華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Lirica もしくはリリカ (1991. ORIGA)


リリカ

Lirica

ロシア語原詞はこちら


ヤ ぱだりゅ ティベ...
Я подарю тебе ...
ティ かじゅでい ズヴーク らゔぃ
Ты каждый звук лови
ヤ ぱだりゅ ティベ...
Я подарю тебе ...
ティ かく ミニャー りゅび
Ты как меня люби

あなたに贈ろうと思う
ひとつひとつの音を受けとめてほしい
あなたに贈ろうと思う
私を愛するのと同じように
それを愛してほしい


ゔぃーでぃし、びぇーりえ クラヴィシー たむ
Видишь, белые клавиши там?..
ぷりかすにーし くニム、い うずなえし さーむ
Прикоснись к ним, и узнаешь сам
しゅとえた のゔぃ ミール
Что это новый мир,
オン りょっちゃ リーコイ
он льется рекой
ヤ なざゔ (ヤ なざゔ) イヴォ
Я назову (Я назову) его
ムジカイ (ムジカイ)
Музыкой (музыкой)
い ムィ ぱっりゔょむ ぱ リキェー
И мы поплывём по реке
うじぇ ゔどゔぁいよむ
уже вдвоем

あそこに白い鍵盤が見えるでしょう。
そっと触れてほしい。
そうしたらひとりでにわかるから。
それは川をなして流れている
ひとつの新しい世界なんだってことが。
それを私は
音楽と呼ぶのです。
そして私たちはいつの間にか二人で
その流れにたゆたっていることでしょう。


ヤ ぱだりゅ ティベ ムージク
Я подарю тебе Музыку
ティ かじゅでい ズヴーク イヨー らゔぃ
Ты каждый звук её лови
ヤ ぱだりゅ ティベ ムージク
Я подарю тебе Музыку
ティ かく ミニャー イヨー りゅび
Ты как меня её люби

あなたに音楽を贈りたい。
その一つ一つの音を受けとめてほしい。
あなたに音楽を贈りたい。
私を愛するのと同じように
それを愛してほしい。


ヤー あっくろーゆ ティベ ふしぇー タイヌィ
Я открою тебе все тайны
えーたと ミル たく ぷりくらーせん
Этот мир так прекрасен
ふ ニョム ないぢょし ティ パリトル
В нем найдешь ты палитру
クラーサク ぴちゃーりにふ
красок печальных
の い らーだすてぃ オケアーン
Но и радости океан
にぁぶいちゃいにぃ
необычайный
い ティ うじぇ すもじぇし さむ
И ты уже сможешь сам
とゔぁりーち チュディサー
творить чудеса

私はあなたに
すべての秘密を打ち明けようと思う
この世界は途方もないぐらい
美しいんだよ。
あなたはそこに悲しい色彩のパレットを
見つけることになると思う
けれども同時に驚くような
喜びの大洋をも
見つけることでしょう。
そうしたらあなたもいつの間にか
自分の手で不思議を生み出すことが
できるようになっているはずだと思う


ヤ ぱだりゅ ティベ ムージク
Я подарю тебе Музыку
ティ かじゅでい ズヴーク イヨー らゔぃ
Ты каждый звук её лови
ヤ ぱだりゅ ティベ ムージク
Я подарю тебе Музыку
ティ かく ミニャー イヨー りゅび
Ты как меня её люби

あなたに音楽を贈りたい。
その一つ一つの音を受けとめてほしい。
あなたに音楽を贈りたい。
私を愛するのと同じように
それを愛してほしい。


ヤ ぱだりゅ ティベ ムージク
Я подарю тебе Музыку
ティ かじゅでい ズヴーク イヨー らゔぃ
Ты каждый звук её лови
ヤ ぱだりゅ ティベ ムージク
Я подарю тебе Музыку
ティ かく ミニャー イヨー りゅび
Ты как меня её люби

あなたに音楽を贈りたい。
その一つ一つの音を受けとめてほしい。
あなたに音楽を贈りたい。
私を愛するのと同じように
それを愛してほしい。



上の写真はオリガさんが日本でメジャーデビューする前の1992年に、札幌のインディーズレーベルから発売されたミニアルバムのジャケットらしいのだけど、名前の綴りが間違っているように見えるのは、どうしたことなのだろう。オリガという名前のキリル文字表記は「ОЛЬГА」なのだけど、上の綴りはどう見ても「ОЛВГА」で、これだと「オルヴガ」みたいな発音になってしまう。あるいはそうした書体があるのだろうか。分からないので何とも言えない。

前回「ポーリュシカ·ポーレ」を取りあげてしまった以上、どうしてももう一曲取りあげておかずにはいられないと思ったオリガさんの曲が、この「リリカ」だった。声とメロディがありえないぐらい魅惑的なこともさることながら、歌詞の意味を知ってみると、「歌を歌う人の気持ち」というものをこんなにも素直で美しい言葉で歌いあげた歌というものも、ないのではないかと思う。日本の歌でこれに対抗しうるものといえば、たとえば...


春 〜Spring〜

...いや、比べてどうこう言うつもりは全くないのだけれど、いかんせん方向性が違いすぎると思う。「授業よりも食事よりももっと大切なコト...」というフレーズがフッと蘇ったもので、久しぶりに聞いてみる気になれたのは良かったのだけど。ちなみにこのヒステリックブルーの皆さんの「なぜ」という曲をですね。


なぜ

このプリンセスプリンセスの皆さんの「世界でいちばん熱い夏」という曲と合わせて聞くととっても味わい深いものがあるので、時間と興味のある方はじっくり聞いて帰っていただければ幸いです。


世界でいちばん熱い夏

「プリプリ、ええねー」
「ああ、プリンセスプリンセス?」
「いや、プリマハムプリマハム」

というますだおかだのネタが千原兄弟を破った1994年のABCお笑い新人グランプリの記憶にいま私はゆったりとたゆたったりしているのだけれど、何でそんな記憶にたゆたうことになったりしてしまっているのだろう。オリガさんの歌の話をしていたのではなかったのか。そうだ。「リリカ」の話である。

この歌には最初、インディーズから発売された当時には「音楽の贈り物」という日本語のタイトルがついていたのだけど、メジャーデビューに合わせて「リリカ」と改題したらしい。「リリカ」はロシア語ではなくおそらくはイタリア語で、「叙情詩」「歌詞」などを意味する言葉なのだと辞書にはあった。これが英語になって「lyric (歌詞)」になったり、「lyrical (叙情的な)」になったりした挙句、「リリカルなのは」にまでたどり着く次第になったのだということが推測される。



うーむ。こういう絵が入ってくると自分で書いていて全然「華氏65度の冬」に思えない。まるで「今の人」が書いてるブログみたいである。それではその「リリカ」という言葉がどこから来たのかといえば、古代の吟遊詩人が伴奏に使っていた「リラ (lira)」という楽器に由来しているらしい。伝令の神ヘルメスが発明したとされている一種の竪琴で、ヨーロッパでは地域によって「リュラー」とか「ライアー」とか呼ばれている。探してみるとギリシャ神話の伝承通りに亀の甲羅と羚羊の角を使って復元した楽器で演奏している人たちの動画が見つかったりして、こういうのにはいくらでも見入ってしまう。


Game of Thrones in Ancient Greece

ちなみに現在の「リラ」はこんなにも洗練された楽器になっているのだそうで、こういうのにはこういうのでやはり、見入ってしまう。


主よ人の望みの喜びよ

それでその「リラ」がフランスに渡って「花の名前」になり、それがイギリスに渡って「リリー(百合)」という別の花の名前になったのだろうなあ、と私はいろんなことを想像し、そういえばオリガさんって百合の花っぽいイメージあるよなあとか、それにしても「リラの花」ってよく聞くけどどんな花か知らないよなあとか、真冬だというのに春めいた連想の世界にまたしてもたゆたっていたのだけれど、調べてみると全然そういう話ではなかったらしく、「リラ(ライラック)」は「lilac」で「百合」は「lily」だったわけであり、綴りが全然違っていたのである。LとRは日本語だと両方「らりるれろ」になるけれど、英語やフランス語の国で「Lila」と「Lira」とは「りら」と「りじゃ」ぐらい違うのだ。「りじゃ」と表記したのは飽くまで「違い方の度合いの例え」としてであり、実際に「りじゃ」と発音するわけではもちろんないのだけど、「りじゃ」から「りら」を連想することは、確かに難しい。...と思いつくままに書いているのだが、しかしこの「確かに」はどういう「確かに」なのだろうか。だんだんと私は、わけが分からなくなりつつある。なお、「リラの花」というのは、こおゆう花であるらしい。



だが、じゃあ、言わせてもらうのだが、「リリカ」から「百合の花」を連想するのは、「いけないこと」なのだろうか。LとRの区別もつかない無教養な日本語話者のナンセンスな勘違いとして一笑に付されてそれで終わりになってしまうような、そういう話なのだろうか。誰にそんなエラそーなことを言える資格があるのかと私は思う。「無関係」なものを「関係」させることの何が悪いのだ。20世紀以降、美というものは手術台の上のミシンとコーモリ傘との偶然の出会いから生まれてくるものと相場が決まっていたはずではなかったのか。人が清水の舞台から飛び降りるような気持ちで、好きな女性歌手のことをさりげなく花に例えるという生まれてこの方やったことのなかったような大冒険に踏み込んでみたというのに、それがこんな形で「スベる」だなんて、ちょっとあんまりなんではないだろうか。いま私にはしみじみと、35年前の堀内孝雄の気持ちが分かるような気がしてしまう。


堀内孝雄 憧れ遊び

...やめよう。何でそんな気がしてしまわなければならないようなことになってしまっているのだ。記事を書き始めた当初の私は、これから「トータルバラライカショー」特集でいろいろロシア語の曲を取りあげてゆくことにもなるわけだし、今のうちに読者の皆さんと一緒に「ロシア語の基礎」みたいなことを確認しておく機会を作っておきたいとか、割と遠大なことを考えていたはずだったのである。しかし「リリカ」というタイトルがロシア語でなかったものだからついつい脱線する羽目に陥ってしまったのだけど、どうしたものだろう。今からでも「ロシア語講座」に入ったものだろうか。しかしここまでで既に、ウンザリするぐらい長文の記事になってしまっているもんなあ。

何しろこの「リリカ」という歌には、難しい言葉もいっぱい使われているけれど、サビの部分の「Я подарю тебе Музыку (あなたに音楽をあげましょう)」という言い回しだけでも覚えておけば、いろんな形で応用が効く。「入門編」にはもってこいの歌だと思うのである。私のロシア語自体、「入門編」の域をちっとも出ていないわけなのだけど。

Я подарю тебе Музыку
ヤー ぱだりゅー ティビェ ムーズィク
私は あげましょう あなたに 音楽を
=「私はあなたに音楽をあげましょう

赤字で示した「Я」が主語。以下、青が動詞、緑が間接目的語、茶色が直接目的語で、中学校で習う「SVOO」の構文そのものである。基本的にロシア語の語順は、(日本語よりは)英語と同じになるケースが多いと言っていい。ただし英語と違うのは、英語ではそれぞれの単語の文の中での「役割」がほぼ「語順」によって決定されるのに対し、ロシア語では

музыка ムーズィカ 音楽は/だ
музыки ムーズィキ 音楽の
музыке ムーズィキェ 音楽に
музыку ムーズィク 音楽を
музыкой ムーズィコイ 音楽で

といった形で「語尾を屈折させること」によって決まってくるのである。こうした特徴を持つ言語は「屈折語」と呼ばれており、英語も例えば「he / his / him」の「使い分け」などにその特徴が残されていることから、言語学的には「屈折語」に分類されている。

日本語は「膠着語」である。「は/が/を/に」みたいな「助詞」をくっつけることで単語に「役割」を与えるシステムになっているわけであり、この「くっつける感じ」が「膠(にかわ=伝統的な接着剤)」に例えられて「膠着語」と呼ばれている。日本語の他には朝鮮語、トルコ語、フィンランド語などがこれに当たっている。

中国語は「孤立語」である。単語にあたるひとつひとつの漢字の読み方は決まっており、語順がどう変わろうと単語の形が変化することはない。ハッキリ言って「一番勉強しやすい」のは、このスタイルの言語である。ベトナム語もこの「孤立語」に分類されている。

どうしてこんな専門用語を並べなければならなかったのかというと、要するにロシア語は「辞書を引きにくい言語」だということを言いたかったからなのである。歌詞の中に「музыку」という単語が出てきても、その「主格」が「музыка」になるという「仕組み」を知っていなければ、辞書で単語を見つけることができない。従って単語を覚えるより先にどうしても、ある程度の「文法」を勉強しておくことが必要になってくる。それでも、文字の読み方さえ覚えてしまえば、変則的な読み方はほとんど出てこないし、ゲール語なんかと比べるとよっぽど取っつきやすい言語ではあるのだけれど。

いずれにせよ、本当にひとつの言語を覚えようと思うなら、「カラダで」覚えることが必要だ。「格変化」の仕組みに頭を悩ませたりしているよりは、最初は意味が分からなくても「歌を丸ごとひとつ覚える」ようなやり方の方が絶対に効率がいい。そして「このフレーズはこういうことを言っているのだ」ということが「わかる」時があれば、それを捕らえて離さずに他のいろんな言い方まで一緒に覚えてしまえばいいのである。

Я подарю тебе еду
ヤー ぱだりゅー ティビェ イェドゥ
=あなたに食べ物をあげましょう。

Я подарю тебе воду
ヤー ぱだりゅー ティビェ ヴォードゥ
=あなたに水をあげましょう。

Я подарю тебе меня
ヤー ぱだりゅー ティビェ ミニャー
=あなたに私をあげましょう。

Я подарю тебе разорение
ヤー ぱだりゅー ティビェ ラザリェーニェ
=あなたに破滅をあげましょう。

...何となく、これだけで充分ロシアでも生きていけそうな気がしてこないだろうか。してきたら勝ちである。そういうものだと私は思う。

その他、「トイザらス」という玩具店の綴りにも使われている「R」を反転させた「Я」の字がロシア語では「ヤー」になるのかとか、じゃあ「R」はどう書くのだろうと思ったらこれが何と「P」と書くのだとか、歌詞を通じて初めてロシア語に触れる人には「小さな驚き」がいっぱいだと思うのだが、そういうのをできるだけ大切にしながら、今後の特集を進めて行くことができればと思っている。私自身の学習のためにでもある。


Inner Universe

オリガさんといえばその筋の人たちの間では「攻殻機動隊」のテーマソングを歌っていたことで一番有名になっているらしいのだけれど、このアニメを私は見たことがないのだな。一番最初に言葉を交わした時から「攻殻機動隊」の話をしてはった「ミチコオノ日記」の作者の人は、元気にしてはるのだろうか。「note」というサイトで連載されている連作短編集「月」は、最近になって第3章が完結したところなので、もう一度最初から読み直してみようと思っている最近です。最後になりましたが、今回の翻訳にあたっては下記のリンクの記事を参照させて頂きました。こういうサイトには絶対なくなってほしくないものだと思います。ではまたいずれ。



Я Подарю Тебе Музыку リリカ ロシア語メモ

=楽曲データ=
Released: 1991.
Key: E