華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

I Can See For Miles もしくは助六由縁江戸桜 (1967. The Who)

いかさま、この五丁町へ脛(すね)を踏ん込ごむ野郎めらは、おれが名を聞いておけ、まず第一(でーいち)におこりが落ちる。

まだよい事がある。大門をずっと潜ると、おれが名を手の平へ三編書いて(けーて)嘗めろ、一生女郎に振られるということがねえ、見かけ小さな野郎だが肝が大きい。

遠くは八王子の炭焼売炭(すみやきばいたん)の歯っかけじじい、近くは山谷の古やりて梅干し婆アに至るまで、茶呑み話の喧嘩沙汰、男達(おとこだて)の無尽(むじん)のかけ捨て、ついに引けを取ったことのねえ男だ。

江戸紫の鉢巻きに、髪は生締(なまじめ)、ソレはけ先の間から覗いて(のぜーて)見ろ、安房上総が浮絵のように見える(めーる)わ。

相手が殖えれば竜に水、金竜山の客殿から目黒不動の尊像までご存じの、大江戸八百八丁に隠れのねえ、杏葉牡丹(ぎょようぼたん)の紋付も桜に匂う仲の町、花川戸の助六とも、また揚巻の助六ともいう若い(わけー)者、間近く寄って面相(めんぞう) 拝み奉れエゝ。

-助六由縁江戸桜 (すけろくゆかりのえどざくら)
 1811年 七代目市川團十郎-


I Can See For Miles

I Can See For Miles

英語原詞はこちら


I know you've deceived me, now here's a surprise
I know that you have 'cause there's magic in my eyes

俺はちやアンと知つてるぜ
ビツクリさせてやらふかい
お釈迦様でも気がつくめへが
俺には疾うから御見通しよ


I can see for miles and miles and miles and miles and miles
Oh yeah

ヤ 見えるわ見えるわ てめへが心根

If you think that I don't know about the little tricks you've played
And never see you when deliberately you put things in my way

てめへが俺に仕掛けた罠に
気づかねへとでも思ふなら
知つて渡したその糸に
つまづかねへと思ふなら


Well, here's a poke at you
You're gonna choke on it too
You're gonna lose that smile
Because all the while

これ見てせへぜへ驚きゃあがれ
てめへにやグウの音も出めへ
笑つてゐるのも今のうちだぜ
俺はズーッと見てたんでひ


I can see for miles and miles
I can see for miles and miles
I can see for miles and miles and miles and miles and miles
Oh yeah

ソリヤ 見えるわ見えるわ 安房上総
見えるわ見えるわ 紀伊淡路
見えるわ見えるわ てめへが心根
白浪小浪の涯までも


You took advantage of my trust in you when I was so far away
I saw you holding lots of other guys and now you've got the nerve to say

人の心につけ入りやがつて
俺が遠くへゐた時だ
知らねへ男と乳繰り合つて
厚かましくもまだ言ふか


That you still want me
Well, that's as may be
But you gotta stand trial
Because all the while

俺に未練があるなどと
聞いてやつても可ひんだぜ
此処ぢやならねへお白州で
俺はズーッと見てたんでひ


I can see for miles and miles
I can see for miles and miles
I can see for miles and miles and miles and miles and miles
Oh yeah

ソリヤ 見えるわ見えるわ 安房上総
見えるわ見えるわ 紀伊淡路
見えるわ見えるわ てめへが心根
白浪小浪の涯までも


I know you've deceived me, now here's a surprise
I know that you have 'cause there's magic in my eyes

俺はちやアンと知つてるぜ
ビツクリさせてやらふかい
お釈迦様でも気がつくめへが
俺には疾うから御見通しよ


I can see for miles and miles and miles and miles and miles
Oh yeah

ヤ 見えるわ見えるわ てめへが心根

The Eiffel Tower and the Taj Mahal are mine to see on clear days
You thought that I would need a crystal ball to see right through the haze

ヱツフヱル塔からタジ·マハアル迄
日和の時にやア眼中よ
てめへの心の霧を透かすに
水晶玉は要らないぜ


Well, here's a poke at you
You're gonna choke on it too
You're gonna lose that smile
Because all the while

これ見てせへぜへ驚きゃあがれ
てめへにやグウの音も出めへ
笑つてゐるのも今のうちだぜ
俺はズーッと見てたんでひ


I can see for miles and miles
I can see for miles and miles
I can see for miles and miles and miles and miles and miles
And miles and miles and miles

ソリヤ 見えるわ見えるわ 安房上総
見えるわ見えるわ 紀伊淡路
見えるわ見えるわ てめへが心根
白浪小浪の涯までも


I can see for miles and miles
I can see for miles and miles
I can see for miles and miles
I can see for miles and miles
I can see for miles and miles
I can see for miles and miles

ヤ 見えるわ見えるわ 伊豆鎌倉
見えるわ見えるわ 須磨明石
見えるわ見えるわ 唐天竺
見えるわ見えるわ 亜墨利加英吉利
見えるわ見えるわ てめへが心根
三千世界の裏までも


助六由縁江戸桜 6

初めて聞いた時から、歌舞伎的な印象の強い歌だという感想を持っていた。スケールの大きいところとか。メリハリの利いてるところとか。とはいえ私は歌舞伎というものを実際には見たことがない。今は亡き米朝師匠や吉朝師匠が「芝居物」の落語を得意としていたので、それを通じて「雰囲気」を知っていた程度である。

そんな中で、歌舞伎の初心者がまず見るべしとされている「助六由縁江戸桜」という演目の中に、「はけ先の間から覗いて見ろ、安房上総が浮絵のように見えるわ」というセリフがあるらしいことを偶然知り、その「風景」とこの歌の「風景」が何となく重なるように感じられたことから、今回の翻訳とは相成った(←影響を受けている)。もとより歌舞伎にも江戸文化にも通じていない贅六育ちが雰囲気だけをマネしてデッチあげた試訳にすぎないので、見る人が見たら「おかしなところ」が山ほど出てくる言葉遣いになっていると思う。できることならそういうのを「ちゃんと」知ってる人に「ちゃんとした」訳詞を書いてほしいというのが私の希望である。この歌はぜひそういう、「ちゃんとした古典の言葉」で聞いてみたい。

ちなみに「元ネタ」になっている助六のセリフの意味は、自分の髪の結い方は荒く結った毛と毛の間から房総半島が透けて見えるほどの「生締め」なのだ、粋だろう。というところにあるらしいのだが、分かんねえですね。上方者なもんでね。ちゃんとくくっとかひんだらバラけますえ。


桂吉朝 狐芝居

=翻訳をめぐって=

何しろこんなに「遊んで」しまった以上は、「ちゃんとした」直訳的な訳詞も併せて掲載しておかなければ、看板に傷がつくことになると思う。自分自身が10代の頃にCDの訳詞を読んでいて一番むかつかされたのは、訳詞の日本語と原文の歌詞の間に「対応関係」を見つけられないケースだった。翻訳した人間の趣味やら思い入れやらはどうでもいいから、歌それ自体がどういうことを歌っているかを「ちゃんと」知りたいというのが私自身の渇望だったし、そういう渇望を抱えてきた人は私だけではないはずだと思う。このブログの三枚看板の一枚目が「意訳はしない」になっているのは、そういう理由によっている。

とりあえずいつものように「歌詞の風景」を確認しておくならば、この歌はザ·フーのギタリストのピート·タウンゼントが当時の婚約者だったカレン·アストレイさんに対し、「ツアー中に浮気しやがったら承知しねえぞ」という気持ちを込めて、贈った曲なのだそうである。「贈った」と言うと言葉は美しいが、歌詞の内容はほとんど「脅迫」になってるとしか思えないわけで、カレンさんの方もよくまあこんなオドロオドロしい言葉を並べられて、婚約を考え直す気持ちにならなかったものだと思う。しかもピート自身は、ミュージシャンなら誰でもそうするようにと言えば身も蓋もないけれど、ツアー中は浮気しまくりんぐだったらしいし。それにも関わらず二人は翌年の68年に結婚し、2009年に離婚するまでは、仲良く暮らしていたらしい。もちろん本当に「仲良く」暮らしていたのかどうか私が知るはずはないのだけれど、とにかくこういうことはどう書いていいものなのか、私には全然わからない。

I know you've deceived me, now here's a surprise
あなたが私をだましたことを
私はちゃんと知っている。
ここに(あなたを)驚かせることがある。

I know that you have 'cause there's magic in my eyes
私は知っている。
あなたは(それを)やったのだ。
なぜなら私の両眼には
魔法が宿っているからだ

…「浮気しやがったら承知しねえぞ」と言うよりも、既に相手が「した前提」のもとに歌が始まっているわけなのだが、実際のところ、どうだったのだろうか。勘繰っても仕方ないのだけど。「ここに驚異がある」というその「驚異」の内容が、つまり「彼氏の目には魔法が宿っている」という事実であるということなのだろう。

そんなこんなでこの歌の邦題は「恋のマジック·アイ」と言うのだが、救いようもなくダサいと思うな。「恋のロマンティック大爆撃」からパクったようにしか思えない。…逆なのか。

I can see for miles and miles and miles and miles and miles

直訳は「私には何マイルも何マイルも何マイルも何マイルも(向こうまで)見えるのだからな」。アメリカでは今でもヤードポンド法が使われているけれど、イギリスではそれが60年代末にメートル法に切り替わったのだそうで、あと数年遅く出てたらこの曲も「キロメートルズキロメートルズ」になってたね。そうならなくてよかったね。というコメントが海外サイトに載っていた。「キロメートル」では「歌にならない」という感覚がイギリスにも存在していることは、何となく面白いことだと思う。なお、1マイルは約1.6km。そして私はいまだに「ヘクトパスカル」には馴染めていない。

If you think that I don't know about the little tricks you've played
もしもあなたが、あなたの施したいくつかの計略を私が知らずにいると思うなら
And never see you when deliberately you put things in my way
そしてあなたが私の通り道にわざと物を置いた時に、私がそれに気づかなかったと思うなら

…非常に日本語に移しにくい言葉で書かれているもので、いつそ歌舞伎の言葉で訳してやりてへという発想も生まれてきてしまうわけなのだが、「little trick」は「ちょっとした企み」や「計略」という意味なので、「罠」とまで訳すのは「訳しすぎ」だという自覚は持っている。「put things in my way」は辞書にも例文の見つからなかった表現だが、「私の通り道に物を置く」という意味なので、おそらくは「俺のやりたいことをジャマしやがって」的な意味なのだと思う。

Well, here's a poke at you
You're gonna choke on it too
You're gonna lose that smile
Because all the while

えー、ここにあなたに突きつけるべきものがあります。
あなたは息が詰まることにもなることでしょう。
あなたからはあの微笑が失われることでしょう。
なぜなら私は今までずっと

「poke」は「棒で突っつく」という意味の動詞なのだが、名詞としては「突っつくもの」という感じの漠然とした意味しかない。「突きつけるもの」があるというのは「彼氏の目の中の魔法」のことを言っているのだと思う。それを知った彼女は息も絶え絶えとなり顔から微笑も消え失せるであろう、と言っているのだから、これは完全に「脅迫」である。

You took advantage of my trust in you when I was so far away
I saw you holding lots of other guys and now you've got the nerve to say

あなたは私が遠いところにいた時
私からの信頼につけこみましたね。
私はあなたが数多くの他の男性を
抱いているのを見ましたよ。
それでもあなたは次のように言うだけの
神経を持ち合わせているというのですね

「take advantage of 〜」は「〜を利用する」「便乗する」「出し抜く」という意味。彼氏は自分が遠いところにいた時に、彼女が別の複数の男性と関係を持っている様子を「見ていた」と言うわけだ。見えてたはずはないのだが。「次のように言うだけの神経を持ち合わせているというのですね」は、以下の部分に続く。

That you still want me
Well, that's as may be
But you gotta stand trial
Because all the while

あなたはまだ私を求めていると。
えー、そういうこともありましょう。
しかしあなたは法廷に立たねばなりません
なぜなら私はずっと

…本当に「自然な日本語」に訳しにくい歌詞なのだ。だから「思い切り非日常的な日本語」に直すことでもしなければ、サマにならなかった。

The Eiffel Tower and the Taj Mahal are mine to see on clear days
You thought that I would need a crystal ball to see right through the haze

エッフェル塔とタジマハールは、晴れた日には私の視界にあります。
霧の中をまっすぐ見通すために、私には水晶玉が必要になるだろうとあなたは思っていたのですね。(だが要らない)

…何が「だが要らない」だと思うが、「わかりやすい翻訳」を心がけるためには、そういうのも必要なのだろうかと思った。むかし古典の授業で「反語」が出てくるたびに教師が「いやそうではない」とつけ加えるあれが私は心の底から鬱陶しかったものだ。「いやそうではない」とわざわざ口に出して言うぐらいなら「反語表現」など最初から不要だろうに。とはいえ「下手な反語表現」である場合、そこまで「説明」を受けなければ分からなかったりもするのである。これが「下手な反語表現」なのかどうかは、私は英語話者ではないので何とも言えないところなのだけど。

エッフェル塔があるのはフランス。タジマハールがあるのはインド。彼女がいるのは霧深いロンドン。それでも彼氏には目の中に魔法が宿っているから全部見えているのだ、という歌詞。すごいですね。なお、この歌の中には「miles」という言葉が最後のフェイドアウトまでの間に都合57回出てくるそうである。自分で数えたわけではないけれど、奇特な人もいるものだと思う。


フリッパーズ·ギター 偶然のナイフ·エッジ·カレス

遠くまで見える目には流れ出す5月の涙を僕らは誇りに思う。ではまたいずれ。
…おつといけねへ。
誇りに思うまたいずれ。


=楽曲データ=
Released: 1976.10.13.
Key: E

恋のロマンティック大爆撃

恋のロマンティック大爆撃