華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Trial Before Pilate もしくはジーザス·クライスト·スーパースター#22 (1970. Tim Rice)

ⅩⅩⅠJesus Christ SuperstarⅩⅩⅢ


Trial Before Pilate

Trial Before Pilate

ピラトの前での裁判

英語原詞はこちら


Pilate:
And so the king is once again my guest.
And why is this? Was Herod unimpressed?

[ピラト]
それでまたそのユダヤの王とやらは
私の客になったわけか。
それにしてもどういうことだ?
ヘロデは何も感じなかったのか?


Caiaphas:
We turn to Rome to sentence Nazareth.
We have no law to put a man to death.
We need him crucified.
It's all you have to do.
We need him crucified.
It's all you have to do.

[カヤファ]
ナザレ人への死刑宣告は
ローマ帝国の手にお委ねします。
我々にはその男に死を与えることのできる
法律がないのです。
我々はその男を
磔にしてもらわねばなりません。
あなたに他に選択肢はない。
我々はその男を
磔にしてもらわねばなりません。
あなたに他に選択肢はない。


Pilate:
Talk to me Jesus Christ.
You have been brought here
Manacled, beaten by your own people.
Do you have the first idea why you deserve it?
Listen King of the Jews,
Where is your kingdom?
Look at me. Am I a Jew?

[ピラト]
ジーザス·クライストよ。
私に話してみよ。
そなたは手枷足枷をされ
自分の同胞たちからひどく殴られて
ここに連れてこられた。
なぜ自分がそのような目にあうのか
心当たりはあるのか?
聞け、ユダヤ人の王とやらよ。
おまえの王国はどこにあるのか?
私の顔を見ろ。
私はユダヤ人ではないぞ。


Jesus:
I have no kingdom in this world.
I'm through.
There may be a kingdom for me somewhere.
If I only knew.

[イエス]
この地上にわたしの王国はない。
わたしのやるべきことは終わった。
いつかどこかに
わたしのための王国が
築かれることだろう。
わたしに言えることがあるとすれば
それだけだ。


Pilate:
Then you are a king?

[ピラト]
それではそなたは王だと申すのか?


Jesus:
It's you that say I am.
I look for truth and find that I get damned.

[イエス]
わたしのことをそう言っているのは
あなただ。
わたしは真実を追い求め
そして自らが呪われていることを知った。


Pilate:
But what is truth?
Is truth a changing law?
We both have truths.
Are mine the same as yours?

[ピラト]
だが真実とは何だ?
真実が法を変えるとでも申すのか?
そなたの側に真実があるというのなら
私の側にも真実がある。
私の真実はそなたの真実と
同じ真実なのか?


Crowd:
Crucify him! Crucify him!

[群衆]
そいつを十字架にかけろ!
そいつを十字架にかけろ!


Pilate:
What do you mean?
You'd crucify your king?

[ピラト]
どういうことだ?
そなたらは自分たちの王を
十字架にかけると申すか?


Crowd:
We have no king but Caesar!

[群衆]
ローマの皇帝の他に
我々に王はありません!


Pilate:
He's done no wrong.
No, not the slightest thing.

[ピラト]
この男は
何も間違ったことをしていないぞ。
していない。
どんなささいなことをさえもだ。


Crowd:
We have no king but Caesar!
Crucify him!

[群衆]
ローマの皇帝の他に
我々に王はありません!
その男を十字架にかけてください!


Pilate:
Well, is this new, respect for Caesar?
'Till now this has been noticeably lacking.
Who is this Jesus? Why is he different?
You Judes choose Messiahs by the sackfull.

[ピラト]
うむ、初耳だな。
わが皇帝を敬うと?
そんな言葉は今まで
聞いたこともなかったぞ。
このジーザスというのは何者だ?
この男のどこが
他の人間と違っていると申すのか?
そなたらユダヤ人は自分たちの救世主を
ひと山いくらで選んでいるではないか。


Crowd:
We need him crucified,
It's all you have to do.
We need him crucified,
It's all you have to do.

[群衆]
我々はその男を
磔にしてもらわねばなりません。
あなたに他に選択肢はない。


Pilate:
Talk to me, Jesus Christ.
Look at your Jesus Christ.
I'll agree he's mad.
Ought to be locked up,
But that is not a reason to destroy him.
He's a sad little man.
Not a King or God.
Not a thief,
I need a crime!

[ピラト]
私に言うのだ。
ジーザス·クライストよ。
そなたらのジーザス·クライストを
見るがいい。
この男は確かにmadだ。
閉じ込めておくことが必要だろう。
だがそれはこの男のことを
傷つけていい理由にはならない。
この男はただの悲しい男にすぎない。
王でもなければ神でもない。
盗人でもないのだぞ。
罪がなければ罰せないではないか。


Crowd:
Crucify him! Crucify him!

[群衆]
そいつを十字架にかけろ!
そいつを十字架にかけろ!


Pilate:
Behold a man,
Behold your shattered King.

[ピラト]
この男のことを見てみよ。
痛々しいそなたらの王のことを見てみよ。


Crowd:
We have no King but Caesar.

[群衆]
ローマの皇帝の他に
我々に王はありません!


Pilate:
You hypocrites,
You hate us more than him.

[ピラト]
偽善者どもめ。
そなたらはその男のことより
我々のことをよっぽど
憎んでいるではないか。


Crowd:
We have no King but Caesar,
Crucify him!

[群衆]
ローマの皇帝の他に
我々に王はありません!
その男を十字架にかけてください!


Pilate:
I see no reason. I find no evil.
This man is harmless, so why does he upset you?
He's just misguided, thinks he's important,
But to keep you vultures happy I shall flog him.

[ピラト]
どんな理由があるというのだ。
私には何も邪悪なところは見つからない。
この男は人畜無害だ。
なぜそう大騒ぎをする必要があるのだ?
この男は間違ってここに来たのだ。
自分のことを重要な人間だと勘違いして。
だがそれでそなたらハゲタカどもが
幸せだと申すなら
私はこの男のことを
鞭打ってやろうではないか。


Crowd:
Crucify him! Crucify him!
Crowd:
Crucify him! Crucify him!

[群衆]
そいつを十字架にかけろ!
そいつを十字架にかけろ!

  • イエスの39回の鞭打ちが始まる。ピラトはその数を数える。

Pilate:
One. Two. Three. Four.
Five. Six. Seven. Eight.
Nine. Ten. Eleven. Twelve.
Thirteen. Fourteen. Fifteen. Sixteen.
Seventeen. Eighteen. Nineteen. Twenty.
Twenty-one. Twenty-two. Twenty-three. Twenty-four.
Twenty-five. Twenty-six. Twenty-seven. Twenty-eight.
Twenty-nine. Thirty. Thirty-one. Thirty-two.
Thirty-three. Thirty-four. Thirty-five. Thirty-six.
Thirty-seven. Thirty-eight...
Thirty-nine!

  • ピラト、イエスを抱きかかえる。

Where are you from Jesus?
What do you want Jesus?
Tell me.
You've got to be careful.
You could be dead soon,
Could well be.

そなたはどこから来たのだジーザスよ?
何がそなたの望みなのかジーザスよ?
教えてくれ。
気をつけて答えるのだぞ。
そなたはすぐに死んでしまうことになる。
すぐにだ。


Why do you not speak when
I hold your life in my hands?
How can you stay quiet?
I don't believe you understand.

そなたの命は
この私の手の中にあるというのに
どうして何も言おうとしないのか?
どうして何も言わずにいられるのか?
そのことが何を意味するか
そなたにわかっているとは
私には思えない。


Jesus:
You have nothing in your hands.
Any power you have, comes to you from far beyond.
Everything is fixed, and you can't change it.

[イエス]
あなたの手の中には何もない。
あなたの持っている力は
遥か遠いところからもたらされたものだ。
すべては組み立てられており
あなたにそれを変えることはできない。


Pilate:
You're a fool Jesus Christ.
How can I help you?

[ピラト]
お前はfoolだ、ジーザス·クライストよ。
どうしたらお前のことを
助けてやれるというのか?


Crowd:
Pilate, crucify him, crucify!
Remember Caesar.
You have a duty
To keep the peace, so crucify him!
Remember Caesar.
You'll be demoted.
You'll be deported. Crucify him!

[群衆]
ピラトさま
そいつを十字架にかけて下さい!
皇帝陛下のことを
忘れてはいませんよね。
あなたには義務があるのですよ。
平和を守らねばならないという。
だからそいつを十字架にかけて下さい!
皇帝陛下のことを
忘れてはいませんよね。
あなた、左遷されることになりますよ。
よそに飛ばされることになりますよ。
そいつを十字架にかけて下さい!


Remember Caesar.
You have a duty
To keep the peace, so crucify him!
Remember Caesar.
You'll be demoted.
You'll be deported. Crucify him!

皇帝陛下のことを
忘れてはいませんよね。
あなたには義務があるのですよ。
平和を守らねばならないという。
だからそいつを十字架にかけて下さい!
皇帝陛下のことを
忘れてはいませんよね。
あなた、左遷されることになりますよ。
よそに飛ばされることになりますよ。
そいつを十字架にかけて下さい!


Remember Caesar.
You have a duty
To keep the peace, so crucify him!
Remember Caesar.
You'll be demoted.
You'll be deported. Crucify him!

皇帝陛下のことを
忘れてはいませんよね。
あなたには義務があるのですよ。
平和を守らねばならないという。
だからそいつを十字架にかけて下さい!
皇帝陛下のことを
忘れてはいませんよね。
あなた、左遷されることになりますよ。
よそに飛ばされることになりますよ。
そいつを十字架にかけて下さい!


Pilate:
Don't let me stop your great self-destruction.
Die if you want to, you misguided martyr.
I wash my hands of your demolition.
Die if you want to you innocent puppet!

[ピラト]
お前の偉大な自己破壊行為は
止めようとしても仕方がない。
死にたいなら死ぬがいい。
見当違いの殉教者よ。
私は自分の手を洗わせてもらおう。
お前の破滅と私は関係ない。
死にたいなら死ぬがいい。
罪なき操り人形よ!



「mad」「fool」という言葉は「精神病者」に対する差別表現です。ここでは原文をそのまま転載しました。


Jesus Christ Superstar 1973. 今回は1:24:40〜1:31:20

=翻訳をめぐって=

イエスへの鞭打ちの回数がどうして「39回」だったのかというと、旧約聖書「申命記」25章の以下の記述が根拠になっているらしい。

人々の中に争いがあり、どちらかが裁判でむち打ちの刑と決まったら、裁判官は自分の前に罪人を伏させ、罪の程度に応じて、適当な回数だけ打ちなさい。ただし最高は四十回で、それ以上は絶対に打ってはいけません。あまりにきびしい刑を科して、同胞が不当に扱われないためです。

もとよりこれは「ユダヤ人社会の律法」であり、ローマ人であるピラトがそれに従わねばならない理由はないはずなのだが、いずれにしてもこの時のイエスの鞭打ちは「39回」だったと後世も広く信じられている。そしてキリスト教社会においてはこの「故事」に従って、「言うことを聞かない子どもは39回までなら鞭で叩いて構わない」としている家庭が今でも相当数あるらしい。最近のニュースにおいて、この「39回」を何セットも何セットも繰り返した上で子どもを死に追いやったアメリカの児童虐待のケースを知り、背筋が寒くなった記憶がある。

そのことの上でこのシーンに関して言うならば、ローマ人のピラトによってイエスへの鞭打ちが39回にとどめられているのは、イエスを殺さないための「配慮」だったということがわかる。39回鞭打たれた者をそれ以上罰してはならないというのはユダヤ人社会の掟でもある。その「常識」に訴えて、見せしめとしての鞭打ちだけでイエスへの処分を済ませ、何とか死なせないようにしたいというのがピラトの思惑だったのだろう。しかし群衆はそれでは納得しなかったし、またイエスもピラトの手で救われようとはしなかったのである。

…というのはしかし飽くまでもこの映画のこのシーンの解釈であって、実際のところがどうだったのかは私は知らない。

Listen King of the Jews,
Where is your kingdom?
Look at me. Am I a Jew?

このピラトの言葉の最後のフレーズの直訳は「私はユダヤ人か?」なのだが、言外には「私はお前のことを殺そうとしているユダヤ人たちと同じ人間ではない」という含みがあるのだと思われる。それで「私はユダヤ人ではないぞ」と訳した。

I have no kingdom in this world.
I'm through.
There may be a kingdom for me somewhere.
If I only knew.

「If I only knew」というイエスのこの言葉を上では「私に言えることがあるとすればそれだけだ」と訳したが、「私にそれを自分の目で見ることができたなら」みたいに訳せる幅もあるかもしれない。言葉は何でもそうだが、とりわけ聖書においてはこうした微妙な言い回しにものすごく重大な意味が込められていたりするので、翻訳がすごく難しい。

You Judes choose Messiahs by the sackful

「by the sackful」という表現は辞書にも見当たらなかったのだが、この文章を直訳すると「お前たちユダヤ人は袋いっぱいを一単位として救世主を選ぶ」みたいな感じになる。「ひと山いくらで」という日本語表現があるのにかこつけてその言い方で翻訳したが、実際にこのフレーズでピラトがどういうことを言おうとしているのかは、私の英語力では正確には分からない。



マジックハンド。ではまたいずれ。