華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Калинка もしくはカカリン·カマヤ (1860. Russian Folk Song)



え、さて。振り返ってみれば今年の3月に「Sweet Home Alabama」などという唾棄すべき差別主義者の愛唱歌を取りあげざるを得ないハメに陥ってしまって以来(…どうも私の文章は最近いちいち冗長なのだ)、ひたすら回り道と言うか迷走を繰り返してきたこのブログであるわけなのだけど、元はと言えば私は1993年6月にフィンランドの首都ヘルシンキで開催された、「トータル·バラライカ·ショー」という歴史的なコンサートの特集記事を書いていたはずだったのである。レニングラード·カウボーイズやソビエト赤軍合唱団(アレクサンドロフ·アンサンブル)の皆さんのことについて、もう一度イチから紹介し直すのはあまりに大変なので、興味を持ってくださった方はぜひ下の記事から関連カテゴリを追いかけて頂ければと思う。
nagi1995.hatenablog.com
去年は去年で私の郷里である奈良東大寺において1994年に開催されたユネスコ主催のコンサート「AONIYOSHI」の特集記事を、脱線させたまま暮れ近くになるまで放っておき、年内に完結させるために泣きを見なければならなかった私であったのだった。別にその年に始めた企画はどうしてもその年の間に終わらせなければならないという「決まり」があるわけではないけれど、これは「気分」の問題である。自分の性格に鑑みて、続きを書くのを年が明けるまで引き伸ばしてしまうようなことをもしやれば、そのまま未来永劫書けなくなってしまうに違いないであろうことが私には目に見えている。悔い改めるなら「今」しかない。そんなわけで「トータル·バラライカ·ショー」の特集に関しても、遅まきながら再開させてもらうことにして行きたい。
nagi1995.hatenablog.com
アメリカ生まれのロックンロールとロシア生まれのフォークソングが代りべんたん(←関西弁?)に歌われて、「東側世界と西側世界の出会い」を全世界に印象づけてみせた「トータル·バラライカ·ショー」であったわけだが、「Sweet Home Alabama」に続いて演奏されたのはとても有名なこの曲だった。子どもの頃に見ていたテレビのマンガで、登場人物が「 コサックダンス」を踊るシーンでは背後で必ずこの曲が流れていたのを覚えている。ところで、「コサックダンス」が出てくるアニメって、どうしてあんなに多かったのだろう。ザッと思い出しただけでも、5つや6つでは利かない気がする。「描くのが楽しい」のだろうか。それにつけてもロシアの人たちというのは、こんな風に「曲のテンポが劇的に変わる歌」というのが、本当に好きだと思う。



Калинка

Калинка

ロシア語原詞はこちら


カーーーーーーーーーリンカ
Калинка,
カリンカ カリンカ まや
калинка, калинка моя!
ふサードゥ ヤーガダ
В саду ягода
マリンカ マリンカ まや
малинка, малинка моя!
へーい カリンカ
Хэй! калинка,
カリンカ カリンカ まや
калинка, калинка моя!
ふサードゥ ヤーガダ
В саду ягода
マリンカ マリンカ まや
малинка, малинка моя!
Хэй! калинка, калинка, калинка моя!
В саду ягода малинка, малинка моя!
Хэй! калинка, калинка, калинка моя!
В саду ягода малинка, малинка моя!

カーーーーーーーーーリン、カ
カリンカ
私のカリンカ
庭にはイチゴの実
私のマリンカ
ヘイ!カリンカ、カリンカ
私のカリンカ
庭にはイチゴの実
私のマリンカ


あーーーーーあーーーー!
Ах!
ぱーあっ サーアスノーーユー
Под сосною,
ぱーあっ ジェーリヨノーーユー
под зелёною,
すぱーち ぱらじーちぇー ヴィ ミーニャー
Спать положите вы меня.
(あぃ リューリ リューリ、あぃ リューリ リューリ)
Ай люли, люли, ай люли, люли,
すぱーち ぱらじーちぇー ヴィ ミーニャー
Спать положите вы меня.
あーーーーーあーーーー!
松の木の下に、深い緑の下に
あなたよ、私を眠らせてください
(あ、りゅーりりゅーり)
あなたよ、私を眠らせてください


Калинка, калинка, калинка моя!
В саду ягода малинка, малинка моя!
Хэй! калинка, калинка, калинка моя!
В саду ягода малинка, малинка моя!
Хэй! калинка, калинка, калинка моя!
В саду ягода малинка, малинка моя!
Хэй! калинка, калинка, калинка моя!
В саду ягода малинка, малинка моя!


あーーーーーあーーーー!
Ах!
サーアッショーオオニューーシュカ
Сосёнушка
ティーイー じぇーりよなーーやー
ты зелёная.
ねー しゅうみい じぇえ なーぁだー ムノイ
Не шуми же надо мной!
(あぃ リューリ リューリ、あぃ リューリ リューリ)
Ай люли, люли, ай люли, люли,
ねー しゅうみい じぇえ なーぁだー ムノイ
Не шуми же надо мной!
あーーーーーあーーーー!
若い松の木よ、緑のキミよ
私の上でざわつかないでくれるかな。
(あ、りゅーりりゅーり)
私の上でざわつかないでくれるかな。


Калинка, калинка, калинка моя!
В саду ягода малинка, малинка моя!
Хэй! калинка, калинка, калинка моя!
В саду ягода малинка, малинка моя!
Хэй! калинка, калинка, калинка моя!
В саду ягода малинка, малинка моя!
Хэй! калинка, калинка, калинка моя!
В саду ягода малинка, малинка моя!


あーーーーーあーーーー!
Ах!
クラーアッサーアアヴィーーイツァ
Красавица,
ドゥーシャー ディーエエヴィーーイチャ
душа девица,
ぱーりゅうゔぃい じぇえ ティ ミェーニャ
Полюби же ты меня!
(あぃ リューリ リューリ、あぃ リューリ リューリ)
Ай люли, люли, ай люли, люли,
ぱーりゅうゔぃい じぇえ ティ ミェーニャ
Полюби же ты меня!
あーーーーーあーーーー!
美しさの精よ、魂の乙女よ
キミよ私を愛しておくれ。
(あ、りゅーりりゅーり)
キミよ私を愛しておくれ


Калинка, калинка, калинка моя!
В саду ягода малинка, малинка моя!
Хэй! калинка, калинка, калинка моя!
В саду ягода малинка, малинка моя!
Хэй! калинка, калинка, калинка моя!
В саду ягода малинка, малинка моя!
Хэй! калинка, калинка, калинка моя!
В саду ягода малинка, малинка моя!


Калинка

=翻訳をめぐって=

私はずーっとこの歌を

カカリン、カカリン、カカリン、カマヤ

という「歌詞」で覚えていたのだけれど、「正解」は

カリンカ、カリンカ、カリンカ、マヤ

だったのだという。「マヤ」は「私の」という意味で、「カリンカ」はレンプクソウ科ガマズミ属の落葉低木「セイヨウカンボク」を指す言葉。

初夏には白い花を、秋から冬にかけては赤い実を楽しむことができ、観賞用樹木として庭木などに用いられる。

果実は苦味が強く、生食するには適さないが、晩秋から冬にかけて寒気に晒された実はやや甘味成分が増す。ロシアではその季節を待って収穫し、ドライフルーツにして冬の蓄えとする、ウォッカに漬けこんで果実酒にする、ジャム・ジュース・砂糖漬けなどに加工する、などの方法で食される。加熱すると苦味が和らぎ、甘く味付けしたカーシャやピエロギの具にも用いる。

Wikipediaにはある。この歌はその「カリンカ」の花だか実だかの可愛らしさを愛でると共に、その「カリンカ」に例えられるがごとき愛くるしい娘さんに向かって愛をことほいでいる歌なのだと解釈しておけば、大体合っているのではないかと思う。



では「マリンカ」とは何なのか。「ふ サードゥ ヤーガダ マリンカ」の「サードゥ」は「庭」で、「ヤーガダ」とは「ベリー系の果物を指す一般名詞」であり、「マリンカ」とは「ラズベリー」のことを指すらしい。

「マリンカ」が「ラズベリー」なら、それはそれでいいのだけれど、問題は「ヤーガダ」をどういう日本語で翻訳するかである。「ヤーガダ」が「ベリー系の果物一般」を指す言葉である以上、「カリンカ」も「マリンカ」も「ヤーガダ」の一種であるということになるわけなのだけど、日本語世界には果たして「ベリー系の果物」という「概念」が存在しているものなのだろうか。

流布されている日本語歌詞ではこの部分が

庭にはイチゴの実 マリンカ マヤ

と歌われているのだけれど、「イチゴ」と「マリンカ」は違うだろうということで、当初私はこの訳し方に抵抗があった。だが調べてみると、日本に「イチゴ」という果物が渡来するそれ以前から「イチゴ」という日本語は存在していたらしいのである。

現在日本に流通している「ストロベリー」(意味するところは「藁ベリー」。藁を敷いて育てるところからそう呼ばれるようになったらしい)がオランダからやって来たのは江戸時代のことらしいのだが、「キイチゴ」や「ヘビイチゴ」はそれ以前から日本の山野に自生していたわけであり、元をたどるなら「イチゴ」はそれこそ「ベリー系の果物を指す一般名詞」だったわけである。「ストロベリー」の甘さ大きさ高級感が当時の日本人にとってあまりに衝撃であったため、いつの間にか「イチゴ」は「ストロベリー」の代名詞になってしまったわけだが、元々の意味を考えるなら「ラズベリー」のことを言い表すのに「イチゴ」という言葉を用いることには、何の不都合も存在しない。(ただし「桑の実」や「ブルーベリーの実」を「イチゴ」と表現することには、日本語的に見てやはり無理があると思う。「カリンカ」は「それ系のベリー」なわけだけど、「イチゴ」と「ベリー」は「完全にイコール」ではないのである)

思い起こせば私が「ラズベリー」というものに初めて出会ったのは子どもの頃、寝屋川のおばちゃんにミスタードーナツに連れて行ってもらった時のことだったと思うのだが、「ラズベリーって何?」という私の質問に対し、寝屋川のおばちゃんは確かに「違う味のするイチゴや」と教えてくれたのだった。今にして思えばあれは何と「日本語の歴史を踏まえた的確な説明」だったのだろうと、しみじみしてしまう。そんなわけで上記の部分の試訳では「庭にはイチゴの実」という訳し方を踏襲させてもらったわけなのだけど、重要なのは「カリンカ」も「マリンカ」も「木になる果実」だということである。「木イチゴ」なのである。この言葉を私が今の今まで「黄イチゴ」という意味だと思い込んでいた歴史はさておき、「庭の地べたにイチゴが顔を出している情景」を思い浮かべてしまったらこの場合、間違いになる。それにつけても、「カリンカ」「マリンカ」の意味を追いかけるというそれだけのことで、ずいぶんカシコくなってしまったものだと思う。

ラズベリー

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その他、翻訳をめぐって気になったこととして、一番の歌詞では「вы (ヴィ)」という言葉が使われているのに対し、二番と三番ではそれが「ты (トゥイ)」に変わっている点がある。どちらも「あなた」を意味する言葉なのだけど、「ヴィ」は「すごく丁寧な言い方」で「トゥイ」は「タメグチ」なのだと辞書には書かれている。ことによるとこの「二人称の使い分け」には、歌い手の男性がカリンカ/マリンカに例えられている娘さんに対してどんどん「馴れ馴れしくなってゆく有様」が表現されているのではないかと考えられるが、何しろ私は実際にロシア語が話せるわけでも何でもないもので、そんな風に想像できるということしかここでは言えない。誰か、正確なニュアンスを説明できる方が読んでいらっしゃったら、コメントを残していただければ幸いです。


Калинка Flash-mov

スーパーの一角で突然「カリンカ」を歌い出す人たち。「フラッシュモブ」と言うらしいけどロシアの人たちはつくづくこういうのが好きらしくて、他のいろんな歌でも似たような動画がタイトルを検索するだけで無数に出てくる。これが本当の店員さんや「陽気な地元の人たち」だったら、楽しいのだけどな。たぶん全員「プロ」なのだろうな。というわけでまたいずれ。