華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

What's The Buzz もしくはジーザス·クライスト·スーパースター#2 (1970. Tim Rice)

Jesus Christ Superstar


What's The Buzz - Strange Thing Mystifying

  • 自分たちの占領しているユダヤの地を、威圧するように巡回する武装したローマ兵の一群。その足もとに掘られたカタコンベのような地下の隠れ家では、弟子たちがイエスを取り囲んで口角泡を飛ばしている。

What's The Buzz

どういうことになってるんですか?

英語原詞はこちら


[Apostles:]
What's the buzz?
Tell me what's a-happening.
What's the buzz?
Tell me what's a-happening.
What's the buzz?
Tell me what's a-happening.
What's the buzz?
Tell me what's a-happening.
What's the buzz?
Tell me what's a-happening.
What's the buzz?
Tell me what's a-happening.
What's the buzz?
Tell me what's a-happening.
What's the buzz?
Tell me what's a-happening.

[使徒たち]
世の中どういうことになってるんですか?
何が起こってるのか教えてください!
世の中どういうことになってるんですか?
何が起こってるのか教えてください!


[Jesus:]
Why should you want to know?
Don't you mind about the future
Don't you try to think ahead
Save tomorrow for tomorrow;
Think about today instead.

[イエス]
なぜおまえたちは知りたがるのか。
未来のことなど気にするものではない。
先へ先へと考えるのはよせ。
明日のことは明日にとっておけ。
代わりに今日のことを考えるのだ。


[Apostles:]
What's the buzz?
Tell me what's happening.
What's the buzz?
Tell me what's a-happening.

[使徒たち]
世の中どういうことになってるんですか?
何が起こってるのか教えてください!


[Jesus:]
I could give you facts and figures.
Even give you plans and forecasts.
Even tell you where I'm going.

[イエス]
できることならわたしだって
正確で具体的なところを教えてやりたいし
計画や見通しだって示してやりたいし
わたしがどこに
向かおうとしてるかということだって
教えてやりたいと思ってるんだよ。


[Apostles:]
When do we ride into Jerusalem?
When do we ride into Jerusalem?
When do we ride into Jerusalem?
When do we ride into Jerusalem?

[使徒たち]
エルサレム入りはいつになりますか?
エルサレム入りはいつになりますか?


[Jesus:]
Why should you want to know?
Why are you obsessed with fighting
Times and fates you can't defy?
If you knew the path we're riding,
You'd understand it less than I.

[イエス]
なぜおまえたちは知りたがるのか。
なぜおまえたちの頭の中は
さからいようもない時間や運命と
戦うことでいっぱいなのか。
自分たちの歩んでいるのが
どういう道なのか
誰もわたしほどには
わかっているはずもないことだろうに。


[Apostles:]
What's the buzz?
Tell me what's happening.
(Repeat many times)

[使徒たち]
世の中どういうことになってるんですか?
何が起こってるのか教えてください!
(際限なく繰り返す)

  • 女性たちは使徒たちに食べ物を配っている。マグダラのマリア(イヴォンヌ·エリマン)は手にしたタオル(?)でイエスの顔を拭う。

[Mary Magdalene:]
Let me try to cool down your face a bit.
Let me try to cool down your face a bit.
Let me try to cool down your face a bit.
Let me try to cool down your face a bit.
Let me try to cool down your face a bit.

[マグダラのマリア]
熱くなったそのお顔をちょっとでも
涼しくしてさしあげられたら
いいと思うんですけど。
熱くなったそのお顔をちょっとでも
涼しくしてさしあげられたら
いいと思うんですけど。


[Jesus:]
Mary that is good,
While you prattle through your supper,
Where and when and who and how.
She alone has tried to give me
What I need right here and now.

[イエス]
マリア、すまないことだ。
おまえたちが夕食のあいだじゅう
どこでとかいつだとか
誰がとかどうやってとか
くだらないお喋りばかり続けている中で
このマリアひとりがわたしのために
今ここで本当に必要なことを
やろうとしてくれたのだ。


[Apostles:]
What's the buzz?
Tell me what's happening.
What's the buzz?
Tell me what's happening.
What's the buzz?
Tell me what's happening.
What's the buzz?
Tell me what's happening.

[使徒たち]
世の中どういうことになってるんですか?
何が起こってるのか教えてください!
世の中どういうことになってるんですか?
何が起こってるのか教えてください!
……


Jesus Christ Superstar 1973. 今回は10:00〜12:50

=翻訳をめぐって=

当初はこの全訳企画はコメントを一切つけずに原詞と試訳だけのシンプルなスタイルで進めていこうと思っていたのだけれど、学校で教わる範囲内では太刀打ちできないような英語表現が多く出てくるので、やっぱり「翻訳をめぐって」のコーナーも割愛するわけには行かないみたいである。

What's the buzz?

「buzz」は「ハエなどのブンブン言う羽音」のことなので、このフレーズは直訳するなら「ブンブン言ってるのは何ですか?」となる。

そのことの上でこの「buzz」は、最近の言葉で言うなら「バズる」の「バズ」でもある。つまり「バズ」は「賑わっていることの表現」なのである。日本語的な感覚だと、多分ハエがブンブン言ってるようなところには近寄りたいと思わないのがフツーだと思うのだけど、英語話者の感覚だと「自分も寄って行ってブンブン言いたくなる」のである。その「自分の心が騒ぐ感覚」まで含めて「バズ」という言葉はあるのだと思う。

そんなわけで「What's the buzz?」は、「いま話題になっていることは何ですか?」「何か面白いことはないですか?」みたいな感覚で、日常的に使われるフレーズになっているらしい。だからつまるところ「何がバズってるんですか?」と訳しても決して間違いではないのだけれど、この場合イエスの弟子たちは別に「世間の流行」を追い求めているわけではなく、「イエスを担ぎあげてローマ帝国に反旗を翻すこと」を求めているわけで、その文脈で「世の中の動き」を「気にして」いるのである。というわけでこのフレーズは、「世の中どういうことになってるんですか?」というものすごい意訳の仕方をすることになった。

なお、イエスにまつわる物語の前提的な話として、当時イエスに付き従った人々がイエスに対して求めていたことは何をおいても「ローマの支配を覆してユダヤ=イスラエルの独立をかちとること」だったわけであり、その革命こそがその人たちにとっては「神の国が実現される」というイエスの教えの「具体的なイメージ」であったわけだ。けれどもイエスが実現しようとしていたことは、革命は革命だったかもしれないけれどそれとはかなり違ったことであったわけで、その「ズレ」からもたらされる様々な悲劇が、この「ジーザス·クライスト·スーパースター」という戯曲の主題になっていると言っていい。前回は何も「解説」をつけなかったけど、あのユダの「ジーィザアァス!」もその辺のことを「叫んで」いたわけである。

で、それならイエスという人がやろうとしていたことは「何」だったのかと言うと、これは私にも「わからない」としか言いようのない面がある。見方によっては弟子たちが夢想していた「ローマ帝国打倒」なんかと比べ物にならないほど「大きなこと」だったと言えるだろうし、別の面から見れば拍子抜けするぐらい「ささやかなこと」だったとも言えるだろう。たぶん誰もが心の中でそうすべきだと分かっている「みんなが仲良くすること」みたいな漠然としたことを、「本当に」やろうとしたのがイエスという人だったのだろうな、ととりあえず私は感じている。もとよりそんなこと、「一人の力」では実現できるはずがないわけなのだけど。

I could give you facts and figures.

この「could」の使い方はかなり独特で、「できることなら〜したい」という意味になっているようである。(「仮定法過去」の「仮定の部分」を省略した言い方らしい。天ぷらうどんの「台抜き」みたいなものと言うべきか。うむ。たとえばとたとえたものが本筋をいっそうわかりにくくしている。枡野浩一短歌集より)。「できることなら〜したい」ということは「できない」のだ。高校時代の私だったら絶対「かつてはできた」という「canの過去」として訳していただろうな。そして、わけが分からなくなっていたことだろうな。とにかく「could」とか「should」の使われている言い回しは、いちいちややこしい。

ただ、キリスト教世界における伝統的なイエス観に従うならば、彼氏にそれが「できない」はずはないのである。「できるけどやる気がない」のだ。何となれば映画の冒頭のこのシーンの時点で、彼氏には自分が7日後には十字架にかけられて死ぬこと、弟子たちもひどい迫害に遭って、一番熱心なペトロなんかは逆さ磔にされて死ぬこと、等々の未来が最初から全部「見えて」いるし、それを「受け入れて」いるからである。しかし自分はそれを「受け入れて」いても、弟子たちに向かって「おれ、7日後に死ぬねん」ということを「教えた」ところで何になるだろう。だからイエスには「こういう対応」しかとりようがないわけで、それが彼氏の「やる気のなさと見えるもの」の内容をなしている。

…という風にキリスト教文化の中で育ってきた人なら普通、思うのだろうけれど、でも、わからない。実はイエスにも先のことなんて何もわからなくて不安で落ち着かなくて考えるのもイヤになっているだけなのかもしれない。そんな風に伝統的なイエス像を「解体」する目的をもって書かれているのがこの戯曲でもあるわけだから、まあ、いろいろな見方が可能なのだと思う。

When do we ride into Jerusalem?

「エルサレムに乗り込む」イコール弟子たちにとっては「武装蜂起」なのである。でもイエスにとっては「そうではない」のである。

If you knew the path we're riding,
You'd understand it less than I.

直訳すると「もしおまえたちが我々の進んでいる道のことを知っていたならば、おまえたちは私よりはわからないことだろう」…マジかよ、と言いたくなるぐらい「わからない」文字列である。ただ、冒頭の「if」には「though」という意味もあるので、その線で訳し直すなら「もしおまえたちが我々の進んでいる道のことを知っていたとしても、おまえたちは私よりはわからないことだろう」という多少は理解可能なフレーズに変わる。つまりイエスは「おまえたちの中の誰も、自分の進んでいる道のことを、私以上にはわかっていない」ということが言いたいのである。というわけで、そういう言葉で翻訳した。ものすごく、疲れた。

…ところで、変なこと書いていいですか。私、上の文の中の「ものすごく、疲れた」という言葉を書き終えた時、「この場面、夢で見た」と思った。そしてその夢には続きがあって、「あなたの翻訳は、エラそーなこと書いてるけど全然デタラメです」みたいなことをコメント欄に書き込まれてものすごく恥ずかしい思いをする、という内容だったような気がした。ということは上の訳し方は、間違ってるのだろうか。でも私には上の訳し方しか正解に思えない。それでこれから、恥かくことになるのだろうか。何なのだこの居心地の悪い感覚は。とりあえず、ちゃんと解説できる方が読んでらしたら、正解でも不正解でも構いませんので、コメント欄で正確なところを教えて頂けませんでしょうか。このままだと私も読者の皆さんも、落ち着かないことになってしまうと思います。



というわけで次回に続く。何やねんこの終わり方。