたいずれ。


=楽曲データ=
Released: 1986.8.18.
Key: C