華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

I Still Haven't Found What I'm Looking For もしくはいつか届いた年賀状 (1987. U2)


I Still Haven't Found What I'm Looking For (Rattle and Hum)

I Still Haven't Found What I'm Looking For

英語原詞はこちら


I have climbed highest mountain
I have run through the fields
Only to be with you
Only to be with you

いちばん高い山々を
わたしは登ってきました。
いくつもの戦場を
わたしは駆けぬけてきました。
ただあなたとひとつになるために。
ただあなたとひとつになるために。


I have run
I have crawled
I have scaled these city walls
These city walls
Only to be with you

走り続けてきました。
這いつくばってきました。
街を取り囲む壁を
よじ登ってきました。
この街を取り囲む壁をです。
ただあなたとひとつになるために。


But I still haven't found what I'm looking for
But I still haven't found what I'm looking for

けれどもわたしは
自分の探しているものを
まだ見つけることができずにいます。
けれどもわたしは
自分の探しているものを
まだ見つけることができずにいます。


I have kissed honey lips
Felt the healing in her fingertips
It burned like fire
This burning desire

蜜のような唇に
わたしはキスしてしまいました。
その女性の指先に
癒しを感じていました。
そのことはこの灼けつくような欲望を
炎のように燃えあがらせました。


I have spoke with the tongue of angels
I have held the hand of a devil
It was warm in the night
I was cold as a stone

天使の舌でわたしは話し
悪魔に差し出された手を
わたしはとりました。
それは夜には
あたたかかったのです。
わたしは石のように
つめたくなっていました。


But I still haven't found what I'm looking for
But I still haven't found what I'm looking for

けれどもわたしは
自分の探しているものを
まだ見つけることができずにいます。
けれどもわたしは
自分の探しているものを
まだ見つけることができずにいます。


I believe in the kingdom come
Then all the colors will bleed into one
Bleed into one
Well yes I'm still running

み国の来たらんことを
わたしは信じています。
そしてすべての色が
流れ出してひとつになることを
血を流すような嘆きの中で
ひとつになることを
わたしは信じています。
いや、そうです。
わたしはまだ
走り続けています。


You broke the bonds and you
Loosed the chains
Carried the cross
Of my shame
Of my shame
You know I believed it

あなたは枷(かせ)を壊しそして
鎖をゆるめ
わたしの恥辱の十字架を
担ってくださいました。
わたしの恥辱の。
聞いてください。
わたしはそれを信じているんです。


But I still haven't found what I'm looking for
But I still haven't found what I'm looking for
But I still haven't found what I'm looking for
But I still haven't found what I'm looking for...

けれどもわたしは
自分の探しているものを
まだ見つけることができずにいます。
けれどもわたしは
自分の探しているものを
まだ見つけることができずにいます。

=翻訳をめぐって=

  • U2の5枚目のアルバム「ヨシュア·トゥリー」の2曲目に収録されている曲。作詞者のボノはこの曲について"an anthem of doubt more than faith. (信仰よりもむしろ疑いに向けられた賛歌)"であるとコメントしているとのこと。
  • I have run through the fields...「戦場」は私の中に反射的に浮かんだ訳語だったのだが、「field」は一般的には「野山」「田畑」等々と訳される言葉。そして日本語的に考えるなら「野山」と「田畑」は決して「相容れない概念」であるわけであり、「field」というのは相当に「懐の深い概念」なのである。「試練を受ける場所」としての「広い空間」がイメージされた歌詞であるならば、ここの訳語はやはり「戦場」が相応しいと思う。
  • I have scaled these city walls...「scale」という言葉には(はしごや山を)「よじ登る」という意味もあるのだとのこと。私はずっと、この歌の主人公は壁の高さや幅を「測って」いたのだと思い込んでいた。
  • I have kissed honey lips...「キスしてしまいました」と翻訳した根拠は、ここに現在完了形が使われていることによる。単に「キスした」ではなく「キスを経験した」的な言い回しが使われている心は、「キスしてしまった」という気持ちにあるのだと思う。
  • I have held the hand of a devil...「悪魔に差し出された手」とは、必ずしも書かれていない。主人公は自分から悪魔に「手を差し出した」のかもしれない。その意味では「勝手な訳し方」になっているわけだが、「悪魔の手をとった」だけではどうしても「訳詞としての体裁」を整えることができなかった。
  • I believe in the kingdom come...「Kingdom cone」はキリスト教における「主の祈り」の一節に出てくる言葉。詳しくは下の記事を参照されたし。

nagi1995.hatenablog.com

  • Then all the colors will bleed into one...「bleed」という動詞の意味は「流れ出す」なのだが、ただ「流れ出す」ではなく「出血するような流れ方」で「流れ出す」なのである。なのでこの言葉は一語で「血を流す/血が流れる」という意味として使われることも非常に多い。このフレーズの主語は「colors(色)」なので、直接には「血」という言葉は出てこないのだが、「bleed」という言葉に込められた「血のイメージ」は決して無視できないものだと思うので、上のような訳し方になった。なお、文法的には「無理のある読み方」になるので直接試訳に採用することはできなかったが、このフレーズを「いくつもの肌の色が血の中で混じりあってひとつになる」というイメージで聞いている人は、英語圏にも多いらしい。
  • You broke the bonds and you...キリスト教世界での「一般常識」から言えば、このスタンザには旧約聖書の「詩篇107篇」と、全人類の罪を背負って十字架にかけられたイエスのイメージとが反映されているのだとのこと。


I Still Haven't Found What I'm Looking For

この曲の「公式PV」はこの動画らしいのだが、私は映画「Rattle and Hum」のワンシーンを切り取った一番上の映像がやっぱり好きだ。というわけで2019年、明けました。今年もよろしくお願いします。


=楽曲データ=
Released: 1987.3.9.
Key: D♭