華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Hosanna もしくはジーザス·クライスト·スーパースター#7 (1970. Tim Rice)

Jesus Christ Superstar


Hosanna

  • 群衆の歓呼の声に包まれて、イエスがエルサレムに入城してくる。

Hosanna

英語原詞はこちら


[Crowd:]
Hosanna
Hey Sanna Sanna Sanna Hosanna
Hey Sanna Hosanna
Hey JC, JC won't you smile at me?
Sanna Hosanna
Hey Superstar

[群衆]
ほーざな へい ざな ざな ざな ほーざな
へい ざな ほーざーなー
ねえジェイシー、ジェイシー
私のために笑ってちょーだい
ざな ほーざな へい、スーパースター!


[Caiaphas:]
Tell the rabble to be quiet, we anticipate a riot.
This common crowd, is much too loud.
Tell the mob who sing your song that they are fools and they are wrong.
They are a curse. They should disperse.

[カヤファ]
(城塞の上からイエスに向かって)
群衆に静まれと伝えよ。
暴動のおそれがある。
その平民どもの群れは
あまりにもやかましい。
おまえの歌を歌っている群衆に
自分たちは無知で間違っているのだと
気づかせてやれ。
その者どもは呪いだ。
解散させねばならない。


[Crowd:]
Hosanna
Hey Sanna Sanna Sanna Hosanna
Hey Sanna Hosanna
Hey JC, JC you're alright by me
Sanna Hosanna
Hey Superstar

[群衆]
ほーざな へい ざな ざな ざな ほーざな
へい ざな ほーざーなー
ねえジェイシー、ジェイシー
私がついてるよ!
ざな ほーざな へい、スーパースター!


[Jesus:]
Why waste your breath moaning at the crowd?
Nothing can be done to stop the shouting.
If every tongue were stilled
The noise would still continue.
The rocks and stone themselves would start to sing:

[イエス]
(城塞の上のカヤファに向かって)
なぜひとびとをののしるために
あなたの息を無駄づかいするのか?
叫びは何ものにも止められない。
すべての舌が動きを止めたとしても
響きは止まらずに続くことだろう。
岩や石さえ自ら歌い出すことだろう。


[Crowd and Jesus:]
Hosanna
Hey Sanna Sanna Sanna Hosanna
Hey Sanna Hosanna

[群衆とイエス]
ほーざな へい ざな ざな ざな ほーざな
へい ざな ほーざーなー


[Crowd:]
Hey JC, JC won't you fight for me?
Sanna Hosanna Hey Superstar

[群衆]
ねえジェイシー、ジェイシー
私のために戦ってちょーだい
ざな ほーざな へい、スーパースター!


[Jesus:]
Sing me your songs,
But not for me alone.
Sing out for yourselves,
For you are bless-ed.
There is not one of you
Who can not win the kingdom.
The slow, the suffering,
The quick, the dead.

[イエス]
あなたがたの歌を聞かせてください。
わたしのためだけにではなく
あなたがた自身のために歌うのです。
あなたがたは祝福されています。
神の御国が実現される日を
その目で見ることのできない人は
あなたがたのうちにはひとりもいません。
無力な人も飢えたる人も
生ける人も死にたる人も!


[Crowd and Jesus:]
Hosanna
Hey Sanna Sanna Sanna Hosanna
Hey Sanna Hosanna

[群衆とイエス]
ほーざな へい ざな ざな ざな ほーざな
へい ざな ほーざーなー


[Crowd:]
Hey JC, JC won't you die for me?
Sanna Hosanna Hey Superstar

[群衆]
ねえジェイシー、ジェイシー
私のために死んでちょーだい
ざな ほーざな へい、スーパースター!



歌詞中に出てくる「fool」という言葉は「精神病者」に対する差別表現です。ここでは原文をそのまま転載しました。

  • 不吉な予感を象徴するように、イエスを映した画面の動きが一瞬止まる。


Jesus Christ Superstar 1973. 今回は25:10〜28:00

=翻訳をめぐって=

Hosanna
Hey Sanna Sanna Sanna Hosanna
Hey Sanna Hosanna

Hosanna」という言葉の意味するところは前回触れた通り。元々は「救いたまえ」というフレーズだったのだとしても、「ざなざなほーざな」みたいな「遊び方」まで施されている以上、「らっせーら」や「だーすこだー」みたいなフレーズとほとんど変わらなくなっていると思う。

Hey JC, JC won't you smile at me?

「JC」は「Jesus Christ」のイニシャルで、イエスに対する呼びかけとしては相当に「馴れ馴れしい」言い方である。このロックオペラが保守的なクリスチャンの層から顰蹙を買ったというのは、こういう点が問題になっているのだろうと思う。

「Wouldn't you〜?」「Would you〜?」「Won't you〜?」「Will you〜?」はいずれも「〜してほしい」という意思を相手に伝える「依頼の表現」なのだけど、訳し分けるなら冒頭から順番に「〜して頂けませんか」「〜して頂けますか」「〜してくれませんか」「〜してくれますか」といった感じで、だんだん「丁寧度」が下がっていく。「Won't you〜?」というのは「命令」ではないにしても、かなり「ぞんざいな言い方」であるらしい。そんなわけで「〜してちょーだい」と翻訳することにした。直訳ではないけれど、この映画における群衆とイエスの「距離感」は大体そんな感じになっているように感じられる(←悪文?)

Tell the mob who sing your song that they are fools and they are wrong.

訳していて「引っかかった」のはこの部分だった。直訳すると「あなたの歌を歌っている群衆に彼らはfoolで間違っているということを伝えなさい」となる。「your song=あなたの歌」とは何なのだろう。まさかエルトン·ジョンの歌ではあるまい。

しばらく考えてようやくこのフレーズは「イエスに向かって」口にされているのだということに気がついた。映画ではパッと見た感じ、そのことが分かりにくくなっている。他に「you」という言葉は「神」を指しているように解釈できる幅もあるのだが、その線は薄いと思う。

Why waste your breath moaning at the crowd?

これが「カヤファに向かって」語られている言葉だということも、上のことに思い当たるまでは気がつかなかった。

The rocks and stone themselves would start to sing

このフレーズおよびこの場面描写は新約聖書ルカ19-40の以下の記述が下敷きになっている。

オリブ山の下りあたりまで近づき來り給へば、群れゐる弟子たち皆喜びて、その見しところの能力ある御業につき、聲高らかに神を讃美して言ひ始む、『讃むべきかな、主の名によりて來る王。天には平和、至高き處には榮光あれ』群衆のうちの或パリサイ人ら、イエスに言ふ『師よ、なんぢの弟子たちを禁めよ』答へて言ひ給ふ『われ汝らに告ぐ、此のともがら默さば、石叫ぶべし』

…そのことの上で「rocks」という言葉も「stones」という言葉も両方「ロックンロール」にかかっているのがシブい、みたいなことが海外サイトには書かれていたのだけれど、どうなんだろう。

There is not one of you
Who can not win the kingdom.
The slow, the suffering,
The quick, the dead.

後半2行が分かりにくかった。「The quick, the dead」は古い英語で「生者と死者」という意味であるらしく、「欽定訳」と呼ばれる伝統的な英語の聖書ではこの言葉が使われている。しかし今の英語圏の人にとって「quick」は「速い」という意味でしかないから、やっぱりよく分からずに聞いている人が大勢いるらしい。あと「クイック&デッド」という90年代の映画があったけど、これもそれにちなんでいたのだということを知る人はさらに少ないらしい。私だって「ソッコーで死ぬ」みたいな意味だと思っていた。

でもって「The slow」も「遅い人々」と訳すのは多分まちがいである。出典は見つからなかったのだが、おそらくは「無力な人」みたいな意味なのだと思う。ただし「想像訳」の域を出ないので、正確なところのわかる方がもし読んでいらしたら教えてください。



ではまたいずれ。