華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Midnight Special もしくはネリカンブルース (20c? American Folk Song)


Midnight Special (C.C.R.)

私がこの歌を初めて聞いたのは上に貼りつけたC.C.R.のバージョンを通じてだったのだが、C.C.R.の楽曲というのはとかく歌詞が謎めいていて、分かりにくいものが多いのである。有名な「雨を見たかい」や「プラウド·メアリー」をはじめ、このブログで自前の解読作業に取り組むまでは何のことを歌っているのかさっぱり分からなかった曲が少なくないのだけれど、「ミッドナイト·スペシャル」もご多分に漏れず、私にとってはずっと謎に包まれた曲だった。タイトルの「ミッドナイト·スペシャル」そのものが、何を意味しているのか全然わからなかったのだ。

「ミッドナイト·スペシャル」 とは何なのだろうか。テレビの特番の名前みたいにも思えるし、カクテルか何かの名前のようにも思える。プロレスの技の名前みたいでもあるし、ある種のえろいサービスの名前みたいな雰囲気も漂わせている。「Let」という英単語の使い方がよく分かっていなかった10代の頃は、この歌のコーラス部分を「ミッドナイト·スペシャルをやろうぜ」みたいなことを歌っているのだろうという感じで聞いていたのだけれど、「Let the midnight special shine a light on me.」を文法に忠実に直訳するなら

ミッドナイト·スペシャルをして
私に灯火を照らせしめよ

みたいな感じにしか訳しようがないのである。謎は深まるばかりではないか。

前回取りあげた「Ain't No More Cane」について調べる中で、その長年の疑問の「答え」と偶然に巡り逢うことができた。偶然と言うよりは必然と言うべきなのかもしれないが、「ミッドナイト·スペシャル」とは「Ain't No More Cane」が作られたのと同じ19世紀末から20世紀の初頭にかけて、アメリカのどこかの地域の線路を走っていた「深夜急行」の呼び名だったのだという。

電灯というものは、発明されてはいたのだろうけれど、まだ夜になれば世界の圧倒的な部分を「闇」が支配していた頃の話だ。その「深夜急行」の走る線路脇の人里離れた場所に、刑務所が建っていた。そしてその刑務所の独居房は、全くの偶然なのだろうけど、夜中にその「深夜急行」が通り過ぎる数十秒間の間だけ、囚人たちの暮らす舎房の窓を真っ直ぐに前照灯が照らし出す、そんな構造で建てられていたのだという。鉄格子の間から初めて強烈な光が差し込んできた時の驚きは、囚人だった人々にとってとても「神秘的」に感じられた体験だったと思われる。

やがてその刑務所では「深夜急行の灯りに照らされた囚人は程なく自由の身になれる」という「伝説」が生まれ、その伝説が囚人たちのネットワークを通じて全米の刑務所に広がり、この歌が生まれることになったのだという。「Ain't No More Cane」と同じくこの歌もまた、「奴隷制度に代わるもの」としての「囚人貸出制度」が存在していたその時代、不当に自由を奪われていたアフリカ系の人々をはじめとする囚人たちの間で、口伝えに歌い継がれていた、文字通りの「フォークソング」だったのである。

Midnight Special

英語原詞はこちら


Well, you wake up in the mornin'
You hear the work bell ring,
And they march you to the table
To see the same old thing.
Ain't no food upon the table
Ain't no pork up in the pan.
But you better not complain, boy,
You get in trouble with the man.

あーあ朝んなって目を覚ましたら
作業開始のベルが聞こえるんだろうさ。
テーブルのところまで行進させられて
目に入ってくるのは
いつもと変わらないエサだ。
テーブルの上にあるのは
食べ物なんて代物じゃない。
フライパンの中で
焼けてる豚肉があるわけでもない。
でも不平は言わないこった兄ちゃん
あいつに目をつけられちまうぜ。


Let the midnight special
Shine a light on me.
Let the midnight special
Shine a light on me.
Let the midnight special
Shine a light on me.
Let the midnight special
Shine a ever-lovin' light on me.

ミッドナイト·スペシャルの灯りが
おれのことを
照らしてくれたらいいのにな。
ミッドナイト·スペシャルが
とびっきりの灯りで
おれのことを
照らしてくれたらいいのにな。


Yonder come Miss Rosie
(How in the world did you know?)
By the way she wears her apron
And the clothes she wore.
Umbrella on her shoulder
Piece of paper in her hand;
She come to see the gov'nor
She wants to free her man.

ミス·ロージーが表に来てるぜ。
(何でお前にそれがわかったんだよ)
彼女がつけてるエプロンと
昔と同じ服で分かったのさ。
雨傘を肩に引っかけて
手には書類を持っている。
刑務所長に会いに来たんだよ。
彼氏のことを
自由にしてあげて下さいってな。


Let the midnight special
Shine a light on me.
Let the midnight special
Shine a light on me.
Let the midnight special
Shine a light on me.
Let the midnight special
Shine a ever-lovin' light on me.

ミッドナイト·スペシャルの灯りが
おれのことを
照らしてくれたらいいのにな。
ミッドナイト·スペシャルが
とびっきりの灯りで
おれのことを
照らしてくれたらいいのにな。


If you're ever in Houston
Well, you better do the right
You better not gamble, there,
You better not fight, at all
Or the sheriff will grab ya
And the boys will bring you down.
The next thing you know, boy,
Oh! You're prison bound.

ヒューストンに行ったなら
まともにしていた方がいい。
あそこじゃギャンブルは
やるもんじゃないし
ケンカは絶対しちゃいけない。
さもなきゃ保安官が
たちまちお前を捕まえて
連中がお前のことを連れて行く。
気がついた時には兄ちゃん
な。
監獄行きってわけだよ。


Let the midnight special
Shine a light on me.
Let the midnight special
Shine a light on me.
Let the midnight special
Shine a light on me.
Let the midnight special
Shine a ever-lovin' light on me.

ミッドナイト·スペシャルの灯りが
おれのことを
照らしてくれたらいいのにな。
ミッドナイト·スペシャルが
とびっきりの灯りで
おれのことを
照らしてくれたらいいのにな。


Midnight Special (Leadbelly)

この歌に歌われている「ミッドナイト·スペシャル」がどこを走っていた深夜急行で、その前照灯に照らし出されていたのがどこの刑務所だったのかということは、現在ではもう定かではない。この歌が囚人関係者以外の間でも広く有名になったのは、アメリカのフォークソングの歴史の黎明期にその名を刻みつけられているレッドベリーという人の歌唱を通じてであり、その歌詞にヒューストンというテキサス州の地名が出てくることから、彼氏の収監されていたテキサス州のシュガーランド刑務所と結びつけてこの歌のことを「解説」している例が、一般的には見受けられる。けれどもレッドベリー以前に録音されたり採譜されたりしたバージョンでは、ノースカロライナという東海岸の地名や或いはミシシッピ州の地名も歌いこまれており、本当のところは明らかではない。囚人の人たちはみんな「自分の収監されているところ」と結びつけて、この歌を歌い継いでいたのである。

「レッドベリー」という名前には、そのカタカナ表記から「イチゴ的な赤い草の実」という可愛らしい印象を感じていたのだけれど、綴りは「Lead Belly」であり、これだと「人々の先頭に立つ腹部」みたいな意味になる。本名は「Ledbetter」だったのだそうで、「わざわざ改名したニックネーム」だったからにはそれなりの理由があったのだろうけど、私にはよく分からない。英語版のWikipediaには、彼氏のタフな性格から囚人時代につけられたアダ名だったとか、銃を撃った時に反動で腹部を負傷したことから来ているとか、禁酒法時代の密造ウイスキー「ムーンシャイナー」をいくら飲んでもケロッとしている「鉄の胃袋」を持っていたことからついた名前だとか、いろいろなことが書かれていたが、本当のところは多分、本人しか知らないことだったのだと思う。

アメリカ南部に伝わっていた何百曲という無名の歌を超人的な記憶力で自分のレパートリーとし、各地を歌い歩いていた彼氏は、1933年に殺人罪でテキサス州の刑務所に収監されていたところを、白人の音楽史研究家ロマックス親子に「発見」され、一躍「時の人」になったのだけど、1937年に「ライフ」誌が彼氏の特集記事を書いた時のタイトル見出しは、Wikipediaによるならば「 Lead Belly: Bad Nigger Makes Good Minstrel (いいミンストレルを作る悪いニガー)」というものだったという。この人が本当にいろいろと「くやしい思い」を経験させられることになったのは、むしろ「有名」になった後のことだったのではないかと思われる。

けれどもニューヨークのフォーク·カレッジやラジオの電波を通じて彼氏の歌に出会ったウディ·ガスリーや若き日のピート·シーガーといった人たちは、その存在から多大な影響を受け、1949年に彼氏が亡くなって以降は、そうした「レッドベリーの弟子」を自認する人々の手で、アメリカに「フォークソングの時代」が形作られてゆくことになる。昔と違ってアメリカ公文書館みたいなところにでも出かけてゆかなければ耳にすることのできなかった「伝説的な録音」をネットでいくらでも聞ける時代を迎えているのだから、この人の歌もこれを機会に、改めて聞き込んでみようかと感じている。

「ミッドナイト·スペシャル」はその後、本当に数えきれないくらいのアーティストによってカバーされており、C.C.R.やヴァン·モリソン、エリック·クラプトンらの名前が並んでいるのはよく分かるのだけど、YouTubeを見ていてABBAのバージョンまで存在していたことを知った時には、少なからず驚いた。「ミッドナイト·スペシャル」は確かに「ミッドナイト·スペシャル」なのだけど、スウェーデン生まれのこの人たちは果たして「歌の意味」を知った上で、歌っていたのだろうか。とはいえ割と新鮮だったので、貼りつけておこうかと思う。


Midnight Special (C.C.R.)

=翻訳をめぐって=

  • You get in trouble with the man…「the man」とは「刑務所の看守の中でもとりわけ意地の悪いやつ」のことを意味しているのだと思われる。
  • Umbrella on her shoulder…この表現からだと「兵士が銃をかつぐように」雨傘を肩に担いでいる女性の姿が浮かんでくるのだけど、ミス·ロージーという人は相当に「気の強い人」だったのだろうか。あるいは、雨傘の柄の曲がった部分を肩に引っかけて歩いていたとしてもこの言い方になるが、それだと今の感覚からすれば「変わった人」である。昔はそういう「文化」があったのだろうか。大したことではないのだけど、引っかかった表現だった。あ、まあ、実際に雨が降ってたのなら、そういう持ち方も、するかな。でも私らが子どもの頃にはそういう持ち方をしていると母親に怒られて…すいません。どうでもいい箇所にえらくこだわってしまいましたが、よく考えてみるとこの歌詞は「単なる普通の歌詞」なのだと思います。
  • Shine a ever-lovin' light on me …「ever-lovin'」は直訳すれば「永遠に愛すべき」となるわけだけど、「単なる強調の間投詞」として使われる言葉でもあるらしく、場合によっては「くそいまいましい」みたいな意味でも使われる言葉だと辞書にはあった。とはいえ「くそいまいましい野郎だぜ」みたいな言い方も場合によっては「愛してるぜ」と同義になったりするのだから、言葉というのは本当に微妙なものである。


藤圭子 練鑑ブルース

点呼、点呼の明け暮れに
今日も一日、無事だった
合わす両手にまた涙
夢は夜ひらく

刑務所暮らしの長かった私の先輩からむかし教えてもらった「懲役の夢は夜ひらく」という歌の一節なのだけど、「元歌」を歌っていた藤圭子という人は、「日本のプリズンソング」の草分けとも言うべき「練鑑ブルース」についても録音を残しておられたのだということを、今回思い出して調べてみて初めて知った。「ミッドナイト·スペシャル」と同じく「よみびとしらず」の歌として、日本中の懲役囚のあいだに今でも歌い継がれている「本当のフォークソング」のひとつである。とりわけ年配の懲役経験者の人がこの歌を口ずさむ時には、「若かった鑑別所時代の思い出」が重なってくるもので目にうっすらと涙がにじむ姿を、私は何度か実際に目にしてきた。練馬の東京少年鑑別所を発祥地とすると思われるこの歌には、アメリカの場合と同様、地域によって歌詞に様々なバリエーションがあるのだが、ネットの上を見渡した限りにおいては下記のサイトの記事が一番詳しいようだったので、リンクを貼りつけておきたいと思う。そしてこういったサイトの記事は、無くなってほしくないものだと思う。
map.goo.ne.jp

身毒丸 ダイジェスト

そして藤圭子といえば私が思い出さずにいられないのは、今回の記事の内容とは全く関係ないのだけれど、17歳だった1995年に武田真治と白石加代子の主演で大阪近鉄劇場にやってきた蜷川幸雄演出の舞台「身毒丸」で、劇中歌に使われていたあの「死ね死ね死ね死ね南無阿弥陀仏」だったのだった。(17:00〜)。藤原竜也で再演された時の動画が上がっていたから思わず知らずこれも最後まで見てしまったのだけれど、私も彼氏も改めて、あんな年齢で大変な作品に出会ってしまったものだと思う。見たことのない人に一見の価値は間違いなくあるが、見た後のその人の人生が「幸せ」になるかどうかは、保証の限りではない。

それと最後に、「深夜急行」というタイトルから久しぶりに思い出したのだけど動画が見つからなかった橘いずみの同名の曲のコマーシャルリンクを貼りつけて、今回の記事は締めくくらせてもらうことにしたいと思う。ではまたいずれ。

深夜急行

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