華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

I Don't Know How To Love Him もしくはジーザス·クライスト·スーパースター#7 (1970. Tim Rice)

ⅩⅠJesus Christ SuperstarⅩⅡ


I Don't Know How To Love Him

I Don't Know How To Love Him

あのひとへの気持ちをどうしよう

英語原詞はこちら


[Mary Magdalene:]
I don't know how to love him
What to do, how to move him
I've been changed, yes really changed
In these past few days
When I've seen myself
I seem like someone else

[マグダラのマリア]
あのひとのことを好きだけど
どうしたらいいのかわからない
あのひとのことを動かすには
どうしたらいいのだろう
私は変わった
本当に変わった
このたった数日間で
前に見えていた自分とは
違う人間になったみたいだ


I don't know how to take this
I don't see why he moves me
He a man, he's just a man
And I've had so many men before
In very many ways
He's just one more

どう考えたらいいんだろう
どうしてあのひとが
こんなに私の心を動かすのか
私にはわからない。
あのひとは人間だ
本当にただの男だ
そして私は今までに
それこそいろんなやり方で
いろんな男を知ってきたわけだけど
あのひとだって
その中のひとりでしかない


Should I bring him down?
Should I scream and shout?
Should I speak of love?
Let my feelings out?

あのひとを私の高さまで
引きずりおろしてしまえばいいのだろうか
私は叫んだり
わめいたりすればいいのだろうか
私は愛を口にすべきなのだろうか
自分の気持ちを外に出すべきなのだろうか


I never thought I'd come to this
What's it all about?

自分がこんなことになるなんて
思ってもみなかった
これは一体どういうことなんだろう


Don't you think its rather funny
That I should be in this position?
I'm the one who's always been
So calm so cool
No lover's fool
Running every show
He scares me so

私がこんな立場におかれるなんて
笑い話みたいだと思わないかな
私はいつだってずっと
とても落ち着いてとてもクールに
恋に溺れたりなんてすることなく
ショーのステージに立ってきた
そして今あのひとの目を私は
怖いと思っている


I never thought I'd come to this
What's it all about?

自分がこんなことになるなんて
思ってもみなかった
これは一体どういうことなんだろう


Yet, if he said he loved me
I'd be lost, I'd be frightened
I couldn't cope, just couldn't cope
I'd turn my head, I'd back away
I wouldn't want to know
He scares me so
I want him so
I love him so

でももしあのひとが
私を好きだと言ってくれたりしたら
私はきっと崩れてしまう
恐怖に勝てないと思う
とてもうまくやれないだろう
とてもうまくやっていけないだろう
私は背中を向けて
立ち去ってしまうのだと思う
私は知りたいと思わない
あのひとの目を私は
おそろしいと感じ続けるのだろう
そして私はあのひとのことを
求め続けるのだろう
あのひとのことを
愛し続けることになるのだろう


Jesus Christ Superstar 1973. 今回は41:30〜46:15

=翻訳をめぐって=

この歌には「私はイエスがわからない」という邦題がついており、有名なのだけど、その邦題だとこの歌がどういう歌なのかが「わからなく」なってしまうのではないかという感じがする。「私はイエスがわからない」というのは、イエスという人と意見が合わなくなった時とか、イエスという人に対して不信感を抱き始めた時に口にするようなフレーズではないだろうか。実際私自身、歌詞を見るまではそういう歌なのだろうという先入観を持っていた。

「愛し方がわからない」「どう愛したらいいのだろう」といった訳し方も見かけたが、「誤訳」ではないにしてもこれはこれで、誤解を招く訳し方なのではないかと思う。「愛し方がわからない」というのは例えば結婚した相手の親御さんがどうしても好きになれないタイプの人なのだけど、家族の一員として一緒にやって行かねばならない時とか、職場に入ってきた後輩がドジな人で何とか優しく接してあげたいのだけどどうしてもイライラさせられてしまう時とか、そういう時に口にされるフレーズなのではないだろうか。

そんな風にいろいろ考えて作った自分の訳詞が決して「うまい」とは思わないけれど、とにかく「I Don't Know How To Love Him」というフレーズに関しては、その人が相手のことを「好き」であることの上で、愛しているならその相手とどんな風に向き合うのが「正しい」のかという点において答えを見つけられなくて悩んでいるのだ、ということがハッキリ聞き手に伝わるような訳し方にできなければ「失敗」になるのではないかと思う。そしてそういうことが言いたい場合、日本語ではもっと「違う言い方」が選択されるのが普通だったりするのである。つまりは、翻訳というのは、やっぱり難しいものなのだ。そういうところが、やっていて楽しいところでもあるのだけれど。

I don't see why he moves me

直訳は「どうやって彼の(気持ちを)動かせばいいのか分からない」で、「どうやって気を引こう」といったような訳し方を見たことがあるのだが、ちょっとなー、と思う。というのは後段でマリアさんは自分自身がイエスから「動かされた」こと、「変わった」ことを語っている。その「お返し」をしたいというのが、マリアさんの気持ちの中身なのではないかと思うのだ。つまるところマリアさんのイエスに対する気持ちというのは「自分本位な愛情」ではないわけで、だからこそマリアさんは悩まなければならないことになっているわけなのだから、そこが伝わるような訳詞にしないと「ウソ」になると思う。「どうやって気を引こう」というのは完全に「自分本位なアプローチ」だと言えないだろうか。別にそれでもいいのだけど。

Should I bring him down?

「堕落させようか」という訳し方を見たことがあるのだけど、これもあんまりでしょう、と思う。歌の文句になるような言葉ではおよそないし、そもそも好きな人に対して「わざと」そんなことをする人なんて、いないでしょう。相手のことをダマそうとしているのでもない限り。

I'm the one who's always been
So calm so cool
No lover's fool
Running every show
He scares me so

数曲前の記事でも書いたけど、伝説においてマリアさんは「男相手の商売」をしていたということになっている。「run a show」は「ショーを主導する」という意味の熟語で、多分ステージで主役を張るようなことをしていたという設定なのだと思う。それがイエスと出会って、自分のやってきたことに「罪の意識」を感じるようになった、あるいはイエスに対して「恥の意識」を感じるようになった、そういうことが歌われているのだと思われる。

「fool」という言葉は「精神病者」に対する差別表現です。ここでは原文をそのまま転載しました。

I wouldn't want to know
He scares me so
I want him so
I love him so

ここの訳し方はすごく難しかった。「I wouldn't want to know (知りたいとは思わない)」というのは恐らく「イエスの自分に対する気持ち」を「知りたいとは思わない」ということが言われているのだと思う。そのことの上で「自分のイエスに対する気持ち」は「続く」ということが、3回繰り返される「so」という単語に込められているのだと思う。「so」という単語のニュアンスは本当に微妙で、私もネイティブでないから実際の語感はよく分からないのだけど、もしもっと的確に解説できる方が読んでいらっしゃったら、コメントよろしくお願いします。



というわけでまたいずれ。