華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Then We Are Decided もしくはジーザス·クライスト·スーパースター#4 (1970. Tim Rice)

Jesus Christ Superstar


Then We Are Decided

  • 夜明け前、ランタンを掲げたアンナスが、カヤファの城塞に入ってゆく。カヤファはサドカイ派の大祭司で、当時のローマ領パレスチナにおけるユダヤ人社会の最高権力者。アンナスはそのカヤファの結婚相手の父親であり、かつ前大祭司にあたる人物だったと聖書には書かれているのだが、映画ではどう見てもカヤファより「小物」感の漂う人物として描かれている。

Then We Are Decided

ではこれで決まりだ

英語原詞はこちら


[Caiaphas:]
We've been sitting on the fence for far too long.

[カヤファ]
われわれはもう気が遠くなるほど長い間
宙ぶらりんの状態におちいっている。


[Annas:]
Why let him upset us?
Caiaphas, let him be.
All those imbeciles will see,
He really doesn't matter.

[アンナス]
何であんなやつのために
オタオタさせられなければならない
理由があると言うのだ?カヤファ。
放っておけ。
あいつに付き従っている能なしの連中も
いずれ気がつくことになるだろうさ。
あいつには何もできはしない。


[Caiaphas:]
Jesus is important,
We've let him go his way before.
And while he starts a major war,
We theorize and chatter.

[カヤファ]
ジーザスは無視できない力を持っている。
われわれはあいつに
やりたいことをやらせていた。
それであいつがいよいよ
大戦争を始めたというのに
われわれは理屈やお喋りに
明け暮れているというありさまだ。


[Annas:]
He's just another scripture thumping hack from Galilee.

あんなやつ、
ガリラヤみたいな田舎から出てきて
聖なる言葉を書いてるつもりになってる
三文文士にすぎないではないか。


[Caiaphas:]
The difference is they call him King,
The difference frightens me!
What about the Romans?
When they see King Jesus crowned,
Do you think they'll stand around,
Cheering, and applauding?
What about our people?
If they see we've lost our nerve,
Don't you think that they deserve,
Something more rewarding.

問題は連中があいつのことを
王と呼んでいる点だ。
これは恐るべきことだぞ!
ローマの連中はどう思うだろうか?
ジーザス王が冠を授けられるさまを
ぼさっと見送りながら
喜んで拍手でも送ると思うか?
われわれが治めている民衆はどうだ?
もしわれわれが
取り乱しているさまを見られたら
連中はわれわれのことをあなどって
もっといい待遇を求めるように
なるに決まっていると思わないか?


[Annas:]
They've got what they want,
They think so, anyway.
If he's what they want,
Why take their toy away?
He's a craze!

[アンナス]
自分たちのほしがってたものを手に入れて
連中は満足してるさ。
少なくとも連中自身はそう思ってる。
あの男が連中の
求めていたものだとするなら
わざわざそのオモチャを
取りあげてやる必要がどこにある?
あんなやつ
一時の流行にすぎんよ。


[Caiaphas:]
Put yourself in my place,
I can hardly step aside.
Can not let my hands be tied.
I am law and order.
What about our priesthood?
Don't you see that we could fall?
If we are to last at all,
We can not be divided.

[カヤファ]
おれの立場になってみろ。
おれは身を引くつもりはないからな。
おれのやりたいように
できなくされることなど
まっぴらごめんだ。
おれが法律であり
おれが秩序なのだぞ。
聖職者としての
われわれの立場はどうなる?
それが危うくなっていることが
わからないか?
我々の地位を
約束されたものとするためには
その地位というものは
ひとつでなければならないのだ。


[Annas:]
Then say so to the council,
But don't rely on subtlety.
Frighten them, or they won't see.

[アンナス]
それなら評議会でそう言えばいい。
ただ、デリケートなやり方に
訴えるのはよくないぞ。
評議会の連中に
恐怖を与えてやることだ。
さもなくば連中にはわからない。


[Caiaphas:]
Then we are decided?

[カヤファ]
では、これで決まりだな?


[Annas:]
Then we are decided.

[アンナス]
決まりだ。

  • カヤファの城から出てゆくアンナス。


Jesus Christ Superstar 1973. 今回は14:42〜17:23

=翻訳をめぐって=

  • We've been sitting on the fence for far too long.
    • 「sit on the fence (塀の上に腰かける)」で「どっちつかず/宙ぶらりんの状態にある」という意味の形容詞句になるのだとのこと。
  • Jesus is important,
    • 直訳は「イエスは重要だ」だが、「大切な存在」という意味では明らかにない。「important」には「無視できない」「有力な」という意味もあるとのことなので、そちらで翻訳した。
  • He's just another scripture thumping hack from Galilee.
    • 「scripture thumping hack」でおそらく「一熟語」になっているのだと思う。もちろん辞書には載っていないのだが、「scripture」は「(聖書に出てくるような)聖なる言葉」。「hack」は「売れない物書き」を罵る時に使われる言葉で、「thumping」は「ド素人」という時の「ド」に相当するような強調語らしい。しかし「三文文士」に「聖なる言葉」なんておよそ書けるとは思えないので、不自然に見えないような訳語を組み立てるのはかなり大変だった。
  • The difference is they call him King, The difference frightens me!
    • 直訳は「違いは連中が彼を王と呼んでいることだ。この違いは私を恐怖させる!」…「違い」とは「単なる三文文士」と「そうでない何ものか」との「違い」であるわけだが、直訳しても読みにくくなるだけなので要約した形で翻訳した。われながら細かい注釈だが、一応このブログは開設当初から「中高生が読んでも納得できる内容」を心がけているので、丁寧にやれるところは、やれるだけやっておきたいと思う。
  • He's a craze!
    • 「craze」は「短い期間に起こる爆発的な大流行」。「crazy」という差別表現の語源になっている言葉なのであまりいい言葉だとは思わないが、ここでは差別的な意味において使われているわけではないと思う。イエスを思い切り軽侮する表現ではあるわけだが。
  • I can hardly step aside. Can not let my hands be tied.
    • 前半部は「脇に下がるようなことは私にはできそうにない」。後半部は主語の「I」が省略されていて「自分の手を縛られた状態にさせておくことは私にはできない」。つくづく、直訳しにくい言葉遣いで喋る人たちである。
  • If we are to last at all, We can not be divided.
    • 「もし我々が仮初めにも(at all)続くことを運命づけられている(to last)のであれば、我々は分割されることはできないのだ」。本当に、英語だとフツーなのかもしれないが、何とややこしい喋り方をする人たちなのだろう。この「分割されることはできない(can not be divided)」をどう解釈すべきだろうか。「団結して一枚岩とならなければならない」みたいな読み方も可能だと思うが、おそらくは自分たちの「権力」が「分割」されることへの懸念が吐露されているのだと思われる。イエスが民衆から「王」に祭り上げられたなら、「権力」は「分割」され、自分たちの「力」がそれだけ削がれることになる。だから自分たちの地位は「ひとつでなければならない」ということで上のような訳し方をしたのだが、はてさてネイティブの人たちにはこのフレーズがどんな風に聞こえているのだろうか。
  • Then say so to the council
    • 「council」は「地方議会」や「評議会」、「審議会」といった意味の言葉だが、具体的にはローマ帝国の支配下においても認められていたユダヤ人社会の自治組織としての「評議会」を指しているのだと思う。聖書には「サンヘドリン」という言葉で登場しており、議員は聖職者や律法学者によって構成されていたという。
  • で、とにかくこの二人の密談で何が「決まった」のかといえば、イエスが「消される」ことになる運命が「決まった」わけである。そのことをハッキリさせるために挿入されているシーンなわけだが、この歌が出てくるのは映画だけで、ミュージカルでは省略されているらしい。何やねんそれは。



というわけでまたいずれ。つかえち。