華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

King Herod's Song もしくはジーザス·クライスト·スーパースター#19 (1970. Tim Rice)

ⅩⅧJesus Christ SuperstarⅩⅩ


King Herod's Song

King Herod's Song

ヘロデ王の歌

英語原詞はこちら


[King Herod:]
Jesus, I am overjoyed to meet you face to face.
You've been getting quite a name all around the place.
Healing cripples, raising from the dead.
And now I understand you're God,
At least, that's what you've said.

[ヘロデ王]
ジーザスそなたと
こうして顔を合わせることができて
私は非常にうれしい。
そなたの名前はこの一帯に
鳴り響いておったからな。
crippleたちを癒したり
死んだ人間を甦らせたり。
そして現在私の理解しているところでは
そなたは神なのだろうな。
少なくともそなたは
自分でそう言っているそうではないか。


So, you are the Christ, you're the great Jesus Christ.
Prove to me that you're divine; change my water into wine.
That's all you need do, then I'll know it's all true.
Come on, King of the Jews.

そなたは救世主というわけだ。
偉大なるジーザス·クライストだ。
その神がかったところを
私に証明してみせてくれたまえ。
この水をワインに変えてみよ。
それだけやってみせてくれたら
そなたのすべてを私は信じよう。
どうだ、ユダヤの王よ。


Jesus, you just won't believe the hit you've made around here.
You are all we talk about, the wonder of the year.
Oh what a pity if it's all a lie.
Still, I'm sure that you can rock the cynics if you tried.

ジーザス、自分がこの近在で
どれくらいのヒットを飛ばしたか
そなたにも信じられないぐらいだろう。
寄ると触るとそなたの話ばかりだ。
今年の奇跡だな。
そのすべてが
ウソだったなんてことになったら
ああそれは何と悲しいことだろう。
そなたがちょっと本気を出せば
そうした皮肉屋どもなど
ぶっとばしてやれるはずだと
私は今でも信じているのだがね。


So, you are the Christ, you're the great Jesus Christ.
Prove to me that you're no fool; walk across my swimming pool.
If you do that for me, then I'll let you go free.
Come on, King of the Jews.

そなたは救世主というわけだ。
偉大なるジーザス·クライストだ。
そなたがfoolでないことを
私に証明してみせてくれたまえ。
この水泳用のプールの上を歩いてみせよ。
それだけやってみせてくれたら
そなたのことを自由にして進ぜよう。
どうだ、ユダヤの王よ。


I only ask what I'd ask any superstar.
What is it that you have got that puts you where you are.
I am waiting, yes I'm a captive fan.
I'm dying to be shown that you are not just any man.

スーパースターなら当然
応えてくれるはずのことを
私はそなたに求めているにすぎない。
そなたが手にし
そなたをその位置に押し上げた
力の正体は何なのだ?
私は待っているのだぞ。
ハッキリ言って私はそなたのとりこだ。
そなたが普通の人間でないことを
示してくれるのを
早く見たくてウズウズしている。


So, if you are the Christ, yes the great Jesus Christ
Feed my household with this bread.
You can do it on your head.
Or has something gone wrong. Jesus, why do you take so long?
Oh come on, King of the Jews.

だからそなたが救世主ならそう
偉大なジーザス·クライストであるならば
このパンを私の王宮の全員を
食わせられるぐらいに増やしてくれ。
自分の責任にかけて
そのぐらいのことはできるだろう。
それとも何か
できない事情でもあるのかジーザス
どうしてこんなに時間がかかるのだ?
おい頼むぞ、ユダヤの王よ。


Hey! Aren't you scared of me Christ?
Mr. Wonderful Christ?
You're a joke. You're not the Lord.
You are nothing but a fraud.

おい、そなたは私が怖くないのか?
クライストよ。
褒め称えられるべき救世主よ。
お前はニセモノだな。
お前は主ではないな。
お前は単なる詐欺師だったんだな。


Take him away.
He's got nothing to say!
Get out you King of the,
Get out King of the,
Oh get out you King of the Jews!
Get out of here!
Get out of here you,
Get out of my life.

この男を連れて行け!
何も言うことはないそうだ!
この王とやらを、王とやらを、
ユダヤの王とやらを連れて行け!
ここから出て行け!
私の人生から出て行け!



歌詞の中に使われている「cripple」という言葉は「身体障害者」に対する差別表現であり、また「fool」という言葉は「精神病者」に対する差別表現です。ここでは原文をそのまま転載しました。


Jesus Christ Superstar 1973. 今回は1:13:15〜1:16:30

=翻訳をめぐって=

…は、特にないのだけれど、何てよくわからないシーンなのだろう。見終わった後、私はアッ気にとられてしまった。あまりにもシュールで場違いで、不気味な感じがしてくるぐらいである。て言っか、どうして「ラグタイム」なのだろう。「私のことが怖くないのか」とかヘロデ·アンティパスは絶叫してるけど、じっさい怖くないし。ラグタイムでは。

この「私のことが怖くないのか」自体、本気でそう言っているのかよく分からないあたりが、不気味に感じる。というのは、彼は一応本物の「ユダヤの王」であるにも関わらず、イエスがそう名乗っているもしくはそう呼ばれているという事実を知っていることの上で、全然それを「怒って」いる気配が感じられないからである。つまりこの映画におけるヘロデは単なる快楽主義者であるというわけでもなく、その自分の快楽を保証してくれる社会的地位そのものをも心からどうでもいいと思っている、筋金入りのニヒリストだということになる。それがこんな風に「楽しげな歌」を歌って見せているということ自体が、そもそもの不気味さの所以なのかもしれない。

しかし、そういう人物が口にする言葉として、最後の「Get out of my life! (私の人生から消えてなくなれ!)」だけは、えらく生々しいのである。この部分のヘロデのイエスに対する「怒り」だけは、おそらく「本物」なのだと思う。何がそんなに彼氏の琴線に触れたのかといえば、イエスと向き合うことを通して鏡を見るように「自分自身の本当の姿」を見せつけられた気がしたからではないのか、といった印象を受ける。知らんのやけど。

何しろ、このシーンのイエスは一言も口をきかない。ヘロデへの軽蔑を表現するために黙っているというのでもなければ、権力者との闘いの一貫として黙っているというのでもない感じである。とにかく「言うべきことが何もない」から黙っているのだなという印象しか伝わってこないわけで、だったら映画の中でのこのシーンが果たしてどういう意味を持っているのかということが、なおさら不気味に思えてくる。

イエスの伝記と言うべき新約聖書の四福音書の中で、ヘロデ王がイエスの裁判に関係してくるエピソードが収録されているのは、「ルカによる福音書」だけである。むしろ割愛した方が話がスッキリするような場面なのに、この映画/ミュージカルではそれが「わざわざ」時間を割いて、取りあげられている。しかもこんなにわけのわからない形でである。どうしても「ラグタイム」がやりたかったというわけでもないだろうに、作った人たちのこのシーンに対する執着の中身というのは、何なのだろう。いずれにしてもそんな風にこのシーンの全体に漂っている不気味さまでもが「狙って」醸し出されたものであるならば、それはそれでやはり大したものだと思う。



…何だか、よく分からない文章を書いてしまった。ではまたいずれ。