華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Superstar もしくはグルーピーベイビー (1971. The Carpenters)


Superstar

Superstar

英語原詞はこちら


Long ago, and, oh, so far away
I fell in love with you before the second show
Your guitar, it sounds so sweet and clear
But you're not really here, it's just the radio

遠い昔
本当に遠く思える
私はあなたと恋に落ちた
一度その姿を見るだけで充分だった
あなたのギターは
とてもやさしくてクッキリしていて
でもあなたはもうここにはいない
今ではそれをラジオで聞くだけ


Don't you remember, you told me you loved me baby?
You said you'd be coming back this way again baby
Baby, baby, baby, baby, oh baby
I love you, I really do

愛してるって言ってくれたことを
覚えてないんですかベイビー
またここに戻ってくるって
言ってくれたじゃないですかベイビー
ベイビーベイビーベイビーベイビー
ああベイビー
私はあなたを愛しています
本当に愛しています


Loneliness is such a sad affair
And I can hardly wait to be with you again
What to say to make you come again?
Come back to me again and play your sad guitar

さびしいということは
とても悲しいことです
そして私はもう一度あなたが
ここに来てくれることを
とても待っていられそうにありません
どう言ったらあなたは
また戻ってきてくれるのでしょうか
私のもとに帰ってきてください
そしてあの悲しいギターを
聞かせてください


Don't you remember, you told me you loved me baby?
You said you'd be coming back this way again baby
Baby, baby, baby, baby, oh baby
I love you, I really do

愛してるって言ってくれたことを
覚えてないんですかベイビー
またここに戻ってくるって
言ってくれたじゃないですかベイビー
ベイビーベイビーベイビーベイビー
ああベイビー
私はあなたを愛しています
本当に愛しています


Don't you remember, you told me you loved me baby?
You said you'd be coming back this way again baby
Baby, baby, baby, baby, oh baby
I love you, I really do

=翻訳をめぐって=

24回にもわたって「スーパースター」の特集を続けてきたもので、おまけと言っては何だけど、この有名な「スーパースター」についても取りあげておくことにしたい。上の画像は日本で発売されたシングルレコードのジャケットらしいのだが、70年代だなあ。もう少しふさわしい字体は思いつかなかったのだろうかと、どうしても思ってしまう。

私はこの歌を長いこと、「ラジオから流れてくるミュージシャンの歌声に恋してしまった女の子」の歌なのだと思っていた。そのミュージシャンが彼女のことを「愛してると言ってくれた」のは「歌の文句としてそういう言葉を聞かせてくれた」ということで、実際にはこの女の子はそのスーパースターとは会ったこともないのだろう、といったような印象を受け取っていた。けれども歌詞をちゃんと読んでみると、彼女は少なくとも一回は彼氏のことを「ナマで見ている」ようである。だから「愛してるって言ってくれたじゃない」というのは、「実際にそういう関係まで行った」という可能性まで、含まれた歌詞であるわけだ。しかしながらとりあえずこのカーペンターズのバージョンでは、そのあたりの具体的なことは上手にボカされた歌詞になっている。彼氏が「愛してるって言ってくれた」のは事実としてなのかそれとも彼女の空想世界のお話なのか、解釈は聞き手に委ねられているのがこの歌の風景なのだと思う。

以下、カーペンターズの歌詞に即して具体的なところを検証してゆきたい。

I fell in love with you before the second show

ほとんどのサイトではこの部分が「二回目のショーが始まる前に私は恋に落ちた」と訳されており、私も無難にそう訳そうかと思ったのだが、どうもよく分からない。「セカンド·ショー」って、何なのだろうか。調べてみるとインドでは「映画館で上映される夜の部のプログラム」のことを「セカンド·ショー」と呼ぶらしいが、他のところでは特にそうした用例は見つからない。ひとつのショーを前半と後半に分けてその後半を「セカンド·ショー」と呼ぶとか、そういうことでもないらしい。

となると考えられるのは、「彼女は彼氏のショーを既に一度どこかで見ていることの上で、二回目に見るのがセカンド·ショー」だということである。だから「二回見るまでもなく、一回見るだけで好きになった」という文脈で翻訳した方が、この場合は正確なのではないだろうか。ふつう人が誰かを好きになるのは、その人のことを「見た後」のことである。「見る前」に恋に落ちたと言われても、わけがわからない。

「show」というのは「姿を見せること」という意味の一般名詞でもある。必ずしも芸能的な演し物としての「ショー」のことを指しているわけでも、ないのかもしれない。むろんスーパースターには「ショー」が付き物なわけであるから、その「ショー」の意味で解釈しても何も誤解にはならないと思うのだけど、とにかくこの歌詞が言っているのは「二回も見るまでもなく、一目で彼女は彼氏のことが好きになった」ということなのだ。だから、上のような訳し方に落ち着いた。手こずらせてくれやがる。好きだぜ。

Your guitar, it sounds so sweet and clear

漠然とした印象として、この女の子が恋したスーパースターというのは「シンガーソングライター」なのだろうと私は思っていた。だから自分でギターも弾くし、「愛してるよ」みたいな歌詞の入った歌声を聞かせてくれたりもするわけだ。ただし歌詞をよく読んでみると「彼氏の演奏」についての描写は「ギターを弾いている姿」だけであり、「歌っている姿」の描写はどこにもない。

ということは彼女が恋した相手は「シンガー」ではなく、複数のメンバーで構成されたバンドの「ギタリスト」なのかもしれない。ボーカリストでなくギタリストに惚れるというのは聞き手としてかなりシブい部類に入るファンの人だと思うが、そう思って聞いた方が作詞した人のイメージには近いのかもしれない。偏見かもしれないけど、「スーパースター」という言葉と「シンガーソングライター」のイメージは、どうも相性が悪いように思われる。

Loneliness is such a sad affair

「affair」は歌の文句の中では「浮気」「情事」といった意味で使われることの多い言葉だが、一般的には「ことがら/件/問題」みたいな意味で使われる言葉なのだという。だからこのフレーズは極めて単純に「さびしいということは悲しいことです」という解釈でいいのだと思う。「孤独は悲しい情事です」みたいな訳し方もできるけど、ねえ。そんなん言われたかて、わけわからへんですもん。

…歌い手の女の子と「スーパースター」との具体的な関係を想像させてくれるよすがとなるような歌詞は、大体上に見た通りなのだが、総じてこのカーペンターズのバージョンではそれが極めてアンニュイな感じで歌われている。彼女は彼氏のことを「少なくとも一回はナマで見ている」らしいと上には書いたが、「show」という言葉を「姿を見せること一般」で解釈するなら、「レコードジャケットで写真を見ただけ」だったという可能性もないではない。そして彼女にとってそのスーパースターは「具体的な恋人」と言うよりは「二度と帰らない青春の日々の象徴」みたいな存在になっており、それへの追憶が歌われている歌なのだ、という風に解釈する幅も、アリだと思う。そう思って聞く分には、この歌は「イエスタデイ·ワンス·モア」の別バージョンみたいな歌だと考えることも可能だろう。

ただし、作られた当初のこの歌はもっと「具体的で生々しい歌」だったのだということを、今回この記事を書くために調べてみて、初めて私は知ることになった。


Groupie (Delaney & Bonnie)

この歌は元々レオン·ラッセルがデラニー&ボニーという夫婦デュオのボニーさんの方と共作した曲だったのだそうで、デラニー&ボニーの曲として発表された時のタイトルは「グルーピー」だったのだという。(「Delaney & Bonnie」の「Delaney」は「デラニー」ではなく「ディレイニー」らしいが、ここでは日本のレコード会社の表記に従っております)。歌の中の彼女はスーパースターの「ファン一般」ではなく「グルーピー(追っかけ)」だったのだ。そういう事実をタイトルで教えてもらえるのともらえないのとでは、この歌の聞こえ方はずいぶん違ってくる。

「追っかけ」だったという以上、この女の子とそのスーパースターの距離感というのは初めは本当に「近い」ものだったのだ。恐らくは相手が地元のライブハウスで演奏していたような時代からの親密なファンだったのだと思うし、相手(のバンド)が地元にいた間はそれこそ一緒に遊んだり飲みに行ったり、本当に一緒に夜を共にしたりと、凝縮された時間を過ごしていたのだろう。けれどもその相手は今では本当に「スーパースター」になってしまい、ラジオからその演奏が聞かれない日はないぐらいであるものの、自分には手が届かない存在になってしまった。そういう立場に置かれた「地元の元彼女」の視点から歌われていたのが、この歌だったのだ。そう思って聞くなら、「帰ってきてくれるって言ったじゃない」という叫びで四行のうち三行までが埋め尽くされている二番の歌詞は、とてもリアルである。

カーペンターズの歌詞の「I can hardly wait to be with you again」という部分は、オリジナルの歌詞では「And I can hardly wait to sleep with you again」になっていたのだという。「もう一度あなたと一緒になれる日」ではなく「もう一度あなたと一緒に眠ることのできる日」をもう待つことができない、という歌詞だったのだから、彼女と彼氏が「できていた」ということはもはや誤解のしようがない。「あなたの歌と一緒に眠れたら」みたいな文脈でも読めなくはないが、それならレコードでもかければいいのである。別に具体的な彼氏の帰りを待つ必要はない。そのあたりを「フワッとさせる」ために、恐らくリチャード·カーペンターは歌詞を書き換えたのだと思う。それはカーペンターズ的には「正解」だったのだと思うけど、でもオリジナルのバージョンのザラザラした手触りみたいなものを知ってみると、こちらはこちらで捨てたものではないと感じる。


Superstar (Sonic Youth)

むかしテレビで見た時にはギャグにしか思えなかったソニック·ユースのバージョン。でもこれはこれでけっこう売れたらしい。今回サブタイトルにした「グルーピーベイビー」はゴーバンズにそういう曲名があったのを思い出して引っ張り出して来たのだけれど、動画は見つからなかった。ではまたいずれ。


=楽曲データ=
Written by Bonnie Bramlett and Leon Russell.
Originally released by Delaney & Bonnie in 1969.
Released: 1971.8.21.
Key: A♭

グルーピーベイビー

グルーピーベイビー