華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Walk Out to Winter もしくは ある光 (1983. Aztec Camera)


Walk Out to Winter

Walk Out to Winter

英語原詞はこちら


Walk out to winter, swear I'll be there
Chill will wake you, high and dry, you'll wonder why

冬の中に踏み出すんだ。
ぼくはきっとそこにいる。
寒さがきみの目を覚まし
ひとりぼっちで取り残されていることに
気づかされて
きみはきっと
不思議に思うことだろう。


Met in the summer and walked 'til the fall
And breathless we talked, it was tongues
Despite what they'll say, wasn't youth, we hit the truth

夏に出会い
秋まで歩いた。
息継ぎもしないで
言葉を交わしていたのは
ぼくらの舌だ。
やつらに何て言われることになろうと
それは青春なんかじゃなかった。
ぼくらは真実を鷲掴みにしたんだ。


Faces of strummer that fell from the wall
But nothing is left where they hung
Sweet and bitter, they're what we found
So drink them down and

壁から剥がれ落ちたいくつもの
ジョー·ストラマーの顔。
けれどもそれが
ぶら下がっていた場所には
もう何も残されていない。
甘さと苦さ
それがぼくらの見つけたものだった。
だから飲み干してしまおう。
そして


Walk out to winter, swear I'll be there
Chill will wake you, high and dry, you'll wonder why
Walk out to winter, swear I'll be there
Chance is buried just below the blinding snow

冬の中に踏み出すんだ。
ぼくはきっとそこにいる。
寒さがきみの目を覚まし
ひとりぼっちで取り残されていることに
気づかされて
きみはきっと
不思議に思うことだろう。
冬の中に踏み出すんだ。
ぼくはきっとそこにいる。
刺すようにまぶしい雪の下に
チャンスが横たわっている。


You burn in the breadline and ribbons and all
So walk to winter, you won't be late, you always wait
This generation, the walk to the wall
But I'm not angry, get your gear, get out of here and

炊き出しの行列の中で
リボンみたいにボロボロに引き裂かれて
その他あらゆることどもの中に
叩き込まれて
きみは熱くなる。
だから冬の中に踏み出すんだ。
遅れちゃいけない。
きみはいつだって
待ってるだけじゃないか。
壁に向かって歩いてるような
ぼくらの世代。
でもぼくは怒っちゃいない。
荷物をまとめて
ここから出て行くことだ。
そして


Walk out to winter, swear I'll be there
Chill will wake you, high and dry, you'll wonder why
Walk out to winter, swear I'll be there
Chance is buried just below the blinding snow

冬の中に踏み出すんだ。
ぼくはきっとそこにいる。
寒さがきみの目を覚まし
ひとりぼっちで取り残されていることに
気づかされて
きみはきっと
不思議に思うことだろう。
冬の中に踏み出すんだ。
ぼくはきっとそこにいる。
刺すようにまぶしい雪の下に
チャンスが横たわっている。


Walk out to winter, swear I'll be there
Chill will wake you, high and dry, you'll wonder why
Walk out to winter, swear I'll be there
You blind, snow blind, this is why, this is why

冬の中に踏み出すんだ。
ぼくはきっとそこにいる。
寒さがきみの目を覚まし
ひとりぼっちで取り残されていることに
気づかされて
きみはきっと
不思議に思うことだろう。
冬の中に踏み出すんだ。
きみには何も見えない。
雪で何にも見えない。
だからだよ。
だからなんだよ。

=翻訳をめぐって=

498曲目の今回は、ツイッターで出会ったJMXさんという方から、「クリスマスが終わって正月はまだ来ていない宙ぶらりんのこの季節」にぴったりな曲としてリクエストを頂いたこの歌です。アズテック·カメラというこのグループのことを私は今まで知らなかったのですが、聞いてみると「渋谷系」のルーツがダイレクトにここに横たわっていることが感じられる、懐かしい感じの音ですね。「ジャンル名」としては「ネオ·アコースティック」と呼ばれていたのだとか何とか。1983年といえばちょうど私が小学校に入学した年に当たっているのですが、自我の芽生えた90年代に自分の周りに溢れていた音のルーツが既にこの時代には海の向こうで形作られていたのかと思うと、感慨深い気持ちがします。

「アズテック (Aztec)」という英単語も初めて見たもので、どういう意味だろうと思って調べてみたところ、「アステカの」という意味なんですってね。「アステカのカメラ」という不思議なバンド名には、「古代文明と最新技術の結合」みたいな意味が込められているのか、それとも「古代文明からの視点」みたいな立ち位置が宣言されているのか。いずれにしてもフリッパーズ·ギターの3枚目のシングルがどうして「カメラ!カメラ!カメラ!」だったのかということに関する「答えのひとつ」にまで、30年も経ってからようやく巡り会えたような気がしているわけで、「世界のつながり」を追いかける旅路には終わりなんてないんだなということを、本当につくづくと感じさせられます。

この曲が収録されているのは「High Land, Hard Rain」というかれらのデビューアルバムだったとのことで、まずはそのアルバムごと、虚心坦懐に聞いてみたのでしたが、この人たちは「スコットランドのバンド」であるという自分たちのルーツを、とても大切にしている人たちだったのだと感じます。「高地」を意味する「High Land」という言葉自体、スコットランドの代名詞となっている言葉なわけですが、その「High (高い)」という響きに、かれらはいろんな「思い」を込めていたような感じがします。

スコットランドについて書かれた文章を読んでいて驚かされるのは、日本とあまりに違ったその気候条件です。一般的にイギリスの気候が「晴れた日が滅多になくて陰鬱」であるというのは有名な話ですが、北緯55 〜60度という「北極圏ギリギリ」のラインに位置するスコットランドにおいては、冬場のその「陰鬱さ」が一段と厳しいものであるそうなのです。

夏場はむしろ「日本より明るい」らしいです。日の出は朝の4時頃、日没は夜の10時頃になるのだそうで、夜中も完全に暗くはならないらしい。気温も20度を越えることは滅多にない涼しさだそうで、この時期のスコットランドが「天国」みたいに描かれている本は、いろいろ読んだことがあります。

その代わり、冬になると日の出は9時前、日没は4時前、空の低い場所に太陽の姿を見ることができるのは本当に一瞬だけという毎日が続くのだそうで、しかも元来曇天の日が多いことから、12月などは文字通り「一度も太陽を見ることができないまま」過ぎ去ってしまうことも決して珍しくないそうです。西岸海洋性気候のおかげで気温が零度を下回ることは滅多になく、むしろ日本の冬より「暖かい」印象らしいのですが、その代わり「降るのは雨ばかり」なのだとのことで、山間部以外の場所に雪が降ることは稀で、そのことが一層、冬場のスコットランドのイメージを「陰鬱」なものにしているらしいです。

それがスコットランドという土地の「冬のイメージ」であるということを考え合わせるなら、「真っ白な雪の上に眩しいぐらいの太陽が輝いている」この歌の風景というものは、実は「滅多に出会うことができない例外的な風景」なのだということが分かります。けれどもだからこそ、この曲が出た当時まだ10代だったというアズテック·カメラのソングライター、ロディ·フレイム氏にとって、それは「憧れの風景」だったのだろうなということ、そして自分たちのキャリアの出発点を刻むにふさわしい「理想の風景」だったのだろうなということが、想像できるような気がします。

Walk out to winter, swear I'll be there
Chill will wake you, high and dry, you'll wonder why

キーワードは「high and dry」という言葉だと思うのです。この言葉はもともと「船が岸辺に乗り上げてしまっているさま」を表現した言葉で(位置が高く、水もない)、それが転じて「見捨てられた状態」や「取り残された状態」を言い表すのに使われている言葉なのだといいます。なので「ひとりぼっちで取り残されていることに気づかされて」という形で翻訳しましたが、同時にこの文字列には「高潔さ」や「誇り高さ」みたいなイメージが込められているようには、感じられないでしょうか。

この冒頭の歌詞には、「ジメジメしたスコットランドの冬」のイメージを打ち破るような「冴えたイメージ」が横溢しています。冷気が思考をも視界をもクリアにし、世の中のゴタゴタやグチャグチャは全て「新雪の下」に埋もれてしまっています。その「まっさらな風景」を、主人公とその恋人だか親友だかは、「high and dry」な場所から眺めているのです。それは「孤独」ではあっても「惨め」ではない、むしろ「孤高」という言葉にふさわしいイメージなのだろうなと感じられます。

その「高く乾いた冷たい場所」から、「you'll wonder why (きみはなぜなのかと思うことだろう)」ということが言われています。この「you'll wonder why」を、私は昔の渋谷系と言われていた人たちの言葉遣いを参考に「きみは不思議に思うことだろう」と翻訳したのですが、ここでの「why」という「問い」には、「人間はどこから来てどこに行く存在なのか」といった類の文字通り根源的な「問い」が込められていることを感じます。その「問い」が発せられた場所こそが、「旅」の出発点となるのです。その「出発点」が、この歌においては緯度も標高も「高い」スコットランドという土地の、さらに「冷たく乾いた」精神的な高みに据え付けられている。そうしたことが「宣言」されている歌なのだと感じます。

Met in the summer and walked 'til the fall
And breathless we talked, it was tongues
Despite what they'll say, wasn't youth, we hit the truth

大ざっぱな解釈になりますが、「青春も真実も言葉の中にあるものではなかった。自分たちはそれを直接自分のものにした」ということが、「誇りを込めて」歌われている歌詞なのだと思います。

Faces of strummer that fell from the wall
But nothing is left where they hung
Sweet and bitter, they're what we found
So drink them down and

試訳では直訳に近い訳し方をしましたが、意味するところは「ジョー·ストラマーのポスターが壁から剥がれ落ちていた。そして新たにその場所を占めることになるアイドルはもう現れなかった」ということなのだと思われます。クラッシュのフロントマンだったジョー·ストラマーは、このブログの読者の方には説明するまでもないことでしょうが、70年代後半から80年代初頭にかけて「パンク」と呼ばれるムーブメントを形づくった人々を象徴する存在であり、アズテック·カメラの人たち自身にとっても「アイドル」だったのだろうなと感じられます。でもその「偶像性」はもはや「地に落ちて」おり、しかも「それに代わるもの」は現れない。それはアズテック·カメラとその世代のイギリスの少年たちが、もはや誰かのことを「偶像」に祀りあげて「崇拝」することには甘んじていられないぐらいに、「成長」したということを示しているのだと思われます。だから「新しいアイドル」などというものは、待ってもかれらの前にはもう、現れないのです。手放しで「信じるに値するもの」があった時代の「甘い記憶」も「苦い記憶」も「飲み込ん」で、これからは自分たち自身の足で歩いて行こうという「決意」が、ここでは歌われているのだと思います。

Chance is buried just below the blinding snow

「blind」は「視覚障害者」に対する差別表現です。ここでは原文をそのまま転載しましたが、意味としては「雪の照り返しが目を開けていられないぐらい眩しい」ということなので、そのような形で翻訳しました。

You burn in the breadline and ribbons and all
So walk to winter, you won't be late, you always wait
This generation, the walk to the wall
But I'm not angry, get your gear, get out of here and

...全体として意味の取りにくい歌詞なのですが、直訳に近い形で翻訳してあります。「burn」という言葉は「燃える」という意味ですが、多分この人は「怒って」いるのだと思います。「breadline (炊き出しの行列)」という言葉が出てきていますから、たぶん「そういう世の中の現実」に対してです。「in ribbons」という熟語には「リボンのようにボロボロに引き裂かれて」という意味があることを、この記事を発表してから指摘して下さった方がいらっしゃったので、翻訳もそれに準ずる文脈で書き直し、上のような形になりました。

You blind, snow blind, this is why, this is why

「blind」は上記のように差別表現であり、「snow blind」という言葉が意味するところについては下記の記事で触れた通り。けれどもここに描かれている風景は、文字通り「目を開けていられないぐらいに眩しい」輝ける青春の1ページを、そのまま切り取った風景なのだと感じられます。
nagi1995.hatenablog.com

小沢健二 ある光

JMXさん、素敵なバンドを紹介して頂き、ありがとうございました。機会があれば、他の曲も翻訳してみたいと思います。ではまたいずれ。


=楽曲データ=
Released: 1983.4.
Key: E