華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Wedding Song もしくは世界で一番悲しい歌 (1974. Bob Dylan)


Wedding Song

Wedding Song

英語原詞はこちら


I love you more than ever, more than time and more than love,
I love you more than money and more than the stars above,
Love you more than madness, more than waves upon the sea,
Love you more than life itself, you mean that much to me.

今までよりもずっと
あなたのことが好きだ。
時間よりも愛そのものよりも
あなたのことを愛している。
カネだって天上の星だって
あなたには代えられない。
madnessをこえて
海にうねる波よりも激しく好きだ。
人生それ自体より
あなたの方がもっと大切だと思う。
わたしにとってあなたは
それだけの存在なのです。


Ever since you walked right in, the circle's been complete,
I've said goodbye to haunted rooms and faces in the street,
To the courtyard of the jester which is hidden from the sun,
I love you more than ever and I haven't yet begun.

あなたがまっすぐ歩み入ってくれた時から
円環は完成されたものとなった。
悪霊の住みついた自分の部屋に
街頭にあふれる顔に
太陽から隠された宮廷道化師の中庭に
わたしはさよならを告げた。
今までよりもずっとわたしは
あなたのことを好きだし
ひょっとしてこれでもまだ愛の入口にさえ
立っていないんじゃないかと思う。


You breathed on me and made my life a richer one to live,
When I was deep in poverty you taught me how to give,
Dried the tears up from my dreams and pulled me from the hole,
Quenched my thirst and satisfied the burning in my soul.

あなたの息吹はわたしの人生を
ぜいたくすぎるぐらい
豊かなものに変えてくれた。
わたしが貧しさの底にいた時にあなたは
人に与えるということを教えてくれた。
わたしの夢から涙をぬぐい去り
わたしのことを穴から引きあげてくれた。
わたしの渇きを癒して
魂の中に燃える炎を
満たしてくれた。


You gave me babies one, two, three, what is more, you saved my life,
Eye for eye and tooth for tooth, your love cuts like a knife,
My thoughts of you don't ever rest, they'd kill me if I lie,
I'd sacrifice the world for you and watch my senses die.

あなたはわたしに
赤ちゃんをもたらしてくれた。
ひとりふたりさんにん。
そればかりかあなたは
わたしの命さえ救ってくれた。
目には目を歯には歯を
あなたの愛はナイフのように切れる。
あなたについてめぐらすわたしの思いは
休むことを知らない。
もしも嘘をついたらその思いによって
わたしは殺されるだろう。
わたしはあなたに
世界をいけにえとしてささげ
自分の感覚が死んでゆくのを
見つめることになるだろう。


The tune that is yours and mine to play upon this earth,
We'll play it out the best we know, whatever it is worth,
What's lost is lost, we can't regain what went down in the flood,
But happiness to me is you and I love you more than blood.

この地上で奏でるメロディそれは
あなたとわたしのものだ。
何であれ自分たちの知っている
あらゆる値打ちのあるものの中で
最高の演奏をわたしたちは
聞かせることができるだろう。
失われたものそれは失われたもので
洪水にさらわれたものをわたしたちが
取り戻すことはもうできない。
けれどもわたしにとって
幸せとはあなたのことで
わたしはあなたのことを
自分の体を流れる血よりも愛している。


It's never been my duty to remake the world at large,
Nor is it my intention to sound a battle charge,
'Cause I love you more than all of that with a love that doesn't bend,
And if there is eternity I'd love you there again.

世界の全体を作り変えることが
わたしの義務であったことなどないのだし
戦いへの突撃を音にして
伝えようなどとも考えたことはない。
愛をもってしても曲げることのできない
そのあらゆることどもにもましてわたしは
あなたのことを愛しているのだから。
そしてもし永遠というものがあるとすれば
わたしはその中で改めて
あなたのことを愛し続けたいと思う。


Oh, can't you see that you were born to stand by my side
And I was born to be with you, you were born to be my bride,
You're the other half of what I am, you're the missing piece
And I love you more than ever with that love that doesn't cease.

ああわからないだろうか。
あなたはわたしの側に立つためにこそ
生まれてきてくれた人なのだ。
そしてわたしはあなたと
いっしょになるために生まれてきた。
あなたが生まれてきたのは
わたしの花嫁になるためだったのだ。
あなたはわたしという人間を
かたちづくるその半分で
あなたこそが失われたカケラなのだ。
今までよりもずっと
あなたのことを愛している。
消えることのないその愛をもって。


You turn the tide on me each day and teach my eyes to see,
Just bein' next to you is a natural thing for me
And I could never let you go, no matter what goes on,
'Cause I love you more than ever now that the past is gone.

あなたは毎日わたしの前で
その風向きを変え
そしてわたしの目に
見ることを教えてくれた。
あなたのそばにいるということ
それはただそれだけで
とても自然なことなのだ。
わたしにとって。
そして何が起こり続けようとわたしには
あなたを手離すことなんて
とてもできそうにない。
今までよりもずっとわたしは
あなたのことを愛しているのだから。
そしてもう過去は
過去へと去ってしまったのだから。



「madness」は「精神病者」に対する差別表現です。ここでは原文をそのまま転載しました。

=翻訳をめぐって=

誰よりも君のことを愛している

みたいな日本語表現は極めてよく目にするわけだけど、実はこのフレーズは

  • 世の中にはいろいろな人がいてその中の誰を好きになることも自分はできるわけだけど、他の誰でもなく君のことが一番好きだ。

という意味なのかはたまた

  • 世の中には君のことを好きな人がたくさんいるわけだけど、他の誰が君のことを好きだと思う気持ちにもまして自分は君のことが好きだ

という意味なのかは、一見しただけでは判断できない構造になっている。「一見しただけでは」という言い方は不正確かな。二度見したって三度見したって、このフレーズだけではどちらの意味なのかを確定させることは不可能なのである。

世の中の人は、どういう意味でこのフレーズを使っているのだろうか。まあ、普通に考えて、自分の好きな人のことを自分以外の人間が好きだと思っているその好きさの度合など他人には分かるはずもないのだから、「他人が君のことを好きである以上に私は君のことを好きである」などということは、基本的には自信と責任をもって他人に言えるようなことではないはずである。それにも関わらず、とりわけライバルのいる恋である場合、「誰よりも君のことを愛している」というフレーズは「そのライバルが君のことを好きである以上に」という意味合いで使われていることの方が多いような感じもする。

でも、よく分からない。ひょっとしたら使っている人間たち自身も、どっちの意味で使っているのか無自覚なままに何となく「流通」してしまっているのが、「誰よりも君のことを愛している」というフレーズの実態なのかもしれない。いずれにしてもこんなに無責任で意味が分からない言葉を他人の前で口にできる気持ちには私はちょっとなれないし、事実私は使った経験がない。

そして私が現在に至るまで「まともな恋愛」というものをほとんど経験することができずにいる理由の大きな部分は、実に私が「そういうことを気にする人間」であるからという事実に占められているのではないかということに四割ぐらい私は最近自分でも気がつきつつあるのだけれど、そのことはとりあえず、いい。ブログのテーマは飽くまでも歌詞の翻訳である。

この手のフレーズが「わけがわからない」ことは、英語においても同様なのだ。

I love you more than ever, more than time and more than love,

と言った場合、「I love you more than ever」は「今まで愛していた以上に私は君を愛している」でまあ間違いないとして、「I love you more than time」というのが「私は時間を愛しているけど、それよりもっと君を愛している」という意味なのか「時間は君のことを愛しているけれど、私が君のことを愛しているのはそれ以上である」という意味なのかは、「読んだだけでは分からない」のである。

厳密に文法的なことを言うならば、後者の意味になる場合「I love you more than time does」となるのが、英語的には「正確」なのだと思う。でも、英語話者だって、日常の中でいちいちそんなに「正確な喋り方」ばかりはしていない。「それについては私が誰よりも一番知っている」と言いたい場合、「I know about that more than anybody.」と言えばいいのだと辞書には書いてある。だから「私はあなたのことを他の誰が愛するよりも深く愛している」と「私は自分が愛している他の誰にもましてあなたのことを特別に愛している」とは、両方とも「I love you more than anybody.」で「かまわない」のである。どちらの意味なのかをどうしてもハッキリさせたい場合には、「文脈から」判断する以外にない。でも、いくら文脈を読んでも判断できない場合もある。その時はもう、どうしようもない。

それでこの歌の場合はどうだったのかというと、よく分からなかったのである。文脈からおそらく正解だと思われる解釈を導き出せる部分もあるけれど、導き出せない部分もある。だから確定させられなかった部分は、どちらとも読めるようにあいまいに翻訳してあります。これだけのことが言いたかったがために、おそろしい文字数を費やしてしまったな。

この歌は、以前にもそういう歌をいくつか取りあげてきたけれど、ディランの当時の結婚相手だったサラさんに捧げられた歌だと言われており、事実ディランとサラさんの間には三人の子どもがいて、今でもいる。この歌が作られたのは1973年の暮れのことで、それからしばらくディランはこんな歌ばかり作り続けることになるのだけど、何とか4年だけ引っ張った上で結局1977年に2人は離婚している。以上は蛇足。


シュガー ウエディング·ベル

両親の語り伝えるところによるならば、私が一歳ぐらいの時に人生で最初に歌い始めた歌は、テレビから流れるこの曲だったのだという。舌っ足らずな声で「くららってぃあえ!」と叫ぶ私の声の入ったカセットテープが実家のどこかに残っていたはずだったが、その実家は今ではもうない。ではまたいずれ。


=楽曲データ=
Released: 1974.1.17.
Key: C