華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Jamaican Bobsled Song もしくはクール·ランニングのテーマ (1993. Worl-A-Girl)


Bobsled Chant

Jamaican Bobsled Song

英語原詞はこちら


Nuff people say they know they can’t believe
Jamaica we have a bobsled team (Repeat once)

うんざりするほどたくさんの人が
話には聞いたけど
信じられないって言ってるよ。
このジャマイカに
ボブスレーチームがあるなんて。


We have the one Derice
And the one Jr
Yule Brenner
And the man Sanka

ひとりはデリス
ひとりはジュニア
ユル·ブレナー
それにやってくれる男サンカ


The fastest of the fastest of Jamaican sprinters
Go to olympics
Fight for Jamaica
(repeat everything except for that last part)
The fastest of the fastest of Jamaican sprinters
Respect to the man Irv Blitser.

ジャマイカで一番速い
スプリンターたちの中でも
そのまた一番速いやつら
オリンピックに行くんだぜ
ジャマイカのために戦うんだぜ
オトコの中のオトコ
アーヴ·ブリッツアーにリスペクト!

=翻訳をめぐって=

前回の「I Can See Clearly Now」が1993年の映画「クール·ランニング」の主題歌だったことから、映画自体のことについても振り返っておきたい気持ちにとらわれた。1988年のカルガリー冬季オリンピックに「南国」ジャマイカから初めてボブスレーのチームが出場した実話のエピソードをもとに作られたディズニーの実写映画で、今にして思えばこの映画との出会いが私とジャマイカという国との最初の出会いを形成していたことになる。

「WORL-A-GIRL」という女性ボーカルグループが歌っていたこのエンディング曲には、動画を見てもらえば分かる通りもっと「いろんなこと」が歌われているはずなのだけど、ネットを検索して確認することができた歌詞は、上記の部分だけだった。曲名は「ジャマイカン·ボブスレー·ソング」もしくは「ボブスレー·チャント」と呼ばれているらしい。歌詞の中に最初に出てくる4人の人名は、映画の中でのボブスレーチームのメンバー名(架空の)である。最後に出てくるサンカという人が私が生まれて初めて見た「ラスタの人」で、オリンピックの試合のシーンではこの人を先頭にサウンドシステムを積んだ軽トラックで選手団が入場してくる場面があり、子ども心にもなかなかに、かっこよかった。その時にメンバー全員が声を揃えて歌っていた歌が、この歌だったのだった。

原曲はジャマイカを舞台にした映画らしく「速めのレゲエ」といった感じの曲調なのだけど、妙に記憶に残っているのは吹き替え版で歌われていたこの歌が、メロディはそのままであるにも関わらず

し、ん、じ、られ、ない、かも、ねっ!
っジャマイっカ、うまれっの、
ボブ、スレー、チーム!

という極めて「日本的なリズムを持った歌」に変わっていたことだった。むかし井上ひさしが日本語についてのエッセイの中で、野球場などで大勢の観客の野次の中から自然発生的に「ひとつのシュプレヒコール」が生まれてくる時、そのフレーズが

たお、せっ!たお、せっ!エーガーワ!
ひっ、こめ!ひっ、こめ!エーガーワ!

みたいに必ず「7拍子」になるのにはどういう理由があるのだろう、といった趣旨のことを書いていたことがあって、着眼点の鋭さにウナった記憶があるのだが、それと同じことがこの映画の中でも起こっていたわけである。(もっとも音楽理論的には「7拍子」ではなく、「7拍+4分休符」の「フツーの4/4拍子」ということになるのかもしれないが、専門的なことは私にはよく分からない。そもそも6/8拍子はなぜ3/4拍子に「約分」できないのかとか、そういう次元のことからしてよく分からない)。この「日本語の持つリズムの問題」というのは探ってゆけば実に面白い話になりそうなのは間違いないのだけど、考えたって簡単に答えが出る話ではないと思うので、今回は「世の中にはそういう不思議な話があります」という問題提起だけにとどめておくことにしたい。

歌詞の最後に出てくるアーヴ·ブリッツアーというのは、映画の中でジャマイカの4人組をオリンピックに連れて行ったアメリカ人コーチの名前なのだけど、この人の役を演じていたのはジョン·キャンディというカナダ人の俳優で、「ブルース·ブラザーズ」に登場した「オレンジ·ホイップ」の警察官を演じていたのと同じ人だったということ、ならびに同氏はこの映画「クール·ランニング」が公開されて間もない1994年に故人になられていたことなどを、今回調べてみて初めて知ることになった。長いことブログをやっていると、つくづくいろんなつながりが見えてくるものだと思う。



ちなみに、子どもの頃はこういう映画を喜んでみていた私ではあるわけだけど、今ではオリンピックもディズニーも大嫌いであるということは、付記しておきたい。深刻な経済危機が続くブラジルで、文字通り有産階級のためだけの「空騒ぎ」として開催された2016年のリオ五輪の際には、施設建設と環境整備のためと称して7万人を越える人々が住む場所を奪われ、さらに「オリンピックに向けた治安維持」という名目のもとで600人を越える市民が警察に殺された。これに対して何万人もが参加する「オリンピック反対デモ」が大会期間中も連日開催され、また機動隊が「人間の壁」を作ったその内側で優雅に執り行われる聖火リレーに対しては、行く先々で沿道から水や消火器がぶっかけられたという。私はそれを痛快な話だと思ったが、当然のごとくそうした実態は一切テレビには放映されず、映し出されるのはひたすら「華やかで平和な」オリンピック会場とその周辺の様子ばかりだった。つまりは「ウソばっかり」なのだ。その人間たちの手によって来年この日本の東京で繰り広げられようとしているのが「それと全く同じこと」であることは、言をまたない。






人間を本当に感動させたり勇気づけたりすることのできる「力」を持っているのは、あえて言うならカネと権力を持った人間たちに娯楽を提供するために競争させられているにすぎないところのアスリートたちの姿などではなく、この写真のように不正を許せないという人間的な感性を持った人たちが、強大な権力に対して傷つくことを恐れずに真っ向から「戦い」を挑みかかるその姿に他ならないと私は思う。一番いいのはこの島国で最も腐敗した人間たちの手によって準備されている東京オリンピックなるものを、それを告発する戦いを世界に向けて「発信」する絶好の機会へと私たち自身の手で「変えて」ゆくことだろう。微力ながらこのブログも、その一助になることができればと考えている。ではまたいずれ。






=楽曲データ=
Released: 1993.10.1.
Key: C