華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Jimmy Jazz もしくはサタマサガナって何やねん (1979. The Clash)


Jimmy Jazz

Jimmy Jazz

英語原詞はこちら


Police walked in for Jimmy Jazz
I said, he ain't here, but he sure went by
Oh, you're looking for Jimmy Jazz

ジミー·ジャズを探して
警察が入ってきた。
あいつはここにはいないけど
確かうろついてたようだったよと
おれは言った。
へえ、おたくら
ジミー·ジャズを探してるわけね。


Satta Massagana for Jimmy Dread
Cut off his ears and chop off his head
Police come look for Jimmy Jazz

ジミー·ドレッドのために
サッタ·マッサガーナ。
あいつの両耳を削ぎ落とし
あいつの首を斬り落としてやれ。
ジミー·ジャズを探して
警察がやって来る。


So if you're gonna take a message 'cross this town
Maybe put it down somewhere over the other side
See it gets to Jimmy Jazz

だからもしあんたがこの街の界隈で
伝言を預かるようなことがあったら
どっか離れた場所に
置いといた方がいいと思うよ。
それでジミー·ジャズには届くから。
見てな。


So tell me now..!
そんでどうなってるわけ?

The police came in they said "Now where's Jimmy Jazz?"
I said, "hmm, he was here but-umm, he said he went out"
who you're looking for? Jimmy Jazz, Jazz, Jazz, Jazz

警察が入ってきて
「ジミー·ジャズはどこにいる?」
と言った。
「えーとここにいたけどでもえーと
出て行くって言ってたよ」
とおれは言った。
誰を探してるわけ?
ジミー·ジャズ?
ジャズ、ジャズ
じーじー


Satta Massagana for Jimmy Dread
Cut off his ears and they'll chop off his head
Oh you're looking for Jimmy Jazz, Jazz, Jazz, Jazz

ジミー·ドレッドのために
サッタ·マッサガーナ。
あいつの両耳を削ぎ落としそして
やつらはあいつの首を斬り落とすぞ。
へえ、おたくら
ジミー·ジャズを探してるわけね。


What a relief!
I feel like a soldier,
look like a thief!

やれやれホッとしたぜ。
おれって気持ちは戦士だけど
見た目は泥棒。


Police a come a lookin for the Jimmy Jazz
he came in and he went past
Oh, you're looking for Jimmy Jazz

ジミー·ジャズを探して
やって来る警察。
あいつはここに来て
とっくに出て行った。
へえ、おたくら
ジミー·ジャズを探してるわけね。


In fact, Don't you bother me, not anymore
I can't take this tale, oh, no more
It's all around, Jimmy Jazz, Jazz

要するにこれ以上
おれをいらつかせないでくれるかな。
この話はもう終わり。
もうできない。
至るところがジミー·ジャズ
ジャズだ。


J-a-zee zee J-a-zed zed
J-a-zed zed Jimmy Jazz
And then it sucks, he said, suck that!
So go look all around, you can try your luck, brother
and see what you found
but I guarantee you that it ain't your day, your day
It ain't your day
Chop! Chop!

じぇい、えー、じー、じー
じぇい、えー、ぜっ、ぜっ
じぇい、えー、ぜっ、ぜっ
ジミー·ジャズ
そんでもってそいつが
しゃぶりつく。
しゃぶりやがれとあいつは言った。
だから周りをよく見に行ってだな。
せいぜい運試しをするといいよ
ブラザーそして
自分の見つけたものをよく見るんだ。
でも請け合ってもいいけど
今日のあんたはついてないよ。
今日のあんたはついてない。
斬り落とせ斬り落とせ。

=翻訳をめぐって=

さったまっさがーな、ふぉじみどれっ!」。CDの歌詞カードには確か「サタマサガナがジミーは怖い」みたいな変てこりんな訳詞がついていたのだけれど、その訳し方が合っていようと間違っていようと、「サタマサガナ」という言葉の説明がない限りこれでは誰にも意味なんて分からない。「サタマサガナ」とは一体何なのだろうか。

三代目魚武濱田成夫という人が昔、この「サタマサガナ」は「意味がないからこそカッコいい」みたいなことを言っていたものだから、私も長年の間、「サタマサガナ」は「意味を持たない造語」なのだろうと思い込んでいた。しかしながらインターネットの時代というものは人間をそういつまでも「自由な」思い込みの世界に安住させておいてはくれない仕組みになっているらしく、調べてみるとこの「サタマサガナ」にもちゃんと「意味」が存在したことが分かった。ラスタの人たちの間で「全ての黒人の故郷」として神聖視されているエチオピアの言葉、アムハラ語だったのだそうである。

「Satta Massagana」は上に写真を貼りつけたジャマイカのグループ「アビシニアンズ」が1976年に出したヒット曲のタイトルに使われていたフレーズであり、当時の英語世界で流布されていた説明としては「Satta Massagana」は「Give thanks」を意味する言葉だ、ということだったのだという。ジョー·ストラマーはそこまで「知った」上で「サッタ·マッサガーナ」というフレーズをジャマイカの歌から借りてきたのかどうか、私には何とも言えないが、そうだとすればこの歌詞は「ジミー·ドレッドに感謝を捧げよう」みたいなことを意味していたことになる。誰だ「サタマサガナ」を妖怪扱いしていたやつは。

ただし、細かいことを言い出すと、「Satta Massagana」=「Give thanks」という英語圏での説明も厳密には「間違い」であるらしいということが、海外サイトには載っていた。というのもアムハラ語の「Säţţä amässägänä」の「Säţţä」は「he gave」を意味する単語であり、「amässägänä」は「thanks」もしくは「praise」を意味する単語なので、つなげると「彼は感謝/賞賛を捧げた」という意味になるのだという。

しかしながらジャマイカでヒットしたアビシニアンズの「Satta Massagana」では、このフレーズが明らかに「ジャー=エチオピア皇帝ハイレ·セラシエ二世をたたえ、感謝を捧げよう」という文脈で使われており、この歌を通じてこの言葉を知った英語圏の人たちは、みんな「その意味」で聞いている。「そういう気持ちで」この歌を歌ってきた人たちに向かって「それでは『ジャーが感謝を捧げた』という意味になる」みたいなことを言ってみても、理不尽な話だとは思うが、揚げ足取りみたいな話にしかならない。翻訳にあたって尊重されるべきは飽くまで「歌い手の気持ち」だからである。

なので「Satta Massagana for Jimmy Dread」というフレーズも、アムハラ語話者の立場に立つならば「彼はジミー·ドレッドに賞賛を与えた」という意味合いで翻訳されるべきところなのだろうが、明らかにジャマイカ音楽の影響のもとでこの言葉を歌詞に取り入れたと思われるジョー·ストラマー自身は、やっぱり「ジミー·ドレッドのことを賞賛しよう」と言っている「つもり」で「Satta Massagana」を使っていたと考えた方が「自然」だと思う。何せ「Spanish Bomb」という歌の中でも、スペイン人から見ればあれだけ間違いだらけのスペイン語を実に堂々と気持ち良く歌っていた人たちなのである。

…何だか、とってもややこしい話になってきたな。それでは、「ジミー·ドレッド」というのは何者なのだろうか。この人と「ジミー·ジャズ」とは「同じジミー」なのだろうかそれとも別の誰かなのだろうか。そして歌のタイトルにもなっている「ジミー·ジャズ」という人(?)自身は、そもそも一体何者なのだろうか。この歌には、謎な要素があまりに多いのだ。

何よりそれまでクラッシュを「パンクのバンド」だと思って聞いていたリアルタイムのリスナーにとっては、「ロンドン·コーリング」という三作目のアルバムの三曲目に収められていたこの曲の「曲調」自体が最大の「謎」だったという話である。確かにこの曲はどこからどう聞いても「パンク」ではない。「ジャズ」という言葉が曲名に入ってはいるけれど、この曲を指して「ジャズっぽい」とか言っていいのかどうかということも、いまいちよく分からない。クラッシュの面々は何を考えているのか。キラーチューンで始まる二枚組アルバムの3番バッターにこんな曲を起用するなんて、果たしてマジなのかフザけているのか。それすら分からないから、どうにもコメントのしようがない。とにかくクラッシュが自分たちのステージで初めてこの「ジミー·ジャズ」を演奏した時には、会場の全体が完全にポカンとしてしまって、しばらく何の反応も返ってこなかったという話が伝わっている。

とはいえ、「ロンドン·コーリング」というアルバムを通じてクラッシュというバンドに出会った私の印象の中では、この曲はずっと「いかにもクラッシュらしい曲」であり続けてきたし、「サタマサガナ」の意味はわからないにしても、「好きな曲」であることに間違いはなかった。思うにこの曲の歌詞は、「映画を観る」ように「読む」のが「正解」なのだと思う。映画の画面というものには、基本的に「説明」は一切出てこない。冒頭の画面の中に最初から「ジミー·ジャズ」という人が映っていたとしても、その人が「ジミー·ジャズ」であることは、ある程度話が進まないとわからない。そしてその人がどういう人なのか。いい人なのか悪い人なのかといったようなことは、すぐわかる映画もあるけれど、場合によっては最後までわからない。それでも人は「わからない映画」からも確実に何かを「感じて」劇場を出ることができるはずなのである。この点、わからない文字を何時間眺めていても何のイメージも湧いてこない外国語の文章とは、同じ「わからない」でも全然その「わからない」の内容が違っている。

だからこういう曲の翻訳にあたっては、「作者の一番言いたかったことは何か」に「答え」を出そうとするような不毛なことは、とりあえず考えなくていいのだと思う。重要なのは、英語話者の人たちがこの歌の言葉のひとつひとつから頭の中に思い浮かべる「イメージ」を、日本語を使ってどれだけ「再現」できるかということにかかっているのだと思う。そのことを念頭において、各フレーズにどんな「イメージ」が歌いこまれているのかということを、追いかけてみることにしてみたい。

Police walked in for Jimmy Jazz
I said, he ain't here, but he sure went by
Oh, you're looking for Jimmy Jazz

「walked in」なので警察は「入ってきた」のだということになる。舞台は「店的な場所」である。主人公の「I」はそこに居合わせた誰かで、警察の尋問に対してすっとぼけているのか、それとも本当にジミー·ジャズの居場所を知らないのか、そこは何とも言えない。

「ジミー·ジャズ」は明らかに「人名」の体をなした文字列だが、「マリファナの隠語」であるという解説も海外サイトでは散見される。ただしこの「マリファナの隠語」というやつは、そういう目で見始めるとどんな言葉でも「マリファナの隠語」に思えて仕方なくなってくる人たちが世の中には相当数いるようなので、話半分で聞いておくぐらいが妥当な線なのだと思う。ともあれそうした情報を頭に入れて聞くなら、この歌の中で警察が「探して」いるのは「ジミー·ジャズという人物」であるとも「マリファナそのもの」であるとも、どちらでも解釈可能な歌詞になっているということになる。

さらに「ジャズ」という響きから「ジャズという音楽そのもの」を連想する人たちも、当然ながら存在する。そうした人たちは、「ロックという音楽を生み出した源流に位置するジャズという音楽を、権力者は諸悪の根源として憎悪し取り締まろうとするが、その実体は杳として知れない」みたいなことが歌い込まれた歌詞なのだと解釈し、納得しながら聞いているらしい。別にそれを「正解」だとは思わないけれど、そう思っている人たちが存在すること自体は少なくとも事実である。そしてこの曲も、「ジャズっぽい」と言っていいかどうかまでは依然私にはわからないのだけど、少なくとも「ジャズを意識した」作りになっている。

Satta Massagana for Jimmy Dread
Cut off his ears and chop off his head
Police come look for Jimmy Jazz

「サタマサガナ」については既述。「Dread」は「恐怖」や「不安」を意味する言葉なので、ネイティブの耳には「ジミーの不安のためにサッタ·マッサガーナ」みたいに聞こえている節もあるが、単にジミーという人が「ドレッドヘアにしている」ことや「ジャマイカっぽい外見をしている」ことからついたアダ名であると考えることもできる。「ドレッドヘア」というのは上掲のアビシニアンズの人たちの写真の端っこの人がしている、スダレみたいな髪型のことです。ただしジャマイカでも髪型をドレッドにしているのはラスタの人たちに限られているという話なので、「ドレッド=ジャマイカ」みたいなイメージを持たれると「怒る」ジャマイカの人も実際には大勢いるようです。

「Cut off his ears and chop off his head」というフレーズに関しては、多くのサイトがサム·ペキンパー監督の1974年の映画「ガルシアの首」からの影響を指摘している。私は見たことないのだけど、たぶん同じセリフが出てくるのだと思う。一方で「ジミー·ジャズ」を「マリファナの隠語」 であると解釈した場合、「両耳をそぎ落とす」は「葉っぱを紙で巻いてジョイントを作る行為」の隠喩として、また「頭を斬り落とす」は「大麻草のつぼみを摘み取る行為」の隠喩としてそれぞれ成立するので、それなりに意味が通っていることになる。そういう「メッセージ」を込めてこの歌が作られたのかどうかまでは知らないが、そういうことばかり考えながらこの歌を聴いている人たちというのは間違いなくいるわけなのである。どうも最近、私の文章はくどくなりつつあるな。



よくわからないのは、この二行は「誰のセリフ」なのかということである。「サタマサガナ」は主人公の心の声であると解釈するのが「自然」な気もするが、「耳をそげ首を切れ」も主人公の言葉なのだろうか。それとも警察?わからないので、ここは保留のままにしておく。

What a relief!
I feel like a soldier,
look like a thief!

「What a relief!=やれやれホッとしたぜ」というセリフが出てきたということは、今まで「ジミー·ジャズのことは知らない」みたいなことばかり言っていたこの歌の主人公自身が実はジミー·ジャズ本人だったという可能性を示唆しているように思われるのだが、どうなのだろうか。

「気持ちは戦士、見た目は泥棒」という一節は、その後パンクな人たちの心意気を示したフレーズとしてよく引用されるようになったらしいのだが、上述の通りこの曲自体は全然パンクではない。「そういう既成の文脈からあえて飛び出す心意気をこそパンクというのだ!」みたいな批評も時折目にするが、だったら「パンク」というのは何なのだということが私にはもう全然わからない。て言っか「パンク」だったとしたらそれは「いいこと」なのかという、そのことからして分からない。

ちなみに私は自分のことを「パンク」な人間だと思ったことは一度もないのだが、ある時このブログの読者の人から「ナギさんの文章はパンクだ!」みたいな感想を頂いたことがあり、その時は、えへへ。うれしかった。しかしその時の私は何がうれしかったのだろうということが、肝心の私自身にはいまだにひとつも分かっていない。

And then it sucks, he said, suck that!

この「suck that」は明らかに映画「タクシードライバー」に出てくるロバート·デニーロの台詞からペチってきたもので、こちらは私も見たことがある。でも、全然共感できる内容ではなかったな。心を殺伐とさせられただけだった。殺そうとしている相手の口元に銃を突きつけて言うから「suck that」になるわけだが、「しゃぶりやがれ」と訳してはみたもののどうも日本語にすると迫力不足な感じがする。関西弁にすると「ねぶりーさ」…「これでもくらえ」ぐらいにしておいた方が良かったのかもしれないな。陳腐だけど。

Chop! Chop!

上の歌詞の流れからすれば「斬り落とせ斬り落とせ」でいいと思うのだけど、古い英語のスラングとしては「Chop! Chop!」には「急げ急げ」みたいな意味もあるのだという。でもこの歌は全然急いでいるようには思えない。そんなわけで最後まで釈然としない感じでこの歌は終わるのだが、映画だと思えばそういうのも別に珍しくはないわけで、それはそれでいいのではないかと思う。って何をオサまっとんねん。



Z−JA−Z

「じぇい、えい、じー、じー…」というジョー·ストラマーのスキャットを聞いていて、ひょっとしてゼルダのこの歌も「Jimmy Jazz」にインスパイアされて作られたものだったのかもしれないみたいなことを思い、youtubeを検索してみたら、4時間前に投稿されたばかりのこの動画と出会うことができた。こんなことって、あるんだな。すぐに消されてしまわなければいいのだけど。

このブログの三回目の記事で「Hateful」という曲を取りあげてから2年5ヶ月。今回のこの曲をもってようやくアルバム「ロンドン·コーリング」の「1枚目A面」の翻訳を完成させることができた。全部終わるのはいつのことになるのだろうか。ではまたいずれ。


=楽曲データ=
Released: 1979.12.14.
Key: A