華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Эй Ухнем もしくはヴォルガの舟(曳)歌 (19c. Russian Folk Song)

エイコラ エイコラ もうひとつ エイコラ
エイコラ エイコラ もうひとつ エイコラ
それ曳け舟を それ捲け綱を
アイダダアイダ アイダダアイダ
樺の木に捲いた

エイコラ エイコラ もうひとつ エイコラ
エイコラ エイコラ もうひとつ エイコラ
それ曳け舟を それ捲け綱を
アイダダアイダ アイダダアイダ
樺の木に捲いた

エイコラ エイコラ もうひとつ エイコラ
エイコラ エイコラ

-日本語詞: 門馬直衛


Эй Ухнем (Total Balalaika show)

Эй Ухнем

ロシア語原詞はこちら


えい うっふにぇむ、えい うっふにぇむ
Эй ухнем, эй ухнем
いぇーしょー ラーズィク いぇーしょ だ ラス
Ещё разик ещё да раз
えい うっふにぇむ、えい うっふにぇむ
Эй ухнем, эй ухнем
いぇーしょー ラーズィク いぇーしょ だ ラス
Ещё разик ещё да раз

えい、やっつけろ。えい、やっつけろ。
もういっちょうだ、もういっちょう。
えい、やっつけろ。えい、やっつけろ。
もういっちょうだ、もういっちょう。


らーざゔよぉ ムィ ビェーリョーズ
Разовьем мы берёзу,
らーざゔよぉ ムィ クドリャーヴ
Разовьем мы кудряву!
あい だ、だ あい だ
Ай-да, да ай-да
あい だ、だ あい だ
Ай-да, да ай-да
らーざゔよぉ ムィ クドリャーヴ
Разовьем мы кудряву.
らーざゔよぉ ムィ クドリャーヴ
Разовьем мы кудряву.
えい うっふにぇむ、えい うっふにぇむ
Эй ухнем, эй ухнем
いぇーしょー ラーズィク いぇーしょ だ ラス
Ещё разик ещё да раз

白樺のような髪をほどこう。
茂った枝のような髪をほどこう。
はぁもっともだ、もっともだ。
もっともだーあもっともだ。
茂った枝のような髪をほどこう。
茂った枝のような髪をほどこう。
えい、やっつけろ。えい、やっつけろ。
もういっちょうだ、もういっちょう。


ムィぱ ビェーリェースク いーじょむ
Мы по бережку идём
ピェースニ ソルヌィシク ぱぃよーむ
Песни солнышку поём
あい だ、だ あい だ
Ай-да, да ай-да
あい だ、だ あい だ
Ай-да, да ай-да
ピェースニ ソルヌィシク ぱぃよーむ
Песни солнышку поём
えい うっふにぇむ、えい うっふにぇむ
Эй ухнем, эй ухнем
いぇーしょー ラーズィク いぇーしょ だ ラス
Ещё разик ещё да раз

おれたちは岸辺に行って
太陽に向かって歌うんだ
はぁもっともだ、もっともだ。
もっともだーあもっともだ。
太陽に向かって歌うんだ
えい、やっつけろ。えい、やっつけろ。
もういっちょうだ、もういっちょう。


えふ トゥイ ヴォルガー まーち リェーカ
Эх ты, Волга мать-река
しーらかぁ いぃ ぐるーばーかー
Широка и глубока
あい だ、だ あい だ
Ай-да, да ай-да
あい だ、だ あい だ
Ай-да, да ай-да
しーらかぁ いぃ ぐるーばーかー
Широка и глубока

ああヴォルガよ
母なる河よ
おまえは広くて深い。
はぁもっともだ、もっともだ。
もっともだーあもっともだ。
おまえは広くて深い。


えい えい、ちゃに カナ すぃりにぇい
Эй эй, тяни канат сильней
ヴォールガ ヴォールガ まーち リェーカ
Волга-Волга мать-река
ピェースニ ソルヌィシク ぱぃよーむ
Песни солнышку поём
えい うっふにぇむ、えい うっふにぇむ
Эй ухнем, эй ухнем
いぇーしょー ラーズィク いぇーしょ だ ラス
Ещё разик ещё да раз
えい うっふにぇむ、えい うっふにぇむ
Эй ухнем, эй ухнем

えい、えい、力いっぱい綱を引け。
ヴォルガよ、ヴォルガよ、母なる河よ。
太陽に向かって歌うんだ。
えい、やっつけろ。えい、やっつけろ。
もういっちょうだ、もういっちょう。
えい、やっつけろ。えい、やっつけろ。


ヴォルガの舟唄

トータル·バラライカ·ショーの三曲目。がちがちのロックンロールが二曲続いたその後で、赤軍合唱団の皆さんがいよいよ「本気」を見せてくれるのがこの歌だ。前曲に続いて「力を合わせて働く」ことをテーマにした歌であることが、心憎い。

「ボルガの舟唄」という名前で日本でも親しまれてきたこの歌は、タイトルが「舟唄」になっていることから「船頭さんが舟の上で歌う歌」なのだろうと私も漠然と思い込んでいたのだけど、実際は「舟曳き歌」である。(なお、日本では「ボルガ」と表記されることが多かったが、ロシア語は「バ行」の「Б」と「ヴァ行」の「В」を厳密に区別する言語なので、ここでは「ヴォルガ」表記を使っている。前歯で下唇をしっかり噛んで発音することが必要)

蒸気機関のなかった時代、河川を航行する船は、下りは「自動的に」進んでくれるものの、上りは基本的に「岸辺からロープで引っ張って舟を動かす」以外になかった。ヴォルガ川は全長3690キロに及ぶ大河である。その岸辺をひたすら歩いて、時には浅瀬に踏み込んで、何日もかけて舟を上流の港まで移動させる大勢の労働者の姿が、19世紀には沿岸の至る所で見られたのだという。


「ヴォルガの舟唄」の故郷と言われるルイビンスクの街

そうした仕事は、日本にもあった。日本の場合は川が狭いので、使われる舟は高瀬舟と呼ばれる小さなタイプであることが多く、かつ川の両岸からY字型にロープを張って引っ張り上げる方法も可能だったとのことで、ロシアとはずいぶん趣がちがう。その代わり日本の川は流れが急で、岸辺の道も山道になることが多いので、規模は小さくても大変な重労働が必要となる点においては、変わりがない。江戸時代における京都から大阪までの淀川の船旅を描いた「三十石夢通路」という有名な落語があるのだけれど、今回調べていて驚いたことには、あの船は毎回大阪に着くたびに「人間が引っ張って」京都の伏見まで回送していたのだという。そのために京-大阪の運賃は下りが72文だったのに対し上りは172文だったらしいが、それはそうだろうと思う。それでも船曳き人夫によるリレー方式で早朝に淀屋橋を出た舟が夕方には伏見に着いていたというのだから、人間の力というのは大したものである。関西の人以外には全然ピンと来ない話を私はしているのかもしれないが。
www.kyoto-wel.com

桂米朝 三十石夢通路

すれ違う上りの舟の船頭さんの声が吉朝さんなのがたまらないのだよなあ。などという話は完全に脱線だな。この噺に出てくる「淀の船頭歌」というのもとても素晴らしくて、米朝/枝雀で聞き比べをしたりしていると一日中聞いていても飽きなかったりするのだけれど、とりあえずはロシアの話に戻りたい。

ページの一番上に貼りつけたイリヤ·レーピンの絵画は、19世紀後半における「ヴォルガの舟曳き」の様子を、実在の人々をモデルにして描いたものである。画面の右上の遠くの方には「蒸気船の煙」が見えている。そういう便利なものが発明された以上、この絵に出てくる人たちは人力で船を引っ張るという大変な労働から「解放」されても良さそうなものであるにも関わらず、依然として同じ仕事を「させられて」いる。当時は船主にとって、その方が「安上がり」だったからである。

蒸気船を使った方が「安く」なる時代が来たら来たで、この人たちは「楽」になったのかといえば、全くそんなことはなく、むしろ仕事を失って路頭に迷う運命に見舞われただけだった。「技術」がいくら変わったとしても、「世の中」が変わることがなければ、その社会における「人間の疎外」は、むしろ深まるばかりなのである。この矛盾は21世紀を迎えた今日においても、「複雑」になるばかりで全く「解決」されてはいない。

人間が自分の力で何千キロも離れたところまで物資を運び、人々の暮らしを支え合うということは、間違いなく「偉大なこと」であり、この絵の中の人たちは自分たちの仕事を「誇っていい」はずなのだ。それにも関わらずどうしてそれが「惨め」で「非人間的」な苦役にしか、傍目にも見えないし、本人たちにも思えなくなってしまうことになるのか。それはその仕事が「他人のための強制労働」だからである。

一方には「他人のために働かされるだけ」の人間が存在し、他方には「他人を働かせて優雅に暮らす」人間が存在する。つまりは社会に差別があるからこそ、そこで「労働すること」は「苦しみ」でしかなくなってしまうのだ。もしもそれが「自分のための労働」であったなら、どんな苦労があったとしても、全てそれらは「よろこび」につながっている。「労働」は「生きがい」や「楽しいこと」に変わってゆくはずだし、「昔の人たち」はそのことを、「今の人間」よりも遥かによく「知って」いたはずだった。

蒸気船が発明される前の時代、船曳き労働を生業にしていた人たちは、自分たちの仕事の「かけがえのなさ」を知っていたし、そのことを「誇り」に感じてもいた。その人たちから「かけがえのなさ」を奪ったのが蒸気船という「資本の力」だったわけであり、以降その人たちはどんな世界で生きて行くことになったにせよ、自分の「価値」が他人によって「評価」されることから逃げられない世界で暮らすことを、余儀なくされることになったのだ。レーピンの絵画は「始まったばかりのその時代」の本質を端的に伝えるものとして、我々の心をザワつかせる内容を具えている。我々が生きているのはその矛盾が、文字通り「行くところまで行ってしまった」時代に他ならないからである。


ヴォルガの舟唄 (シャリアピン)

「ヴォルガの舟唄」はその船曳き労働にいまだ活気のあった時代に歌われていた、内容としては明るい歌だ。20世紀初頭には伝説的なオペラ歌手のフョードル·シャリアピンという人が歌って世界的に知られるようになり、1941年にはグレン·ミラーオーケストラがジャズ風にアレンジしたこの曲が全米No1ヒットを記録したりもしている。YouTubeを検索するとそのシャリアピン本人の歌唱がいつでも聞けてしまったりするのだから、実際すごい時代になったものではある。それが本当に人間を「幸せ」にできるような時代に、早くなったらいいのだが。

=翻訳をめぐって=

Эй ухнем, эй ухнем

「Эй (エイ)」というこの間投詞はとてもロシア的であると同時に、どこか日本的でもある。それも中世の説経節などに出てくる「ゑいさらゑい」といったような、すごく生き生きとした言葉遣いと「根っこが同じ」であることを感じさせる。間投詞まで「oh」とか「alas」とかいった調子の西欧世界と比べ、ロシア人の気質にはこういったところにも我々東アジアの人間と「似通ったもの」があるのかもしれない。

「ухнем」という動詞には「爆発させる」とか「浪費する」とか「金切り声をあげる」とかいろんな意味があるらしいのだけど、要は「いてこます」的な「勢い先行の動詞」なのだと思う。とりあえず「やっつけろ」と訳したが、上から2番目の動画の「よいとまけ」という翻訳は、この歌が労働歌であることからしても、うまい訳し方だと思った。


ヨイトマケの唄

Разовьем мы кудряву

この部分がサイトによっては「白樺の木を育てよう」と訳されており、別のサイトでは「白樺の木を切り倒そう」と訳されている。自分で調べてみたところ「Разовьем」という動詞は英語の「develop」と同じような意味を持っているらしく、「発展させる」とも「開発する」とも解釈できるので「育てる」になったり「切り拓く」になったりするのだろうということが想像された。それで正確にはどちらなのだろうと思って「italki」という言語交換サイトでロシアの人に問い合わせてみたところ、全く思ってもみなかったような答えが返ってきた。

このフレーズは直訳すると「白樺の枝をほどこう」という意味になるのだそうである。ロシアでは白樺の木は強い呪術的な力を持っているとされており、その小枝を結び合わせることが「恋人同士のおまじない」とされるようなことが、よくあったらしい。それを「ほどく」ことにはどういう意味があったのかということについては、「何ぶん古い歌だからよく分からない」というのが最初の人の答えだった。ロシアでも「意味を知らずに歌っている人」が多いらしいのである。

ところが話はそれで終わらず、2人目の回答者の人によるならロシアで「白樺」といえばこれは必ずと言っていいほど「女の子」の比喩なのだという。(ちなみにその回答者の人は女性である)。だから「白樺の枝をほどこう」は「女の子の髪をほどこう」という意味になる。それがどういう意味になるのかといえば、話はまだもう一段あって、編み込んだ女の子の髪をほどくことは「大変な重労働」なのであると。それと同じくらい大変で忍耐の要る仕事を自分たちは頑張ってやりとげるぞと。いう意味であるというのが。その人の説明だった。こうなってくると私のようなストレンジャーには、疑問の挟みようもない。

とりあえず「白樺のような女の子の髪をほどこう」という意味であるところまでは間違いないようなので、そういう言葉で訳したが、それが労働的な意味を持っているのか恋愛的な意味を持っているのかはたまた呪術的な意味を持っているのか、ロシアの人にも分からないのだから私には分かるわけがない。興味のある方は自分で調べてみてもらえたらと思う。なお、ロシアの人たちとのそのやりとりについては、以下のサイトにまとめられている。
www.italki.com

Эй ухнем

「民謡」そのものであるこの歌も、今のロシアのユーチューバーの人に歌わせたら、こんな感じになるらしい。一週間前に投稿されたばかりなのに再生回数10万回ということは、よっぽど人気のある人なのだろうな。

「トータル·バラライカ·ショー」ではこの歌の後に、最初の回で取りあげた「Happy Together」が歌われ、さらに予想もつかない展開になだれ込んでゆく。というわけでまたいずれ。


Happy Together (Total Balalaika Show)