華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Y.M.C.A. もしくはキリスト教青年会 (1978. Village People)



少し大きな街でなら、「YMCA」という看板のかかった建物を見かけることは珍しいことではない。私の実家のあった奈良では「YMCA」といえば少年サッカーチームの名前で、ちょっと上手な子どもは地元のへっぽこチームには入らずに、電車に乗って西大寺のYMCAに通うことを「ステータス」みたいにしていたものだった。そのYMCAというのが「キリスト教青年会」という意味なのだということを知ったのは、看板にそう書いてあったのを読んだのだったか、それとも誰かに教えてもらったのだったか、いずれにしてもかなり小っちゃい頃だったと思う。「Young Men's Christian Association」で「キリスト教青年会」なのである。

西城秀樹の「ヤングマン」って、それなのか?と私はずっと奇妙な感じを覚えていた。

それだったらしいのである。

この曲は前回このブログで初めて取りあげたヴィレッジ·ピープルの最初のヒット曲で、「Go West」と同様に「ゲイ·イメージ」を強く前面に押し出した作品だったのだという。その心は、アメリカの主要都市にはどこでも存在しているYMCAの宿泊施設という場所は、見ず知らずの若者同士が相部屋で共に夜を過ごすことのできる「ゲイの楽園」だというところにあるのだそうで、キリスト教というのは基本的に同性愛を敵視している宗教なわけだから、なかなかに「挑戦的な歌」だったわけなのである。

そんな「過激さ」を孕んだ内容であるにも関わらず、この歌が現在でもアメリカ社会で広く愛され、スポーツの応援やさらには学校教育などでも欠かすことのできない「愛唱曲」となり続けている理由は、まず第一に「YMCA」という施設と言うか団体がアメリカの人々にとってそれだけ「なじみ深い」存在だからという点にあるのだろうし、また「フツーに」聞く分にはひたすらポジティブな「YMCA讃歌」にもなっているわけで、たとえYMCA自身が自分たちのテーマソングに採用したとしても決して不自然な内容にはなっていないぐらいに「誰でも安心して歌える歌」として作られている点にあるのだと思う。その意味では「すごくよくできた歌」なのだ。

一方でそれがどうしてキリスト教との関係が極めて薄い日本においてもスタンダードナンバーとなり続けているのかということに関して言えば、「みんな歌詞なんてどうだっていいと思ってるからなんだろうな」としか私には「分析」のしようがない気がする。レイザーラモンHGがこの歌をカバーしていたことには「必然性」があったのだということに今になってから気づかされたりしている私なのだが、あの人自身さえ、この歌の意味を本当に「理解」した上で歌っていたのだろうかということで言えば、大して考えてなかったんじゃないかとしか思えない気がする。

それにつけても「YMCA」が「キリスト教青年会」だなんて、まるで王様の直訳歌詞みたいではないか。と思ったら、実際に王様はこの歌を「キリスト教青年会」という歌詞でカバーしていたらしい。王様という人はある意味でこのブログのやろうとしていることを90年代から実践していた、私にとっては先駆者と呼ばせて頂くべき存在なわけで、そのうちリスペクト特集みたいなものを組ませてもらった方がいいのではないかと考えたりもしている。

村人伝説

村人伝説

petitlyrics.com
...何はともあれ、以下が自分でも翻訳してみて初めて知った、この歌の実際の内容なのである。


Y.M.C.A.

Y.M.C.A.

英語原詞はこちら


Young man, there's no need to feel down.
I said, young man, pick yourself off the ground.
I said, young man, 'cause you're in a new town
There's no need to be unhappy.

兄ちゃん!
落ち込むことなんてないんだよ。
兄ちゃん!って言ったんだ。
立ち直ってシャキッとしろよ。
兄ちゃん!って言ってんだ。
お前は新しい街にいるんだからさ。
不幸せになることなんて、ないんだぜ。


Young man, there's a place you can go.
I said, young man, when you're short on your dough.
You can stay there, and I'm sure you will find
Many ways to have a good time.

兄ちゃん!
いいところがあるよ。
兄ちゃん!って言ったんだ。
カネがない時にはさ。
そこにいればいいんだぜ。
そして受けあってもいい。
ステキな時間を過ごせる方法が
いくらでも見つかるぜ。


It's fun to stay at the Y.M.C.A.
It's fun to stay at the Y.M.C.A.

キリスト教青年会
で過ごすのは楽しいよ。
キリスト教青年会
で過ごすのは楽しいよ。


They have everything for young men to enjoy,
You can hang out with all the boys...

若者が楽しめることなら
何でもそろってるぜ。
そこにいる男子全員と
青春していいんだぜ。


It's fun to stay at the Y.M.C.A.
It's fun to stay at the Y.M.C.A.

キリスト教青年会
で過ごすのは楽しいよ。
キリスト教青年会
で過ごすのは楽しいよ。


You can get yourself clean, you can have a good meal,
You can do whatever you feel...

風呂にも入れるし
うまい飯は食えるし
やりたいことは何でもやっていいんだぜ


Young man, are you listening to me?
I said, young man, what do you wanna be?
I said, young man, you can make real your dreams.
But you got to know this one thing!

兄ちゃん!
聞いてるか。
兄ちゃん!って言ったんだ。
お前、何になりたいんだよ。
兄ちゃん!って言ってんだ。
お前の夢はきっとかなうぜ。
でもたったひとつ覚えといて
もらわなきゃいけないことがある。


No man does it all by himself.
I said, young man, put your pride on the shelf,
And just go there, to the Y.M.C.A.
I'm sure they can help you today.

誰だって一人じゃ
夢は叶えられないんだ。
なあ兄ちゃん。
けちなプライドは置いとけよ。
やるべきことはひとつ。
キリスト教青年会に行くことさ。
きっとみんな助けてくれるよ。
今日からだって!


It's fun to stay at the Y.M.C.A.
It's fun to stay at the Y.M.C.A
.
キリスト教青年会
で過ごすのは楽しいよ。
キリスト教青年会
で過ごすのは楽しいよ。


They have everything for young men to enjoy,
You can hang out with all the boys...

若者が楽しめることなら
何でもそろってるぜ。
そこにいる男子全員と
青春していいんだぜ。


It's fun to stay at the Y.M.C.A.
It's fun to stay at the Y.M.C.A.

キリスト教青年会
で過ごすのは楽しいよ。
キリスト教青年会
で過ごすのは楽しいよ。


You can get yourself clean, you can have a good meal,
You can do whatever you feel...

風呂にも入れるし
うまい飯は食えるし
やりたいことは何でもやっていいんだぜ


Young man, I was once in your shoes.
I said, I was down and out with the blues.
I felt no man cared if I were alive.
I felt the whole world was so jive...

兄ちゃん。
おれにもお前とおなじだった頃は
あったんだぜ。
ブルースにとりつかれて
ぺしゃんこになってたよ。
おれが生きてようが死んでようが
気にしてくれる人なんて
誰もいないと思ってた。
世界なんて
巨大なデタラメなんだって思ってたよ。


That's when someone came up to me,
And said, "Young man, take a walk up the street.
There's a place there called the 'Y.M.C.A.'
They can start you back on your way."

そしたらこう言ってくれる人がいたんだ
「兄ちゃん、街に行ってみなよ。
キリスト教青年会って所があるから。
きっとそこならやり直せるよ」


It's fun to stay at the Y.M.C.A.
It's fun to stay at the Y.M.C.A.

キリスト教青年会
で過ごすのは楽しいよ。
キリスト教青年会
で過ごすのは楽しいよ。


They have everything for young men to enjoy,
You can hang out with all the boys...

若者が楽しめることなら
何でもそろってるぜ。
そこにいる男子全員と
青春していいんだぜ。


Y.M.C.A.
It's fun to stay at the Y.M.C.A.

キリスト教青年会で過ごすのは楽しいよ

Young man, young man, there's no need to feel down.
Young man, young man, get yourself off the ground.

兄ちゃん兄ちゃん!
落ち込むことなんてないんだぜ。
兄ちゃん兄ちゃん!
立ち直ってシャキッとしろよ。


Y.M.C.A.
It's fun to stay at the Y.M.C.A.

キリスト教青年会で過ごすのは楽しいよ

Young man, are you listening to me?
Young man, young man, what do you wanna be?

兄ちゃん、聞いてるか。
兄ちゃん。
お前は何になりたいんだよ。


Y.M.C.A.
You'll find it at the Y.M.C.A.

キリスト教青年会に行けば
きっと答えが見つかるぜ。


No man, young man, does it all by himself.
Young man, young man, put your pride on the shelf,

誰もな兄ちゃん。
夢は一人じゃ叶えられないんだ。
兄ちゃん兄ちゃん。
けちなプライドは置いとけよ。


Y.M.C.A.
And just go to the Y.M.C.A.

行こうぜ。キリスト教青年会に。

Young man, young man, I was once in your shoes.
Young man, young man, I was down with the blues.

兄ちゃん兄ちゃん。
おれにもお前とおなじだった頃は
あるんだぜ。
兄ちゃん兄ちゃん。
ブルースにとりつかれて
ぺしゃんこになってたんだ。


Y.M.C.A.
It's fun to stay at the Y.M.C.A.

キリスト教青年会で過ごすのは楽しいよ


Y.M.C.A. @Yankee Studiam

...以前にも何度か書いてきたように私は天理教の家で育ったのだけど、シャレの分かる人が青年部とか修養科とかにいれば、この曲の「天理教バージョン」が作られていても決しておかしくないのではないかと感じてしまう。「O! YA! SA! TO!」みたいな感じで誰かこっそりYouTubeに上げといてくれたりとかしたら、私はきっと見ると思う。私が自分で作るわけには、信仰心が欠けているので、行かないのだけど。

基本的に今の私は宗教というもの全般に対して批判的な立場に立っているし、このブログでも悪口ばっかり書いてきているわけだが、「宗教のある暮らしの居心地のよさ」にどっぷり浸って育ってきた面は、自分の中に間違いなく存在している。実際、天理教というもののおかげで、自分が今までどれだけタダ飯を食わせてもらったり、タダでいろんなところに泊めてもらったり、いろんな人に遊び相手になってもらったりしてきたかということは、思い出してみれば本当に数えきれない。そしてそのカネを出してくれていたのが世界中の信者の人たちの「善意」だったのだということを今になって考え合わせてみるならば、そのことにはひたすら「感謝」しかない。そういえば私が生まれて初めて「ロックのコンサート」というものを生で見たのも、思い起こしてみるならばそれは「天理教本部のお祭り」での出来事だったのだ。

だから私には、「YMCAというのはどんなに素晴らしいところか」を歌ったこの歌の歌詞のひとつひとつが、「本当にそうなんだろうな」という「実感」をもって伝わってくるところがある。たぶん実際のYMCAというところも、世界中の人々の「善意」によって運営されている、基本的には「あったかい場所」なのだろうと思う。そして天理教みたいなローカルな宗教と違ってキリスト教というのは本当に「一般的な宗教」だから、アメリカという場所で育った多くの人にとって、YMCAというのは「子どもの頃の無邪気で楽しい思い出」と結びついた名前になっているのだと思う。だからきっと、こんな露骨な固有名詞が入っているにも関わらず、「みんながフツーに歌える歌」になっているのである。

そのことの上でこの歌には「YMCA」に対するあらん限りの「皮肉」が込められているのだということも、同時に私には分かる気がする。YMCAのことを「褒め讃える言葉」しか並んでいないにも関わらず、やっぱりそれは「最大の皮肉」なのである。だって、「褒め讃えることしかできない相手」なんて、実際にはその時点で「どこかおかしい」のだ。あえて悪口を一言も言わないことで逆にその相手の「うさんくささ」というものが浮き彫りにされてくる感覚は、すごくリアルなものだと思う。

いずれにしても自分の手で翻訳してみたことで、この歌は私にとって妙に「親近感の湧いてくる歌」だったことが分かった。そのことは「宗教嫌い」を持って任じている今の自分にとって、結構、意外なことだった。


Y.M.C.A. @札幌ドーム.2018.5.18.

アメリカのヤンキースタジアムでは、5回の裏が終わってグラウンド整備の時間になると必ずこの曲がかかってみんなで踊るのが「名物」になっているのだそうで、現在ではそれと全く同じ演出を、日本ハムが採り入れている。

60歳になった西城秀樹が言いました。
ヒデキ、還暦!

というのは子どもの頃に大好きだったモダンチョキチョキズのフィリップ君という人が持ちネタにしていたギャグだったけど、その西城秀樹氏が63歳で他界されたのは、まだ終わって間もない2018年のことだった。慎んでご冥福をお祈り申しあげます。ではまたいずれ。


=楽曲データ=
Released: 1978.12.5.
Key: F#